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ベンチャー法務の部屋

第三者委員会

テレビや新聞などの報道で、「第三者委員会」という言葉を耳にすることが増えました。

記憶に新しいところでは、関西電力の役員らが原子力発電所を巡って多額の金品を受け取っていた問題、日大アメフト部におけるタックル問題などで第三者委員会が設置され、調査が行われ、調査報告書が公表されています。

第三者委員会を設置する大きな目的は、企業や官公庁、地方自治体、独立行政法人あるいは大学、病院等の法人組織において、犯罪行為、法令違反、社会的非難を招くような不正・不適切な行為等が発生した場合に、同行為等について調査・検証を行うことで、不祥事によって失墜してしまった社会的信頼を回復し、再発を防止することにあります。

このような目的の実現のためには、なれ合いのおそれのある内部の調査・検証ではなく、企業等から独立した第三者である専門家による、客観性・中立性・専門性が確保された調査・検証を行うことが、より相応しいことから、第三者委員会が設置されることとなります。

第三者委員会は、法令によって設置が義務付けられているものではなく、あくまで企業等が任意に設置しているものです。また、第三者委員会の運営や権限に関しても法令に定めがあるわけではなく、第三者委員会は調査等について強制的な権限を持っているわけでもありません。なお、名称についても、「第三者委員会」という名称ではなく、「調査委員会」、「独立調査委員会」、「特別調査委員会」などと名付けられている場合もあります。

前述のとおり、第三者委員会は、設置された目的を実現するためにも、企業等から独立した立場で、公平・公正な調査、検証をすることが求められているものの、過去に設置された第三者委員会の中には、調査が杜撰であったり、企業等からの独立性が十分に確保されていないなどと批判を受けることもありました。

そのような状況を受け、日本弁護士連合会は、2010年7月に「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を公表しました。(なお、同ガイドラインは2010年12月に改訂されています)。

https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/100715_2.pdf

日弁連ガイドラインには、(i)第三者委員会の活動について、事実調査・認定・評価や調査報告書の開示、再発防止策等の提言に関する指針、(ii)第三者委員会の独立性・中立性についての指針、(iii)企業等の協力についての指針、(iv)公的機関とのコミュニケーションに関する指針、(v)委員等についての指針などが定められています。

日弁連ガイドラインには、拘束力はないものの、現在の第三者委員会のほとんどは、日弁連ガイドラインに準拠したものであるか、少なくとも日弁連ガイドラインを意識したものとなっていると言われており、2018年9月7日に公表されたスルガ銀行株式会社の調査報告書においても、当該第三者委員会は日弁連ガイドラインに準拠して構成されたものであり、その運営・調査の実施・調査報告書の作成等が日弁連ガイドラインに準拠したものである旨記載があります。

次回以降、引き続き、同ガイドラインの内容を少し詳しく説明したいと思います。

(文責:三村雅一)

2020年11月03日 07:12|カテゴリー:その他||コメントはまだありません

取締役の選任に係る株主間の契約や合意の有効性

1 はじめに

スタートアップ企業への投資に際しては、株主間契約や投資契約において、ベンチャーキャピタル(主にリード)側が、取締役1名の選任権を有する旨などと、規定していることが少なくありません。
この取締役選任権の趣旨は、取締役会の出席権を確保して、会社の業績や運営状況を把握し、適宜、コミュニケーションを図って、業績が想定通りに推移しているか、適切な会社運営がなされているかを確認しつつ、場合によっては企業価値向上のための適時適切なサポートにつなげたいということがあります。また、社外からの監視体制を維持することで、会社の体制が向上することへの期待もあるでしょう。

このような、取締役の選任についての株主間の契約や合意は、常に有効なのでしょうか。

2 検討

(1) 取締役の選任についての 株主間の契約や合意は、 株主総会における議決権を拘束する形で規定されます。
具体的な条文例として、

投資者は発行会社の取締役を1名指名する権利を有する。投資者がかかる権利を行使する場合、発行会社及び経営支配者は投資者が指名した者が取締役として速やかに選任されるために必要なあらゆる措置をとる。

といった形で規定されます。

かつては、議決権拘束契約は無効であるとの立場があったようですが、現在は、このような株主間の議決権拘束契約は有効であるとの立場が支配的であるとされています。

(2) ここでの「 株主間の議決権拘束契約は有効 」との意味は、いわゆる債権的効力として有効という意味です。

すなわち、当事者間では、拘束力があり、違反した場合には、債務不履行に基づく損害賠償請求ができる、という関係にはある一方で、合意内容に反した議決権行使がされたとしても議決権の効力自体には影響を及ぼしません。

(3) 実は、裁判例は、背景事業に応じて、判断が分かれています。
詳細は、割愛しますが、次のような事例で、 議決権拘束契約の法的拘束力を否定したものがあります。

取締役の選任につき、原告と被告の2人を代表取締役に選出するとの裁判外での和解が成立したとの背景事情がある事案で、

原告と被告の二人を代表取締役に選出するということで妥協点を見出して裁判外で和解し、右の訴訟等も取下げて紛争を解決したことが認められる。
原告は、右の和解によつて、被告が原告に対し、昭和四四年当時にあつても、原告が取締役に選出されるべく株主ないし取締役として行動すべき法的義務を負つていることを前提にして、被告の行為の和解契約違反を主張する。しかし、原被告各本人尋問の結果によれば、右和解に関しては何らの書面も作成されなかつたことが認められ、このことに照らすと、原告を(代表)取締役に選出するべく行動するといつても、これはせいぜい、いわゆる紳士協定といわれるものではないかと思われるし、かりに契約上の厳格な義務を定めたものであるにしても、その後一五年を経た昭和四四年当時にも存続しているとする原告の主張は採り得ない。そもそも、原被告各本人尋問の結果によれば、原被告を代表取締役に選出するというのは、当時生じていた前記紛争をその時点において解決するための方策であつて、暫定的な義務を定めたにすぎないとみるのが相当である。かりに、当事者間で将来に及ぶものと約束したとすれば、法が、取締役の選任を株主総会の専権事項とし(商法二五四条一項)、取締役の任期につき二年を超えることができないと定めている(同法二五六条一項)趣旨に反し、約束自体の効力が問題とされなければならない。原、被告らの内部的な問題としても、一五年も後において右約束に法的拘束力を認めることは相当でない。
結局、原告が和解違反をいう点はその前提を欠き失当というべきである。

