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ベンチャー法務の部屋

フェムテック①

フェムテック

今回のブログでは、「私のルーティーン紹介」をテーマとして、私が、1週間に1回テニスをしたり、1ヶ月半に1回ヒゲの医療脱毛に行ったり、毎食前に漢方茶を飲んだり、朝晩は洗顔後に化粧水→クリーム→オイルで肌ケアを行なっていることなどを紹介しようと思ったのですが、果たしてニーズがあるのかと立ち止まって考え直した結果、テーマを再選択することにしました。

FemTech(フェムテック)という言葉をご存知でしょうか。

フェムテックとは、Female(女性)とTechnology(テクノロジー)をかけあわせた造語であり、テクノロジーを用いて、女性の健康問題やライフスタイルの課題を解決するために開発された、ソフトウエア、診断キットなどの商品やサービスをいいます。

この言葉は、デンマーク出身の女性起業家であるClueのCEOであるイダ・ティン氏が、自身の開発した月経周期予測アプリへの投資を募るため、使い始めたのがきっかけとなり、2016年ごろから広がってきた言葉であると言われています。

SDGsでは、ゴールの一つとして、「5 ジェンダー平等を実現しよう」が設定され、政治や経済や社会のなかで、何かを決めるときに、女性も男性と同じように参加したり、リーダーになったりできるようにすること、世界中だれもが同じように、性に関することや子どもを産むことに関する健康と権利が守られるようにすること等が達成目標として掲げられています。

そして、その実現のためには、女性のライフステージごとの健康課題(生理、PMS、妊娠と出産、更年期等)が大きな問題となっていることが明らかとなっており、この問題の解決においてフェムテックが重要な役割を果たすこととなります。

フェムテック市場で先行する欧米では、前述のイダ・ティン氏が2013年に立ち上げたドイツの月経管理アプリのClueや、アメリカ発で従業員向けに雇用者負担で卵子凍結などの不妊治療を提供するCarrot Fertility、骨盤底筋を鍛えるトレーニングデバイスやウェアラブル搾乳機などを開発販売するイギリスのElvieなど、さまざまなプロダクトやサービスが登場しています。アメリカのリサーチファームFrost&Sullivanの調査によると、2025年にはフェムテックの市場規模は5兆円になると言われています。

国内においても、女性も男性と同じように参加する社会に進化するにつれ、働く女性たちの健康問題をプライベートなことと片付けず、組織として配慮する企業が増えてきています。これまでは、女性特有の健康問題については職場ではタブー視され、置き去りにされてきましたが、女性の力を最大限に発揮してもらうため、「フェムテック」を活用して心身状態の改善を図ろうとする企業の取り組みが始まっています。

国内におけるフェムテック関連のサービスやプロダクトとしては、生理日予測アプリや女性ヘルスケアサービスを展開するMTIの「ルナルナ」、妊活コンシェルジュサービスの「ファミワン」、ホルモンの郵送検査キット「canvas」、デリケートゾーンケア製品をEC販売する「Mellia」、不妊治療データを統計的に解析し検索できる「cocoromi」、更年期の症状のオンライン相談サービスを提供する「TRULY」などが挙げれられます。

今後も女性活躍が推進されていく中で、フェムテックはさらに注目を集める分野であると考えています。もっとも、女性活躍の推進の大前提として、女性の健康問題を、単に女性だけの問題とするのではなく、男性が女性の健康に関する正しい知識を持ち、理解を深めることが重要であると考えます。

今後もフェムテックに関する動きや具体的な事例、課題について取り上げていく予定です。

(文責:三村雅一)

2021年05月19日 10:43|カテゴリー:未分類||コメントはまだありません

押印廃止と電子契約

在宅勤務・リモートワークの浸透と歩調を合わせて、契約書を始めとする各種の文書に対する押印の廃止・省略も進められています。2021年1月19日付け日本経済新聞電子版によれば、河野太郎規制改革相が、行政手続きで必要な押印を99%以上廃止できたと述べたとされています。

契約書に関しては、日本では、従来、紙媒体で印刷したものに、記名または署名と、押印をするという実務が一般的でした。では、そもそも、契約書に押印をしていたのは、どうしてなのでしょうか。

契約は、契約当事者間の申込みの意思表示と、承諾の意思表示が合致することによって成立します(民法第522条第1項)。契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備する必要はありません(同条第2項)。

したがって、法律上、契約の成立には、押印は必要とされていません。

では、契約書への押印は、まったく無意味な行為かというと、そうではありません。

民事訴訟法第228条第1項は、「文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。」と規定しています。成立が真正であること、というのは、作成名義人が真実の作成者であることを意味します。簡単にいえば、偽造ではなく、文書に文書の作成者として記載されている人が、当該文書を作成しているということです。この文書の成立の真正が証明できなければ、その文書は、民事訴訟において、証拠として役に立ちません。

この点に関し、民事訴訟法第228条第4項は、「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」と規定しています(「本人・・・の押印」の意義や、推定の構造に関しては、いろいろと面白い議論等があるのですが、ここでは省略します。)。

このように、法律上、偽造ではない、真正に成立した文書であることを推定してもらうために、契約書に押印しているのですね。

では、電子契約の場合には、この成立の真正について、どうするのでしょうか。

この点についても、法律上、きちんと手当がされています。すなわち、電子署名及び認証業務に関する法律(いわゆる「電子署名法」)第3条で、「電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。」と規定しています。

「本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)」が行われていれば、真正に成立したものと推定されるのですね。

そうすると、「本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)」とは何か、ということになります。

この点については、総務省、法務省及び経済産業省が、「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法3条に関するQ&A)」を公表しており、ここで詳しく解説されています。ご興味のある方は、ぜひ、ご一読ください。

https://www.meti.go.jp/covid-19/denshishomei3_qa.html

なお、実務上、現在、標準的に利用されている電子契約サービスは、サービス提供事業者名義で電子署名が付され、その上で、「当該措置が利用者の意思に基づいていることが明らか」で、「当該サービスが十分な水準の固有性を満たしていること(固有性の要件)」を満たす形で、「サービス提供事業者が利用者の指示を受けてサービス提供事業者自身の署名鍵による暗号化等を行う電子契約サービス」として提供されていることが多いです。

