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ベンチャー法務の部屋

株主総会決議要件を「出席株主全員の同意」に加重した定款規定の効力 (令和3年4月22日東京高等裁判所判決)

【事案の概要】

Y社(被告)は、取締役会設置会社であり、Xら(原告ら)は、Y社の株主である。

Y社の定款(以下「定款」という。)14条には、「株主総会の決議は法令に別段の定ある場合を除くほか出席株主全員の同意を要する。」と定められている。

Y社において以下の株主総会が開催され、各総会において、①②③の決議がされた。

・平成30年4月18日臨時株主総会(以下「本件臨時株主総会」という。)

①取締役の選任決議、②退職慰労金等の支給決議

・平成30年5月28日定時株主総会(以下「本件定時株主総会」という。)

③決算報告書を承認する決議

いずれの総会においても、賛成する株主(議決権1万3170個)が反対する株主(議決権5,000個)を上回り、賛成多数で可決された。

そこで、Xらは、①、②、③の各決議の取消し等を求めて訴えを提起した。

【原審の判断及び控訴理由】

原審は、①②の各決議については、定款14条に違反し、決議方法の定款違反を理由に取消しの訴えを認容した。③の決議については、定款14条が同決議に適用される限りでは無効であると解して、その取消しの訴えを棄却した。

これに対して、Y社は、取締役の選任(①の決議)についても出席株主全員の同意が要求されると決議が成立せず会社運営に支障を来すおそれがある場合に当たるといえるとして、①の決議の場合についても定款14条は無効であると解すべきであるなどと補充主張し、原審が請求を認容した部分を不服として控訴した。

【判決要旨】

本判決は、原審の判断を是認し、原判決を引用、補正したうえで、次のように判示した。

(1)株主総会の決議要件の瑕疵について

Xらは、本件臨時株主総会は、いずれも反対株主がいたにもかかわらず、各決議が多数決で可決されているところ、これは、株主総会の決議は出席株主全員の同意を要する旨定めている定款14条及び会社法309条1項に違反している旨主張する。

そこで検討するに、同項は、「株主総会の決議は、定款に定める場合を除き・・・出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。」と定めているところ、同項に基づいて定款の定めにより決議要件を加重することは可能であると解されており、定款14条は、「株主総会の決議は、法令に別段の定ある場合を除くほか出席株主全員の同意を要する。」と株主総会の決議に出席株主全員の同意を要する旨定めている。

かかる定款の定めも、原則として有効と解すべきであるが、計算書類の承認等、定時株主総会において必ず決議すべき事項についてまで出席株主全員の同意が要求されると、決議が成立せず会社運営に支障を来すおそれがあるから、当該定款は、上記の特定の決議事項に適用される限度において例外的に無効であると解するのが相当である。

これを本件についてみると、本件臨時株主総会における①、②の各決議は、定時株主総会において必ず決議すべき事項に係るものではないから、同決議について株主全員の同意を要する旨の定款14条は、原則どおり有効と解される。したがって、反対株主がいたにもかかわらず多数決で可決された同決議は、決議方法が定款14条に違反し、取り消し得るものというべきである。

他方、本件定時株主総会における③の決議は、定時株主総会において必ず決議すべき事項である計算書類の承認(会社法438条2項参照)であるから、同決議についても出席株主全員の同意を要する旨の定款14条は、同決議に適用される限度で無効と解される。したがって、多数決で可決された同決議は、普通決議の可決要件(会社法309条1項)を満たすから、決議方法が法令又は定款に違反するとはいえず、取り消し得るものとはいえない。

(2)Y社の補充主張について

Y社は、取締役の選任についても、出席株主全員の同意が要求されると、決議が成立せず会社運営に支障を来す恐れがある場合にあたるといえ、取締役の選任決議に場合も、定款14条は無効であると解すべきと主張する。

しかし、同条により、仮に株主総会による決議の成立が不可能となった場合でも、役員等に欠員が生じた場合の措置(会社法346条参照)といった代替手段があることに鑑みれば、当該定款の定めを無効と解する必要はないというべきであり、Y社の上記主張を採用することはできない。

【コメント】

本判決は、定款規定による株主総会の決議要件の加重に限界を画した稀有な裁判例であり、注目に値するといえます。実務的にも、定款に株主総会の決議要件を加重する内容を規定する際に参考になると考えます。

なお、現行の会社法の下での定時株主総会での決議事項は、計算書類の承認(438条2項)及び清算株式会社における貸借対照表の承認(497条2項)の2つです。したがって、本判決によれば、これらの2つ以外の決議事項については、株主総会の決議要件を「出席株主全員の同意を要する」と加重した規定も有効となると考えられます。

【参照条文(抜粋)】 

(株主総会の決議)

第三百九条 株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。

(計算書類等の定時株主総会への提出等)

第四百三十八条 

 前項の規定により提出され、又は提供された計算書類は、定時株主総会の承認を受けなければならない。

(文責:藤岡 茉衣)

2022年11月08日 09:37|カテゴリー:未分類

不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金を民法第405条の適用または類推適用により元本に組み入れることの可否(最高裁判所判決令和4年1月18日/金融・商事判例1649号29頁)

【事案の概要】

Y1社は、平成25年3月、その代表取締役Y2に募集株式を割り当ててこれを発行した(以下「本件新株発行」という。)。

本件新株発行は、Y2が主導して、専らXをY1社から排除する目的で行われたものであり、Xが保有していたY1社の株式の価値を著しく毀損するものであった。

Xは、平成27年3月、本件新株発行が違法であるとして、Yらに対し、不法行為に基づき、損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求めて本件訴訟を提起し、その訴状は、同年4月、Yらにそれぞれ送達された。

Xは、平成27年6月25日、Yらに対し、民法405条に基づき、上記の損害賠償債務について同日までに発生した遅延損害金を元本に組み入れる旨の意思表示をした。

本判決における争点は、不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金を民法405条は適用又は類推適用により元本に組み入れることはできるか否かである。

【判決の要旨】

民法第405条は、いわゆる重利の特約がされていない場合においても、一定の要件の下に、債権者の一方的な意思表示により利息を元本に組み入れることができるものとしている。