東京地方裁判所昭和56年6月12日判決(昭和46年(ワ)第1283号 )

と判示し、法的拘束力を否定した裁判例があります。

一方、原審の議決権拘束契約の法的拘束力を否定する判断を覆し、議決権拘束契約を有効とした裁判例もあります。

東京高等裁判所 平成12年5月30日判決(平成11年(ネ)第5672号)は、以下のように判示しました。

右(1)の合意は、KSの株主総会において控訴人一夫と訴外春夫とをともに取締役として選任するよう議決権を行使すべきことを約束したものと解されるが、本来、株主がどのように議決権を行使するかは株主の自由であり、商法上、株主総会は株式数の多数によって決議される機関とされており、したがって、会社は多数の株式を有する株主によって支配されるものであるとされていることに鑑みると、株主が多数の賛成を得るために他の株主に働きかけて右のような合意をすることは、何らこれを不当視すべきものではなく、これが商法の精神にもとるものともいえないから 右の合意もまた有効であるというべきであり、控訴人一郎及び被控訴人は、KSの株主総会において右の合意に従った議決権を行使すべき義務を負うに至ったものというべきである。

東京高等裁判所 平成12年5月30日判決(平成11年(ネ)第5672号)

近時の裁判例( 東京地裁令和元年5月17日判決 )では、

本件取締役選任合意は、本件会社が新ビルを建築しようという場面において、新ビルに係る権利関係を確認した上で、その建築等を新たな取締役の下で促進すべく締結した契約書の中で、取締役の人選について具体的に定めたものであるから、法的拘束力を有するものと解するのが相当である。

としつつ、

以上によれば、本件取締役選任合意は、その文言や、新ビル契約書の他の条項、本件会社設立時の取締役選任についての合意との整合やその他諸般の事情に照らすと、B、C及びD(その指名された者を含む)がそれぞれ本件会社の取締役に選任されることを暫定的に合意したものと解するのも十分に可能であり、原告らが主張するように、それぞれの相続人の代に至った段階における本件会社の利益分配をも意識して、Q家とR家とから少なくとも1名ずつの取締役を選出する趣旨で本件取締役選任合意をしたとまでは認められないというべきである。

東京地裁令和元年5月17日判決

として、株主総会において取締役選任議案に賛成の意思表示を求めた原告の請求を棄却したものがあります(控訴)。

この事例の条文は、「Aビルデイング株式会社は本年5月迄に取締役を改選し、B、C、E(Dの代理人)の三名を新取締役に選任する。我々は今后、Aビルデイング株式会社の取締役は我々三名(その指名された者を含む)を互選する事に定めた。又取締役は累積投票で選任出来る如将来定款を改正する事を協議する。Eは取締役就任迄部長として勤務す。Dの代理人は日本人に限る。」というものであり、文言だけを見ても、確かに「 Q家とR家とから少なくとも1名ずつの取締役を選出する趣旨で本件取締役選任合意をしたとまでは認められない」という判断もやむを得ないように思います。

(4) 翻って、 スタートアップ企業への投資に際して締結される株主間契約や投資契約の、 取締役の選任についての株主間の契約や合意は、有効でしょうか。

当職の見解ですが、有効(債権的に有効)だと考えます。

一般に、 議決権拘束契約の法的拘束力は有効と考えられていることに加えて、その効力の時間的な範囲(期間)が、通常、上場までの間、又は投資家が株式を保有している間、などとして明確にされていることが通例であり、締結の趣旨とその範囲が明確になっていること等から、裁判になっても、有効と判断されるものと考えます。

(5) 上記の裁判例(東京地裁令和元年5月17日判決)の判例研究(金融商事判例No,1600)に、「現在の会社法の下では、本件のような事案においては種類株主総会により取締役・監査役を選任できる株式(108条1項8号)を利用すればよいのであろうが」(7頁)、との記載がありますので、この点は、実務的な観点を補足したいと思います。

確かに、 種類株主総会により取締役・監査役を選任できる株式(108条1項8号)を利用すれば、「 Q家とR家とから少なくとも1名ずつの取締役を選出する 」といった趣旨は達成できる可能性があります。

しかし、一方で、種類株式を利用すると、種類株式発行会社となり、募集株式の発行の際に、(定款で排除しない限り)発行する種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要するなど、その後の会社のオペレーションが煩雑になり、増資への拒否権の内容が想定と異なる事態が生じ得ることもあって、 種類株式発行会社となることを選択しないことが合理的なケースが少なくありません。

そもそも、様々な事態を想定して、種類株式を設計し、適切に定款に反映することは、容易なことではなく、種類株式の発行を熟知した法律の専門家の助言を得て作成することが強く推奨されます。

そうすると、本件のような事案では、わざわざ定款を変更して、種類株式を導入するといった動機は生じにくく、比較的容易に実現可能な議決権拘束契約が選択されることが多いといえます。

なお、 種類株式を利用することのメリットとして、単なる債権的効力のみではなく、相手方の行動に左右されることなく、着実に取締役を選任できるということを実現することができる点が挙げられます。ただ、このメリットも、取締役1名の選任のみと考えると、重要性が高い(種類株式を導入してまで実現したい)ものかというと、ベンチャー投資の場面に限って言えば、実務上は、それほどでもないことが多いように思います。

3 結論

以上のとおり、 取締役の選任についての株主間の契約や合意は、原則として有効であり、スタートアップ企業がVCと締結する投資契約や株主間契約に規定されている場合は、ほぼ間違いなく有効であると考えられます。

SNS等のアカウントで、会社の業務を行っていた取締役が、退職後にアカウントのパスワードを開示しなければならないか。

1 問題の所在

スタートアップ企業では、取締役や従業員が、フェイスブックやインスタグラム等のSNSの個人アカウントで、会社の業務執行の一環として、製品の画像をアップしたり、他のインフルエンサーとつながっていることなどがあります。また、SNSではなく、開発に関するアカウントを作成することもあります。取締役や従業員が退職した場合に、どのような場合にまでパスワードの開示義務を負うのでしょうか。特に、会社から支給されたメールアドレスでID登録し、会社の業務のみに使用していた場合(明白に会社の業務執行である場合)だけではなく、IDのメールアドレスが会社支給のものではなかったり、SNS上でプライベートと仕事の境目が判別しない関係性があったりする場合に、どのように判断できるのでしょうか。

