ベンチャー法務の部屋

株主総会決議要件を「出席株主全員の同意」に加重した定款規定の効力 (令和3年4月22日東京高等裁判所判決)

2022.11.08
S&W国際法律事務所

【事案の概要】

Y社(被告)は、取締役会設置会社であり、Xら(原告ら)は、Y社の株主である。

Y社の定款(以下「定款」という。)14条には、「株主総会の決議は法令に別段の定ある場合を除くほか出席株主全員の同意を要する。」と定められている。

Y社において以下の株主総会が開催され、各総会において、①②③の決議がされた。

・平成30年4月18日臨時株主総会(以下「本件臨時株主総会」という。)

①取締役の選任決議、②退職慰労金等の支給決議

・平成30年5月28日定時株主総会(以下「本件定時株主総会」という。)

③決算報告書を承認する決議

いずれの総会においても、賛成する株主(議決権1万3170個)が反対する株主(議決権5,000個)を上回り、賛成多数で可決された。

そこで、Xらは、①、②、③の各決議の取消し等を求めて訴えを提起した。

【原審の判断及び控訴理由】

原審は、①②の各決議については、定款14条に違反し、決議方法の定款違反を理由に取消しの訴えを認容した。③の決議については、定款14条が同決議に適用される限りでは無効であると解して、その取消しの訴えを棄却した。

これに対して、Y社は、取締役の選任(①の決議)についても出席株主全員の同意が要求されると決議が成立せず会社運営に支障を来すおそれがある場合に当たるといえるとして、①の決議の場合についても定款14条は無効であると解すべきであるなどと補充主張し、原審が請求を認容した部分を不服として控訴した。

【判決要旨】

本判決は、原審の判断を是認し、原判決を引用、補正したうえで、次のように判示した。

(1)株主総会の決議要件の瑕疵について

Xらは、本件臨時株主総会は、いずれも反対株主がいたにもかかわらず、各決議が多数決で可決されているところ、これは、株主総会の決議は出席株主全員の同意を要する旨定めている定款14条及び会社法309条1項に違反している旨主張する。

そこで検討するに、同項は、「株主総会の決議は、定款に定める場合を除き・・・出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。」と定めているところ、同項に基づいて定款の定めにより決議要件を加重することは可能であると解されており、定款14条は、「株主総会の決議は、法令に別段の定ある場合を除くほか出席株主全員の同意を要する。」と株主総会の決議に出席株主全員の同意を要する旨定めている。

かかる定款の定めも、原則として有効と解すべきであるが、計算書類の承認等、定時株主総会において必ず決議すべき事項についてまで出席株主全員の同意が要求されると、決議が成立せず会社運営に支障を来すおそれがあるから、当該定款は、上記の特定の決議事項に適用される限度において例外的に無効であると解するのが相当である。

これを本件についてみると、本件臨時株主総会における①、②の各決議は、定時株主総会において必ず決議すべき事項に係るものではないから、同決議について株主全員の同意を要する旨の定款14条は、原則どおり有効と解される。したがって、反対株主がいたにもかかわらず多数決で可決された同決議は、決議方法が定款14条に違反し、取り消し得るものというべきである。

他方、本件定時株主総会における③の決議は、定時株主総会において必ず決議すべき事項である計算書類の承認(会社法438条2項参照)であるから、同決議についても出席株主全員の同意を要する旨の定款14条は、同決議に適用される限度で無効と解される。したがって、多数決で可決された同決議は、普通決議の可決要件(会社法309条1項)を満たすから、決議方法が法令又は定款に違反するとはいえず、取り消し得るものとはいえない。

(2)Y社の補充主張について

Y社は、取締役の選任についても、出席株主全員の同意が要求されると、決議が成立せず会社運営に支障を来す恐れがある場合にあたるといえ、取締役の選任決議に場合も、定款14条は無効であると解すべきと主張する。

しかし、同条により、仮に株主総会による決議の成立が不可能となった場合でも、役員等に欠員が生じた場合の措置(会社法346条参照)といった代替手段があることに鑑みれば、当該定款の定めを無効と解する必要はないというべきであり、Y社の上記主張を採用することはできない。

【コメント】

本判決は、定款規定による株主総会の決議要件の加重に限界を画した稀有な裁判例であり、注目に値するといえます。実務的にも、定款に株主総会の決議要件を加重する内容を規定する際に参考になると考えます。

なお、現行の会社法の下での定時株主総会での決議事項は、計算書類の承認(438条2項)及び清算株式会社における貸借対照表の承認(497条2項)の2つです。したがって、本判決によれば、これらの2つ以外の決議事項については、株主総会の決議要件を「出席株主全員の同意を要する」と加重した規定も有効となると考えられます。

【参照条文(抜粋)】 

(株主総会の決議)

第三百九条 株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。

(計算書類等の定時株主総会への提出等)

第四百三十八条 

 前項の規定により提出され、又は提供された計算書類は、定時株主総会の承認を受けなければならない。

執筆者
藤岡 茉衣
アソシエイト/弁護士

お問い合わせ
メールでお問い合わせ
お電話でお問い合わせ
TEL.06-6136-7526(代表)
電話/平日 9時~17時30分
(土曜・日曜・祝日、年末年始を除く)
page top