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ベンチャー法務の部屋

財産開示手続

2021年11月20日付け岐阜新聞WEBで、「裁判所からの呼び出しに出頭せず 民事執行法違反の疑いで男を逮捕、岐阜県警」との記事がありました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/9f3cfb26143872324b5c43e33262c01df7282667

記事によれば、「逮捕容疑は、岐阜地裁から10月8日午後2時30分開廷の民事裁判に呼び出しを受けていたにもかかわらず、正当な理由なく法廷に出頭しなかった疑い。」とのことです。

この記事に記載されている「民事裁判」というのは、民事執行法第196条以下で規定されている財産開示手続のことであると考えられます。

財産開示手続は、債権者が債務者の財産に関する情報を取得することを目的とするもので、債務者が財産開示期日に裁判所に出頭し、その財産状況の報告等をするものです。

裁判所に対し、財産開示手続の実施を求めることができる者の範囲について、以前は、いわゆる勝訴判決が確定した得た場合等に限定されていましたが、令和元年に改正された民事執行法で、仮執行宣言付判決も含まれるなど拡大されました。

また、財産開示手続に違反した債務者に対するサンクションとして、以前は、30万円以下の過料の制裁が規定されていましたが、令和元年の改正で、6月以下の懲役または50万円以下の罰金が規定されました(民事執行法第213条第1項第5号、6号)。

冒頭のニュース内の逮捕は、これらの刑事罰のための捜査手続ということになります。

(文責:藤井宣行)

2021年12月03日 11:49|カテゴリー:企業法務,法務関連ニュース

ベンチャー企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その1)

1 序論

「ベンチャー企業が従業員に提出してもらうべき誓約書に、どのようなものを記載すればよいでしょうか」という質問を受けることがよくあります。

10年以上前に、同趣旨の内容で、ブログを作成しています。10年経ったからといって、使えないわけではありませんが、その後の知見や法改正もありますし、リンクがずれていますので、アップデートしたいと思います。

参考までに、10年以上前のブログを紹介しておきます。
企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その1) 
 取得のタイミングと秘密保持関連について、触れています。

企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その2) 
 知的財産権について、触れています。特許法第35条は改正前のものが引用されており、古いです。

企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その3) 
 競業禁止について、触れています。

企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その4) 
 会社の従業員に対する調査権について、触れています。

2 秘密保持

秘密保持義務は、誓約書に定めた方がよい規定です。

就業規則に規定されている場合も多いと思います。ただ、就業規則では、詳細な規定を定めづらいことから、秘密情報の定義がなかったり、退職後の守秘義務についての効力が不明確であったり、職務外で知った情報が対象外とされていたり、個人情報に触れられていなかったり、サンクションが定められていなかったりします。

就業規則と重複したとしても、矛盾がなければ、問題が生じることはありませんので、就業規則に秘密保持について規定があってもなくても、誓約書には秘密保持に関する規定を記載した方がよいです。

ポイントは、以下のとおりです(太字は、以前のブログを比較して、追記した箇所です。)。
・ 秘密情報を定義する(就業規則や営業秘密管理指針がある場合は、それらの定義を援用することも可)
・ 秘密情報を記載又は包含した書面その他の媒体物の持出禁止・返還義務
・ 退職後の義務(退職後の守秘義務の明確化)
・ 個人情報が秘密情報に準じること
・ 義務の存続期間又は無期限であること
・ 制裁措置(サンクション)の設定(損害賠償・ 損害を最小限にとどめるよう最善の処置を尽くす義務等)