2 裁判例

参考裁判例として、大阪高裁平成31年3月27日判決(平成30年(ネ)第1767号)があります。(時間の関係上、この問題について、関連する裁判例をくまなくチェックできているわけではありません。予めご了承ください。)

この事例は、ある取締役が,会社以外の業者のメールアドレスをIDとして、SNSにログインして、その取締役自身の写真や会社が販売していた商品等の写真を投稿していたところ,取締役を退任後,会社にアカウントのパスワードを開示しないため,会社がログインできないことなどから損害を受けたとして,その退職した取締役に対し,アカウントのパスワード開示及び損害賠償を求めた事例です。

この事件では、原審(大阪地裁:大阪地方裁判所 平成30年7月20日 判決(平成29年(ワ)第8880号))では、請求が棄却され、パスワードの開示も、損害賠償請求も認められませんでした。

しかし、控訴審である大阪高裁は,退職した取締役は本件アカウントを会社の業務の一環として開設・管理運営してきたものであり,委任契約終了に当たっての引継義務には本件アカウントの移管が含まれるとして,その退職した取締役に対し,本件アカウントのパスワードの開示,並びに広告媒体機能不使用による財産的損害として相当額の支払を各命じ,原判決を変更しました。

【参考裁判例からの抜粋】
1 事案の骨子
 本件は,訴外A(A社)との間で契約を締結して,訴外B(B社)との契約に基づき付与されたメールアドレス(本件メールアドレス)をA社に後記の個人識別子として提供してA社提供の画像共有ウェブサービス(本件サービス)を受けるとともに,本件メールアドレス利用者としてのアカウント(本件アカウント)を付与されていた被控訴人が,本件アカウントにログインして,自らあるいは仲間のラグビー選手の写真とともに,控訴人において「△△ ◇◇ □□」ブランドで販売していた商品等の写真も投稿していたものであるが,被控訴人が,控訴人の取締役退任後,控訴人に対し,本件アカウントのパスワードを開示しないため,これに起因して,控訴人が本件アカウントにログインして画像を投稿等の管理運営をすることができず,これら画像を自動的に共有閲覧することとなる不特定の利用者が減少し,これにより売上減少等の損害を受けたとして,被控訴人に対し,①取締役辞任に伴う報告義務ないし引継ぎ義務の履行として,本件アカウントにログインするためのパスワードを控訴人に開示すること並びに②上記①の義務不履行を原因として生じた売上減少等に対する損害賠償として,300万円の支払及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成29年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

(中略)
3 争点1(本件アカウントの委任契約上のパスワード開示義務の存否) 
(1) 委任契約上の義務の存否について 
ア 本件アカウントの利用者たる地位
  前記2の本件サービスの概要に照らせば,A社に対する関係において,本件アカウントは,その利用者たる地位は,これを開設し,そのメールアドレスを提供した被控訴人に帰属するものといわざるを得ない。
イ 本件アカウントの管理について
  他方,本件アカウントは,控訴人の業務に関連するものであることは外形的に明らかであり,次の事実を総合すると,被控訴人は,本件アカウントを控訴人の業務の一環(広報や販売促進の手段)として,開設し,管理運営してきたというべきであるから,被控訴人の控訴人に対して負う委任契約の終了に当たっての引継義務には,本件アカウントの移管が含まれるというべきである。

(以下、略)

大阪高等裁判所平成31年3月27日判決(平成30年(ネ)第1767号)

3 ポイント

上記参考裁判例では、「本件アカウントは,その利用者たる地位は,これを開設し,そのメールアドレスを提供した被控訴人(著者注:退職した取締役)に帰属するものといわざるを得ない。」としながらも、「控訴人(著者注:会社)の業務に関連するものであることは外形的に明らかであり,次の事実を総合すると,被控訴人 (著者注:退職した取締役) は,本件アカウントを控訴人 (著者注:会社) の業務の一環(広報や販売促進の手段)として,開設し,管理運営してきたというべきであるから,被控訴人 (著者注:退職した取締役) の控訴人 (著者注:会社) に対して負う委任契約の終了に当たっての引継義務には,本件アカウントの移管が含まれる」として、委任契約の終了に伴う引継義務の一環として、開示義務や損害賠償義務が認められています(但し、裁判所の判断として明示的に、これらの条文を根拠としたとされているわけではありません。)。

なお、本裁判例では、控訴人は、取締役辞任に伴う報告義務ないし引継義務の法的根拠を、会社法330条,民法645条、本件アカウントの移管義務の法的根拠を、民法646条2項に求めています。

会社法330条
 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。
民法645条
 受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
民法646条2項
 受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。

本件では、「次の事実を総合すると,」という文言があるように、事例における細部の事実関係が総合的に考慮されており、他の事実関係を前提とした場合に、どこまで適用できるかは、必ずしも明らかではありません。

実際に考慮された要素として、アカウントのユーザー名が会社の商標(出願登録)と同じ点、フランチャイジー店舗のSNSのアカウントのユーザーネームを本件アカウントのユーザー名を含むものとなるよう指示していた点、本件アカウントの閲覧により最初に現れる画面に表示される会社の公式ウェブサイトのトップページ(ホームページ)へのハイパーリンクが設定されている点などが挙げられています。

筆者の私見を述べると、全くの個人アカウントであれば、パスワードの開示は認められないものの、会社の業務に必要なアカウントや業務の一環として管理運営されてきたアカウントであれば、仮にアカウントに関する契約の当事者が個人であったとしても、引継ぎ義務の対象になる可能性が高く、退職した取締役や従業員は、アカウントの適切な引継ぎを拒絶した場合は、損害賠償義務や開示義務を負うことがありうると考えます。ただ、会社側も、このような事態を招かないようにするために、予め、会社の業務で使うアカウントを明確にした上で、パスワードも、会社で把握する等の措置をとっておいた方がよいでしょう。(なお、上記参考裁判例では、退職した取締役は、取締役兼代表取締役であったようであり、このような措置をあらかじめ採ることは難しかったと思われます。)

(文責:森 理俊)

ジョブ型雇用

昨今、各種の報道等で、ジョブ型雇用という言葉を、目や耳にする機会が多いかと思います。

ジョブ型雇用とは、どのような雇用形態を指すのでしょうか。

記事等の内容からは、統一された定義は存在しないように思います。

厚生労働省の規制改革会議が公表した「ジョブ型正社員の雇用ルール整備に関する意見」(平成25年12月5日付け)では、ジョブ型正社員について、「職務、勤務地、労働時間いずれかが限定される正社員」と定義しています。