今も、さまざまな企業において、DXを推進させ、紙の撤廃・押印の撤廃を進められています。その中で、私も、職務上、企業のご担当者が、「何を、どこまですべきか」について、悩まれている場面を目にすることがあります。まずは、上記のように、そもそも契約書に押印されていた背景について正しく理解することが、正しい取り組みに近づくために重要であると感じています。

(文責:藤井宣行)

2021年04月28日 10:08|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス,企業法務||コメントはまだありません

【随想】スタートアップ企業から相談を受けるときに想うこと

スタートアップ企業から相談対応を専業としている弁護士として、相談を受けるときに意識していることがいくつかあります。

1つは、相談者への回答内容が、経営者の意思決定に有用であることです。

私たちは、私たちからの回答が「なるほど。Aという決断をすれば、Xというリスクがあり、Bという決断をすればそのリスクがない代わりに、Aのメリットが得られないのだな」「であれば、今回は、Xというリスクは許容するのでAという決断をしよう」といった経営判断が可能なように、有用な回答を提供しようと努めています。回答を受け取った方が、「なんだか難しいなぁ。」「で、どうすればよいか、イマイチよくわからないなぁ」ということにならないようにしたいと考えています。

ただ、このように有用な回答を行うというのは、言うは易く行うは難いものです。
特に、経営判断においては、他の経営的な要素が強く関係しますので、必要な材料を提供するには、十分なコミュニケーションが必要です。しかも、私たちが把握した法的リスクの程度を、平易な日本語で且つ誤解の生じない形で表現しなければなりません。
実際には、メールで回答しつつ、口頭で補足するということも、少なくありません。

もう1つ意識していることは、Aという方策が検討されている場合に、よりリスク回避的で同程度の効果が実現できる施策はないか、という点に考えを巡らせるようにしている点です。

スタートアップ企業と取引先において、何らかの揉め事がある場合に、その揉め事を正面から解決することが有用な場合もありますが、揉め事を何らかの方法で回避又は終了させつつ、別の方策で揉め事解決と同様の状態を実現するということがないか、常に考えています。ここで具体的な揉め事に触れることは難しいのですが、例えば退職者の株式の株式譲渡や株価算定で争いがある場合に、スタートアップ企業が実現したい状態に持っていくには、「その退職者との交渉」以外の解決策が見つかる場合があります。そういった全くの別ルートが発見できないか、日々頭を巡らせているのです。

スタートアップ企業は、常に「挑戦」しています。
そして、その「挑戦」には、常に不明確さが伴います。私たちの仕事の1つは、その不明確さ=リスクに見合った挑戦であるのか、そのリスクをできる限り回避することを念頭に置きつつも、まずはスタートアップ企業の経営者や担当者にとってリスクを正確に把握できる状態にすることではないかと考えています。

(文責:森 理俊)

2021年04月01日 11:53|カテゴリー:企業法務||コメントはまだありません

帳簿の保存と電子化対応

請求書や納品書等の帳票類の保管について、いかがされていますでしょうか。

法律の規定としては、各種の税法に、帳票類の保管に関する規定がおかれています。例えば、法人税法第126条第1項、法人税法施行規則第59条で、青色申告の承認を受けている内国法人について、7年間の帳簿書類の保管義務を定めています(ご参考に、文末に、条文を引用しています。)。

このため、大量の帳簿書類の詰まった段ボール箱を、倉庫等に保管されている会社も多いのではないでしょうか。

これらの帳簿書類について、紙媒体ではなく、電子データで保管することが許容される場合があることについて、ご存知でしょうか。「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」という名称の法律(いわゆる電子帳簿保存法)が、平成10年に施行されています。当該法律の目的は、第1条で、「この法律は、情報化社会に対応し、国税の納税義務の適正な履行を確保しつつ納税者等の国税関係帳簿書類の保存に係る負担を軽減する等のため、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等について、所得税法(昭和四十年法律第三十三号)、法人税法(昭和四十年法律第三十四号)その他の国税に関する法律の特例を定めるものとする。」とされています。

簡単にいえば、電子データでの保存を認めて、負担を軽減しようということですね。意外に早くから、デジタルトランスフォーメーション(DX)っぽいことが行われていたのですね。

国税庁も、「はじめませんか、帳簿書類の電子化!」ということで、令和元年ですが、帳簿書類の電子化を推奨しています。

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sonota/0018004-061_01.pdf

帳簿書類の電子化については、少し、制度が複雑で分かりにくい部分があるのですが、国税庁のウェブサイトで、詳細に説明されていますので、ご参考ください。

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07/01.htm

同法は、平成10年の施行の後、数回の改正が行われていますが、直近では、令和2年10月に、改正法が施行されています。

https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei20/nouzei.html

同改正には、PDF等の形式で、請求書等について、印刷せずにデータのままで保存する場合、従来は、タイムスタンプの付与が必要とされていましたが、ユーザーが自由にデータを改変できないシステム等を利用している場合には、タイムスタンプの付与を不要とする点等が、含まれています。

帳簿書類の電子化を有効活用して、帳簿書類の保管に要していた費用、労力、スペース等の削減について、ご検討されてはいかがでしょうか。

法人税法

(青色申告法人の帳簿書類)

第百二十六条 第百二十一条第一項(青色申告)の承認を受けている内国法人は、財務省令で定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならない。

2 納税地の所轄税務署長は、必要があると認めるときは、第百二十一条第一項の承認を受けている内国法人に対し、前項に規定する帳簿書類について必要な指示をすることができる。

法人税法施行規則

(帳簿書類の整理保存)

第五十九条 青色申告法人は、次に掲げる帳簿書類を整理し、起算日から七年間、これを納税地(第三号に掲げる書類にあつては、当該納税地又は同号の取引に係る国内の事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地)に保存しなければならない。

