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2022年08月25日 S&Wメールマガジン
「ベンチャー法務/渉外法務の部屋」Vol.29

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 S&W国際法律事務所 メールマガジン Vol.29
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─【 目 次 】──────────────────────
1 所感
2 判例紹介
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1 所感
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暑さの厳しい夏ですが、如何お過ごしでしょうか。
私は、約20年前の修習生時代以来の北海道旅行をしました。
北海道のオススメスポットはたくさんあります。
今回は、子供たちと大雪山の東側を巡る旅をしました。
黒岳のロープウェイを上がると、ミヤマリンドウの綺麗な青い花が咲き乱れて、ドライブをしていると、可愛いキタキツネに出会いました。
三国峠からは見渡す限りの樹海に心を奪われ、透き通る然別湖の湖面をカヌーで渡って、森の中を散歩しました。
先月は、体調を崩していたのですが、美しい自然とたくさんの美味しい食事で、すっかり元気いっぱいになりました。

(文責:森 理俊)


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2 判例紹介
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《新株予約権の行使に応じてする新株発行の仮の差止めを求める保全申立てが却下された事例》
名古屋地方裁判所一宮支部決定令和2年12月24日/金融・商事判例1616号30頁)

【事案の概要】
Y社は、東証JASDAQ市場上場会社である株式会社である。
Xは、Y社の株式67万8220株を有する株主である。

Y社は、令和元年12月20日に開催された取締役会において、第三者割当による第8回新株予約権及び第1回新株予約権付社債(以下、あわせて「本件新株予約権等」という。)の発行を決議した。
Y社は、同日、本件新株予約権等の募集要項、第三者割当の場合の特記事項等を記載した有価証券届出書を提出し、本件新株予約権等の発行に関するプレスリリースを公表したが、有価証券届出書には本件新株予約権の払込金額の算定理由の記載や市場流動性の制約に起因する減額に関する記載がなかった。

そこで、Xは、本件新株予約権等に応じてするY社の新株発行の仮の差止めを求めた。

【決定の要旨】
1 本件新株予約権等の発行の無効原因-公示義務違反
会社法240条2項、3項所定の公示事項は、同法238条1項所定の募集事項であるところ、同項3号は「払込金額又はその算定方法」と規定されており、払込金額が公示されていれば、その算定方法について公示する義務はない。
平成17年改正前の商法280条の23においては払込金額の算定方法(「算定ノ理由」)についても公示事項になっていたものが、会社法においては公示事項となっていないこと、算定の理由として何をどこまで開示すればよいのか一義的・明示的ではないことから、法的安定性を確保する見地から公示事項から削除されたものと解される余地があること、新株予約権発行の無効原因については、取引の安全、法的安定性の見地から限定的に解すべきであることからすれば、本件有価証券届出書において、払込金額の算定理由の記載や市場流動性の制約に関する記載がないことを理由に公示義務違反に当たるとして、新株予約権発行の無効原因があると解することはできない。

2 本件新株予約権等の発行の無効原因-有利発行・不公正発行
Xの主張を踏まえても、本件新株予約権等の発行について、有利発行や不公正発行をその無効原因と解することはできない。

3 会社法247条所定の差止事由の存在を理由とする新株発行の差止
既に発行された本件新株予約権等に基づく新株予約権の行使に応じてする新株の発行は、新株予約権等の発行に無効原因がある場合や新株予約権等発行に差止事由がありながら、その差止めの機会が株主に十分に保障されていなかった場合に限り、会社法210条の準用あるいは類推適用により、新株予約権の行使に応じてする新株の発行の差止めが認められると解するのが相当である。
本件では、本件新株予約権等の公示が、割当日である令和2年1月6日の2週間前である令和元年12月20日になされているが、裁判所の休日に関する法律1条1項所定の裁判所の休日が同月28日(土)から令和2年1月5日(日)までであることからすれば、本件新株予約権等の発行差止めの仮処分命令を得ることが困難であったことは否定できない。
しかし、会社法240条2項は、裁判所の休日に関する法律所定の裁判所の休日を除外せず、割当日の2週間前までに募集事項の公示を行えば足りるとしていること、裁判所の休日に関する法律1条2項が、裁判所の休日に裁判所が権限を行使することを妨げるものではない旨規定しており、裁判所は民事保全手続のように緊急性の高い裁判手続においては休日であっても処理を行うことになっているから、裁判所の休日を理由に株主が本件新株予約権等の発行差止めの仮処分命令を得る機会がなかったと解することはできない。
このように、本件新株予約権等の発行については、差止めの機会が株主に十分に保障されていなかったと認めるには足りないから、本件新株予約権等の発行手続に会社法247条の差止事由があることを根拠として、同法210条を準用あるいは類推適用して、それに引き続いて行われる新株発行の差止事由があると解することはできない。