また、日本経済新聞電子版朝刊(2020年9月2日付け)では、「職務を明確にした上で最適な人材を配置する欧米などで一般的な雇用形態。終身雇用を前提に会社の一員となった社員が様々な職責を負う日本の「メンバーシップ型」雇用と対比される概念。労働時間ではなく、職務に対する成果や目標の達成度合いで賃金が決まる。欧米ではその職務がなくなったり、能力が不足したりした場合、雇用契約を解除されるケースが多い。」と記載されています。

このジョブ型雇用を導入する目的は、専門性に特化したプロフェッショナルな労働力の確保、子育てや介護等の関係から転勤を望まない正社員としての労働力の確保等であると考えられます。

昨今、ジョブ型雇用について、コロナ対策で、リモートワーク・テレワークが増加し、定着してきたことから、アフターコロナでは、ジョブ型雇用が増える(または増やすべき)といった内容が多いように思います。

たしかに、リモートワーク・テレワークのみを行う従業員について、「勤務地や勤務方法が限定された正社員」との観点から、ジョブ型雇用であると評価することも可能であるとは思います。しかしながら、本来、ジョブ型雇用は、多様な働き方に関する制度であり、必ずしもリモートワーク・テレワークとは関係がない制度です(現に、上記の規制改革会議の意見書は平成25年に作成されています。)。

個人的には、現在のジョブ型雇用に関する議論は、どちらかというと、ジョブ=職務を限定し、その職務と従業員との関係性を重視するものが多いように感じています。一般に、ジョブ型雇用では、ジョブディスクリプション(職務記述書)を作成して、従事すべき業務を明確にすることが予定されています。

そうだとすると、そのジョブディスクリプションに記載された業務が会社から無くなった場合、どのような対応をすべきなのでしょうか。上記の日経電子版の記事では、「欧米ではその職務がなくなったり、能力が不足したりした場合、雇用契約を解除されるケースが多い。」と紹介されています。

しかしながら、現在の日本の労働法では、会社が、正社員について雇用契約を解除(=解雇)した場合に、解雇の有効性を維持できることは多くありません。

会社と従業員ではなく、職務と従業員の結びつきを重視することを、ジョブ型雇用とするのであれば、会社内にその職務が存在しなくなった場合等に、会社と従業員との関係を、どのような設計にするのかについての十分な議論が重要です。具体的には、期間の定めのある雇用契約を活用したり、ジョブディスクリプションの記載方法に工夫する等の方策が考えられます。

ジョブ型雇用等の新たな制度を導入し、多様な労働力の確保をすることや、労働力の有効活用をすることは、本来、労使双方にとって有益であるはずです。社会全体にとっても、適切に、ジョブ型雇用が導入され、活用されることは、有益であり、個人的にも良いことであると考えています。他方、導入に際しては、当然ながら、現行の法制度に抵触してはなりませんし、現行の就業規則等の社内規定の修正が必要となることもありますので、慎重な検討が必要です。

当事務所では、ジョブ型雇用の導入に関するご相談はもちろん、労務面の法令適合性の確認(労務デュー・ディリジェンス)等のサービスも提供しておりますので、関心がおありの方は、お問い合わせください。

(文責:藤井宣行)

2020年09月23日 13:44|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス,企業法務||コメントはまだありません

大会社への移行は何が問題か

1 はじめに

ベンチャー企業が増資を繰り返して、資本金が5億円以上となることがあります。
資本金が5億円以上となる場合に気をつけなければならないのが、「大会社」に該当することに伴い、会社法上の義務が増える点です。

今回は、この大会社に該当することの問題について、検討します。

2 大会社とは何か。

「大会社」の定義は、会社法第2条第6号に規定されています。

会社法第2条第6号
大会社 次に掲げる要件のいずれかに該当する株式会社をいう。
イ 最終事業年度に係る貸借対照表(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、同条の規定により定時株主総会に報告された貸借対照表をいい、株式会社の成立後最初の定時株主総会までの間においては、第四百三十五条第一項の貸借対照表をいう。ロにおいて同じ。)に資本金として計上した額が五億円以上であること。
ロ 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が二百億円以上であること。

簡単に申せば、定時株主総会で承認される貸借対照表において、資本金が5億円以上となるか、負債が200億円以上となると、その承認を決議をする定時株主総会以降、大会社となり、会社法上の種々の義務を負います。

3 大会社へ移行することで生じる問題


(1) 会計監査人
公開会社でであるか否かにかかわらず、大会社は会計監査人を置かなければなりません(会社法第328条)。
会計監査人を設置するためには、まず、監査法人等と監査契約を締結する必要があります。 小さいベンチャー企業であっても、 コストは、年間で最低数百万円から必要となり、決して馬鹿になりません。
なお、会社法上の会計監査人設置の手続きは、株主総会の決議による会計監査人を設置する旨の定款変更と、会計監査人の選任です。

また、会計監査人設置会社になることに伴って、監査役の監査の範囲を会計監査に限定することはできなくなります(同法第389条第1項)。そのため、 監査役の監査の範囲を会計監査に限定している場合は、会社法上 、株主総会の決議で、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを廃止する旨の定款変更と、監査役選任の決議が必要となります(同法第336条第4項第3号)。

(2) 内部統制システム
大会社の取締役会は、いわゆる内部統制システムの整備にかかる決定をしなければなりません(会社法第362条第4項第6号、第5項)。

(3) 公告義務の加重
株式会社は、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表を公告しなければなりませんが、大会社は、さらに、損益計算書も公告しなければなりません(会社法第440条第1項)。なお、いわゆる継続開示会社は、この公告義務を負いませんが(同条第4項)、その代わり、 大会社で、且つ継続開示会社は、連結計算書類を作成しなければなりません(同法第444条第3項)。

4 大会社になることを回避する方法

大会社になることを回避するためには、年度末までに資本金を5億円未満にすれば、足ります ( なお、ほとんどの未上場ベンチャー企業の負債額は200億円未満と思われますが、もし負債額が200億円以上であれば、負債額を200億円未満に減らすことも必要です。) 。