一 第五十四条(取引に関する帳簿及び記載事項)に規定する帳簿並びに当該青色申告法人の資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引に関して作成されたその他の帳簿

二 棚卸表、貸借対照表及び損益計算書並びに決算に関して作成されたその他の書類

三 取引に関して、相手方から受け取つた注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し

2 前項に規定する起算日とは、帳簿についてはその閉鎖の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月(法第七十五条の二(確定申告書の提出期限の延長の特例)の規定の適用を受けている場合には二月にその延長に係る月数を加えた月数とし、清算中の内国法人について残余財産が確定した場合には一月とする。以下この項において同じ。)を経過した日をいい、書類についてはその作成又は受領の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月を経過した日をいう。

3 第一項各号に掲げる帳簿書類のうち次の表の各号の上欄に掲げるものについての当該各号の中欄に掲げる期間における同項の規定による保存については、当該各号の下欄に掲げる方法によることができる。

一 第一項第三号に掲げる書類(帳簿代用書類に該当するものを除く。)のうち国税庁長官が定めるもの

前項に規定する起算日以後三年を経過した日から当該起算日以後五年を経過する日までの期間

財務大臣の定める方法

二 第一項各号に掲げる帳簿書類

前項に規定する起算日から五年を経過した日以後の期間

財務大臣の定める方法

4 前項の表の第一号の上欄に規定する帳簿代用書類とは、第一項第三号に掲げる書類のうち、別表二十に定める記載事項の全部又は一部の帳簿への記載に代えて当該記載事項が記載されている書類を整理し、その整理されたものを保存している場合における当該書類をいう。

5 国税庁長官は、第三項の表の第一号の規定により書類を定めたときは、これを告示する。

6 財務大臣は、第三項の表の各号の規定により方法を定めたときは、これを告示する。

(文責:藤井宣行)

下請代金支払遅延等防止法

日本政府は、新型コロナウイルスに関連する各種の財政政策を行っていますが、過日、約300兆円ともいわれる巨額の財源の一部として、消費税率の引き上げが議論されているとの記事を目にしました。消費税率の引き上げに関しては、平成26年(2014年)4月に5%から8%、令和元年(2019年)10月に8%から10%に引き上げられました。

これに関し、中小企業及び事業者等が、消費税率の引き上げに伴う負担を大企業等に転嫁できない事態が生じることを防ぐため、平成25年(2013年)10月1日付けで消費税転嫁対策特別措置法が施行されました。同法では、大規模小売事業者等による転嫁拒否等の禁止等が規定されていました。そして、同法は、令和3年(2021年)3月31日限りで、その効力を失うこととされてます(同法附則第2条第1項)。
では、同法の失効に伴い、同法で禁止されていた大規模小売事業者等による転嫁拒否等は、適法になるのでしょうか。

この点に関し、公正取引委員会は、令和3年1月7日、「消費税転嫁対策特別措置法の失効後における消費税の転嫁拒否等の行為に係る独占禁止法及び下請法の考え方に関するQ&A」を公表しました。
https://www.jftc.go.jp/tenkataisaku/tenka-shikko-QandA.html

同Q&Aでは、「同法の失効後においても,取引上優越した地位にある事業者が,その地位を利用して,取引の相手方に対して消費税の転嫁拒否等の行為を行う場合は,優越的地位の濫用として私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)上の問題となり得る。また,資本金の額及び取引の内容から,下請代金支払遅延等防止法(昭和31年法律第120号。以下「下請法」という。)の対象となる場合において,発注者である親事業者が,取引先である下請事業者に対して消費税の転嫁拒否等の行為を行うことは,下請法上の問題となり得る。
 このため,消費税転嫁対策特別措置法の失効後においては,消費税の転嫁拒否等の行為に係る独占禁止法違反行為及び下請法違反行為に対し,厳正に対処することとしている。」とされており、注意が必要です。

なお、下請法については、業務上、ご相談等を受ける機会が多くありますが、下請法の適用の有無について、資本金の額で判断することは多くのご担当者がご存知であるものの、限定された契約類型についてのみ下請法が適用されることについては、意外に知られていないことがあります(一般に、純粋な売買契約には下請法の適用がない等)。
当事務所では、下請法に関する社内セミナーの実施や、社内で活用していただくための下請法チェックリストの作成、提供等も行っていますので、ご興味をお持ちの方は、是非とも、お声がけください。

(文責:藤井宣行)

2021年03月04日 09:22|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス,企業法務||コメントはまだありません

第三者委員会(2)

先日のブログで、第三者委員会及び日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(以下「日弁連ガイドライン」といいます。)の概要を紹介しました。

今回は、日弁連ガイドラインの内容について、より詳しく解説します。

日弁連ガイドラインについては、そもそも第三者委員会の設置やその運営・権限について、法令に定めがない中で、第三者委員会が企業から独立した立場で、公平・公正な調査を行なう、という役割を果たすための自主的なガイドラインとして公表されたものです。

日弁連は、「依頼企業等からの独立性を貫き断固たる姿勢をもって厳正な調査を実施するための『盾』として本ガイドラインが活用されることが望まれる。」としています。

Q1 第三者委員会の活動内容の概要について教えて下さい

A1 第三者委員会は、企業等に不祥事が発生した場合において、①調査を実施し、②事実認定を行い、③これを評価して原因を分析します。④その上で、調査結果に基づいて、再発防止等の提言を行います。

このように、第三者委員会は、関係者の法的責任追及を直接の目的にする委員会ではなく、関係者の法的責任追及を目的とする委員会とは別組織とすべき場合が多いとされています。

Q2 第三者委員会の調査結果はどの範囲まで開示する必要がありますか。

A2 開示先は、不祥事に関係するステークホルダーとされていますが、開示先となるステークホルダーの範囲は、ケース・バイ・ケースで判断されるとされています。

すなわち、例えば、上場企業による資本市場の信頼を害する不祥事(有価証券報告書虚偽記載、業務に関連するインサイダー取引等)については、資本市場がステークホルダーといえるので、記者発表、ホームページなどによる全面開示が原則となろう、とされています。