【規定例】

(1) 私は、秘密情報並びに秘密情報を記載又は包含した書面その他の媒体物を貴社から持ち出すことはしません。また、退職時には全てを返却します。
(2) 私は、職務上知り得たものであると職務外で知り得たものであるとを問わず、貴社又は貴社の関連企業、顧客若しくは取引先の業務上の秘密情報及びこれらに不利益となる情報を、在職中も、退職後も、いかなる第三者にも開示又は漏洩しません。
(3) 私は、在職中も、退職の後も、私の責めに帰すべき事由により万一秘密情報が漏洩したことにより、貴社又は貴社の関連企業、顧客若しくは取引先に損害を与えた場合には、これらに対する損害賠償の責めに応じるとともに、秘密情報を記載した文書その他の媒体等の回収、秘密情報の漏洩又は利用により得られた成果の回収等を行い、秘密情報の漏洩により生じた損害を最小限にとどめるよう最善の処置を尽くします。
(4) 私は、貴社が取り扱う一切の個人情報(個人情報の保護に関する法律において定義される個人情報を意味します。以下同じ。)について、貴社の秘密情報に準じて本条の定めに従って、取り扱うものとします。
(5) 秘密情報及び個人情報に関する本条の義務は、私の退職の前後を問わず無期限に存続することについて、異議ありません。

3 今後の予定

今後、以下の条項について、触れる予定です。
知的財産権
競業避止
勧誘・引抜き等の禁止
引継ぎ
反社会的勢力との接触の禁止等


この後も、お楽しみいただければ幸いです。

(文責:森理俊)

2021年12月01日 16:18|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス|タグ: ,

委任状や議決権行使書面を事前に出した株主が、株主総会に出席した場合、どのように取り扱うべきか

1 論点


近時、某案件との関係で、
「委任状や議決権行使書面を事前に出した株主本人が、株主総会に出席した場合、どのように取り扱うべきか」という質問を受けました。
なお、当職は、メディアを賑わせている件につき、代理関係や利害関係はありません。また、この投稿は、現在係争中の争訟につき何らかの結論を示唆するものでもありません。

2 結論


結論から言えば、実務上は、委任状又は議決権行使書面を会社宛に送付した株主及び電磁的方法による議決権を行使した株主が、総会当日に株主総会会場に出席を求めてきたときは、出席した時点で、議決権の行使の委任、書面による議決権行使、又は電磁的方法による議決権行使は撤回されたものとして取り扱って差し支えないと考えます。

3 検討


書面による議決権行使ができるのは株主総会に出席しない株主のための制度であることから(会社法第298条第1項第3号第4号参照)、株主が会社に議決権行使書面を送付した場合でも、総会に出席するとその効力は失われると解されています。

なお、①賛否を記載した委任状を付与、②議決権行使書面の提出、③委任状を持参した株主が当日株主総会に出席した、という流れの場合には、②による議決権行使書面の提出は、委任状を撤回して議決権行使書面による議決権行使を行う者と理解して、書面投票を優先させる余地を認める見解があります。この見解に立つ場合は、①の委任状は②の議決権行使書面に提出によって撤回されたものであるので、そもそもその委任状を持参した株主は、効力のない委任状を保有した株主であり、委任関係自体が存在しないともいえるように思います。そのため、この見解に立った場合であっても、株主本人が株主総会に出席した場合は、やはり議決権行使書面は撤回されたものとして、株主総会当日の株主の意思表示が優先されるものと考えられます。
議決権行使書面の提出の後に、その株主が委任状を付与したときは、委任状を持つ当該株主の代理人が出席すれば、やはり議決権行使書面は撤回されたものと考えてよさそうです。

(文責:森 理俊)

2021年11月10日 17:00|カテゴリー:企業法務|タグ: , ,

社外監査役

2021年8月26日、ナッシュ株式会社の社外監査役に選任されました。

監査役は、取締役の職務執行を監査することを職務内容とします。監査役のうち、「社外」監査役といえるためには、会社法第2条第16号に規定される要件を満たす必要があります(ご参考までに、末尾に条文を引用しています。)。

監査役は、取締役の職務執行を監査するため、会社の重量な書類の提供を受けて調査を行ったり、取締役会や経営会議に出席します。私も、定期的に、監査役として、取締役会に出席する等しています。

社外とはいえ、会社の役員として、取締役の職務執行を監査するという重要な職務を担います。また、社外監査役は、取締役会や監査役会等で、その場での質問に対する回答をするケースもあり、瞬発力が求められます。また、ビジネスに対する理解力や、法律家ではない経営者、投資家等とのコミュニケーション能力等も求められますので、緊張感を持ちつつ職務にあたり、かつ、自己研鑽を続けたいと考えています。