資本金を減らすためには、株主総会を開催し、資本金の額の減少を決議(会社法第447条)する必要があります。

(文責:森 理俊)

SDGsのチャンスとリスク

去る8月6日に、株式会社日本総合研究所と当事務所の主催、三井住友銀行(中国)有限公司深圳支店の後援で、「SDGsのチャンスとリスク」という題目でオンラインセミナーを開催しました。

当日は、日本国内の企業のみならず、日本企業の中国現地法人の方々を含め、約50名の方々にご参加頂きました。

今回のセミナーは、日本企業が中国を含む、海外の主要拠点において、本業を通じてどのように現地のサステナビリティに貢献し、SDGs達成のための取り組みをどのようにビジネスチャンスとするのか、またSDGsに取り組まないことで発生するリスクを知り、そのリスクをどのように予防するのかという点についてお話をしました。

SDGsが共通言語化してきた現在、企業がSDGsを本業に取り込み、環境・社会的課題の解決に資する製品やサービスを提供できれば、新たなビジネスチャンスに繋げることができます。

他方で、SDGsは世界共通の達成目標として企業にとってのコンプライアンスの内容の1つとなっており、企業がSDGsに逆行する行動をとった場合、顧客からの取引停止や投資・融資の引き上げを受けるリスク、企業価値毀損のリスクに繋がります。

世界的にも、2020年4月末に欧州委員会の司法担当のコミッショナーが、企業に対しサプライチェーンを通じた人権・環境DDを義務付ける法案を提出する予定があることを発表するなど、サプライチェーンに対する環境・社会配慮の要請が拡大しています。

また、日本においても、コーポレートガバナンス・コードにおいて、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題の対処及び内部通報制度の整備のいずれに関しても、取締役が取り組むべき旨が規定されています。

【原則2-3】社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題

上場会社は、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティ(持続可能性)を巡る課題について、適切な対応を行うべきである。

【補充原則2-3①】

取締役会は、サステナビリティ(持続可能性)を巡る課題への対応は重要なリスク管理の一部であると認識し、適確に対処するとともに、近時、こうした課題に対する要請・関心が大きく高まりつつあることを勘案し、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討すべきである。

さらに2020年は、日本政府の「ビジネスと人権に関する行動計画」(National Action Plan)の発表が予定されています。日本政府はこの計画における優先分野として、「国内外のサプライチェーンにおける企業の人権尊重を促進する仕組みの整備」及び「救済メカニズムの整備及び改善」を挙げています。( https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000502531.pdf

このように、世界だけでなく、日本においてもサステナビリティすなわちSDGsを意識した経営が求められるようになっています。

先ほど述べたように、企業がSDGsに逆行する行動をとった場合、コンプライアンス違反、ひいては取締役の責任を問われる事態が生じかねません。したがって、このSDGsの分野においても弁護士の果たすべき役割は大きくなると考えています。

これからのウィズコロナ、アフターコロナの時代においてもますます大切となる「SDGs」の考え方について、今後も広くセミナーを行う予定にしています。規模を問わず、出張セミナー等にも対応させて頂きますので、気軽にお問い合わせ下さい。

(文責:三村雅一)

2020年08月12日 19:34|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス,企業法務||コメントはまだありません

法務局における遺言書の保管等に関する法律

 2018年7月6日、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(以下「遺言書保管法」といいます。)が成立しました。この法律は、民法の相続法の改正にあわせる形で制定されたもので、簡単に言うと、法務局に自筆証書遺言を預けることができる制度を設けるものです。そして、この遺言書保管法が、2020年7月10日に施行されました。

 この制度の創設には、自筆証書遺言に係る遺言書は、遺言者が作成した後に自宅で保管されることが多いところ、そもそも遺言書が発見されないことがあること、遺言書が紛失するおそれがあること、相続人により遺言書の廃棄、隠匿、改ざんが行われるおそれがあること、そしてこれらの問題によって相続をめぐる紛争が生じるおそれがあること、という背景がありました。

 この点、公正証書遺言については、遺言書の原本は公証役場で保管されることから遺言書の紛失や相続人による遺言書の廃棄、隠匿、改ざんが行われるおそれはありません。また、遺言者が死亡した後、相続人などの関係人であれば遺言検索システムによってその存否等の照会が可能であることから、遺言書が発見されないというおそれもありません。

 このように、公正証書遺言であれば、上記問題点をクリアできるのですが、公正証書遺言の作成については、財産によっては費用が高額化することや、公証人とのやり取り、原則として公証役場に出向く必要があること、証人2名を準備することといった手間もかかるという難点もあります。(※今回の自筆証書遺言書保管制度の手数料一覧を文末に記載します。)

 経営者におかれましては、事業承継の問題とも関連し、遺言は一つの大きなテーマとなります。これまでは、上記問題点があったことから公正証書遺言を選択されることが多かったと思いますが、今回の遺言書保管法によって、自筆証書遺言に係る遺言書の上記問題点についてどのような解決が可能となったのかを紹介します。

1 遺言書の保管の申請

・遺言者は、法務局の遺言書保管官に対し、自筆証書による遺言書の保管の申請をすることができます(遺言書保管法第4条第1項)。

・遺言者は、いつでも保管の申請を撤回でき(遺言書保管法第8条第1項)、遺言書の閲覧をすることができます(同法第6条第2項)。

※但し、保管の申請をすることのできる遺言書は、法務省令で定める様式(法務局における遺言書の保管等に関する省令第9条 別記第1号様式)に従って作成した無封のものでなければならない(遺言書保管法第4条第2項)ので、注意が必要です。

2 遺言書の保管・情報の管理

・遺言書保管官は、遺言書を遺言書保管書(法務局)において保管する(遺言書保管法第6条第1項)とともに、その画像情報を記録するなどして遺言書に係る情報を管理します(同法第7条)。

3 遺言者の死亡後の手続(遺言書情報証明書の請求等)

・遺言者の死亡後には、相続人等は、遺言書情報証明書の交付請求(遺言書保管法第9条第1項)、遺言書の閲覧をすることができます(同法第9条第2項)。

・その際、遺言書保管官は、他の相続人等に遺言書を保管している旨を通知します(同法第9条第5項)。

※なお、遺言書情報証明書の交付等の請求権者については、遺言書保管法第9条第1項に列挙されています。さらに、列挙された者に類するものとして、遺言書保管法第9条第1項第2号チの政令に定める者については、法務局における遺言書の保管等に関する政令第7条に、遺言書保管法第9条第1項第3号トの政令に定める者については、法務局における遺言書の保管等に関する政令第8条に規定されています。