また、不特定又は多数の消費者に関わる不祥事(商品の安全性や表示に関する事案)についても同様であろう、とされています。

他方、不祥事の性質によっては、開示先の範囲や開示方法は異なりうる、とされています。

なお、開示に関する下記の事項については、第三者委員会が企業等との間で、受任に際して定めることとされています。

①企業等は、第三者委員会から提出された調査報告書を、原則として、遅滞なく、不祥事に関係するステークホルダーに対して開示すること

②企業等は、第三者委員会の設置にあたり、調査スコープ、開示先となるステークホルダーの範囲、調査結果を開示する時期を開示すること

③企業等が調査報告書の全部又は一部を開示しない場合には、企業等はその理由を開示すること。また、全部又は一部を非公表とする理由は、公的機関による捜査・調査に支障を与える可能性、関係者のプライバシー、営業秘密の保護等、具体的なものでなければならないこと。

なお、第三者委員会は、必要に応じて、調査報告書(原文)とは別に開示版の調査報告書を作成でき、非開示部分の決定は、企業等の意見を聴取して、第三者委員会が決定するとされています。

このように、日弁連ガイドラインにおいては、第三者委員会の目的に照らし、開示については厳しい指針を示しています。

Q3 第三者委員会の委員の選定について教えて下さい。

A3 第三者委員会の委員数は、3名以上を原則とする、とされています。

 第三者委員会が設置される場合、弁護士がその主要なメンバーとなるのが通例ですが、第三者委員会の委員となる弁護士は、当該事案に関連する法令の素養があり、内部統制、コンプライアンス、ガバナンス等、企業組織論に精通した者でなければならないとされています。

加えて、事案の性質により、学識経験者、ジャーナリスト、公認会計士などの有識者が委員として加わることが望ましい場合も多いとされています。

なお、企業等と利害関係を有する者は、委員に就任することができない、とされているところ、対象企業の顧問弁護士は、利害関係を有する者」に該当する、とされています。

また、企業等の業務を受任したことがある弁護士や社外役員については、直ちに利害関係を有する者に該当するものではなく、ケース・バイ・ケースで判断されることになろう、とされています。

Q4 第三者委員に対する報酬について教えて下さい。

A4 弁護士である第三者委員会の委員及び調査担当弁護士に対する報酬は、時間制を原則と する、とされています。この点、成功報酬型の報酬体系の採用については、企業等が期待する調査結果を導こうとする動機につながりうるので、不適切な場合が多いとされています。

したがって、第三者委員会は、企業等に対して、その任務を全うするためには相応の人数の専門家が相当程度の時間を費やす調査が必要であり、それに応じた費用が発生することを、事前に説明しなければならない、とされています。

近年、コンプライアンスに対する意識の高まりに伴い、企業等の活動の適正化に対する社会的要請はますます高まっています。

このような状況において、企業等の不祥事が発生した場合、第三者委員会が果たすべき役割はより大きなものになっていくと考えます。

第三者委員会を設置すべきかどうか、また設置すべきとしてどのように進めればよいのかその人選や段取りを含めて、経験者から知見を得た方がよいことは間違いありません。

当事務所では、第三者委員会に関するご相談もお受けいたしますので、お気軽にお問い合わせください。

参考:日本弁護士連合会 企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン

(文責:三村雅一)

2021年01月21日 15:08|カテゴリー:未分類||コメントはまだありません

会社法改正(D&O保険)

令和元年12月4日に成立した会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)が、本年3月1日から施行されます。当該改正には、D&O保険に関するものが含まれており、今回は、この点について、少し説明します。

D&O保険(D&OはDirectors and Officersの略です。会社役員賠償責任保険ともいいます。)は、一般に、会社が保険契約者となり、役員等が被保険者となるもので、当該保険では、役員等がその業務として行った行為に基因して法律上負担する損害賠償金及び弁護士費用等を補償の対象とします。

D&O保険では、保険金に限度額が定められおり、また、さまざまな免責条項(役員等が法令違反を認識しながら(認識していたと判断できる合理的な理由がある場合を含みます。)行った場合等)が設けられています。

従来、D&O保険は、会社法上の制度ではなく、単に、保険契約として存在するものでしたが、上記の改正で、会社法に取り込まれることになりました。

すなわち、会社法第430条の3第1項で、D&O保険について、「保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、役員等を被保険者とするもの」と規定されました。また、同項では、株式会社が、D&O保険の「内容の決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。」と規定されました。

また、D&O保険にかかる保険契約の締結については、同契約に関する承認決議があれば、利益相反取引(会社法第356条第1項等)には該当しないとされました(改正会社法第360条の3第2項)。

なお、D&O保険については、会社が保険料を支払うことから、当該保険料について、会社から役員等に対する経済的利益が供与されており、役員等に対する所得税の課税が生じるのではないか、という問題がありました(課税があるとすれば、所得分類は給与所得となると考えられますから、会社には源泉徴収義務・納付義務の問題が生じることになります。)。

しかしながら、この点については、経済産業省から、令和2年9月30日付けで、「令和元年改正会社法施行後における会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて」が公表されていますので、ご紹介します。これによると、国税庁は、「会社が、改正会社法の規定に基づき、当該保険料を負担した場合には、当該負担は会社法上適法な負担と考えられることから、役員個人に対する経済的利益の供与はなく、役員個人に対する給与課税を行う必要はない。」と結論付けています。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/200930doinsurance.pdf

参考:

会社法(令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正)

(役員等のために締結される保険契約)

第433条の3

株式会社が、保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、役員等を被保険者とするもの(当該保険契約を締結することにより被保険者である役員等の職務の執行の適正性が著しく損なわれるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。第三項ただし書において「役員等賠償責任保険契約」という。)の内容の決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。

2 第三百五十六条第一項及び第三百六十五条第二項(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)並びに第四百二十三条第三項の規定は、株式会社が保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、取締役又は執行役を被保険者とするものの締結については、適用しない。