これは、債務者において著しく利息の支払を延滞しているにもかかわらず、その延滞利息に対して利息を付すことができないとすれば、債権者は、利息を使用することができないため少なからぬ損害を受けることになることから、利息の支払の延滞に対して特に債権者の保護を図る趣旨に出たものと解される。

そして、遅延損害金であっても、貸金債務の履行遅滞により生ずるものについては、その性質等に照らし、上記の趣旨が当てはまるということができる。

これに対し、不法行為に基づく損害賠償債務は、貸金債務とは異なり、債務者にとって履行すべき債務の額が定かではないことが少なくないから、債務者がその履行遅滞により生ずる遅延損害金を支払わなかったからといって、一概に債務者を責めることはできない。

また、不法行為に基づく損害賠償債務については、何らの催告を要することなく不法行為の時から遅延損害金が発生すると解されており、上記遅延損害金の元本への組入れを認めてまで債権者の保護を図る必要性も乏しい。

そうすると、不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金については、民法第405条の上記趣旨は妥当しないというべきである。

したがって、不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金は、民法第405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることはできないと解するのが相当である。

【コメント】

本判決は、不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金に対する民法第405条の適用又は類推適用の可否について、否定する判断をしました。

これまで、この論点に関する最高裁判決はなく、下級審裁判例においても、肯定例と否定例に分かれていたことから、重要な意義を有する判決であると考えます。 また、本判決は、結論を導く理由として、民法第405条の趣旨を述べていることから、本判決とは事案を異にする債務不履行に基づく損害賠償債務の場合についても、その解決の参考になるものと考えます。

【参考条文】

民法 第405条 (利息の元本への組入れ)

利息の支払が一年分以上延滞した場合において、債権者が催告をしても、債務者がその利息を支払わないときは、債権者は、これを元本に組み入れることができる。

(文責:福本 洸太郎)

2022年10月31日 13:42|カテゴリー:未分類

議決権行使書面の提出期限の定めの法令違反による株主総会決議取消しの訴えと裁量棄却の可否(令和3年4月8日東京地裁判決/金融・商事判例1646号10頁)

【事案の概要】

Y社は、その株式を東証一部市場に上場する株式会社であり、Y社のウェブサイト上には、営業時間を土日祝日を除く午前9時から午後5時20分までとする記載がされていた。Xは、Y社の株主である。
令和2年6月19日にY社定時株主総会(以下「本件総会」という。)が開催されたところ、本件総会の招集通知及び議決権行使書面は、6月4日に発送された。これら招集通知等には、当該議決権行使書面が会社に提出されることを要する期限を、会日の前日である6月18日の午後5時までとする記載がなされていた。そこで、Xは、議決権行使書面の提出期限に法令違反があると主張して、本件株主総会決議の取消しを求める訴えを提起した。

【判決要旨】

議決権行使書面の提出期限に法令違反があるというXの主張に対しては、裁判所は以下のとおり、法令違反は認めたうえで、裁量棄却した。


1.法令違反の点について
(1)会社は、株主総会の2週間前までに招集通知を発しなければならない(会社法(以下「法」という。)299条1項)。すなわち、株主総会の日と招集通知の発送日との間に14日間を置かなければならないことになる。他方で、議決権行使書面の行使期限については、原則として、株主総会の日時の直前の営業時間の終了時であるが(法311条1項、同施行規則(以下「規則」という。)69条)、取締役会は、招集の決定に際し、特定の時を議決権行使期限として定めることができる。もっとも、同期限は、株主総会以前の時であって、招集通知を発した日から2週間を経過した日以降の時に限られる(法298条1項5号、規則63条3号ロ)。したがって、会社が招集通知と議決権行使書面を同時に発送し、株主総会前日の特定の時を議決権行使書面の行使期限として定めた場合、上記各規定に違反しないためには、株主総会と招集通知及び議決権行使書面の発送日との間に15日間を置くことが必要になる。
(2)本件では、本件総会の招集通知が令和2年6月4日に発送されたところ、本件総会は同月19日午前10時から開催されることとされていたから、本件総会と招集通知及び議決権行使書面の発送日との間に14日間があった。他方で、議決権行使書面の行使期限は、本件総会の前日である同月18日の午後5時とされていた。
Y社の営業時間の終了時は午後5時20分であるから、それよりも早い午後5時を議決権行使書面の行使期限としたことは、規則63条3号ロの「特定の時」を定めたものであると認められる。したがって、議決権行使書面の発送日と株主総会との間に15日間を設けなかった本件総会の招集手続きは、議決権行使書面の行使期限に関する規定(法298条1項5項、規則63条3号ロ)に違反するものというべきである。

2.裁量棄却について
上記のとおり、本件総会の招集手続きの瑕疵は、株主の書面による議決権行使に関する権利を制限するものであり、看過することができないが、他方で、本件の議決権行使書面の行使期限(午後5時)は、「特定の時」を定めなかった場合の行使期限(午後5時20分)よりも20分短いに過ぎず、株主の議決権行使に与える影響が大きいとまではいえないこと、また午後5時をもって営業を終了することが我が国のビジネス慣習上広く見られることに照らし、瑕疵は重大ではないと認められた。また、上記20分間に到達した議決権行使書面がなかったことから、決議に影響を及ぼさないものであったと認められ、裁量で請求が棄却された。

【コメント】

本事案は、議決権行使書面の提出期限の法令違反が争われた稀な事案です。本事案においては、瑕疵の程度が小さくかつ決議に影響を及ぼさなかったことから裁量棄却とされていますが、短時間の違反でも、法令違反であることは認定されているため、実務においても、議決権行使書面の提出期限の設定については、細心の注意を払うべきと考えます。また、Y社が上場会社であったにも関わらず、裁量棄却が認められた点も含めて注目に値する判決であると考えます。

【参照条文】

法:会社法
規則:会社法施行規則

(株主総会の招集の通知)
法第二百九十九条 株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の二週間(略)前までに、株主に対してその通知を発しなければならない。

(書面による議決権の行使)
法第三百十一条 書面による議決権の行使は、議決権行使書面に必要な事項を記載し、法務省令で定める時までに当該記載をした議決権行使書面を株式会社に提出して行う。

