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株主名簿上の株主が無権利者だった場合の会社の責任(東京地方裁判所第8民事部判決令和3年12月20日/金融・商事判例1645号49頁)

2022.10.21
S&W国際法律事務所

【事案の概要】

被告は、公開会社でない株式会社であり、原告は、被告の株主である。
本事案の事実関係を時系列にまとめると以下のとおりである。

平成8年1月10日 被告設立。
原告、発行済株式200株(以下「本件株式」という。)中、少なくとも120株を所有する。

平成22年10月18日
贈与を原因として(以下「本件贈与」という。)、原告所有の全株式について、原告からAらに名義書換がされ、原告所有の株式は0株となる。

平成28年6月頃 原告が被告らに対し、株主権確認請求訴訟等を提起。
原告が本件株式のうち、168株を有することの確認等を求める。

平成30年2月14日 第1審判決。
本件贈与が否定され、原告が本件株式のうち、120株を有する株主であることが確認される。(その後、控訴審において、原告が168株を有する株主であることを確認する旨の判決が下され、最高裁にて被告らの上告が棄却され、控訴審が確定。)

平成30年2月27日 定時株主総会(以下「本件総会」という。)開催。
本件総会には、当時の本件株式に係る株主名簿上の株主全員が出席し、普通株式200株をAに割り当てることを内容とする、総数引受契約方式による募集株式の発行(「本件新株発行」という。)を承認する決議(以下「本件決議」という。)がされる。なお、原告は、本件総会の招集通知を受けておらず、本件総会にも出席しなかった。

平成30年3月20日 本件新株発行についての払込期日

平成31年3月5日 原告、被告に対し訴え提起。
具体的には、本件新株発行について、原告が主位的に、株主総会の特別決議を経ていないなどとして、当該新株発行を無効とすることを求め、予備的に、発行済株式の過半数を有する株主である原告に当該株主総会の招集通知を行っていないなどとして、当該新株発行が不存在であることの確認を求めた(「以下本件訴え」という。)。

【判決要旨】

1 株主総会の開催日の約2週間前に下されている前件訴訟の第1審判決の判断、同判決における当該判断部分は控訴審でも維持されて確定していることに照らせば、会社には、株主名簿上の株主が無権利であることについて少なくとも重過失があったというべきである。
2 非公開会社において、株主総会の特別決議を経ないまま、株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされた場合、その発行手続きには重大な法令違反があり、この瑕疵は株式発行の無効原因になる。

【コメント】

これまでの裁判例では、株式会社は、株主名簿の記載に基づいて名義株主に権利行使を認めれば、その者が真の株主でなかったとしても免責されるが、名義株主が無権利者であることについて悪意または重過失がある場合には、免責されないとの判断がなされています。本判決は、かかる判断を前提として、本件事案に則し、具体的な判断(主位的請求を認容)をしており、実務上参考になります。

【参照条文】

会社法130条(株式譲渡の対抗要件)
株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。
2 株券発行会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社その他の第三者」とあるのは、「株式会社」とする。

同法199条(募集株式の発行)
株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式(当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。
一~五 略
3~5 略

同法309条(株主総会の決議)
株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
一~四 略
五 第百九十九条第二項、・・・
六~一二 略
3~5 略

同法828条(会社の組織に関する行為の無効の訴え)
次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。
一 略
二 株式会社の成立後における株式の発行 株式の発行の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、株式の発行の効力が生じた日から一年以内)
三~十三 略
2 次の各号に掲げる行為の無効の訴えは、当該各号に定める者に限り、提起することができる。
一 略
二 前項第二号に掲げる行為 当該株式会社の株主等
三~十三 略

執筆者
藤岡 茉衣
アソシエイト/弁護士

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