ベンチャー法務の部屋

役員選任権付種類株式の留意点

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ベンチャー・キャピタル等が、スタートアップに投資する際に、役員選任権、特に取締役選任権とオブザーバー選任権を設計することは、少なくありません。

後者のオブザーバー選任権は、投資家の指定する個人に対して取締役会等の重要な会議に出席できる権利のことであり、その個人を「オブザーバー」と呼んでいるにすぎません。オブザーバーは会社法上の概念ではありませんので、 オブザーバー選任権 の 権利義務の詳細な内容とともに、投資契約や株主間契約等の契約で定めるしか、実現する方法がありません。

一方、前者の取締役選任権は、2つの方法が考えられます。オブザーバー選任権のように投資契約や株主間契約等の契約で定める方法と、種類株式の内容として、設計する方法です。

会社法では、「当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。)又は監査役を選任すること」を内容とする種類株式を設計することができます(会社法第108条第1項第9号)。

しかし、現在のスタートアップ投資の実務では、種類株式の内容として設計される例は稀になりました。
その理由は、種類株式の内容として定めた場合、A種種類株式による種類株主総会は1名以下、全体の株主総会で3名以上7名以下とする定め方は、無効であると考えられており、普通株式による種類株主総会で4名、A種種類株式による種類株主総会で1名などと、種類ごとに選任できる取締役の員数を定めておく必要があり、実務運営上、面倒なことが主な要因であると思われます。
A種種類株式による種類株主総会は1名以下、全体の株主総会で3名以上7名以下とする定め方は、全体の株主総会で7名を選任してしまうと、A種種類株式による種類株主総会で1名の取締役を選んでしまうと、全体で8名になってしまい、選任権がなくなってしまうということが生じるためだと思われます。

仮に、普通で4名、A種で1名、B種で2名の選任権があるという定款を前提とすると、役員改選時の定時総会時期には、種類株主総会を普通とA種とB種の3つを開催した上で、定時株主総会も開催しなければならず、それぞれ招集通知を作成するなど、かなり面倒で、法的に恙なく運営するためにはかなり法務担当者に実行スキルが求められることになります。そのため、回避されているのでしょう。

種類株式の内容として設計するメリットとしては、契約で定める方法では、役員を選任しなかったとしても会社法上は有効であり、債務不履行責任を追及できるに過ぎないことに対して、種類株式の定めに反する役員選任は無効であるという点が挙げられますが、実際に、投資契約や株主間契約に反して、投資家の指名する役員を選任しないということが強行されるケースはほぼ考え難いといえます(強行するメリットが乏しいわりに、契約上のサンクション(株式買取義務等)が大きい)。

上記のように、役員選任権付種類株式は、設計上も、運営上も、法務上留意すべき事項がありますので、基本的には採用をお勧めしませんし、採用する場合には、種類株式実務に明るい法律事務所に事前に相談していただくことを強くお勧めします。

当事務所でも取り扱っていますので、ご相談がある場合は、問い合わせページより、お問い合わせください。

執筆者
森 理俊
マネージング・パートナー/弁護士

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