ここから本文です

国際法務の部屋

内定取消しについて

新型コロナウイルスの感染拡大による行動自粛等によって、実体経済に非常に大きな影響を及ぼし始めています。当事務所でも、この事象に関連するご相談も増えつつあります。

 

企業活動においては、景気の先行きが不透明であることから、内定者に対する内定取消しの動きも出ているようです。政府としては、このような動きに対し、内定取消しの防止等について、いくつかの要請を行っています(2020年3月13日付け日本経済新聞電子版「内定取り消し防止、最大限の努力を 政府要請」)。

 

 

本ブログでは、内定取消しの法的側面について、日本法と中国法の観点から、簡単に整理をしたいと思います。

 

 

日本においては、内定の法的性格について、「始期付解約権留保付労働契約」であると考える見解が一般的です(電電公社近畿電通局事件:最高裁第二小法廷昭和55年5月30日判決等)。

すなわち、内定通知によって、内定通知で予定されている日に労働契約は成立するものとし、かつ、採用内定取消事由が生じた場合等には、同契約を解約できるというものです。

採用内定取消事由については、内定通知書に記載しておけば自由に解約できるわけではなく、客観的に合理的で社会通念上相当として是認できる事由が必要であると考えられています。

したがって、「新型コロナウイルスの感染拡大によって景気の先行きが不透明であるから」といった抽象的な理由のみで内定取消しを行った場合には、当該内定取消し(=解約権の行使)が違法と評価される可能性が高いと考えられます。

 

 

中国においては、私の知る限り、日本のように、内定を「始期付解約権留保付労働契約」として捉える考え方が一般的に採用されていません。

以下は私見ですが、中国法実務では、内定について、労働契約はいまだ締結されていない状態であると評価される可能性が高いと考えます。この場合でも、契約締結に近い状態にはありますから、内定取消しには、契約締結上の過失として、契約法42条が適用されると考えます。

すなわち、同条によれば、①契約締結を手段として、悪質な協議を行った場合、②契約の締結に関連する重要事実を故意に隠し、または虚偽の情報を提供した場合、または、③その他の信義誠実の原則に違反する場合には、会社が損害賠償義務を負うことになります。

仮に、「新型コロナウイルスの感染拡大によって景気の先行きが不透明であるから」といった理由で内定取消しをする場合でも、信義誠実の原則に違反すると評価されないよう、丁寧に協議を重ね、できれば内定者の同意を取得して書面化するといった対応が望まれます。

 

(文責:藤井宣行)

2020年03月19日 12:48|カテゴリー:

中国法務

|タグ:

内定取消、コロナ

コメントはまだありません

強制労働・児童就労の禁止について

SDGsの目標8では、「すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する」が目標8として掲げられ、同目標のターゲットの8.7では「強制労働を根絶し、現代の奴隷制、人身売買を終わらせるための迅速で効果的措置の実施、最も劣悪な形態の児童就労の禁止・撲滅を保障する。2025年までに少年兵の徴募や利用を含むあらゆる形態の児童就労を撲滅する。」とされています。

 

では、ここでいう、「強制労働」や「児童就労」は具体的にどのように定義されるのでしょうか。

 

まず、「強制労働」とは、処罰や脅威による従業員の意思に反した労働を意味します。そして、「処罰」とは、監禁、暴力による威嚇やその行使、労働者が職場の外に自由に出ることに制限を加えること等を意味します。また、「脅威」の具体例としては、家族に危害を加える旨の脅迫、不法就労を当局に告発する旨の脅迫、労働者を職場に留める目的で行われる賃金不払などがあげられます。

 

次に、「児童就労」は、就業最低年齢を下回る年齢の児童によって行われる労働を意味します。

 

ここで、「就業最低年齢」については、「就業の最低年齢に関する条約第138号」で、最低年齢は原則15歳とされています。ただし、軽労働については、一定の条件の下に13歳以上15歳未満の就労が認められ、危険有害業務については18歳未満の就労が禁止されています。また、開発途上国のための例外として、就業最低年齢は当面14歳、軽労働は12歳以上14歳未満の就労が認められるとされています。

さらに、「最悪の形態の児童労働に関する条約第182号」では、18歳未満の児童による①人身売買、徴兵を含む強制労働、債務労働などの奴隷労働、②売春、ポルノ製造、わいせつな演技に使用、斡旋、提供、③薬物の生産・取引など不正な活動に使用、斡旋、提供、④児童の健康、安全、道徳を害するおそれのある労働が「最悪の形態の児童労働」として定められ、これの禁止と撤廃を確保するために、即時の効果的な措置を求めるとされています。