4 遺言書の検認手続の不要

・遺言書保管書に保管されている遺言書については、家庭裁判所における検認(民法第1004条第1項)が不要です(遺言書保管法第11条)。

 このように、今回の遺言書保管法では、自筆証書遺言に係る遺言書の上記問題点について一定の解決策が設けられていることが分かります。

 もっとも、同制度は、自筆証書遺言書の内容の正確性や、遺言者の遺言能力まで担保するものではありません。

 自筆証書遺言を預かる遺言書保管書(法務局)では、遺言の内容について確認をすることはなく、相談に応じることもありません。あくまで、本人確認(遺言書保管法第5条)や、遺言書の方式について外形的な確認(書式、日付及び氏名の自署、押印の有無等)を行うにとどまります。

 したがって、相続開始後の紛争の防止という目的を達成するためには、今回の遺言書保管法に基づく制度が開始された後も、遺言の作成を検討される方におかれましては、一度専門家にご相談されることをおすすめ致します。

(自筆証書遺言書保管制度の手数料一覧)

申請・請求の種別 申請・請求者 手数料
遺言書の保管の申請 遺言者  一件につき,3900円
遺言書の閲覧の請求(モニター) 遺言者 
 関係相続人等
 一回につき,1400円
遺言書の閲覧の請求(原本) 遺言者
 関係相続人等
 一回につき,1700円
遺言書情報証明書の交付請求 関係相続人等  一通につき,1400円
遺言書保管事実証明書の交付請求 関係相続人等  一通につき,800円
申請書等・撤回書等の閲覧の請求 遺言者
 関係相続人等
 一の申請に関する申請
 書等又は一の撤回に関
 する撤回書等につき,
 1700円

(法務省HPより http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00010.html

(文責:三村雅一)

2020年07月17日 19:39|カテゴリー:その他||コメントはまだありません

公益通報者保護法の改正について

令和2年6月8日、公益通報者保護法の一部を改正する法律が成立し、同月12日に公布されました。この法律は、公布の日から2年以内に施行されます。
本改正により、企業においては、内部通報制度の構築や、すでに構築済みの内部通報制度のアップデートが必要となる可能性がありますので、法及び改正の概要について、以下で解説します。

1.公益通報者保護法の概要
(1)適用例
ある会社の従業員であるAは、偶然、自社の商品が、食品衛生法の定める基準を満たさないまま販売されていることを知りました。Aは慌てて、勤務先が社内に設けている通報窓口に、その内容を伝えたのですが、直後、会社から解雇処分を言い渡されてしまいました。
このような場面において、Aの解雇処分は無効であることを定めるのが、公益通報者保護法です。すなわち、この法律は、「公益通報」を行った労働者が、公益通報を行ったことを理由とした解雇等の「不利益な取扱い」を受けることを禁止しています。

(2)公益通報とは
公益通報とは、①労働者が、②労務提供先の不正行為を、③不正の目的でなく、④一定の通報先に通報することをいいます。
このうち、④通報先としては、勤務先や社内ヘルプラインのほか、一定の行政機関、報道機関、労働組合等が想定されています(なお、通報事実の根拠資料の有無等により、通報可能な範囲は異なります。)。

(3)不利益な取扱いとは
労働者が、(2)記載の公益通報をした場合、公益通報をしたことを理由とする解雇は無効です。また、降格や減給、退職の強要等、解雇以外の不利益な取扱いをすることも禁止されています。

2.今回の改正の概要
(1)事業者がとるべき措置
従業員数が300人以上の事業者に対し、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等(窓口設定等)が義務付けられました。また、これに違反する事業者に対しては、公表を含む行政措置が導入されています。
従業員数が300人以下の中小事業者については、必要な体制の整備等は努力義務とされますが、実効性確保のための行政措置は、中小事業者も対象とされています。
加えて、公益通報対応業務従事者に対し、通報者を特定する情報の守秘義務が規定されました。同義務違反は、30万円以下の罰金となります。

(2)保護対象の拡大
通報者として、労働者に加え、退職後1年以内の退職者、及び役員が追加されました。
また、通報対象事実に過料の理由とされる事実が追加されたほか、事業者が公益通報によって損害を受けたことを理由とする通報者の損害賠償責任が免除されました。

(3)行政機関・報道機関等への通報条件の緩和
現行法では、行政機関へ通報を行うためには、通報対象事実の相当の根拠が必要とされていたり、報道機関等へ通報を行うためには、個人の生命または身体に危害が発生していること等が必要とされていたりしましたが、本改正により、これらの要件が一部緩和されました。

3.コメント
以上見てきたとおり、本改正は、公益通報により企業不祥事が明るみに出ることが、国民生活の安心・安全を守り、また企業の自浄作用を促進するとして、労働者が公益通報を行いやすくすることを主な目的として行われました。
企業にとっては、本改正を踏まえて、内部通報制度の構築が必須となる可能性があります。すなわち、一部の事業者については体制整備等が義務付けられたことに加え、外部への通報のハードルが下げられたため、充実した内部通報制度の整備や社内への周知がなければ、不祥事が容易に外部へ告発されてしまう事態も想定されます。通報者の匿名性の確保についても、事前の検討が必要です。
また、すでに内部通報制度を整備している企業であっても、本改正を踏まえ、関係規程等を再度見直す必要があります。

当事務所においては、内部通報対応業務、内部通報に関する諸規定の作成や見直しについて取り扱っています。内部通報制度の構築についてご検討の場合は、https://www.swlaw.jp/contact/ にお問い合わせください。

(文責:和田眞悠子)

2020年07月13日 12:47|カテゴリー:その他||コメントはまだありません

インターネット上の表現をめぐる法的問題

1 はじめに

近時、テレビに出演していた方が、インスタグラム等のSNS上で、一般の不特定多数の者から、テレビ番組の内容に関連し、誹謗中傷を受け、急逝したとされる報道がありました。

この報道後、ネット上の誹謗中傷への規制強化が法整備によって進めるべきという論調が高まり、実際、そのような動きがあるとのことです。

このニュースでは、さまざまに考えさせられることがありました。
その中で、今回、民間のSNS等のプラットフォーム上でなされた表現への規制について、論点を整理し、SNS事業者がとるべき姿勢についても若干の考察を加えてみたいと思います。