他方において、これまで、弁護士として、多くの企業に関与させていただいてきましたが、やはり、外部者であることから、企業内の情報に距離感を感じたり、企業の意思決定のプロセスが見えないことについて、「ホントのところは、どうなのかな」と感じることも、ありました。それが、現在、取締役会や、その他の会議等に参加させてもらい、多様なバックグラウンドを有する経営陣の生の議論に触れる機会を得られて、刺激を得たり、勉強になることも、少なくありません。こういった経験は、私自身の弁護士としての活動において、経営者の悩み、意思決定において役に立つ情報の選別等、多くの側面において、プラスの効果をもたらしてくれると信じています。

会社法第2条第16号

株式会社の監査役であって、次に掲げる要件のいずれにも該当するものをいう。

  • その就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員。ロにおいて同じ。)若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。
  • その就任の前十年内のいずれかの時において当該株式会社又はその子会社の監査役であったことがある者にあっては、当該監査役への就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。
  • 当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役、監査役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと。
  • 当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役等でないこと。
  • 当該株式会社の取締役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は二親等内の親族でないこと。

(文責:藤井宣行)

2021年10月14日 12:44|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス,企業法務|タグ:

ベンチャー企業の経営と人権  ~ベンチャー企業経営者が人権について理解しておくべきいくつかのこと~ その3

今回は、前回からのシリーズ「ベンチャー企業の経営と人権」です。

これまで:
 ~ベンチャー企業経営者が人権について理解しておくべきいくつかのこと~ その1 
 ~ベンチャー企業経営者が人権について理解しておくべきいくつかのこと~ その2 

7 企業体が人権を尊重すべき典型事例

これまで、企業体が人権を尊重すべき典型事例は、自社内で生じたハラスメントにつき、企業体自体が、従業員の安全に配慮する義務や、職場環境に配慮する義務に、違反するものとして、責任を負うというものです。たとえ、従業員間で生じた人権侵害行為であっても、企業体は、原則としてそれを放置することは許されません。

昨今では、自社内だけではなく、社外の問題であっても、放置することが許されなくなってきたという事例があります。

例えば、企業体の仕入先の工場で人権侵害行為があり、それを認識している場合には、その仕入先との取引を放置することは許されなくなりつつあります。

先日(2021/07/16)、

カジュアル衣料「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの岡崎健取締役は15日の決算記者会見で、新疆ウイグル自治区の人権侵害問題について、「縫製工場は第三者の監査機関に入ってもらい、人権に問題がないことを確認している」と説明した。

というニュースがありました。

このユニクロの説明は、中国の新疆ウイグル自治区の綿製品が強制労働で生産された疑いがあると国際的に批判が高まり、同自治区で生産される綿製品をめぐって、フランスの司法当局がNGOからの告発を受けて強制労働によって作られた材料を使っている疑いがあるとしてユニクロのフランス法人への捜査を始めていたという流れをうけての説明でした。

企業体は、自社内の人権問題のみならず、取引先で生じた人権問題にも目を配らないといけない時代に入ってきたのです。

次の「8 企業体がどこまで人権に配慮すればよいか悩ましい事例」は、ユーザー側が起こす人権等の権利侵害に配慮しなければならなくなってきたという問題でもあります。

8 企業体がどこまで人権に配慮すればよいか悩ましい事例

SNSなどのプラットフォームサービスにおいては、日々、言論が行われています。twitterやfacebookなどが典型例です。このようなサービスは、これまで世の中に情報を発信する術をもたなかった一般市民が世界に直接情報発信をするために極めて有用なツールとなっています。このようなサービスのおかげで、私たちは、アメリカの大統領がどのような言葉を発したのか、メディアによる編集を経ない生の情報に接することができますし、時に事件事故や戦場といった普通では立ち入れない場所からの生の情報を得ることができます。また、政治的な意見が市民の間の連帯を生み、革命を起こして政権を変えた事例さえあります。