3 民法第百八条の規定は、前項の保険契約の締結については、適用しない。ただし、当該契約が役員等賠償責任保険契約である場合には、第一項の決議によってその内容が定められたときに限る。

(文責:藤井宣行)

2021年01月21日 11:52|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス,企業法務||コメントはまだありません

株式買取請求権のあり方「スタートアップと出資者の取引実態と独占禁止法上の考え方」を踏まえて

1 はじめに 

 これまで、投資契約書の株式買取請求権については、フェアかアンフェアか等といった議論や、その発動要件(の相場)についての議論は見られましたが、独占禁止法から論じられることは少なかったように思います。 今回、公正取引委員会作成の報告書という形で、「 投資契約書の株式買取請求権 」に、独占禁止法から光をあてられることになりました。今後の投資契約書実務に、それなりに影響を与える可能性があるため、本ブログにて、検討します。 拙いながら、数多くの投資契約書の締結及び、株式買取請求権の行使を含めた投資契約書の運用場面に携わってきた弁護士の観点から、可能な範囲で、コメントを加えようと試みたいと思います。

2 公正取引委員会の報告

(1)  2020年11月の報告書 

 公正取引委員会 は、令和2年11月27日付け「スタートアップの取引慣行に関する実態調査について(最終報告)」を作成して、公表しています。

 こちらについて、日本経済新聞(2020年11月25日)では、以下のように報道しています。

 公取委の調査では大企業やVCがスタートアップに対し、不当な要求をするケースが多いことがわかった。特に公取委が問題視するのは出資者による株式の「買い取り請求権」の乱用だ。

 出資者が出資先企業に株を買い取るよう請求できる権利で、大企業やVCがスタートアップに出資する際の慣習となっている。スタートアップは実際に請求されると、資金的に困るケースが多い。大企業がこうした状況を利用し、買い取り請求権の行使をちらつかせながら、不当な要求をするケースがあるという。

 公取委の調査に応じたスタートアップからは「知財の無償提供に応じないと請求権を行使すると示唆された」といった訴えがあった。営業秘密を話すことを強要されたり、必要以上の受注を迫られたりしたケースもあるとみられる。請求権の行使は契約違反など一定の条件を満たす必要があるが、違反がなくても大企業が「脅し」のように使うケースもあるという。

 公取委はスタートアップが出資の引き揚げを恐れて要求をのまざるを得なくなった場合、出資者側は独占禁止法上の「優越的地位の乱用」にあたる恐れがあるとする。

 買い取り請求権は経営者個人に対して行使できる「個人保証」が設定される場合もある。公取委は個人保証は特に負担が大きいとし「設定を外すことが望ましい」とする。

 出資関係がなくても共同研究などで大企業と連携する場合、スタートアップが技術やノウハウなどの開示を強いられる場合がある。調査では重要な資料を開示させられたり、類似のサービスを勝手に立ち上げられたりしたとの声もあった。公取委はこうした行為も優越的地位の乱用にあたる恐れがあると指摘する。

日本経済新聞(2020年11月25日)

 後述しますが、株式買取請求権は、「伝家の宝刀」「抜かずの剣」のようなものであり、投資家といえども、そう簡単に、言及すべきものではなく、真の最終手段にすべきであると考えます。

 そもそも、本気で株式買取請求権を行使しなければならない事態が生じた時点で、その投資や資本関係は、失敗といえます。投資家が株式買取請求権を行使してまで、回収しなければならないシチュエーションは、限定的でしょう。さらに言えば、投資家側が、実際に法的に適切な理解の上で、株式買取請求権を行使することは、難易度がそれなりに高いものであり(例えば、意思表示の撤回の可否や当事者間の株式の効力の移転時期、それに伴って投資契約の効力如何等が問題になります。)、色々な事態を想定して、株式買取請求権を規定している事例は、それほど多くないというのが実感です。

 個人的には、スタートアップ投資の経験が浅い投資家(一部の大企業や大企業CVCを含みます。)が、投資契約書のひな型に株式買取請求権があることをよいことに、 株式買取請求権に安易に言及している事例がそれなりに生じているのではないかと危惧しています。

 なお、投資家側が、発行会社だけでなく、経営株主個人を株式買取請求権の対象としたい理由は、よく理解できます。特に、経営株主個人の表明保証違反や契約違反の場合に、株式買取請求権を行使できなければ、詐欺的な資金調達事例や悪質な契約違反事例への対処が困難になります。また、会社への買取請求権は、会社法の自己株式取得規制、特に財源規制の問題があり、実現が困難であることは少なくありません。

 濫用的な株式買取請求権の行使を防止する観点と、投資者側の 詐欺的な資金調達事例や 悪質な契約違反事例への懸念の両方を満たす調和的な考え方(投資契約書の定め方)については、後記「あるべき投資契約書の株式買取請求権の定め方」にて触れたいと思います。

 現実に、大企業から株式買取請求権の行使を絡めて、不当とも思える請求を受ける事態に直面して、困っているスタートアップがおられれば、是非、当事務所を含め、スタートアップ法務に強い法律事務所に相談いただきたいところです。当事務所では、投資家から株式買取請求権を行使する旨の書面を送付されたスタートアップから依頼を受けて、交渉して、撤回させた事例もあります。

(2) 「スタートアップと出資者の取引実態と独占禁止法上の考え方 」(報告書概要)

 さて、報告書概要の 「スタートアップと出資者の取引実態と独占禁止法上の考え方 」には、株式の買取請求権に関連して、以下のとおり、実態を示したうえで、考え方を示しています。報告書本体82頁以下にも、詳述されています。

【実態】
①知的財産権の無償譲渡等を要請され,その要請に応じない場合には買取請求権を行使すると示唆された。
②スタートアップの事業資金が枯渇しつつある状況において,出資額よりも著しく高額な価額での買取請求が可能な買取請求権の設定を要請された。
③買取請求権の行使条件が満たされていなかったにもかかわらず,出資者から,保有株式の一部について買取請求権を行使された。
④スタートアップの経営株主等の個人に対する買取請求が可能な買取請求権の設定を要請された。