2 表現の自由に対する規制

表現の自由は、日本国憲法第21条第1項に明示的に保障されています。したがって、誹謗中傷と評価されうるようなものであっても、これを規制するには、それ相応の合理性が必要であり、また、その合理性の中身も類型化等の議論が十分になされる必要があり、安易に理由があるからといって表現への規制を強めてよいというものではありません。

実際の、表現への規制としては、(ここでは、公権力によるものか、民間のプラットフォーム事業者によるものかを区別しないとすると)

内容面に注目すれば、
・他の権利を侵害するものへの規制(名誉、プライバシー権等への権利侵害行為や犯罪行為などの他、運営の妨害を導くものやウイルスプログラムの送信行為など)
・いわゆるパターナリスティックな制約(わいせつ表現規制、児童ポルノ規制など)
・政治的社会的に不適切と考えられている類型の表現への規制(人種や障碍の有無等への差別用語の規制等)
・社会的利益への配慮から生じる規制(営業的表現への景観配慮の観点からの規制など)
が考えられ、

方法面について、分類するとすれば
・公権力による規制か、民間事業者による規制か
・公権力による規制の中で、直接規制(さらに表現内容規制や表現内容中立規制か)か、民間事業者によるプラットフォーム運営を規制することによる規制か
・ 民間事業者による規制の中で、純粋な自主規制か、いわゆる共同規制(法令や行政指導などで一定の枠づけを行い、事業者がその範囲内で自主的な規制を行う場合)
・事前規制か事後規制か(公権力による規制と民間事業者による規制のいずれでも生じる。)
・刑事罰か民事上の損害賠償請求、差止請求、削除請求か
等の分類方法が考えられるでしょう。

「事前規制」は、従前、新聞、雑誌その他の出版物や放送等の表現物がその自由市場に出る前に抑止するような場合が想定されていますが、いわゆるアーキテクチャによる規制も、この事前規制に含まれるでしょう。 アーキテクチャによる規制は、何らかの主体の行為を誓約し、またはそれを可能にする物理的・技術的構造によって規制することであり、インターネット関係では、一定の用語や画像について、入力したり、アップロードしたりすることをできなくする仕組みが取り入れられています。児童ポルノブロッキングが典型例と言えます。

これらの区分は、ざっくりとしたものであり、必ずしも、憲法学等で議論されている厳密な分類ではないことは、ご了承ください。

今、議論されているのは、発信者情報開示をよりスムーズにできるようにするという議論は、 民間事業者によるプラットフォーム運営を規制すること等の方法で、事後的な、民事上の損害賠償請求、差止請求、削除請求や、刑事告訴等を、よりスムースに行うことで、 名誉棄損等を減らそうというものになると分類できるでしょう。

3  SNS事業者がとるべき姿勢

2017年1月31日のグーグル検索結果削除請求事件の最高裁決定を深掘りすることは、ここでは重いテーマですので、他に委ねますが、今もって、検索結果の削除を含め、ネット上の情報の削除義務を課すとは、法的にどのように理解すればよいか、については、はっきりしていない部分があり、今後の議論にゆだねられている問題であるように思われます。

一つ言えるのは、自主的な アーキテクチャによる規制や削除が過度であるとして、違法と評価されている例はないと思われる反面、SNS事業者が放置した表現については、(それがある程度、表現の自由として保護されるとしても)その後に、削除要請への自主的対応や発信者情報開示等への対応もあり、それ相応の手間と社会的配慮が必要になります。

実際上は、
・利用規約における禁止事項への反映
・アーキテクチャによる規制
・削除要請・退会要請のプラットフォーム
・「ブロック」機能等の充実
・ 利用規約等における開示要請への対応への同意取得
などが考えられるでしょう。

SNS事業者は、 その規模の拡大とともに、積極的に、上記の方策を導入しつつ、具体的に規制対象とすべき内容をどのようなものとすべきか、という点について、社会情勢を踏まえて、検討をし続けるということは、今後、ますます求められていくだろうと思われます。

4 その他

一部の意見では、匿名による表現は、表現の自由の埒外とすべき、といった議論も見受けられます。しかし、そもそも何をもって、匿名というのか、という議論は難問です。しかも、匿名というだけで、一切、表現の自由の埒外とすることは、表現の自由への規制としては、過度に広範ではないかと思われ、さらに、実際に、例えば、SNS事業者は、匿名での発言を禁じる旨の規定を利用規約に置き、これに違反するものを発見した場合は、退会させないといけない等といった、間接規制を設けたとしても、どれほど実効的に防げるのかは、別の問題として浮上してくると思われます。

さらに、従前からある別の問題として、日本国憲法第21条第2項で「 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。 」と定められていることをうけて、電気通信事業者は、「電気通信事業者の取扱中に係る通信は、検閲してはならない。」(電気通信事業法第3条) 「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。」 (電気通信事業法第4条第1項) として、検閲の禁止や、通信の秘密を守る義務が課せられています。このことと、SNS上のコミュニケーションに対する直接規制、特にダイレクトメール等の内容に基づいて規約違反等として、強制的に退会させることやアーキテクチャによる規制が、どの程度許されるのかといった論点は、難題であり、ここでは、取り上げきれない問題として残っていると思われます。

以上、本稿は、筆者の個人的見解であって、所属するS&W国際法律事務所その他の団体を代表する見解や意見ではないことを、ご了解ください。

参考文献:曾我部真裕著『インターネット上の表現をめぐる法的問題について』(「司法研修所論集2019(第129号)」(司法研修所)45頁以下)、芦部信喜著「憲法第五版」(岩波書店)

(文責:森 理俊)

2020年06月27日 13:35|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス||コメントはまだありません

ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について その3

これまでコロナ禍下での株主総会運営について、2度取り上げました。

「ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について」

「ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について その2」

今回は、これまでの情報の更新を踏まえて、以前にご紹介した内容をアップデートします。

第1 省庁から発出された情報の更新状況


1 株主総会に関する法務省・経済産業省から発出されたものが更新されています。
「ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について その2」の作成時点である2020年4月6日から、「株主総会運営に係るQ&A」も更新されています。