 

近時、SDGsの普及に伴い、取引基本契約等の中で、「乙は、本件契約書に基づく債務の履行に関連する場合であるか否かを問わず、強制労働、児童労働、外国人労働者の不法就労を行わないとともに、賃金・労働時間を含む従業員の雇用条件については、事業活動を行う各国各地域の法令に準拠するものとする。」などの条項が盛り込まれるケースも見られます。

 

さらに、「乙は、自社、関連会社及び乙の事業、製品またはサービスに関連するサプライヤー、請負業者及びコンサルタント(以下「乙取引先」という)というに対して、本契約書別紙に定める各要求事項を履行させるように努めなければならない」という、いわゆるフローダウン(Flow-Down)条項が盛り込まれるケースもあります。

 

上記条項違反が取引基本契約の解除事由に当たりうるような場合は、重大な影響が出てしまいます。

 

そうすると、海外のサプライチェーンから原材料や製品の供給を受けているような場合は、当該サプライヤーの工場等において上記の定義にあてはまるような強制労働や就業最低年齢を下回る年齢の児童による児童就労が行われていないかをモニタリングしておく必要があります。

 

文責 河野雄介

以上

2020年03月18日 18:11|カテゴリー:

|タグ:

コメントはまだありません

インドネシア法務③

前回のブログで、ジョコウィ大統領が海外からの投資促進のために法律を改正すると発言してきたこと、そのためにオムニバス法案を国会に提出し、今国会審議の最優先法案にすると発表したことを紹介しました。

今回は、2020年2月12日に、インドネシア政府が国会に提出した雇用創出オムニバス法案について紹介します。

今回取り上げる雇用創出オムニバス法案は、海外からの投資促進を目的としたものであり、11分野の法改正が含まれると言われています。

その中でも企業の事業活動に大きく関係するいくつかの点について改正の概要を紹介します。

 

①中小零細企業法の改定

インドネシアの投資法は、投資活動に対して全ての事業分野が開かれているという原則を定める一方で、一定の閉鎖された事業分野、条件付きで開かれている事業分野を定めています。

条件付きで開かれている事業分野のリストとして、「中小零細企業・協同組合のために留保され又はこれらとのパートナーシップが条件とされている事業分野」のリストが設けられています。

この、「中小零細企業・協同組合」とは、現行の2008年法律第20号に定められた要件、すなわち「純資産100億ルピア(約7,900万円)以下、もしくは年商500億ルピア以下」という要件を満たす個人又は法人をいうとされています。

この法律が、中小規模の外国企業がインドネシアに進出できない大きな要因となっていました。

今回の法案では、中小零細企業の定義を定める条文を撤廃し、代わりに、純資産、年商、投資額、雇用者数によって、事業分野ごとの定義を下位法令で定めるとしています。

これにより、中小企業の要件金額が緩められる可能性があり、外国企業が進出しやすくなると期待されています。

 

②投資活動の基本法の改正

投資活動の基本法である法律2007年第25号も、一部改正される見通しであると言われています。

前述のとおり、現在インドネシアでは、条件付きで開放されている事業分野のリスト(ネガティブリスト)がありますが、500超の事業分野については、内資との合弁が条件とされています。

今回の法案では、ネガティブリストに関する記載を条文から削除しており、代わりに、詳細を大統領規程において定めるとしています。

経済調整府などの説明によると、従来のネガティブリストを改め、政府が投資を優先する分野を打ち出したプライオリティリストを導入する見通しであると言われています。

同調整府によると、優先分野に含まれるものは、ハイテク産業、大規模投資、デジタル産業、労働集約型産業となっています。

なお、ネガティブリストを廃止するのかどうかは、未確定です。

 

③新興企業が外国人の技術者らを雇用する際の規制を緩和する方針

今回の法案では、「スタートアップ」として分類された新興企業は外国人を雇用する際、政府当局の承認は不要とする、とされています。

現行の制度では外国の大使館などを除けば、外国人を雇う予定の企業は外国人雇用計画書(RPTKA)(人数や職務、勤務地、従業員教育などの計画)を当局に提出し、承認を得なければならないとされています。