一方で、プラットフォーム上の言論は、憲法に定められた言論の自由によって保障されているわけではありません。その理由は、前回申し上げたとおり、憲法は、私人間、この場合は私企業とユーザーに直接適用されるわけではないためです。要するに、ユーザーは、プラットフォーム上で、市民生活上許される言論であれば、どのような言論をしても許されるとは限らず、憲法は、それを「言論の自由」としては保障してくれません。少なくとも従来の、そして現在における主流の考え方は、このようなものです。

したがって、このようなプラットフォーム上の言論の適否、強制的に削除されるか否か、アカウントが停止されるか否かは、専ら、運営する私企業とユーザーとの間に成立する契約(利用規約に基づくことがほとんどです。)と、それを運用して実際に適用する当該私企業の判断に、委ねられることになるわけです。(ユーザーとしては、運営企業との利用規約に反する運用がされたとして裁判所などで争うことは可能ですが、実際に実行しようとすると弁護士費用の負担など様々なハードルが予想されます。)

ある意味、プラットフォーマー(プラットフォームを運営する企業)は、自分の気に入らない言論を規制することもできるし、全てを放置することもできるわけです。とはいえ、後者に関して、著作権侵害などの明白な不法行為を放置するプラットフォーマーは大手では希少になっています。不法行為の放置に違法性がないとは断言できないということも背景にはあるでしょう。

今年、アメリカの大統領を退職したばかりのトランプ前大統領のtwitterアカウントが運営によって凍結されるということがありました。トランプ前大統領は、大統領時代からそのツイートに「誤解を招く恐れある」や「暴力賛美」などの警告が付されることがありました。一私企業が、大統領の発する言論に、評価を付した状態にしたり、発信手段を止めたりできる、という時代が到来したことを意味するわけです。

今のところ、twitter側の運営は一定程度fairで公正であると社会の大多数が考えていると思われ、現状の運用が是認されている風潮があります。しかしながら、プラットフォーマーが、民族主義的に偏向したり、似非科学に傾倒して、社会的に是認できない判断基準を有してしまった場合に、同じように、「プラットフォーマーの運営方針」ということで、片づけられない事態になるかもしれません。

憲法上の市民の権利は、インターネット上のプラットフォームで、どこまで考慮されるべきなのか、しかもそれをどのように権利実現されるべきなのか、という議論は、まだ始まったところです。

これで、ベンチャー企業の経営と人権 のシリーズは、一旦、終了です。
人権の問題は、SDGsの問題でもあります。当事務所では、SDGs対応にも積極的に取り組んでおり、人権問題への対応や、社内向けSDGs教育について、ご相談がございましたら、こちらからご質問ください。

(文責:森 理俊)

2021年08月31日 12:41|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス

ベンチャー企業の経営と人権  ~ベンチャー企業経営者が人権について理解しておくべきいくつかのこと~ その2

今回は、前回からのシリーズ「ベンチャー企業の経営と人権」です。

前回:
ベンチャー企業の経営と人権
 ~ベンチャー企業経営者が人権について理解しておくべきいくつかのこと~ その1 

5 自由の重要さに濃淡がある


前回、「人権」=「自由」と理解してもらってかまわない、ということをお伝えしました。

では、「人権」=「自由」には、どのような種類のものがあるのでしょうか。何かカタログのようなものがあるのでしょうか。

人権のカタログと呼ばれるものがあります。

それは憲法です。
日本国民にとっての人権カタログは、日本国憲法に記載されています。
日本国憲法の第三章は「国民の権利及び義務」というテーマで、日本国民の権利すなわち人権=自由について、列挙されています。

・生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利(第13条)
・選挙権(第15条)
・請願権(第16条)
・思想及び良心の自由(第19条)
・信教の自由(第20条)
・集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由(第21条)
・居住、移転及び職業選択の自由(第22条)
・学問の自由(第23条)
・健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(第25条)
・教育を受ける権利(第26条)
・勤労の権利(第27条)
・勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利(第28条)
・財産権(第29条)
・裁判所において裁判を受ける権利(第32条)

