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議決権行使書面の提出期限の定めの法令違反による株主総会決議取消しの訴えと裁量棄却の可否(令和3年4月8日東京地裁判決/金融・商事判例1646号10頁)

2022.10.25
S&W国際法律事務所

【事案の概要】

Y社は、その株式を東証一部市場に上場する株式会社であり、Y社のウェブサイト上には、営業時間を土日祝日を除く午前9時から午後5時20分までとする記載がされていた。Xは、Y社の株主である。
令和2年6月19日にY社定時株主総会(以下「本件総会」という。)が開催されたところ、本件総会の招集通知及び議決権行使書面は、6月4日に発送された。これら招集通知等には、当該議決権行使書面が会社に提出されることを要する期限を、会日の前日である6月18日の午後5時までとする記載がなされていた。そこで、Xは、議決権行使書面の提出期限に法令違反があると主張して、本件株主総会決議の取消しを求める訴えを提起した。

【判決要旨】

議決権行使書面の提出期限に法令違反があるというXの主張に対しては、裁判所は以下のとおり、法令違反は認めたうえで、裁量棄却した。


1.法令違反の点について
(1)会社は、株主総会の2週間前までに招集通知を発しなければならない(会社法(以下「法」という。)299条1項)。すなわち、株主総会の日と招集通知の発送日との間に14日間を置かなければならないことになる。他方で、議決権行使書面の行使期限については、原則として、株主総会の日時の直前の営業時間の終了時であるが(法311条1項、同施行規則(以下「規則」という。)69条)、取締役会は、招集の決定に際し、特定の時を議決権行使期限として定めることができる。もっとも、同期限は、株主総会以前の時であって、招集通知を発した日から2週間を経過した日以降の時に限られる(法298条1項5号、規則63条3号ロ)。したがって、会社が招集通知と議決権行使書面を同時に発送し、株主総会前日の特定の時を議決権行使書面の行使期限として定めた場合、上記各規定に違反しないためには、株主総会と招集通知及び議決権行使書面の発送日との間に15日間を置くことが必要になる。
(2)本件では、本件総会の招集通知が令和2年6月4日に発送されたところ、本件総会は同月19日午前10時から開催されることとされていたから、本件総会と招集通知及び議決権行使書面の発送日との間に14日間があった。他方で、議決権行使書面の行使期限は、本件総会の前日である同月18日の午後5時とされていた。
Y社の営業時間の終了時は午後5時20分であるから、それよりも早い午後5時を議決権行使書面の行使期限としたことは、規則63条3号ロの「特定の時」を定めたものであると認められる。したがって、議決権行使書面の発送日と株主総会との間に15日間を設けなかった本件総会の招集手続きは、議決権行使書面の行使期限に関する規定(法298条1項5項、規則63条3号ロ)に違反するものというべきである。

2.裁量棄却について
上記のとおり、本件総会の招集手続きの瑕疵は、株主の書面による議決権行使に関する権利を制限するものであり、看過することができないが、他方で、本件の議決権行使書面の行使期限(午後5時)は、「特定の時」を定めなかった場合の行使期限(午後5時20分)よりも20分短いに過ぎず、株主の議決権行使に与える影響が大きいとまではいえないこと、また午後5時をもって営業を終了することが我が国のビジネス慣習上広く見られることに照らし、瑕疵は重大ではないと認められた。また、上記20分間に到達した議決権行使書面がなかったことから、決議に影響を及ぼさないものであったと認められ、裁量で請求が棄却された。

【コメント】

本事案は、議決権行使書面の提出期限の法令違反が争われた稀な事案です。本事案においては、瑕疵の程度が小さくかつ決議に影響を及ぼさなかったことから裁量棄却とされていますが、短時間の違反でも、法令違反であることは認定されているため、実務においても、議決権行使書面の提出期限の設定については、細心の注意を払うべきと考えます。また、Y社が上場会社であったにも関わらず、裁量棄却が認められた点も含めて注目に値する判決であると考えます。

【参照条文】

法:会社法
規則:会社法施行規則

(株主総会の招集の通知)
法第二百九十九条 株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の二週間(略)前までに、株主に対してその通知を発しなければならない。

(書面による議決権の行使)
法第三百十一条 書面による議決権の行使は、議決権行使書面に必要な事項を記載し、法務省令で定める時までに当該記載をした議決権行使書面を株式会社に提出して行う。

(書面による議決権行使の期限)
規則第六十九条 法第三百十一条第一項に規定する法務省令で定める時は、株主総会の日時の直前の営業時間の終了時(略)とする。

(株主総会の招集の決定)
法第二百九十八条 取締役(略)は、株主総会を招集する場合には、次に掲げる事項を定めなければならない。
一、二 略
三 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
四 略
五 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項

(招集の決定事項)
規則第六十三条 法第二百九十八条第一項第五号に規定する法務省令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
一、二 略
三 法第二百九十八条第一項第三号又は第四号に掲げる事項を定めたときは、次に掲げる事項(略)
イ 略
ロ 特定の時(株主総会の日時以前の時であって、法第二百九十九条第一項の規定により通知を発した日から二週間を経過した日以後の時に限る。)をもって書面による議決権の行使の期限とする旨を定めるときは、その特定の時

(株主総会等の決議の取消しの訴え)
法第八百三十一条 次の各号に掲げる場合には、株主等(略)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。略
一 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。
二 、三 略
2 前項の訴えの提起があった場合において、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる。

執筆者
藤岡 茉衣
アソシエイト/弁護士

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