今回の労働法の改正案の中には、外国のスタートアップについては、外国人雇用計画書(RPTKA)なしでもインドネシアにおいて、外国人が働くことができるといった条文が盛り込まれています。

昨年私がジャカルタに研修に行った際も、フィンテック関連のベンチャー企業が多く誕生しているという話を耳にしましたが、そういったデジタル技術を駆使した企業が多く誕生しているインドネシアでは国内の技術者を巡る激しい争奪戦が行われているようです。

もっともインドネシア国内の技術者の数は決して多くないため、新興企業が外国人の技術者を雇いやすくなることで同企業の発展は加速し、さらにインドネシア国内の技術者が外国人の優秀な技術者から技術を吸収し、さらなる人材育成が可能となると考えられます。

インドネシアには現在、配車サービス大手のゴジェックやインターネット通販大手のトコペディアなど企業価値が10億ドル(約1100億円)を超える「ユニコーン」企業が5社あるなど、東南アジアにおいてユニコーン企業の数は最多です。

そういった土壌があるインドネシアにおいて、外国人雇用に関する規制が緩和され、優秀な人材を確保しやすくなることはとても大きな意味を持つと考えます。

 

④投資の手続について

インフラ開発などの際、中央・地方の両政府の複数の省庁で許認可を得る必要があった投資の手続きを中央に一本化するとされています。

2014年に誕生したジョコウィ政権は、投資を促進するために、投資に関する手続の簡素化に努めてきましたが、今回の法改正で、最短数時間で基本的な投資手続きを完了できるようにするとされています。

 

⑤人件費負担の軽減

現在は、最低賃金が毎年約8%上昇し、経済界から不満が出ており、これが海外からの直接投資の足かせになっていると言われていました。

そこで、最低賃金の伸び率を抑えること、退職時に退職金に加算される功労金も引き下げる、とされています。

 

外資企業からは、インドネシアの投資環境への不満が高まっていましたが、ジョコウィ大統領による大掛かりな法改正に向けた取り組みが評価され、ジョコ政権の継続が決まった2019年4月以降、海外企業からの大型投資が表明されています。

前回のブログでは、2020年1月に、ソフトバンクグループが、インドネシアの首都移転計画に最大400億ドルを投資することを提言したとの報道があったことを紹介しました。

それ以外にも、例えば、トヨタは2019年6月、部品各社を含むグループ全体でインドネシアに約2100億円を投じる計画を表明しました。

韓国現代自動車も15億5千万ドルで電気自動車に対応する新工場の建設を計画しています。

シンガポールに本社を置くグラブも20億ドルを投じる方針を打ち出しました。

 

このように、インドネシアは海外からの投資促進のために積極的な姿勢を明らかにしています。

今後も引き続き情報をアップデートしたいと思います。

 

(文責:三村雅一)

新型コロナウイルスと不可抗力について(2)

私の前回のブログで、2月17日のジェトロ大阪でのセミナーについてご案内していましたが、私と共同のスピーカーが中国から来日する中国人弁護士であったこともあり、残念ながら、開催が延期となりました。延期後の日時が決まりましたら、改めて、ご案内させていただきます。

 

 

さて、先日、当事務所のマネージングパートナーである河野弁護士が、ブログ「新型コロナウイルスと不可抗力について」において、新型コロナウイルスの流行に起因して、契約上の債務を履行できないケースについて、日本法の観点から説明をしてくれています。

 

 

今回のブログでは、中国法の観点から、若干の説明をしたいと思います。

 

 

1.契約書に、不可抗力免責に関する条項がある場合

この場合は、日本法を準拠法とする場合と同様、契約文言の規定に、「疫病」等の文言が明記されているか、明記されていないとしても「その他の不可抗力」といった文言の有無を確認することになります。

 

そのうえで、今回の状況が、規定されている文言に該当するか、あてはめの作業をすることになります。その内容については、下記2を参考にしてください。

 

 

2.契約書が存在しない、または、契約書に不可抗力免責に関する条項がない場合

準拠法が中国法であれば、契約による修正がないことから、中国法の一般原則が適用されることになります。

中国法では、「不可抗力」について、予見不能性、回避不能性、及び、克服不能性が客観的に存在することを要求しています(通則153条、民法総則180条2項、契約法117条等)。

 

新型コロナウイルスの発生や流行自体については、予見不能性、回避不能性、及び、克服不能性が客観的に存在すると考えられます。

 