(書面による議決権行使の期限)
規則第六十九条 法第三百十一条第一項に規定する法務省令で定める時は、株主総会の日時の直前の営業時間の終了時(略)とする。

(株主総会の招集の決定)
法第二百九十八条 取締役(略)は、株主総会を招集する場合には、次に掲げる事項を定めなければならない。
一、二 略
三 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
四 略
五 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項

(招集の決定事項)
規則第六十三条 法第二百九十八条第一項第五号に規定する法務省令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
一、二 略
三 法第二百九十八条第一項第三号又は第四号に掲げる事項を定めたときは、次に掲げる事項(略)
イ 略
ロ 特定の時(株主総会の日時以前の時であって、法第二百九十九条第一項の規定により通知を発した日から二週間を経過した日以後の時に限る。)をもって書面による議決権の行使の期限とする旨を定めるときは、その特定の時

(株主総会等の決議の取消しの訴え)
法第八百三十一条 次の各号に掲げる場合には、株主等(略)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。略
一 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。
二 、三 略
2 前項の訴えの提起があった場合において、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる。

(文責:藤岡 茉衣)

2022年10月25日 14:21|カテゴリー:未分類

株主名簿上の株主が無権利者だった場合の会社の責任(東京地方裁判所第8民事部判決令和3年12月20日/金融・商事判例1645号49頁)

【事案の概要】

被告は、公開会社でない株式会社であり、原告は、被告の株主である。
本事案の事実関係を時系列にまとめると以下のとおりである。

平成8年1月10日 被告設立。
原告、発行済株式200株(以下「本件株式」という。)中、少なくとも120株を所有する。

平成22年10月18日
贈与を原因として(以下「本件贈与」という。)、原告所有の全株式について、原告からAらに名義書換がされ、原告所有の株式は0株となる。

平成28年6月頃 原告が被告らに対し、株主権確認請求訴訟等を提起。
原告が本件株式のうち、168株を有することの確認等を求める。

平成30年2月14日 第1審判決。
本件贈与が否定され、原告が本件株式のうち、120株を有する株主であることが確認される。(その後、控訴審において、原告が168株を有する株主であることを確認する旨の判決が下され、最高裁にて被告らの上告が棄却され、控訴審が確定。)

平成30年2月27日 定時株主総会(以下「本件総会」という。)開催。
本件総会には、当時の本件株式に係る株主名簿上の株主全員が出席し、普通株式200株をAに割り当てることを内容とする、総数引受契約方式による募集株式の発行(「本件新株発行」という。)を承認する決議(以下「本件決議」という。)がされる。なお、原告は、本件総会の招集通知を受けておらず、本件総会にも出席しなかった。

平成30年3月20日 本件新株発行についての払込期日

平成31年3月5日 原告、被告に対し訴え提起。
具体的には、本件新株発行について、原告が主位的に、株主総会の特別決議を経ていないなどとして、当該新株発行を無効とすることを求め、予備的に、発行済株式の過半数を有する株主である原告に当該株主総会の招集通知を行っていないなどとして、当該新株発行が不存在であることの確認を求めた(「以下本件訴え」という。)。

【判決要旨】

1 株主総会の開催日の約2週間前に下されている前件訴訟の第1審判決の判断、同判決における当該判断部分は控訴審でも維持されて確定していることに照らせば、会社には、株主名簿上の株主が無権利であることについて少なくとも重過失があったというべきである。
2 非公開会社において、株主総会の特別決議を経ないまま、株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされた場合、その発行手続きには重大な法令違反があり、この瑕疵は株式発行の無効原因になる。

【コメント】

これまでの裁判例では、株式会社は、株主名簿の記載に基づいて名義株主に権利行使を認めれば、その者が真の株主でなかったとしても免責されるが、名義株主が無権利者であることについて悪意または重過失がある場合には、免責されないとの判断がなされています。本判決は、かかる判断を前提として、本件事案に則し、具体的な判断(主位的請求を認容)をしており、実務上参考になります。

【参照条文】

会社法130条(株式譲渡の対抗要件)
株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。
2 株券発行会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社その他の第三者」とあるのは、「株式会社」とする。

同法199条(募集株式の発行)
株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式(当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。
一~五 略
3~5 略

同法309条(株主総会の決議)
株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
一~四 略
五 第百九十九条第二項、・・・
六~一二 略
3~5 略

同法828条(会社の組織に関する行為の無効の訴え)
次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。
一 略
二 株式会社の成立後における株式の発行 株式の発行の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、株式の発行の効力が生じた日から一年以内)
三~十三 略
2 次の各号に掲げる行為の無効の訴えは、当該各号に定める者に限り、提起することができる。
一 略
二 前項第二号に掲げる行為 当該株式会社の株主等
三~十三 略

(文責:藤岡 茉衣)

2022年10月21日 11:16|カテゴリー:判例紹介,未分類

新株予約権の行使に応じてする新株発行の仮の差止めを求める保全申立てが却下された事例(名古屋地方裁判所一宮支部決定令和2年12月24日/金融・商事判例1616号30頁)

【事案の概要】

Y社は、東証JASDAQ市場上場会社である株式会社である。
Xは、Y社の株式67万8220株を有する株主である。

Y社は、令和元年12月20日に開催された取締役会において、第三者割当による第8回新株予約権及び第1回新株予約権付社債(以下、あわせて「本件新株予約権等」という。)の発行を決議した。
Y社は、同日、本件新株予約権等の募集要項、第三者割当の場合の特記事項等を記載した有価証券届出書を提出し、本件新株予約権等の発行に関するプレスリリースを公表したが、有価証券届出書には本件新株予約権の払込金額の算定理由の記載や市場流動性の制約に起因する減額に関する記載がなかった。

そこで、Xは、本件新株予約権等に応じてするY社の新株発行の仮の差止めを求めた。

【決定の要旨】

1 本件新株予約権等の発行の無効原因-公示義務違反
会社法240条2項、3項所定の公示事項は、同法238条1項所定の募集事項であるところ、同項3号は「払込金額又はその算定方法」と規定されており、払込金額が公示されていれば、その算定方法について公示する義務はない。
平成17年改正前の商法280条の23においては払込金額の算定方法(「算定ノ理由」)についても公示事項になっていたものが、会社法においては公示事項となっていないこと、算定の理由として何をどこまで開示すればよいのか一義的・明示的ではないことから、法的安定性を確保する見地から公示事項から削除されたものと解される余地があること、新株予約権発行の無効原因については、取引の安全、法的安定性の見地から限定的に解すべきであることからすれば、本件有価証券届出書において、払込金額の算定理由の記載や市場流動性の制約に関する記載がないことを理由に公示義務違反に当たるとして、新株予約権発行の無効原因があると解することはできない。