【考え方】
①正当な理由がないのに,知的財産権の無償譲渡等を要請する場合であって,スタートアップが今後の取引に与える影響や買取請求権の行使の可能性等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合,優越的地位の濫用のおそれ
②一方的に,出資額よりも著しく高額な価額での買取請求が可能な買取請求権の設定を要請する場合であって,スタートアップが今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合,優越的地位の濫用のおそれ
③正当な理由がないのに,保有株式の一部の買取りを請求する場合であって,スタートアップが今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合,優越的地位の濫用のおそれ
④経営株主等の個人に対する買取請求が可能な買取請求権については,出資者からの出資を受けて起業しようとするインセンティブを阻害することとなると考えられるところ,出資契約において買取請求権を定める場合であっても,その請求対象から経営株主等の個人を除くことが,競争政策上望ましい

 上記(1)でも述べたように、投資家側にも、発行会社だけでなく、経営株主個人も、株式買取請求権の対象としたい合理的理由がそれなりにあるなかで、 「出資契約において買取請求権を定める場合であっても,その請求対象から経営株主等の個人を除くことが,競争政策上望ましい」という記載は、かなり踏み込んだ内容であるように思います。ただ、「優越的地位の濫用のおそれ」としなかったのは、投資家側の事情にも配慮した表れでしょう。

 ここで、気になるのは、ファンドが満期になる場合を株式買取請求権の発動事由として、実際にファンドの満期を理由に行使することは、「正当な理由がないのに,保有株式の一部の買取りを請求する場合」に該当するか、という点です。

 この点は、非常に難しいですが、ここでの正当な理由は、発行会社又は経営株主個人に起因する理由であると限定されるように読めば(そのような文脈である可能性は高いです)、ファンドの満期は、正当な理由に該当しないと判断される可能性はそれなりにありそうです。したがって、 ファンドが満期になる場合を株式買取請求権の発動事由とするような規定において、経営株主などの個人を買取義務者とすることは、競争政策上望ましくないということは言えるかもしれません。

(3) 報告書本体記載の事例

 報告書本体には、株式の買取請求権の行使事例が複数記載されており、それぞれにコメントしたいところですが、今回は、割愛して、いずれ機会があれば、論じたいと思います。
 ただ、一点申し上げるとすれば、「 <出資者の意見> ○ かつては,融資のような条件の出資が行われることもあったが,今は少ないと思っている。 」(報告書51頁)とありますが、この「融資のような条件の出資」は、今でもそれなりに見かけます。
 特に、種類株式の内容に、金銭を対価とする取得請求権が含まれているケースで、一定期間の経過が取得請求権の発動事由になっている場合は、事実上の劣後債と変わりありません。投資家に債権と株式の良いとこどりをされているといえ、発行会社側に非常に不利なスキームであると言わざるをえません。
 このような種類株式を用いたスタートアップ投資は、少なからずみられます。発行会社側にとっては、かなりリスクが高く、不利なスキームで出資を受け入れていることを十分理解しているかどうか、よく確かめて、どうしてもその資金調達方法に頼らないといけないのか、再度、慎重にご検討いただいた方がよいでしょう。

3 あるべき投資契約書の株式買取請求権の定め方

 ここでは、発動事由と行使の相手方に絞って、検討したいと思います。

 まず、発動事由は、以下のあたりが相当であると考えます。
(1) 当該投資契約及び株主間契約違反
(2) 発行会社及び経営株主による表明保証違反
(3) (払込の前提条件の定めがある場合)前提条件の不充足
(4) 経営成績及び財政状況の点で株式公開の要件を満たしているにもかかわらず、株式公開を行わない場合

 また、これらに加えて、「(1)の契約違反や(2)の表明保証に反する程度が投資契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない」旨の規定を備えることが相当でしょう。
 (1)から(4)までの規定は、およそ一般的な規定であり、いずれも発行会社及び経営株主の責めに帰すべき事由といえます。また、民法の解除事由でも定められいるとおり(第541条但書参照)、軽微な場合を除外する旨の規定を、投資契約における事実上の解除規定である株式買取請求権規定に設けることは、合理的であると考えます。
 行使の相手方については、報告書にて「経営株主等の個人に対する買取請求が可能な買取請求権については,出資者からの出資を受けて起業しようとするインセンティブを阻害することとなると考えられるところ,出資契約において買取請求権を定める場合であっても,その請求対象から経営株主等の個人を除くことが,競争政策上望ましい」とあるものの、現に、詐欺的な資金調達事例や悪質な契約違反事例が存在し、このような事例で株主代表訴訟等の手続きが有用ではないことが容易に想定できることに加え、会社法の自己株式取得規制、特に財源規制の問題があり、初期に累積の損失が積み重なることの多いスタートアップでは、財源規制をクリアできる見込みも低いことから、経営株主個人を対象とすることはやむを得ない部分が残っていると考えます。

4 終わりに 

 今回の報告書は、大変興味深い事例及び内容が盛りだくさんです。 現に投資家との関係に悩んでおられる方、一緒に報告書の内容を検討したいと希望される方、株式買取請求権の定め方や対処について悩んでいる方は、是非、一度、ご相談ください。 https://www.swlaw.jp/contact/

文責:森 理俊

令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正のうち、 取締役の報酬等として当該株式会社の株式又は新株予約権を付与しようとする場合の改正点の解説

1 はじめに

今月(2020年11月)20日、令和元年会社法改正の施行日が公布されました。
令和3年3月1日です。

この令和元年会社法改正は、おおむね以下の事項を定めています。いくつかの新制度の制定があり、それなりに大きな改正です。
(1) 株主総会資料の電子提供制度の創設
(2) 株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備
(3) 取締役の報酬に関する規律の見直し
(4) 会社補償及び役員等のために締結される保険契約に関する規律の整備
(5) 社外取締役の活用等
(6) 社債の管理に関する規律の見直し
(7) 株式交付制度の創設
(8) その他(①募集新株予約権について募集事項として募集新株予約権の払込金額の算定方法を定めた場合であっても、原則的には、募集新株予約権の払込金額を登記すれば足りることとし、例外的に、登記の申請の時までに募集新株予約権の払込金額が確定していないときは、当該算定方法を登記しなければならないことと、②成年被後見人等についての取締役等の欠格条項を削除、③会社の支店の所在地における登記の廃止、等)