しかしながら、各企業が直面している契約上の債務の履行に関する障害については、その具体的な状況(ビジネスモデル、実際に利用する運送の状況等)は様々であると考えられますので、ケースバイケースで、個別の検討を要するでしょう。

 

2002年にSARSが流行した際、最高人民法院は、SARS の流行について不可抗力に該当するとの判断をしたものの、不可抗力に該当する事由について、災害拡大防止のための行政措置を直接の原因とする場合等、一定の場合に限定しましたので、当該事由該当性を、個別に判断する必要がありました。

 

なお、中国国際貿易促進委員会(CCPIT)が、新型コロナウイルスについて、不可抗力にあたる事実が発生したとする証明書を発行しています。CCPITは、あくまで1つの機関であり、不可抗力該当性を判断するのは、最終的には裁判所(人民法院)ですから、当該証明書は、不可抗力該当性を肯定する方向の重要な証明手段の1つであるという位置付けになると考えます。

 

また、そもそも、不可抗力免責は契約の拘束力から例外的に解放する制度ですから、その適用は、本来的に謙抑的になる性質を有するものです。

 

したがって、新型コロナウイルスに起因して、契約上の債務の履行に障害が生じている場合、まずは、協議により解決を図ることが最優先でしょう。そのうえで、自社の状況が、不可抗力に該当するかについて、契約書等の存在を確認しつつ、予見不能性、回避不能性、及び、克服不能性の観点から、冷静に、自社に関する状況を分析することが肝要であると考えます。

 

(文責:藤井宣行)

2020年02月26日 09:23|カテゴリー:

中国法務

|タグ:

コロナ,不可抗力,免責

コメントはまだありません

インドネシア法務②

先日のブログ(https://www.swlaw.jp/cross_border_blog/%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%83%89%e3%83%8d%e3%82%b7%e3%82%a2%e6%b3%95%e5%8b%99/)でも紹介したとおり、私は昨年10月に、インドネシアのジャカルタにあるMartia & Anggraini Partnershipにおいて研修をさせて頂きました。

今回は、インドネシアに関する情報を紹介します。

現在2期目を務めるジョコウィ大統領は、建国100周年にあたる2045年には、GDPが7兆ドルに達し、経済で世界5位に入る、貧困率も0%とする、という目標を掲げています。目標達成に向けたジョコウィ大統領の動きはニュースでも紹介されています。

1 ジャカルタからカリマンタン島東カリマンタン州への首都移転計画

昨年8月には、インドネシアの首都を現在のジャカルタからカリマンタン島(ボルネオ島)の東カリマンタン州に移転させることが決定されました。

首都移転の理由は、現在の首都ジャカルタに経済機能やインフラ上の負担が増加しており、ジャワ島に全人口の54%、GDPの58%が集中していることなどから、政府としてジャワ島とジャワ島外の格差是正を図る必要があることなどが説明されています。

また、カリマンタン島を選定した理由としては、自然災害のリスクが少ないこと、全国土の中央に位置すること、インフラが比較的整っていること、18万ヘクタールの利用可能な用地があること等が挙げられています。

なお、首都移転後も引き続きジャカルタが経済活動の中心と位置付けられ、首都は政治機能の中心として位置づけられるとされています。

今後、2024年中には政府機関の移転を開始する予定であるとのことです。

この首都移転には、466兆ルピア(約3兆4,484億円、1ルピア=約0.0074円)の費用がかかると見込まれているところ、ジョコウィ政権は、特に海外からの投資を呼び込むために国際的な著名人を首都移転を促進する運営委員会のメンバーに任命して、首都移転の「顔」として投資誘致に結び付けようとしていると言われています。同委員会のメンバーにはソフトバンクの孫会長、英国のトニー・ブレア元首相、アラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド・アブダビ皇太子等が任命されたことが明らかにされています。そして、今年の1月には、ソフトバンクグループが、インドネシアの首都移転計画に最大400億ドルを投資することを提言したとの報道がありました。額については明らかになっていないものの、ソフトバンクグループが、インドネシアの首都移転計画に際し、ソフトバンクグループや投資先の持つ人工知能(AI)などを活用し、最先端のスマートシティー作りに協力する予定であると言われています。