2 本件新株予約権等の発行の無効原因-有利発行・不公正発行
Xの主張を踏まえても、本件新株予約権等の発行について、有利発行や不公正発行をその無効原因と解することはできない。

3 会社法247条所定の差止事由の存在を理由とする新株発行の差止
既に発行された本件新株予約権等に基づく新株予約権の行使に応じてする新株の発行は、新株予約権等の発行に無効原因がある場合や新株予約権等発行に差止事由がありながら、その差止めの機会が株主に十分に保障されていなかった場合に限り、会社法210条の準用あるいは類推適用により、新株予約権の行使に応じてする新株の発行の差止めが認められると解するのが相当である。
本件では、本件新株予約権等の公示が、割当日である令和2年1月6日の2週間前である令和元年12月20日になされているが、裁判所の休日に関する法律1条1項所定の裁判所の休日が同月28日(土)から令和2年1月5日(日)までであることからすれば、本件新株予約権等の発行差止めの仮処分命令を得ることが困難であったことは否定できない。
しかし、会社法240条2項は、裁判所の休日に関する法律所定の裁判所の休日を除外せず、割当日の2週間前までに募集事項の公示を行えば足りるとしていること、裁判所の休日に関する法律1条2項が、裁判所の休日に裁判所が権限を行使することを妨げるものではない旨規定しており、裁判所は民事保全手続のように緊急性の高い裁判手続においては休日であっても処理を行うことになっているから、裁判所の休日を理由に株主が本件新株予約権等の発行差止めの仮処分命令を得る機会がなかったと解することはできない。
このように、本件新株予約権等の発行については、差止めの機会が株主に十分に保障されていなかったと認めるには足りないから、本件新株予約権等の発行手続に会社法247条の差止事由があることを根拠として、同法210条を準用あるいは類推適用して、それに引き続いて行われる新株発行の差止事由があると解することはできない。

【コメント】

本件は、Xが、会社法上の公開会社であるY社に対し、新株予約権の行使に応じてする新株発行の差止めを求めた事案であり、結論として、新株発行の差止めは認められませんでした。
本決定においては、本件有価証券届出書の記載内容について、会社法第240条第2項、第3項所定の公示義務違反を否定した点、本件新株予約権等の公示期間が年末年始にまたがり、裁判所の休日を9日挟んだことについて、差止めの仮処分命令を得る機会がなかったと解することはできないと判示した点が実務上重要であると考えます。

【参照条文】

会社法第210条 次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第百九十九条第一項の募集に係る株式の発行又は自己株式の処分をやめることを請求することができる。
一 当該株式の発行又は自己株式の処分が法令又は定款に違反する場合
二 当該株式の発行又は自己株式の処分が著しく不公正な方法により行われる場合

第240条 第二百三十八条第三項各号に掲げる場合を除き、公開会社における同条第二項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。この場合においては、前条の規定は、適用しない。
2 公開会社は、前項の規定により読み替えて適用する第二百三十八条第二項の取締役会の決議によって募集事項を定めた場合には、割当日の二週間前までに、株主に対し、当該募集事項を通知しなければならない。
3 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。
4 第二項の規定は、株式会社が募集事項について割当日の二週間前までに金融商品取引法第四条第一項から第三項までの届出をしている場合その他の株主の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合には、適用しない。

第247条 次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第二百三十八条第一項の募集に係る新株予約権の発行をやめることを請求することができる。
一 当該新株予約権の発行が法令又は定款に違反する場合
二 当該新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合

(文責:福本洸太郎)

2022年10月13日 10:15|カテゴリー:判例紹介

令和4年4月1日施行改正個人情報保護法を踏まえたプライバシーポリシーの具体的な改定ポイント6選

1.プライバシーポリシーとは 

プライバシーポリシー(個人情報保護方針)とは、個人情報の取扱いについて事業者が実施している方針・措置を示すものです。個人情報保護法上、プライバシーポリシーの設置自体が義務付けられているわけではありませんが、個人情報保護上の義務を効率よく遵守し、また遵守状況を公表してユーザーの安心感を得るために、多くの企業がプライバシーポリシーを策定・公表しています。

2.一般的なプライバシーポリシーの構成と改正ポイント

プライバシーポリシーは、下表のような内容から構成されることが一般的です(※1)。下表では、このような一般的なプライバシーポリシーの構成に対応させて、令和4年4月1日に施行された個人情報保護法の改正を踏まえたプライバシーポリシーの主要な改定ポイントを、赤字でまとめています。

なお、令和4年4月1日から施行される改正には、厳密には、「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」による改正と、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」による改正がありますが、本稿では両者を特に区別せずに説明します。以下、「法」は個人情報保護法、「規則」は個人情報の保護に関する法律施行規則、「政令」は個人情報の保護に関する法律施行令を意味します。また、法・規則・政令の条文番号は、令和4年4月1日時点の条文番号とします。

【一般的なプライバシーポリシーの構成と改正ポイント】

1)会社の名称の基本情報等

―会社基本情報を記載します。

(改正ポイント①)会社の住所及び代表者名を追記しましょう。

2)個人情報保護法等の遵守

―関係法令等を遵守して適正に個人情報/個人データ等を取り扱う旨を記載します。

3)個人情報の取得・利用

―利用目的の公表・通知等を行った上で、適法に個人情報を取得すること等を記載します。

(4)個人情報の利用目的

―個人情報の利用目的を具体的に特定して列挙した上で、利用目的の範囲内で個人情報/個人データを取り扱うこと等を記載します。

(改正ポイント②)本人から得た情報から、本人に関する行動・関心等の情報を分析する場合(Cookieを活用した広告を利用している場合等)は、このような取扱いについて追記しましょう。