また、法務省は、 令和2年5月15日、 令和2年2月28日付け「定時株主総会の開催について」を更新しました。 

「商業・法人登記事務に関するQ&A」も、令和2年5月1日に更新されています。

2  「株主総会運営に係るQ&A」の更新内容
「株主総会運営に係るQ&A」(令和2年4月2日 経済産業省 法務省(令和2年4月14日更新)(令和2年4月28日最終更新))

更新された内容の主な点は、「株主等の健康を守り、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主の来場なく開催することがやむを得ないと判断した場合には、その旨を招集通知や自社サイト等において記載し、株主に対して理解を求めることが考えられます。」という部分です。
要するに、 新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、オンラインのみでの開催がやむを得ないとの判断は、適法と判断される可能性があると考えられ、その際には、株主総会招集通知や自社のウェブサイトで、丁寧に理解を求め、参加方法や議決権行使などを案内することが望ましいと考えられる、というものです。
従前だと、結果的に、会場に事実上株主が出席していなかったとしてもよいという表現であったために、実際の出席は、かなり限定することはできるものの、予め「0人」、すなわちオンラインのみとすることは、難しいというようにも読めました。そのため、出席者を1人に限定し、経営株主が独占するという方法でもよいのか、仮にそうだとして、招集通知に「1人」と記載して、出席できる風を装うのは、ナンセンスではないか、といった疑問が生じたと思われます。そこで、法務省としては、「0人」、すなわちオンラインのみでもよいということを明確にしたのだと推測されます。
なお、これまでと同様、あくまで、法務省の見解ですので、裁判所の判断を拘束するものではない点には留意が必要です。ただ、私見として、裁判所も、これに準じた判断をする可能性は高いと予想します。
これを踏まえると、前回案内した【招集通知の文言の例】に、「当社は、当日、株主総会にお越しになる株主様を●名に限定させていただく予定であり、実際に来場する予定がある場合には、●年●月●日までに、●宛にご連絡ください。」という表現を記載しておりましたが、この部分は、外してもよいということになります。
外出自粛要請の状況も流動的であり、文言をシンプルにする変更もしています。

【招集通知の文言の例】

 さて、今般当社[第●回定時/臨時]株主総会を下記のとおり開催致しますので、ご出席下さいますようご通知申し上げます。また、本株主総会の付議事項の決議には、法令及び定款に基づく定足数を満たす株主のご出席を必要と致しますので、当日ご出席願えない場合は、お手数ながら後記の参考書類 をご検討いただいて、同封の委任状用紙に賛否をご明示賜り、ご捺印の上、折返しご送付下さいますようお願い申し上げます。

 ところで、昨今の、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、当社は、株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保された形でのオンラインを通じた出席を可能とするよう、準備しており、実際の会場への出席はお控えいただくこととさせていただきました。具体的には、当日、~~(URL等のオンライン参加方法)の方法で、ご出席下さい。株主の皆様におかれましては、同感染症への感染拡大防止の観点から、オンラインを通じた出席のみとさせていただくことに、ご理解をいただきますようお願い申し上げます。

(筆者の私案であり、裁判所で適法と認められることを保証するものではありません。)

第2  定時株主総会の開催時期や基準日について


定時株主総会の開催時期や基準日について、法務省のウェブページによると、以下のとおりです。一部、割愛しています。

■■■引用開始■■■

1 定時株主総会の開催時期に関する定款の定めについて
 定時株主総会の開催時期に関する定款の定めがある場合でも,通常,天災その他の事由によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じたときまで,その時期に定時株主総会を開催することを要求する趣旨ではないと考えられます。
 したがって,今般の新型コロナウイルス感染症に関連し,定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には,その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるものと考えられます。なお,会社法は,株式会社の定時株主総会は,毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないと規定していますが(会社法第296条第1項),事業年度の終了後3か月以内に定時株主総会を開催することを求めているわけではありません。
 
2 定時株主総会の議決権行使のための基準日に関する定款の定めについて
 会社法上,基準日株主が行使することができる権利は,当該基準日から3か月以内に行使するものに限られます(会社法第124条第2項)。
 したがって,定款で定時株主総会の議決権行使のための基準日が定められている場合において,新型コロナウイルス感染症に関連し,当該基準日から3か月以内に定時株主総会を開催できない状況が生じたときは,会社は,新たに議決権行使のための基準日を定め,当該基準日の2週間前までに当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を公告する必要があります(会社法第124条第3項本文)。
 
3 剰余金の配当の基準日に関する定款の定めについて
 特定の日を剰余金の配当の基準日とする定款の定めがある場合でも,今般の新型コロナウイルス感染症に関連し,その特定の日を基準日として剰余金の配当をすることができない状況が生じたときは,定款で定めた剰余金の配当の基準日株主に対する配当はせず,その特定の日と異なる日を剰余金の配当の基準日と定め,当該基準日株主に剰余金の配当をすることもできます。なお,このように,剰余金の配当の基準日を改めて定める場合には,2の場合と同様に,当該基準日の2週間前までに公告する必要があります(会社法第124条第3項本文)。

○ 参考情報  

(一部、割愛)
4 「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」の公表について
 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会は,令和2年4月15日,「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」を公表しました(金融庁ホームページ を御覧ください。)。
 これは,新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて,3月期決算業務及び監査業務に大きな遅延が生じる可能性が高まっていることを踏まえ,通常6月末に開催される株主総会の運営等についての同協議会の考えを示したものです。
 また,続行の決議(会社法第317条)によりいわゆる継続会を開催する場合における留意点等については,「継続会(会社法317条について) 」【PDF】も御覧ください。

5 新型コロナウイルス感染症に関連した商業・法人登記における取扱いについては,「商業・法人登記事務に関するQ&A 」を御覧ください。

6 令和2年5月15日,会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令(法務省令第37号)が公布され,同日から施行されました(本省令の内容はこちら【PDF】)。本省令は,新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ,本省令の施行の日から6か月以内に招集の手続が開始される定時株主総会に限り,単体の貸借対照表や損益計算書等をいわゆるウェブ開示によるみなし提供制度の対象に含めることとするものです。
 本省令の内容等については,「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令(令和2年法務省令第37号)について」【PDF】も御覧ください。  
■■■引用終わり■■■

6は、時限的に、単体のBS及びPLなどがウェブ開示によるみなし提供制度の対象になるという話であり、非上場企業で、そもそもウェブ開示していないということであれば、関係ないでしょう。

(文責:森 理俊)

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