2 オムニバス法案

経済成長を進めるため、ジョコウィは海外からの投資促進のため、その妨げとなってきた法律を改正すると発言してきました。そして今年の1月22日には、政府は、投資の支障となっているとされる、内容が重複する法律を置き換え、複数の法令の内容を一本化することを目指すオムニバス法案(一括法案)として国会に提出し、今国会審議の最優先法案にすると発表しました。この法改正は、投資促進を目的として行われる改正であるところ、オムニバス法として整理統合される法案は多岐にわたり、従業員の採用、解雇手続きの簡素化、法人税引き下げを含む税制改革、土地に関する権利の簡素化などの関連1244条項、79法案が対象となっているといわれています。インドネシアの規制や手続は非常に煩雑であると言われているため、日本を含む海外の企業には歓迎される改正であると言われています。この点、マイクロソフトが「オムニバス法」の成立を待って、インドネシアにローカルデータセンターを設立予定と発表するなど、今後インドネシアにおける法整備が進むことで、さらに海外直接投資が増加することが期待されています。今後、上記オムニバス法案の概要についても研究し、ご紹介できればと思います。

(文責:三村雅一)

以上

新型コロナウィルスと不可抗力について

中華人民共和国湖北省武漢市において、昨年12月以降、新型コロナウイルス感染症の発生が複数報告されて以来、日本を含めた世界各地でも患者発生報告が続いています。

このような状況は、中国に関連する取引に少なからず影響を与えるものと考えられます。

たとえば、製品を購入するためにすでに売買契約が締結されているものの、今回の新型コロナウィルス感染症影響により、売主側の中国企業(日本企業の中国子会社を含みます)が輸送業者を手配することができない又は通関を受けることができない等の理由で、当該売買契約で定められた納品期限に買主側である日本企業に納品することができなかったというケースが考えられます。このような場合に、目的物を引き渡す債務を履行できなかった売主は、債務不履行責任を負うのでしょうか。

 

この点については、売買契約書に下記のような不可抗力条項が定められていることがよくあります。

 

「いずれの当事者も、自らの合理的な支配の及ばない状況(火事、停電、ハッキング、コンピューターウィルスの侵入、地震、洪水、戦争、疫病、通商停止、ストライキ、暴動、物資及び輸送施設の確保不能、又は政府当局による介入を含むがこれらに限定されない。)により本契約上の義務の履行が遅延した場合、その状態が継続する期間中相手方に対し債務不履行責任を負わないものとする。」

 

仮にこのような不可抗力条項が、売買契約書に盛り込まれていた場合は、新型コロナウイルス感染症が、自らの合理的な支配の及ばない状況として例示列挙されている「疫病」に該当するかの解釈が問題となると思われます。

 

また、このような不可抗力条項が定められていない場合、日本の民法では、不可抗力は債務不履行(金銭債務の不履行を除く。)に基づく損害賠償義務の抗弁となると解されます(民法419条3項)

 

以上のとおり、契約書に記載がある場合はその文言や解釈にもよりますが、今回のケースで、納品が遅滞したとしても、疫病を不可抗力として納品できないことの遅行遅滞責任は、負わないと解される可能性は十分にあると考えます。

 

なお、この点に関して、中国国際貿易促進委員会は2020年1月30日に、新型コロナウィルスに関する不可抗力事実証明書を発行することとし、申請のための必要書類の情報などを公布しました。

http://www.ccpit.org/Contents/Channel_4131/2020/0130/1238886/content_1238886.htm

 

新型コロナウィルスに関連して、自己の債務について履行遅滞を起こしているような場合は、この不可抗力事実証明書を入手しておくことで、当該履行遅滞が不可抗力によるものであることを証明するのに役立つものと思われます。

文責 河野雄介

2020年02月10日 13:17|カテゴリー:

|タグ:

コメントはまだありません

海外M&Aにおいて法務担当役員に期待される役割 ~「9つの行動」別冊編のご紹介

海外M&Aにおいて法務担当役員に期待される役割

~「9つの行動」別冊編のご紹介

 

以前執筆したブログ「我が国企業による海外M&A研究会」報告書(平成30年3月 経済産業省 )について(その1)」で、経済産業省が、平成30年3月に発表した「我が国企業による海外M&A研究会報告書」について取り上げたことがありました。

日本企業がグローバル規模で成長を実現していく上で、海外M&Aが重要かつ有効なツールとして認識され、日本企業による海外M&Aは増加傾向にある一方で、海外M&Aの難易度の高さから、期待されていた成果を十分あげられないケースも少なくないという背景から、平成29年度に経済産業省は、「我が国企業による海外M&A 研究会」を開催し、日本企業が抱えるM&A に関する課題を有識者とともに検討し、海外M&A を有効に活用していく上での留意点や事例を、この報告書と「海外 M&A を経営に活用する9つの行動」としてとりまとめていました。