といった具合です。他にも列挙されていますが、主だったものを挙げてみました。

小学校の社会の授業や中学高校の公民の授業で聞いたことのあるものも少なくないと思います。40代以上の世代では、昔、CMで「職業選択の自由 あははん~♪」という歌詞が流れていたことを思い出される方もいるかもしれません。

このように、日本国憲法には、「人権」=「自由」のカタログが列挙されているのです。

これらはいずれも日本国民の権利です。誰に対する権利かといいますと、国家に対する権利です。国家は、これらを尊重する義務があると定めているのが、日本国憲法です。国家は、これらの自由を尊重する義務を負い、「公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と定めています(第13条)。

もちろん、日本国民は、これらの権利を無制限に行使できるわけではなく、「濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」という留保はつきます(第12条)。

いずれにせよ、国家は、国民の自由、例えば、企業経営における営業の自由も、公共の福祉に反しない限り、立法等の手続きを経なければ、尊重しなければならないことになります。


  

ただ、尊重すべき程度には濃淡があります。
ざっくりといえば、政治的自由権 > 経済的自由権 の順に、尊重の程度を変えてよいと考えられています。

特に、生命や身体の自由は最も尊重されるべき人権であるといえますし、営業の自由(経済的自由権)と比較して、思想の自由や表現の自由(政治的自由権)の方が、尊重されるべき程度が高いと考えられています。


   

6 企業体であっても他者の人権を尊重しなければならない

日本国憲法は、日本国民と日本国政府の関係を規律したものですので、国民同士のことについて、大きく論じたものではありません。

とはいえ、自らの権利行使のために、他者の人権=自由を著しく侵害することは許されません。このような議論は、憲法の「私人間効力」と言われることがあります。

   

この点については、最高裁判所の大法廷判決があります。

「私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、これに対する立法措置によつてその是正を図ることが可能であるし、また、場合によっては、私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存するのである。そしてこの場合、個人の基本的な自由や平等を極めて重要な法益として尊重すべきことは当然であるが、これを絶対視することも許されず、統治行動の場合と同一の基準や観念によってこれを律することができないことは、論をまたないところである。」(昭和48年12月12日判決。民集27巻11号1536頁)。

   

民間企業であっても、私的自治の範囲で、契約さえすれば、どのような契約を締結しても許されるというものではなく、他者、ここでは特に従業員や取引先の人権=自由を全く尊重しないような振る舞いは許されないと判断されることがあるということです。

例えば、締結済み契約書の中に、奴隷的な拘束を定めた規定があっても、無効とされるばかりでなく、場合によっては、強い社会的非難を浴びることがあるのは、そのためです。

ここでは、ベンチャー企業をはじめとする企業体であっても、従業員や取引先の基本的人権を全く尊重しないような振る舞いは許さないこと、その場合の人権の内容には濃淡があることを理解していただければ、十分であると思います。

次回は、企業体が人権を尊重すべき典型事例を取り上げる予定です。

(文責 森 理俊)

2021年07月30日 23:15|カテゴリー:未分類

スタートアップとの事業連携に関する指針

スタートアップ・ベンチャー企業と大企業が、ファイナンスではなく共同開発等の契約形態で関係性を有する事象が徐々に増加しています。このことは、イノベーションの促進等の観点から、非常に望ましく、歓迎されるべきことです。
他方において、企業文化の違いや、事実上の力関係の影響等により、公平性の観点から問題があると評価せざるを得ない契約が締結されるケースが存在することも否定できません。この点に関する実態調査の結果として、公正取引委員会は、2020年11月27日、「スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書」を公表しました。

この報告書に関しては、当事務所の森理俊弁護士が、投資契約書における株式買取請求権の定め方にクローズアップして記事を書いていますので、是非とも、ご一読ください。

上記の報告書では、秘密保持契約(NDA)、技術検証(PoC)契約、共同研究契約、及び、ライセンス契約に関して、問題となる事例が紹介されていました。
これを受けて、公正取引委員会は、これらの問題を改善し、ひいては、「企業連携によるイノベーションを成功」させるため、2021年3月29日、「スタートアップとの事業連携に関する指針」(以下「本指針」といいます。)を公表しました。