(5)個人情報の共同利用

―グループ会社間等で個人データを共同利用する場合には、共同利用者等を記載します。

(改正ポイント③)共同利用する個人データの管理責任者の住所、代表者名を追記しましょう。

(6)個人情報の第三者提供

―個人データを第三者に提供するのはどのような場合か等を記載します。

(改正ポイント④)プライバシーポリシーに対する同意をもって、外国にある第三者に個人データを提供するために原則として必要な「本人の同意」を取得する場合、同意取得の前提として提供しなければならない情報(後述します。)を、プライバシーポリシーに追記しましょう。

7)安全管理措置に関する事項

 ―保有個人データの安全管理(セキュリティ)のために実施している措置等を記載します。

(改正ポイント⑤)「安全管理措置に関する事項」という項目を新設して、安全管理のために実施している措置を追記しましょう。

(8)個人情報に関連する請求・質問・苦情等の受付方法(お問い合わせ窓口)

(改正ポイント⑥)保有個人データの利用停止・消去等の要件や、開示請求の対象となる情報、開示の方法について記載している場合は、改正を踏まえて表現を修正する必要がないか検討しましょう。

3.各改正ポイントの解説

1)(改正ポイント) 「会社の名称の基本情報等」

改正により、個人情報取扱事業者が本人の知り得る状態に置く(本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む。)べき事項として、個人情報取扱事業者の氏名又は名称に加えて、住所及び代表者氏名が追加されました(法第32条第1項第1号)。これらの事項を、プライバシーポリシーへの記載をもって「本人の知り得る状態に置く」場合、プライバシーポリシーに、会社の住所及び代表者氏名を追記しましょう。もっとも、プライバシーポリシーとは別に会社概要ページを設けてこれらの情報を掲載したり、プライバシーポリシーに会社概要ページへのリンクを貼り付けたりすることで「本人の知り得る状態に置く」ことも可能です(※2)。また、「本人の求めに応じて遅滞なく回答」することによって「本人の知り得る状態に置く」こともできるので、この意味でも、必ずプライバシーポリシーに記載しなければならないわけではありません。

(2) (改正ポイント) 「個人情報の利用目的」

個人情報保護委員会は、個人情報保護法の内容を補足するために、各種のガイドラインを公表しており、これらのガイドラインも実務の重要な指標となっています。これらのガイドラインも、今回の個人情報保護法の改正にあわせて改正されました。そして、改正後の個人情報保護法ガイドライン(通則編)「3-1-1利用目的の特定(法第17条第1項関係)」では、個人情報の利用目的の特定について、近年のCookie等を駆使したマーケティング活動の発達に鑑みて、以下の内容が追加されました。

例えば、本人から得た情報から、本人に関する行動・関心等の情報を分析する 場合、個人情報取扱事業者は、どのような取扱いが行われているかを本人が予測・想定できる程度に利用目的を特定しなければならない。

 【本人から得た情報から、行動・関心等の情報を分析する場合に具体的に利用目的を特定している事例】

事例 1)「取得した閲覧履歴や購買履歴等の情報を分析して、趣味・嗜好に応じた新商品・サービスに関する広告のために利用いたします。」

事例 2)「取得した行動履歴等の情報を分析し、信用スコアを算出した上で、 当該スコアを第三者へ提供いたします。」

閲覧履歴や購買履歴等の情報を広告等に利用している場合には、上記事例を参照して、その旨を利用目的に追記するようにしましょう。

(3) (改正ポイント) 「個人情報の共同利用」

個人データをグループ会社間等で(本人の同意を得ずに)共同利用するにあたり、あらかじめ本人に通知し、または本人が容易に知り得る状態に置くべき事項の1つとして、個人データの管理責任者の氏名・名称に加えて、改正により、同責任者の住所と(同責任者が法人の場合はその)代表者氏名が追加されました(法第27条第5項第3号)。

個人データを共同利用する場合には、個人データの管理責任者の住所と代表者氏名もプライバシーポリシーに追記しましょう。

(4) (改正ポイント) 「個人情報の第三者提供」

 個人データを外国(EU及び英国を除きます。)にある第三者に提供するためには、原則として「本人の同意」が必要とされるところ、改正により、かかる同意を取得するために、本人に対して以下の参考情報を提供しなければならなくなりました(法第28条第2項,規則第17条第2項)。プライバシーポリシーへの同意をもって「本人の同意」を取得する場合は、以下の事項をプライバシーポリシーに追記しましょう。

【同意を取得するために本人に提供すべき情報】

  • 当該外国の名称(※3)
  • 適切かつ合理的な方法により得られた当該外国における個人情報の保護に関する制度に関する情報
  • 当該第三者が講ずる個人情報の保護のための措置に関する情報(※4)

 具体的な記載内容については、提供先の国にもよるため、個人情報保護委員会が提供する情報を参照しつつ、弁護士等の専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。

(5) (改正ポイント⑤)「安全管理措置に関する事項」

 改正により、「保有個人データの安全管理のために講じた措置」(以下「安全管理措置」といいます。)が、新たに、本人の知り得る状態に置く(本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む。)べき事項として追加されました(法第32条第1項第4号、政令第10条第1項)。

  したがって、プライバシーポリシーへの記載をもって、安全管理措置を「本人の知り得る状態に置く」場合には、安全管理措置に関する事項を、プライバシーポリシーに新たに盛り込みましょう。安全管理措置の記載例については、個人情報保護法ガイドライン通則編「3-8-1保有個人データに関する事項の公表等(法第 32 条関係)の」【安全管理のために講じた措置として本人の知り得る状態に置く内容の事例】の記載等が参考になるでしょう。安全管理措置に関する事項についても、「本人の求めに応じて遅滞なく回答す」れば足りるため、プライバシーポリシーには概括的な内容のみ記載して、詳細については本人の求めに応じて遅滞なく回答するといった対応も考えられるでしょう(※5)。

(6) (改正ポイント⑥)「個人情報に関連する請求・質問・苦情等の受付方法(お問い合わせ窓口)」

個人情報保護法の改正により、保有個人データの利用停止・消去等の要件が緩和されたほか(法第35条第5項)、保有個人データの開示対象に第三者提供記録が追加され(法第33条第5項)、開示方法も本人が指定できるようになる(第33条第2項)等の変更がありました。したがって、「(8)個人情報に関連する請求・質問・苦情等の受付方法(お問い合わせ窓口)」といった項目の中で、利用停止・消去等の要件や、開示対象となる情報の種類、開示の方法といった詳細な内容まで記載している場合、改正に合わせて文言を修正しなければならない可能性があります。