ちなみに、9つの行動は、下記のとおりです。

  • 目指すべき姿」と実現ストーリーの明確化
  • 「成長戦略・ストーリー」の共有・浸透
  • 入念な準備に「時間をかける」
  • 買収ありきでない成長のための判断軸
  • 統合に向け買収成立から直ちに行動に着手
  • 買収先の「見える化」の徹底(「任せて任さず」)
  • 自社の強み・哲学を伝える努力
  • 海外M&A による自己変革とグローバル経営力
  • 過去の経験の蓄積により「海外 M&A 巧者」へ

 

その後、経済産業省は、令和元年6月に、上記の「9つの行動」の内容を踏まえ、各企業が海外M&Aに取り組んでいく上でより具体的・実践的に役立て、海外M&Aを活用し企業の成長につなげていくためにCEOと共に重要な鍵を握るCFO、法務担当役員及び社外取締役という3つのポジションに焦点を当て、これらのポジションの職責や専門性に応じて期待される役割やアクションについて、より具体化・明確化した「9つの行動」別冊編をとりまとめました。

 

法務的な観点から興味深いのは、法務担当役員に期待される役割として挙げられている下記の点です。

(ア)         経営チームの一員として戦略策定等に関与しているか

(イ)         必要なリスクを取るための検討ができているか

(ウ)         事業サイドからいつでも頼りにされる信頼関係があるか

(エ)         法務部門の経験・ノウハウを活かしているか

(オ)         外部アドバイザーの主体的な活用を意識しているか

(カ)         戦略や買収目的との整合性についての調査は十分か

(キ)         成長のための明確な判断軸をもった検討を行っているか

(ク)         グローバル規模でのリスクマネジメント体制が整備できているか

(ケ)         買収後の状況を定期的にモニタリングできているか

この中でも、M&Aに外部アドバイザーとして携わってきた立場から興味深かったのは、上記の(オ)に関して、現場の声として記載されている、「日頃から弁護士事務所等と信頼関係を構築し、自社の社風や戦略への理解を得ておくことも重要。これにより実際のディールの際にも自社の事情とミスマッチなく依頼することが可能に。」という部分と、上記の(キ)に関して現場の声として記載されている、「外部の弁護士は事業の内容を必ずしも熟知していないことから、『可能性』での議論、すなわち(軽重問わず)あらゆるリスクを列挙する方に傾く場合がある。したがって、社内の法務が『蓋然性』の視点から(それがどのようなビジネス上のインパクトを有するのかも含めた)議論を行い、会社として取っていいリスクか否かについて精査・検討する必要。」という部分です。

 

この他にも、示唆に富んだ記載が多数ありますので、海外M&Aに関与される方はぜひ「9つの行動」別冊編をご一読されることをお勧めいたします。

 

文責:河野雄介

2020年01月23日 14:21|カテゴリー:

|タグ:

コメントはまだありません

セミナー案内

2020年2月17日午後1時30分から、ジェトロ大阪(大阪国際ビル29階)において、広東卓建律師事務所の中国律師(弁護士)尹秀鍾氏とともに、「外商投資法への対応と深圳の取り組み」とのタイトルで、セミナーに登壇します。

 

【日時】 2020年2月17日 午後1時30分から

【場所】 大阪国際ビルディング29階 ジェトロ大阪 セミナールーム

大阪市中央区安土町2-3-13

【申し込み方法】

以下のお申込フォームよりオンラインでお申し込みください。

https://www.jetro.go.jp/events/osa/00f8e7278f75842c.html

※申込み完了メールをプリントアウトしていただき、当日お持ちください。

 

本セミナーでは、本ブログにおいても、以前に紹介したことのある中国外商投資法の制定について、詳しく、お話する予定です。

 

2020年1月1日から、「外商投資法」及び「外商投資法実施条例」が一斉に施行されます。これにより従来適用されていた「外資三法」は廃止されます。外商投資法では、ネガティブリストの導入、外商投資の促進と保護、海外への利益送金の保証等が盛り込まれており、開放政策のさらなる拡大、及び、市場参入制限措置の緩和等を積極的に打ち出す中国政府の姿勢がうかがわれます。

本セミナーでは、外商投資法及び同実施条例の概要、実務上の留意点について、お話する予定です。

 