本指針では、主に、秘密保持契約(NDA)、技術検証(PoC)契約、共同研究契約、及び、ライセンス契約について、類型ごとに、具体的な問題事例を紹介し、問題の背景及び解決の方向性について記載されています。
例えば、NDAに関しては、「NDAを締結しないままにスタートアップが営業秘密の開示を要請される」といった問題事例を紹介し、同事例が独占禁止法で禁止する優越的地位の濫用に該当し得ることを指摘したうえで、解決の方向性として、スタートアップ内部における重要情報の整理、及び、秘密保持リテラシー向上のための施策紹介等が示されています(ここでは、一部のみを、ごく簡単に紹介するにとどめますが、できれば、本ブログで、それぞれの類型について紹介したいと思っています。)。

本指針は、秘密保持契約(NDA)、技術検証(PoC)契約、共同研究契約、及び、ライセンス契約の各類型について紹介した後に、「その他(契約全体等)に係る問題について」として、スタートアップが顧客情報の提供を要請されてしまう場合や、支払いを遅延されてしまう場合等についても言及されており、大変、充実した内容となっていますので、ご興味のある方は、是非とも、ご一読ください。

(文責:藤井宣行)

2021年07月29日 19:43|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス,企業法務

ワクチン休暇

新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐり、河野規制改革担当大臣は、2021年5月13日、経団連に対し、働く人が接種しやすい環境を整えるため、産業医による職場での接種や「ワクチン休暇」の導入などの検討を要請しました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210513/k10013028031000.html

これを受けて、経団連は、2021年6月1日、「新型コロナウイルスワクチン接種に関する緊急提言」を公表し、その中で、「各企業における職域接種の実施に加え、従業員や従業員の家族がワクチン接種を受けやすいよう、休暇の取得促進等、就業環境の整備を行う。」として、ワクチン休暇について言及しています。

個別の企業においてワクチン休暇を導入したという報道や、企業による公表も、随時、されています。

https://www.calbee.co.jp/newsrelease/210527b.php

では、ワクチン休暇とは、何でしょうか。現時点で、ワクチン休暇を導入していないけど、導入を検討している企業もあると思いますので、少し、検討してみたいと思います。

まず、「ワクチン休暇」というものは、法律上明記されているものではありません。したがって、ワクチン休暇を導入しないことが、ただちに、違法(労働基準法違反等)になるというわけでは、ありません。

ワクチン休暇を導入している企業は、「従業員や従業員の家族がワクチン接種を受けやすいよう、休暇の取得促進等、就業環境の整備を行う」こと、ひいては、集団免疫の獲得等、社会公共の健康や安全を目的として、自主的に、ワクチン休暇を導入していることになります。

年次有給休暇を消化して、ワクチンを接種することを推奨する企業もあるようです(なお、年次有給休暇の消化は、基本的に従業員の自由ですので、企業がワクチン接種のために、強制的に消化させることは違法となる可能性が高いと考えます。)。

他方、年次有給休暇が減ってしまうのであれば、ワクチン接種を控えるという判断をする方もいるという前提で、ワクチン接種を推奨するために、年次有給休暇とは別に、特別休暇として、有給扱いで、ワクチン休暇を導入している企業も多いように思います(報道されるのは大企業が多いですから、中小企業を含めた場合に、日本に存在する企業数に対する割合として、「多い」か否かは定かではありません。)。

この場合、雇用契約や就業規則との整合性についても注意しましょう。就業規則等で、「会社が必要と認めたとき」等に、特別休暇を付与するといった条項があれば、これを適用することが考えられます。仮に、こういった規定がなければ、就業規則等を改定して、特別休暇に関する規定を追加することも考えられます。