このうち、今回は、「 取締役の報酬に関する規律の見直し 」のうち、「取締役の報酬等として当該株式会社の株式又は新株予約権を付与しようとする場合には、定款又は株主総会の決議により、当該株式又は新株予約権の数の上限等を定めなければならないこと」について、解説します。

概要は、「取締役の報酬等を決定する手続等の透明性を向上させ,また,株式会社が業績等に連動した報酬等をより適切かつ円滑に取締役に付与することができるようにするため,上場会社等の取締役会は,取締役の個人別の報酬等に関する決定方針を定めなければならないこととするとともに,上場会社が取締役の報酬等として株式の発行等をする場合には,金銭の払込み等を要しないこととするなどの規定を設けることとしています」というものです(令和元年12月11日付け(令和2年9月1日更新)法務省民事局 「会社法の一部を改正する法律について」)。

2 現行会社法における取締役への新株予約権の付与と取締役報酬規制

以前、「いわゆる有償ストック・オプションを発行する場合に、株主総会において報酬等に関する決議が必要か」というエントリーを当ブログに上げました。

現行(令和3年2月末日まで)の会社法では、取締役の報酬等(職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益)については、額、具体的な算定方法、又は内容を、定款又は株主総会の決議によって定めなければならないとのみ規定されています(会社法第361条第1項)。

現行の会社法では、会社法の取締役の報酬に関する規律との関係で、取締役に無償で新株予約権(ストックオプション)を付与する場合に、 具体的な算定方法、又は内容について、株主総会でどのように決議すべきかは、必ずしも会社法上明確ではありません。また、 取締役に有償で新株予約権(ストックオプション)を付与する場合にも、会社法361条にいう「報酬等」に該当するかどうか、はっきりせず、報酬決議が必要か否かも明確ではありませんでした。

3 ベンチャー企業の取締役にストックオプション(新株予約権)を付与する場合における、令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正後の取締役報酬規制

令和元年会社法改正の第361条第1項では、 「報酬等のうち当該株式会社の募集新株予約権(第二百三十八条第一項に規定する募集新株予約権をいう。以下この項及び第四百九条第三項において同じ。)については、当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項」(第4号)や「 報酬等のうち次のイ又はロに掲げるものと引換えにする払込みに充てるための金銭については、当該 イ又はロに定める事項」「 当該株式会社の募集新株予約権取締役が引き受ける当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項 」(第5号ロ)を株主総会で決議すれば、足りることが明確になりました。

 

 したがって、令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正後は、
 【取締役に無償で新株予約権(ストックオプション)を付与する場合】は
 「報酬等」に該当するものとして、
 改正後の会社法第361条第1項第4号に基づき、
 ストックオプションの内容を決議した方がよいと考えます。


【 取締役に有償で新株予約権(ストックオプション)を付与する場合】も、
 「報酬等」に該当するものとして、
 それぞれ改正後の会社法第361条第1項第4号に基づき、
 ストックオプションの内容を決議した方がよいと考えます。

 また、【 取締役に有償で新株予約権(ストックオプション)を付与する場合】も、
 事実上有償部分の対価(払込金額)を役員に交付する場合は、「報酬等」に該当するものとして、改正後の会社法第361条第1項第4号又は第5号に基づき、ストックオプションの内容を決議した方がよい場面がでてくる可能性があると考えます。

(★ この内容は、2021年1月8日に変更しております。)

 決議すべき事項は、以下のとおりです。
① 当該募集新株予約権の数の上限
② 当該新株予約権の目的である株式の数 (種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数) 又はその算定方法
③ 当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法
④ 金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
⑤ 当該新株予約権を行使することができる期間
⑥ 一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要
⑦ 前二号に掲げる事項のほか、当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要
⑧ 譲渡による当該新株予約権の取得について当該株式会社の承認を要することとするときは、その旨
⑨ 当該新株予約権について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、会社法236条第1項第7号イからチに掲げる事項(いわゆる取得条項の内容)
⑩ 当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要

会社法第236条第1項の事項の他、行使資格や行使条件を明確にする必要があり、結局のところ、新株予約権の要項と割当契約書を別紙で添付して、報酬等の内容として決議することになるものと考えられます。

4 留意事項

 会社法改正施行前、要するに令和3年2月末日までに、株式やストックオプション(新株予約権)の授権枠の決議のみを株主総会で行い、取締役等への具体的な割当決議を施行後、すなわち令和3年3月1日以後に行う場合は、改めて株主総会で報酬決議を要するか否かについては、確認が必要であるため、弁護士にお問い合わせください。
 また、RSU等の事後交付型株式報酬等は、個別に検討を要しますので、こちらも弁護士にお問い合わせください。
 なお、 会社法改正施行前であっても、役員報酬決議に際して、改定後の決定事項を網羅した形で、役員報酬決議を取得しておくことは、会社法上、問題がないと考えられますので、今から取締役等にストックオプションを付与する場合は、是非、株主総会にて、 改定後の決定事項を網羅した形で役員報酬決議も同時に行っていただく方法がよいと考えます。

5 参考

参考までに、改正後の会社法第361条第1項第4号から第6項、施行規則第112条の2を掲載します。

会社法(令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正)
(取締役の報酬等)
第361条第1項
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
   (中略:1号~3号)
 四 報酬等のうち当該株式会社の募集新株予約権(第二百三十八条第一項に規定する募集新株予約権をいう。以下この項及び第四百九条第三項において同じ。)については、当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項
 五 報酬等のうち次のイ又はロに掲げるものと引換えにする払込みに充てるための金銭については、当該イ又はロに定める事項
  イ 当該株式会社の募集株式取締役が引き受ける当該募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び種類ごとの数)の上限その他法務省令で定める事項
  ロ 当該株式会社の募集新株予約権取締役が引き受ける当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項
 六 報酬等のうち金銭でないもの(当該株式会社の募集株式及び募集新株予約権を除く。)については、その具体的な内容
  