また、深圳の法律事務所に在席する尹秀鍾弁護士からは、深圳における最近の実務の状況及び政策動向についても、紹介してもらう予定です。尹秀鍾弁護士は、深圳において、日系企業向けの業務を行っていることから、書籍やネット記事等では知ることのできない、コアな情報を話してもらおうと思っています。

 

ご興味がおあり方は、是非とも、お申込みください。

https://www.jetro.go.jp/events/osa/00f8e7278f75842c.html

 

(文責:藤井宣行)

2020年01月17日 18:16|カテゴリー:

中国法務

|タグ:

コメントはまだありません

香港の政治不安

2019年12月17日付け日本経済新聞電子版で、「中国習主席、早期の秩序回復指示、香港行政長官と会談」との記事がありました(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53419380W9A211C1FF1000/)。

習近平氏としては、先日、香港区議会選において民主派が圧勝したことを受け、表面的には厳格な姿勢を強調しないものの、引き続き、政府側が暴徒化していると表現している団体に対する取り締まりの強化を図っていくものと思われます。

 

この騒動は、もとはといえば、2019年4月、香港において、「逃亡犯条例」の改正案が提出されたことに端を発するものです。この改正案は、香港から、中国大陸等に刑事事件の被疑者等を引き渡すことが容易になること等を内容とするものでした。香港人としては、同改正によって、香港における自由が制約されると感じ、強く反発したものと言われています。

 

 

この一連の騒動に関し、さまざまな意見を直接または間接に見聞きしましたが、私なりのまとめとしては、①そもそも、香港人としては、英国から中国への返還の後、それまで享受していた自由が次第に制限されるといった政治面での不満が存在した。

また、②大陸からとめどなく流入する人及び資金によって、不動産価格に代表される物価の急激な上昇に対する経済面での不満が、相当程度蓄積していたところ、「逃亡犯条例」をきっかけに爆発したと感じています(例えば、私の香港の友人に、「香港で家を買うのは(経済的に)難しいみたいだね」と言ったところ、「難しくない。不可能だ。」と返されたこともあります。)。

 

 

このような背景が存在することもあり、「逃亡犯条例改正案」の撤回だけでは民衆が満足するはずはなく、普通選挙(香港政府トップの行政長官の直接選挙を意味します。現在は、限られた選挙委員会によって選ばれており、中国の意向が反映されるものになっていると言われています。)の実現等も要求されるに至っています。

 

この点、中国憲法第3条では、「全国人民代表大会及び地方各級人民代表大会は、すべて民主的選挙によって選出され、人民に対して責任を負い、その監督を受ける。」と規定されているものの、実質的には、(他の先進国が観念する)民主主義は採用されていません。

また、中国大陸における民主化活動の厳しい歴史が存在することからも、北京の中国政府における民主化に対する姿勢がどのようなものか、想像に難くありません。したがって、中国が普通選挙の実現を認めることは、現在の中国の政治制度の否定に等しいことから、絶対にないでしょう。

 

(一部の)デモ側の行動が暴徒化していたり、警察による実弾の使用が増えていたりと、香港では、厳しい状況が収束していません。私も、つい先日、香港での会議が予定されていたのですが、深センでの会議に変更となってしまいました。

ビジネスでもプライベートでも、香港で、良い思い出がたくさんある1人の日本人として、少しでも犠牲が少ない方法で、1日でも早く、この問題が解決することを望んでやみません。

(文責:藤井宣行)

2019年12月18日 12:41|カテゴリー:

|タグ:

コメントはまだありません

SDGsと企業活動③

去る11月26日に、大阪商工会議所において、我が国のSDGsの第一人者である株式会社日本総合研究所創発戦略センターシニアマネジャーの村上芽氏、当事務所の河野弁護士と私の3名で、「自社の強みを強化するSDGsの上手な活用法セミナー」を行いました。

SDGsの内容については、先日のブログ(SDGsと企業活動①SDGsと企業活動②)で紹介してきました。

今回のセミナーでは、SDGsは、一般的には、企業にとっての新たな負担と捉えられがちですが、上手に取り組むことによって、新たなビジネスチャンスを獲得できる可能性が広がるものであるということをお話しました。また、法務面からはどのようにSDGsに対応すればよいのか、すなわち海外拠点やサプライチェーン、バリューチェーンにおける諸問題(労働、人権、環境、贈収賄など)への取り組みについてお話をしました。