また、ワクチン休暇の利用期限、回数、副反応が出た場合や同居の家族の接種に付き添う必要がある場合に特別休暇を付与するか否か、付与するとして何日までとするか等についても検討すべきでしょう。

このあたりは、上記のようなワクチン休暇の導入趣旨だけでなく、当該企業の組織構成や財務基盤等とのバランスにも配慮しながら、制度設計をする必要があるでしょう。

なお、厚生労働省が「職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていない人に差別的な扱いをすることのないようお願いいたします。」としているように、ワクチン接種は、あくまでも個人の任意の判断に基づくべきものですので、将来の紛争を予防するためにも、ワクチン休暇を導入するに際しては、この点についても留意したいところです。

(文責:藤井宣行)

2021年07月27日 17:03|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス,企業法務

ベンチャー企業の経営と人権 ~ベンチャー企業経営者が人権について理解しておくべきいくつかのこと~ その1

1 はじめに

 企業経営において、人権は、どのように関わっているのでしょうか。
 最近では、『人権デューディリジェンス』などという言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。
  「人権」と いえば、企業のリスクやコスト構造といった側面でとらえられることが少なくありません。
 また、経営者目線では、人権は「労働者の権利」という形で表れることがあるため、企業経営を圧迫するものと把握されてしまうこともあるでしょう。
 しかし、実は、企業の経営は、「人権」や「自由」という制度に支えられて、守られていることも多いのです。

 経営者が、人権について基本的な理解をもつことは、権利や義務といった社会的に普遍的な価値基準についてのバランス感覚を磨くことにつながります。

 そのバランス感覚は、ベンチャー企業の経営に有益です。
 
 そこで、ベンチャー企業の経営と人権について、思うところを少し述べてみたいと思います。

2 ベンチャー企業の経営は「自由」によって守られている

 「人権」という言葉より「自由」という言葉の方が親しみがある人もいるでしょう。
 日本国憲法に定められた「人権」は、自由権のほかに、社会権がありますが、ここでは、ざっくりと、「人権」=「自由」と理解していただいてかまいません。

 企業経営と密接な関係にある「自由」といえば、「営業の自由」です。

 日本国憲法に「営業の自由」という文言はありませんが、22条1項に「職業選択の自由」が定められており、これに内包されていると考えられています。「職業選択の自由」を認めても、「営業の自由」を認めなければ、職業の選択肢が失われるからです。

 営業の自由とは、(諸説ありますが、)自己の選択した職業を遂行する自由と考えられ、また、職業遂行上の諸活動のうち、営利を目指す継続的で、自主的な活動を行う自由であるととらえられたりしています。

 要するに、営利活動は自由に行えるという原則です。

 もちろん、何でもかんでも自由ということではなく、「公共の福祉」による制約を受けます(日本国憲法12条)。そして、国が、その自由を制約する場合には、法律上の根拠が必要ということになります。

 逆に言えば、法律上の根拠がない限り、国家権力との関係では、どのように経営しても自由であり、どのような事業を展開しても自由であるということになります。

 さらに、法律自体が憲法に反するものである場合は、法律自体が無効とされることさえあります(日本で違憲判決は極めて例外的ではありますが、過去に、薬局開設はおおむね100メートルとの距離制限という適正配置規制を定めた薬事法の規定が、憲法22条1項に違反し無効とされたことがあります。最高裁判所昭和50年4月30日判決)。

 

3 数多の例外


 とはいえ、その原則の例外は、少なくありません。

 日本には、業態を規制する法律が沢山あります。資格がないと行ってはならないと定める規制が典型的です。医師法、薬事法、弁護士法、銀行法、信託業法、資金決済法、金融商品取引法、、、、挙げるときりがありません。

 ほかに、資格は必要なくても、法で定めた規範に反すると、ペナルティーを課されるものもあります。刑法を筆頭とする刑罰法規はもちろんそうです。
 他に、個人情報保護法、不正競争防止法、特定商取引法、特許法等の知的財産権に関する法律などです。
 また、民法の不法行為も、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」としており、他人の権利又は法律上保護される利益を侵害することで、損害賠償というペナルティーを課されるといえます。