【コメント】
本件は、Xが、会社法上の公開会社であるY社に対し、新株予約権の行使に応じてする新株発行の差止めを求めた事案であり、結論として、新株発行の差止めは認められませんでした。
本決定においては、本件有価証券届出書の記載内容について、会社法第240条第2項、第3項所定の公示義務違反を否定した点、本件新株予約権等の公示期間が年末年始にまたがり、裁判所の休日を9日挟んだことについて、差止めの仮処分命令を得る機会がなかったと解することはできないと判示した点が実務上重要であると考えます。

【参照条文】
会社法第210条 次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第百九十九条第一項の募集に係る株式の発行又は自己株式の処分をやめることを請求することができる。
一 当該株式の発行又は自己株式の処分が法令又は定款に違反する場合
二 当該株式の発行又は自己株式の処分が著しく不公正な方法により行われる場合

第240条 第二百三十八条第三項各号に掲げる場合を除き、公開会社における同条第二項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。この場合においては、前条の規定は、適用しない。
2 公開会社は、前項の規定により読み替えて適用する第二百三十八条第二項の取締役会の決議によって募集事項を定めた場合には、割当日の二週間前までに、株主に対し、当該募集事項を通知しなければならない。
3 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。
4 第二項の規定は、株式会社が募集事項について割当日の二週間前までに金融商品取引法第四条第一項から第三項までの届出をしている場合その他の株主の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合には、適用しない。

第247条 次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第二百三十八条第一項の募集に係る新株予約権の発行をやめることを請求することができる。
一 当該新株予約権の発行が法令又は定款に違反する場合
二 当該新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合



《株主名簿上の株主が無権利者だった場合の会社の責任》
(東京地方裁判所第8民事部判決令和3年12月20日/金融・商事判例1645号49頁)

【事案の概要】
被告は、公開会社でない株式会社であり、原告は、被告の株主である。
本事案の事実関係を時系列にまとめると以下のとおりである。

平成8年1月10日 被告設立。
原告、発行済株式200株(以下「本件株式」という。)中、少なくとも120株を所有する。

平成22年10月18日
贈与を原因として(以下「本件贈与」という。)、原告所有の全株式について、原告からAらに名義書換がされ、原告所有の株式は0株となる。

平成28年6月頃 原告が被告らに対し、株主権確認請求訴訟等を提起。
原告が本件株式のうち、168株を有することの確認等を求める。

平成30年2月14日 第1審判決。
本件贈与が否定され、原告が本件株式のうち、120株を有する株主であることが確認される。(その後、控訴審において、原告が168株を有する株主であることを確認する旨の判決が下され、最高裁にて被告らの上告が棄却され、控訴審が確定。)

平成30年2月27日 定時株主総会(以下「本件総会」という。)開催。
本件総会には、当時の本件株式に係る株主名簿上の株主全員が出席し、普通株式200株をAに割り当てることを内容とする、総数引受契約方式による募集株式の発行(「本件新株発行」という。)を承認する決議(以下「本件決議」という。)がされる。なお、原告は、本件総会の招集通知を受けておらず、本件総会にも出席しなかった。

平成30年3月20日 本件新株発行についての払込期日

平成31年3月5日 原告、被告に対し訴え提起。
具体的には、本件新株発行について、原告が主位的に、株主総会の特別決議を経ていないなどとして、当該新株発行を無効とすることを求め、予備的に、発行済株式の過半数を有する株主である原告に当該株主総会の招集通知を行っていないなどとして、当該新株発行が不存在であることの確認を求めた(「以下本件訴え」という。)。

【判決要旨】
1 株主総会の開催日の約2週間前に下されている前件訴訟の第1審判決の判断、同判決における当該判断部分は控訴審でも維持されて確定していることに照らせば、会社には、株主名簿上の株主が無権利であることについて少なくとも重過失があったというべきである。
2 非公開会社において、株主総会の特別決議を経ないまま、株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされた場合、その発行手続きには重大な法令違反があり、この瑕疵は株式発行の無効原因になる。

【コメント】
これまでの裁判例では、株式会社は、株主名簿の記載に基づいて名義株主に権利行使を認めれば、その者が真の株主でなかったとしても免責されるが、名義株主が無権利者であることについて悪意または重過失がある場合には、免責されないとの判断がなされています。本判決は、かかる判断を前提として、本件事案に則し、具体的な判断(主位的請求を認容)をしており、実務上参考になります。

【参照条文】
会社法130条(株式譲渡の対抗要件)
株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。
2 株券発行会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社その他の第三者」とあるのは、「株式会社」とする。

同法199条(募集株式の発行)
株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式(当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。
一~五 略
3~5 略

同法309条(株主総会の決議)
株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
一~四 略
五 第百九十九条第二項、・・・
六~一二 略
3~5 略

同法828条(会社の組織に関する行為の無効の訴え)
次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。
一 略
二 株式会社の成立後における株式の発行 株式の発行の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、株式の発行の効力が生じた日から一年以内)
三~十三 略
2 次の各号に掲げる行為の無効の訴えは、当該各号に定める者に限り、提起することができる。
一 略
二 前項第二号に掲げる行為 当該株式会社の株主等
三~十三 略




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