(7)  その他のポイント

 上記のほか、会社の事業活動の内容や、プライバシーポリシーの記載ぶりによっては、以下のような事項についても修正を行う必要が生じる可能性があります。

  • 個人関連情報の第三者提供
メディア企業からCookie等の情報(当該メディア企業からは個人が識別できず当該メディア企業にとっては「個人データ」に該当しない情報)を受け取り、かつ、受け取った情報を(自社で他の情報と照合する等して個人を識別可能な状態で)「個人データ」として取り扱っている場合は、当該メディア企業から自社への情報提供について、本人の同意を得ておく必要があります(法第31条第1項)。かかる本人の同意をプライバシーポリシーへの同意をもって取得する場合には、上記のような情報(個人情報保護法上、「個人関連情報」にあたります。)の提供を受けることについて、プライバシーポリシーに記載しておく必要があります。
  • 学術研究機関等に関する例外事由の追記
原則として、個人データは、本人の同意を得なければ第三者に提供できませんが、例外的に本人の同意を得なくても提供可能な事由が個人関連情報上、列挙されています(法第27条第1項第1号~第7号)。改正により、このような例外事由として、学術研究機関等が当該個人データを学術研究目的で提供する場合や、学術研究目的で取り扱う必要がある学術研究機関等に個人データを提供する場合が追加されました(法第27条第1項第6号・第7号)。他にも、例外的に本人の同意を得ずに個人情報の利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱うことができる事由や、例外的に本人の同意を得ずに要配慮個人情報を取得できる事由にも、学術研究機関等に関する記載が追記されました(法第18条第3項第5号・第6号、法第20条2項第5号・第6号)。これらの例外事由について、改正前の個人情報保護法が列挙していた事由をそのままプライバシーポリシーに記載している場合は、改正を踏まえて記載を調整しなければならない可能性があります。

4.まとめ

本稿では、個人情報保護法改正に伴う、典型的・一般的なプライバシーポリシーの改定ポイントをお伝えしました。もっとも、改定のポイントは、個々の企業の活動状況や、現在のプライバシーポリシーの記載ぶりによって異なり、本稿でご紹介していない事項について修正の必要が生じる可能性も大いにあります。

当事務所では、プライバシーポリシー改定のご依頼や、個人情報保護法の改正に関するリーガルアドバイスも数多く取り扱っています。お気軽にお問い合わせからご連絡ください。

(文責:崔 加奈)

(※1)会社の個人情報の取扱い状況や方針によって、プライバシーポリシーに記載すべき事項は異なるので、あくまでも一般的な例としてご参照ください。

(※2)個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)の一部を改正する告示案」に関する意見募集結果(別紙2-1)」(令和3年8月2日)(以下「パブコメ通則編」といいます。)意見番号446。

(※3)「当該外国の名称」については、特定できない場合には、これに代えて、特定できない旨及びその理由等を情報提供することでも足りるものとされています(法第28条第2項,規則第17条第3項)。

(※4)「当該第三者が講ずる個人情報の保護のための措置に関する情報」については、情報提供できない場合には、これに代えて、特定できない旨及びその理由について情報提供することでも足りるものとされています(法第28条第2項,規則第17条第4項)

(※5)パブコメ通則編意見番号456

令和4年4月1日施行改正個人情報保護法を踏まえたプライバシーポリシーの改定

1. はじめに

本年4月1日から、個人情報保護法(正式名称:個人情報の保護に関する法律)の改正が施行されました。今回は、個人情報保護法の改正点のうち、プライバシーポリシーの改定に関わりうる内容を抜粋して、ご紹介します。

2. 個人情報の本人からの請求について

プライバシーポリシーに、個人情報の本人から、保有している個人情報の開示、訂正、利用停止、消去等の請求を受け付ける旨の規定や、その手続きについて規定している場合、その規定が、以下の内容に違反していないか確認をする必要があります。

3. 公表事項の追加について

改正により、本人の知りうる状態に置かなければならないとされている事項について、以下のとおり、追加がありました。この点からも、プライバシーポリシーの変更が必要な場合があります。

4.「保有個人データ」の定義変更

改正前は、6ヵ月以内に消去することとなるものについては、「保有個人データ」から除外されていましたが、改正により6ヵ月以内に消去することとなるものについても「保有個人データ」に含まれることになりました(法第16条第4項)。

従前、自社は、6ヵ月以内に保有個人データを削除するため、自社で保有している個人情報は「保有個人データ」に該当しないことを前提で個人情報の取扱いを行っていた場合、改正後は、改正前と同じ取扱いでも保有している個人情報が「保有個人データ」に該当する可能性もあるため、注意が必要です。

5. おわりに

以上が、プライバシーポリシーに関わる主な改正個人情報保護法の内容です。

社内で改正個人情報保護法をふまえたプライバシーポリシーの改定を行うのは不安という場合や、これを機会にプライバシーポリシーを新たに制定しようという場合は、当事務所にても対応が可能です。また、今回ご紹介しなかった改正の内容についてのご相談にも対応が可能です。お気軽にお問い合わせからご連絡下さい。

(文責:本多 望)

※注)上記の画像では、個人情報の保護に関する法律を 「法」 、個人情報の保護に関する法律施行令を 「令」 、個人情報の保護に関する法律施行規則を 「規則」 と記載しています。

ベンチャー企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その3)

~~ベンチャー企業が従業員に提出してもらうべき誓約書に、競業避止義務や引抜き防止に関する規定は、どのように書けばよいか~~

今回は、「ベンチャー企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その2)」の続きです。

1 競業避止義務

(1)総論

ベンチャー企業が従業員に提出してもらうべき誓約書に、競業避止義務に関する規定は、どのように書けばよいでしょうか。

憲法に定められた人権の1つである、職業選択の自由がありますので、誓約書に規定して合意すればなんでも有効になるというものではありません。

このあたりに配慮した規定を設けることが重要です。

(2)「職業選択の自由」と競業避止義務

① 業業避止義務が問題となる場面


労働者は、労働契約の存続中は、一般的には、使用者の利益に著しく反する競業行為を差し控える義務があると考えられています。また、就業規則等で、競業行為が明文で禁止されている例も少なくありません。