 そのため、他人の権利や利益を侵害していないかや、法が定めたルールに反していないかをチェックする必要があります。

 ベンチャー企業の経営に法務が必要なのも、ここに理由があります。

4 保護法益と他人の権利との調整

 法規範は、法律上保護すべき利益(保護法益)を守るためか、権利や自由がぶつかったときに、どちらをどのように優先するかという調整のためか、だいたいどちらかの役割をになっています。

 経営上、実現したいことがあっても、保護すべき利益があったり、他人の権利とぶつかったりしたときに、どのような形で、その調整を実現していくか、という役割があるのです。

 例として、経営者が、従業員との雇用契約を解除したい、という自由を実現したくとも、労働者の人たるに値する生活を営むための必要を充たす(労働基準法1条1項参照)という保護法益のため、経営者からは、契約書で定めても、いつでも雇用契約を解除できるようにする自由は制約されています。一方で、労働者には、職業選択の自由があり、そのこととの関係で、使用者との雇用契約の解除は、かなり高い自由度で認められています。

 法は、価値判断として、労働者の職業選択の自由 > 使用者の経営の自由(契約自由の原則)という判断をしているということです。
 法がどのような価値判断をしているのか、それはこの国の基礎となる価値観と、それに基づく法律がどのような価値体系を構築しているか、ということでもあります。
 

次回は、「自由の重要さに濃淡がある。」という点から、話を進める予定です。

(文責:森 理俊)

2021年06月11日 15:41|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス|タグ: ,

納税管理人

日本において納税義務を負う個人や法人は、通常、自ら、申告や納付(以下「申告等」といいます。)を行います(代理人として、税理士に依頼して申告等を行う場合も、法的には、当該申告等の効果は、本人である個人や法人に帰属しますので、ここでは、「自ら」行う場合に含めています。)。

しかし、国税通則法第117条第1項では、自己の納税義務について、他人に処理を依頼すべき場合を規定しています(参考までに、末尾に条文を引用しています。)。この処理を依頼される者を「納税管理人」といいます。納税管理人は、日本に住所等を有しない場合等に、定めることを義務付けられています。
したがって、被相続人の最後の住所地が日本にあって、海外居住者(法人を含みます。)に遺贈する場合の当該海外居住者や、日本で納税義務を負担する海外居住者(法人を含みます。)は、日本で、納税管理人を選任する義務を負うことになります。
実務上は、税理士の方に依頼して、納税管理人に就任していただくことが多いように思います。私がスキーム構築をする際に、納税管理人が必要となる場合にも、そのようにしています。

海外に生活の本拠と移す個人の方も増えていますし、日本に子会社や営業所をもたずに日本でビジネスを行う海外企業も多くあります。こういった場合においても、税務面でのコンプライアンスに注意して、法令に違反しないよう注意する必要があります。

国税通則法第117条
1 個人である納税者がこの法律の施行地に住所及び居所(事務所及び事業所を除く。)を有せず、若しくは有しないこととなる場合又はこの法律の施行地に本店若しくは主たる事務所を有しない法人である納税者がこの法律の施行地にその事務所及び事業所を有せず、若しくは有しないこととなる場合において、納税申告書の提出その他国税に関する事項を処理する必要があるときは、その者は、当該事項を処理させるため、この法律の施行地に住所又は居所を有する者で当該事項の処理につき便宜を有するもののうちから納税管理人を定めなければならない。
2 納税者は、前項の規定により納税管理人を定めたときは、当該納税管理人に係る国税の納税地を所轄する税務署長(保税地域からの引取りに係る消費税等又は国際観光旅客税(国際観光旅客税法第十六条第一項(国内事業者による特別徴収等)の規定により徴収して納付すべきものを除く。)に関する事項のみを処理させるため、納税管理人を定めたときは、これらの国税の納税地を所轄する税関長)にその旨を届け出なければならない。その納税管理人を解任したときも、同様とする。

(文責:藤井宣行)

2021年05月31日 07:53|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス|タグ:
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