会社法施行規則
第98条の3
法第三百六十一条第一項第四号に規定する法務省令で定める事項は、同号の募集新株予約権に係る次に掲げる事項とする。
 一 法第二百三十六条第一項第一号から第四号までに掲げる事項(同条第三項の場合には、同条第一項第一号、第三号及び第四号に掲げる事項並びに同条第三項各号に掲げる事項)
 二 一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要
 三 前二号に掲げる事項のほか、当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要
 四 法第二百三十六条第一項第六号に掲げる事項
 五 法第二百三十六条第一項第七号に掲げる事項の内容の概要
 六 取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要(取締役の報酬等のうち株式等と引換えにする払込みに充てるための金銭について定めるべき事項)

第98条の4

法第三百六十一条第一項第五号イに規定する法務省令で定める事項は、同号イの募集株式に係る次に掲げる事項とする。
 一 一定の事由が生ずるまで当該募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要
 二 一定の事由が生じたことを条件として当該募集株式を当該株式会社に無償で譲り渡すことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要
 三 前二号に掲げる事項のほか、取締役に対して当該募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件又は取締役に対して当該募集株式を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要

2 法第三百六十一条第一項第五号ロに規定する法務省令で定める事項は、同号ロの募集新株予約権に係る次に掲げる事項とする。 
  一 法第二百三十六条第一項第一号から第四号までに掲げる事項(同条第三項の場合には、同条第一項第一号、第三号及び第四号に掲げる事項並びに同条第三項各号に掲げる事項)
 二 一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要
 三 前二号に掲げる事項のほか、当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要
 四 法第二百三十六条第一項第六号に掲げる事項
 五 法第二百三十六条第一項第七号に掲げる事項の内容の概要  
 六 取締役に対して当該募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件又は取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要  

文責:森 理俊

正社員から個人事業主に

2020年11月11日付け日本経済新聞電子版に、「電通、社員230人を個人事業主に 新規事業創出ねらう」との記事が掲載されていました。同記事の概要を、以下に引用します。

  • 電通は一部の正社員を業務委託契約に切り替え、「個人事業主」として働いてもらう制度を始める。
  • 新制度の適用者は、営業や制作、間接部門など全職種の40代以上の社員約2800人を対象に募集した。適用者は早期退職したうえで、電通が11月に設立する新会社と業務委託契約を結ぶ。契約期間は10年間。電通時代の給与を基にした固定報酬のほか、実際の業務で発生した利益に応じてインセンティブも支払われる。
  • 適用者は電通社内の複数部署の仕事をするほか、他社と業務委託契約を結ぶこともできる。ただ競合他社との業務は禁止する。

要は、電通の正社員が、電通を退職し、個人事業主として、電通(または子会社)と業務委託契約を締結し、業務委託料の支払いを受けるというものです。同様の取り組みは、電通以外の企業でも実施されているようです。計測器メーカーのタニタでは、2016年から、同様の取り組みを実施されていて、現在では、社員の約1割にあたる24名が、タニタを退職し、個人事業主として、業務を行っているとのことです(https://seleck.cc/1419)。

タニタによれば、この取り組みの目的は、「優秀な人材がより主体性を発揮できるよう支援し、努力に報いること」です。

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO50531260T01C19A0000000?channel=DF130420167231

この制度は、業務を受けるか否か、受ける場合の対価の額について、その都度、検討し、業務遂行に際しては、会社の指揮監督命令の下ではなく、自分の裁量と判断によって行う。また、労働時間の長短・休憩時間等についても、自己責任で調整する。これによって、正社員(労働者)の立場では実現できなかった「主体性」を発揮し、付加価値の高い業務を行って、提供した価値に応じた経済的利益を得られるようにする、という考えで、行われているのだと思います。

たしかに、この制度を利用した元社員の方のインタビューを読むと、個人事業主になって良かった点が多くあると感じている方もいるようです(https://seleck.cc/1419)。

他方、業務委託の契約期間が満了した時点で、契約を更新してもらえない場合や、満足できる対価での合意が困難な場合に、元従業員の生活保障については、どのように考えるのかという点(一般的には、他社からの発注を広く受けられるケースは多くないように思います。また、こういったリスクをふまえて、独立後の業務委託料を、独立前の給与に比較して大幅に高額に設定されることも想定しにくいです。)、もし雇用契約であれば時間外手当等が支給されるべき時間を働かなければこなせない業務を受注しても時間外手当等を支払ってもらえないという点、社会保険や年金はどうするのかという点、及び、社員の場合は給与所得としての給与所得控除があったうえ、源泉徴収と年末調整で済んでいたものが、事業所得となり給与所得控除がなくなり確定申告が必要となる点など、解決すべき課題は、たくさんあります。

実際に、これらの懸念点について、各所で議論されているようです。

https://news.yahoo.co.jp/articles/a96e7117dea95e8d43b0c9ab72b9152a7a3bac61

なお、もちろん、電通にしても、タニタにしても、上記のような懸念点については、十分に認識したうえで、対応されていることと思います。

個人的には、このような取り組みについて、貴重なチャレンジであると思っています。現在の労働法制下において、柔軟な制度設計をすることは必ずしも容易ではない面があることは否定できません。他方、多様な人材を確保し、かつ、多様な働き方を用意することによって、企業としての国際競争力を強化する必要性は、日増しに高まっています。そのためには、これまでにない発想と工夫で、新たな取り組みにチャレンジすることも必要でしょう。

もっとも、導入に際しては、上記の例のように、労働者にデメリットや不利益が生じることも想定されますので、これらの点について、労働者に対し、十二分に理解してもらったうえで、自主的な選択の機会を確保すべきことは言うまでもありません。

(文責:藤井宣行)

2020年11月18日 12:06|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス,企業法務||コメントはまだありません
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