当日は、約100名の方にご出席頂き、企業においてSDGsへの関心が高まっているということを実感しました。

さて、今回のブログでは、SDGs実現のために参考となる日本の企業の取り組み事例を紹介します。外務省のHPを見て頂くと、多くの企業が素晴らしい取り組みをされていることが分かります。今回は、不二製油グループ本社株式会社の「グリーバンスメカニズム」の構築・運用についてご紹介します。

不二製油グループにとっては、パーム油が基幹原料の1つとなっています。しかし、パームに関する社会的課題として、農園開発に起因する環境問題、児童労働・強制労働などの人権問題という2つの課題が認められました。

そこで、不二製油グループは、パーム油の持続可能な調達を目指すことは社会的責任であると考え、2016年3月に「責任あるパーム油調達方針」を策定しました。同方針では、人々と地球環境を尊重するサプライヤーから責任ある方法で生産されたパーム油を調達することを約束し、パーム油サプライチェーンにおいて、①No Deforestation(保護価値の高い森林、炭素貯蔵量の多い森林及び泥炭湿地林における森林破壊ゼロ)、②No Peat land development(泥炭地における新規開発ゼロ)、③No Exploitation(先住民、地域住民、労働者の搾取ゼロ)を目指すことを約束しています。

持続可能な調達を実現するためには、自社だけではなく、「サプライチェーン」でとらえる必要があるという点が非常に重要です。

上記約束を実現するために設けられた1つのシステムが、今回紹介する「グリーバンスメカニズム」です。

「グリーバンス(grievance)」とは、「(不当と考えられることに対する正式な)抗議、苦情」を意味します。

それでは、グリーバンスメカニズムとは何かについて説明します。

2011年に国際連合人権理事会にて承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」は、「ビジネスに関連した人権侵害から保護する義務として、国家は、その領域及び/または管轄内において侵害が生じた場合に、司法、行政、立法またはその他のしかるべき手段を通じて、影響を受ける人々が実効的な救済にアクセスできるように、適切な措置を取らなければならない。」と定めています。そして、このような救済を利用するための手続が、「グリーバンスメカニズム(Grievance Mechanism)」と呼ばれます。これには国家による手続、国家以外による手続、また司法的な手続、司法的でない手続も含まれるとされています。

不二製油においては、「責任あるパーム油調達方針」を実現する目的で、2018年5月にグリーバンスメカニズムが構築・公表されました。このメカニズムは、ステークホルダーから不二製油グループに提起されたサプライチェーン上の環境・人権問題について、「責任あるパーム油調達方針」に基づいて直接サプライヤーとのエンゲージメントを行い問題の改善を促す仕組みとなっています。

不二製油では、透明性をもってグリーバンスに対応することを目的として、ウェブサイトに「不二製油グループグリーバンスメカニズムウェブページ」を設置し、少なくとも四半期に1回進捗状況を更新し、ステークホルダーに対する情報開示に努めています。

同ページでは、メール、電話、FAX、手紙でのグリーバンスを受け付けており、グリーバンスには、氏名、機関名、住所、コンタクト方法、グリーバンスの詳細、グリーバンスを裏付ける証拠を含むよう記載されています。

また、グリーバンスリスト(進捗状況一覧表)が公開されており、実際に寄せられたグリーバンスの内容、同グリーバンスへの不二製油の対応状況が記載された一覧表が閲覧できるようになっています。

中には、「A社における森林破壊、人権問題への対応要請」というグリーバンスに対し、間接的なサプライチェーン上のつながりがあることを確認し、同社に改善が見られなかったことから、サプライヤーに対し同社との取引停止を要請し、2018年9月以降の取引停止に至ったという事例もあったとのことです。

「人々と地球環境を尊重するサプライヤーから責任ある方法で生産されたパーム油を調達する」という約束を実現するために、自社だけでチェックを行うのではなく、言わば全世界からの監視を要求し、グリーバンスを受け付け、寄せられたグリーバンスに適切に対応する、さらに寄せられたグリーバンスの内容や対応を全て公開する。自社にとって都合の悪い事実は隠蔽されることが多いというイメージがある中で、このような取り組みは非常に革新的であり、これからの時代の企業経営に求められているものなのではないでしょうか。

 

(文責:三村 雅一)

2019年12月16日 14:47|カテゴリー:

|タグ:

SDGs、弁護士、法律

コメントはまだありません