したがって、労働契約の存続中の競業行為については、仮に誓約書に規定がなかったとしても、就業規則の規定に従った懲戒処分や損害賠償請求が可能であるケースが多いと考えます。

ただ、何が競業行為であるかについては、なかなか明確化しにくいことに加え、実務上、労働者の協業避止が問題となるのは、労働者の退職後であることが多く、労働者の退職後に、同業他社に就職したり、同業他社を開業したりする場合に、退職金の減額や没収、損害賠償請求、競業行為の差止請求が可能であるか、という形で問題になることが多いです。

そして、労働契約の終了後については、労働者に職業選択の自由(日本国憲法第22条第1項)があり、一定の範囲であれば、自らが積極的に放棄する自由もまた認められると考えられるものの、労働者が積極的に放棄する自由を超えて、職業選択の自由を過度に制限しているような場合には、無効と判断されることになります。

② 競業避止義務規定の有効性と裁判例の傾向

就業中の競業避止義務は、その必要性から比較的緩やか認められており、簡単に調査した範囲では、無効であるという判断は見当たりません。

一方、退職後の競業避止義務に基づく損害賠償請求について、労働者の職業選択の自由に照らして、特約における制限の期間・範囲(地域・職種)を最小限にとどめることや一定の代替措置を求めるなど、厳しい態度をとる傾向にあるといわれています(菅野和夫著「労働法第十二版」(弘文堂)160頁)。

以下、一部紹介します。


退職金規程における競業避止規定の合理性に関連する判例・裁判例
・最高裁昭和52年8月9日判決 三晃社事件
・名古屋高裁平成2年8月31日 中部日本広告社事件
・東京高裁平成22年4月27日判決 三田エンジニアリング事件
退職後の競業行為の差止に関連する裁判例
・奈良地裁昭和45年10月23日判決 フォセコ・ジャパン事件
・大阪地裁平成3年10月15日判決 新大阪貿易事件
・東京地裁平成7年10月16日判決 東京リーガルマインド事件
退職後の競業避止義務に基づく損害賠償請求に関連する裁判例
・大阪地裁平成12年6月19日判決 キヨウシステム事件
・大阪地裁平成28年7月14日判決 リンクスタッフ元従業員事件
・大阪地裁平成15年1月22日判決 新日本科学事件

(3)規定例~競業避止義務をどのように定めるべきか~ 

競業避止義務及びそのサンクション(制裁)を、どの規定に、どのように定めるべきかが問題となります。以下に規定例を挙げていますので、参考にしてください。

ここでは期間を「2年」としています。確実に有効といえる期間はありませんが、裁判例などを見ていると、3年を超えてくると、無効となるリスクがどんどんと高くなるように思われます。禁止となる対象の業務を狭く規定することや代替措置を明確にすることにより、より有効性を高める方向も考えられますので、適宜、ご調整下さい。実際の策定にあたっては、企業労務に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。


(a) 就業規則:就業規則には、「懲戒」や「禁止行為」などの規定に定めることになります。「会社の利益に反する著しく不都合な行為」や「故意又は過失により会社に損害あるいは事故を引き起こす行為」等と定めることが多いでしょう。そのほか、最近では、副業を認めるケースが話題になっているものの、原則は禁止として個別に承諾する制度にして、「服務規律」等の規定で、「会社の事前の許可がある場合を除き、第三者に就業し又は自己の営業を行わないこと」等と定めて、競業であるか否かにかかわらず、副業を原則禁止する方法もあります。
就業規則自体は、基本的に労働者の在職中の行為に対する規範として機能するものですので、退職後の行為に対して、どの程度効力があるかについては疑問があり、別途の誓約書を取得するなどして、明確に合意を得た方がよいです。

(b) 退職金規程:スタートアップでは、退職金制度を設けていないところがほとんどです。ただ、仮に設けるのであれば、同業他社に転職した者に対する退職金の減額や没収を明確に規定した方がよいことになります。こちらは、退職後の競業制限の必要性や範囲、競業行為の態様等に照らして有効性が左右されます。下記の規定例は一例です。競業の範囲が広めに設定しており、より絞っておくことで、有効となる可能性は高くなります。

規定例:
従業員もしくは当該従業員の遺族が何らかの方法で会社を欺き、故意に会社に損害を与え、または会社に対して有害な行為(例えば競争会社に対する会社の秘密情報の漏洩)を行ったと会社が判断した場合、又は、在職中若しくは退職後2年間において、会社が行っている業務若しくはこれらに類する事業を行う企業に就職したり、その役員に就任したり、アドバイスを行ったりして、競合事業に関与したと会社が判断した場合、会社は、独自の判断で、当該従業員またはその法律上の遺族に対し、本規程に従い支給される予定である給付金の支払を取消し若しくは停止し、又は、既に支給された給付金の返還請求を行う権利を有する。

(c) 誓約書:スタートアップでは、入社時に誓約書を取得することが多いですので、その誓約書に退職後の競業禁止規定を入れておくことがもっともスムースでしょう。こちらも、下記の規定例は一例であり、常に有効であるかは、わかりません。

規定例:私は、貴社の書面による事前の同意を得た場合を除き、在職中及び退職後2年間は、貴社が行っている業務又はこれらに類する事業(以下、これらをまとめて「競合事業」という。)を行う企業に、就職したり、その役員に就任したり、アドバイスを行ったりするなど、直接間接を問わず競合事業に関与せず、また、競合事業につき会社の設立その他の方法により自ら開業いたしません。

(4)実際に競業避止義務が生じた場合

退職金規程や誓約書などに競業避止義務に関する規定がある場合は、その規定を根拠に、退職金の減額や没収、競業行為の差止めや損害賠償請求が考えられます。

既に述べたとおり、職業選択の自由との関係で、規定が無効であると判断される可能性がありますので、この点は、常に、意識していただいた方がよいでしょう。

2 勧誘・引抜き等の禁止

(1)誓約書に規定する意味

スタートアップ企業は、退職した従業員が、会社の顧客を勧誘したり、会社の従業員を引き抜いたりする行為は、絶対に止めたい行為であろうと思います。

顧客の大掛かりな簒奪や従業員の大量引抜きは、仮に退職後の勧誘や引抜き等の禁止についての合意がなかったとしても、その行為が、営業権を侵害する不法行為として認められる可能性があります(参照:東京地裁平成19年4月24日判決 ヤマダ電機事件)。

ただ、少人数であっても、顧客の簒奪や従業員の引抜きは、避けたいところであり、その観点から誓約書を設けて、その中で勧誘や引抜き等の禁止を明確に規定した方がよいです。

(2)規定例

誓約書には、以下のような規定を設けることが考えられます。

規定例:
私は、貴社の書面による事前の同意を得た場合を除き、在職中及び退職後2年間は、自ら設立した事業のため、又は私が役員若しくは従業員等の立場で関与する第三者若しくは関与する予定のある第三者のために、貴社の役員、従業員及び取引先(ユーザー等を含みます。)に対する勧誘・引抜き活動や営業活動を行いません。また、私は、貴社の書面による事前の同意を得た場合を除き、在職中及び退職後2年間は、自ら、又は第三者をして、貴社の役員及び従業員を採用せず、採用を決定することもしません。

(3)実際に勧誘や引抜きが生じた場合

実際に勧誘や引抜きが生じた場合は、誓約書などの明文規定がないか、営業権侵害に該当しないかなどを検討することになります。

また、上記のほかに、営業秘密の侵害や、別途の義務(秘密保持義務など)の違反でも、対応できる可能性があります。

これらの法的構成を検討し、損害賠償請求や差止め、それらを元にした交渉等が考えられます。

実際にどのような対応方法が有効であるかについては評価が難しいところがありますので、企業労務に詳しい弁護士に相談して決めることを強くお勧めします。

3 今後の予定

今後、以下の条項について、触れる予定です。

・引継ぎ
・反社会的勢力との接触の禁止等

(文責 森 理俊)

第三者委員会

企業において不正・不祥事が発生した場合に、調査委員会が設置され、調査委員会が調査を行って報告書を作成することがあります。

こういった調査は、企業がステークホルダーに対して不正・不祥事の事実関係を公表するといった情報公開、及び、原因を分析することによって将来における不正・不祥事の予防といったことを目的として行われます。また、不正・不祥事の規模、企業の規模等によって、調査委員会の構成も様々です。例えば、非上場企業で、インパクトが比較的大きくない規模の不正・不祥事であれば、監査役等を主要なメンバーとした社内の調査委員会を設置することもあります。他方、インパクトの大きな不正・不祥事では、顧問弁護士ではない弁護士のみをメンバーとする独立性・客観性の強い外部の調査委員会を設置することもあります。

日本弁護士連合会では、企業等から独立した委員のみをもって構成するタイプの委員会について、ガイドラインを策定しています。

https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2010/100715_2.html

先日、クライアントからのご依頼を受けて、当事務所の弁護士で調査委員会を設置した案件が終了しました。私が委員長として、調査及び報告書の作成を行ったのですが、不正・不祥事が発生する原因というのは、表面的に事象が目につきやすいのですが、根本的または潜在的な原因を検討・分析することは容易ではありません。企業文化や、商習慣についても理解する必要がありますし、ビジネスの進め方や関係者のあるべき言動等についての洞察も必要となります。その意味では、普段の企業法務や社外監査役の業務が、調査委員会での調査にも非常に有用であることを、改めて実感しました。

また、調査報告書では、再発防止策を提言することが一般的です。再発防止策を検討する際には、表面的・形式的な内容となることなく、真にクライアントに役立ち、クライアントのステークホルダーから信頼され得る施策となるよう徹底的に検討することになります。

不正・不祥事の原因を究明して、将来の再発を防止し、ステークホルダーからの信頼を取り戻し、その結果、企業の成長に寄与するという思いを忘れずに、今後も調査委員会の業務を行いたいと考えています。

(文責:藤井宣行)

2022年02月24日 11:35|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス,企業法務

公益通報者保護法改正②

公益通報者保護法は、令和2年6月に改正されています。この改正の内容については、当事務所の和田弁護士が、同年7月に、ブログで詳しく紹介していますので、よろしければ、お読みください。

他方、改正法が公布された後に、重要な点が、いくつか公表されていますので、本ブログでは、これについて紹介します。

まず、改正法の施行日について、「公布の日から2年以内」とされていましたが、公益通報者保護法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令により、令和4年6月1日とされました。

また、改正法第11条第4項では、内閣総理大臣は、同条第1項及び第2項に基づいて事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めると規定しています。これを受け、消費者庁は、令和3年8月20日、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年内閣府告示第118号。以下「指針」といいます。)を公表し、同年10月13日、「公益通報者保護法に基づく指針の解説」(以下「解説」といいます。)を公表しました。

指針では、改正法第11条第1項に関して、事業者は、内部公益通報受付窓口の担当者を、書面により指定する等の方法で、選定することが義務付けられています。

改正法第11条第2項に関する指針では、事業者は、①部門横断的な公益通報対応業務を行う体制を整備するための措置、②公益通報者を保護する体制を整備するための措置、③内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置をとることが義務付けられています。

① 部門横断的な公益通報対応業務を行う体制を整備するための措置としては、以下の事項が記載されています。

  • 内部公益通報受付窓口の設置等
  • 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
  • 公益通報対応業務の実施に関する措置
  • 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置

② 公益通報者を保護する体制を整備するための措置としては、以下の事項が記載されています。

  • 不利益な取扱いの防止に関する措置
  • 範囲外共有等の防止に関する措置

③ 内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置としては、以下の事項が記載されています。

  • 労働者等及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置
  • 是正措置等の通知に関する措置
  • 記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者等及び役員への開示に関する措置
  • 内部規程の策定及び運用に関する措置

事業者としては、改正法及び指針に基づき、上記の内容について対応する必要があります。

当事務所では、社内規程のドラフト、レビュー、社内セミナー、及び、内部通報制度の構築サポートを提供しています。また、内部通報窓口を担当することも可能ですので、これらの事項について、ご質問等がございましたら、お問合せフォームからご連絡ください。

(文責:藤井宣行)

2022年02月03日 16:07|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス,企業法務,法務関連ニュース
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