国際法務の部屋

繊維産業のサステナビリティに関する検討会報告書

2021.08.18

2021年7月12日、経済産業省が繊維産業のサステナビリティに関する検討会報告書(以下「報告書」といいます)を取りまとめました。繊維業界におけるサステナビリティやSDGsの取組を検討するにあたり有用な指針と考えますので、本稿にてご紹介いたします。

まず、報告書の概要版では、報告書が公表された背景として、下記の点が挙げられています。

  • 現在、⽇本の繊維産業は、⼤きな転換期を迎えている。新型コロナウイルスの感染拡⼤に伴い、アパレル等の売上が⼤きく落ち込むとともに、「新たな⽇常」を踏まえた消費者ニーズの変化に⾒舞われている。
  • こうした中、新しい時代に向けて、今後の繊維産業を展望した時に、「サステナビリティ」が重要な視点として浮かび上がってくる。
  • サステナビリティについては、2015年のSDGs(Sustainable Development Goals︓持続可能な開発⽬標)の採択以降、国内外において、官⺠での取組が活発になっている。
  • ⽇本の繊維産業に⽬を向けると、⼀部の企業においてサステナビリティの取組は徐々に始まっているものの、⻑く複雑と⾔われるサプライチェーンの管理等、取組が⼗分になされているとは⾔い難い状況にある。
  • こうした状況を踏まえ、繊維産業におけるサステナビリティへの取組を促進するため、2021年2⽉に「繊維産業のサステナビリティに関する検討会」を設置。「新しい時代への設計図」を⽰すべく、議論・検討を進めてきた。報告書は、検討会の議論・検討をとりまとめるとともに、今後に向けた政策提⾔を⾏うものである。

そして、報告書では、サステナビリティに係る現状と今後の取組として、①環境配慮、②責任あるサプライチェーン管理、③ジェンダー平等、④供給構造、⑤デジタル化の促進について分析されているため、それぞれについて主要な点をピックアップしてご紹介します。

① 環境配慮について

今後の取組としては、下記が挙げられています。

  • 環境配慮設計ガイドラインの策定(製品企画の段階から少ない資源で製品づくりを進めていくことの意識づけ等)
  • 回収システムの構築(店頭回収などを通じたリユース・リサイクル促進など、使用済み繊維製品の回収システムの構築)
  • 消費者の意識改革(消費者に対する情報発信の重要性等)

② 責任あるサプライチェーン管理について

背景として、下記の記載があり、サプライチェーンの管理等が日本企業にとっても喫緊の課題となっていることがわかります。

  • ⽇本企業の中には、欧⽶企業と取引をする際にはサプライチェーンが適正に管理されているか等をチェックするデュー・ディリジェンスの実施が求められるケースが増えているとの声が聞かれる。
  • また、欧⽶を中⼼に繊維製品及びその⽣産⼯程における環境安全、労働、企業統治等への配慮に関する様々な認証が策定・運営されており、こうした国際認証(⺠間認証)の取得が求められる⽇本企業も増えている。
  • 国内の繊維産業においても、素材やサプライチェーン上の労働環境等に対して、各企業が責任をもって把握・対応することが期待される

そして、今後の取組としては、下記の点が挙げられております。最近、新聞等でも人権・デュー・ディリジェンスの重要性について報道される機会が増えてきましたが、繊維産業におけるサプライチェーン管理においても、人権デュー・ディリジェンスが重要であることがわかります。

  • デュー・ディリジェンスの実施(㋐政府は関係業界団体等と連携し、デュー・ディリジェンス実施の必要性等や、デュー・ディリジェンスにおいて、どのような事項が企業リスクとなり得るかについて分かりやすく説明するなどさらなる周知を⾏う、㋑企業がデュー・ディリジェンスを実施し、責任あるサプライチェーン管理を進めることにより、労働者の権利が保障され、⼗分な収⼊を⽣み出し、適切な社会的保護が与えられる⽣産的な仕事(ディーセント・ワーク)へとつながり得るため、業界団体において、企業がよりデュー・ディリジェンスに取り組みやすくするためのガイドライン策定する)
  • 国際認証取得に向けた環境整備(㋐サプライヤーである⽣地メーカー等に対して、国際認証取得の必要性を周知していく、㋑⽇本企業が、国内において国際認証に関してより容易に相談が可能となるよう、国内の監査機関等における⼈材育成や機関同⼠の連携の在り⽅などについて検討する)
  • 外国人技能実習生等への対応

③ ジェンダー平等について

今後の取組としては、下記が挙げられています。

  • 官民ラウンドテーブル(政府や産業界の代表が⼀堂に会し、ジェンダー平等の重要性を共有・理解するとともに、先進的な取組事例(⼥性幹部候補の育成プログラム等)や企業が構築すべき⼈材育成の仕組み等について議論・共有する場)の設置
  • 繊維産業の将来を担うであろう若い世代に対するロールモデルの提示(ジェンダー教育の実施、ロールモデルの提示、既に活躍している⼥性リーダーが経験談やキャリア形成に係る取組等の事例を紹介する講座の開設等)

④ 供給構造について

今後の取組としては、下記が挙げられています。

  • デジタル技術の活用(購買データの標準化を進める、共有を促進する等の⽅策により、顧客管理や消費動向の把握を進める)
  • 顧客を中心に置いた事業展開の推進(消費者との持続的な関係が築き上げられれば、サイズの把握によりオンライン販売が容易となるほか、正価販売での購⼊率の向上、リペアサービスを含めた購⼊後の関係維持が可能)
  • 生産工程の改革(⽣産期間を短くするという取組、個々の好みや体型等に応じた個別の受注と従来の⽣産システムを IoT 等で連携し、オーダーメイドの⼀点物を⽣産・販売するマスカスタマイゼーションの取組)

⑤ デジタル化の促進について

背景として、下記の点が挙げられており、サプライチェーンの管理のためにはデジタル化の促進が重要・有効であることがわかります。

  • サステナビリティの取組は、環境への配慮や労働環境整備など多岐にわたるものであり、取組を進めていくためには、多くの情報を集約・管理・分析することが必要となってくる。
  • また、これまで検討してきたサステナビリティの取組は、「サプライチェーンを管理する」という点において共通している。労働環境、使⽤している素材などを含めて、サプライチェーン上のどこでどういったことが起きているかを把握する必要性がある。
  • さらに、オンライン販売の増加や、顧客とのより⻑い関係性を重視する LTV を推進していくためには、消費者との接点の在り⽅を変えていくことが求められている。こうした取組を進めていく上で、デジタル技術による情報管理等は極めて有効である。

そして、今後の取組としては、下記が挙げられています。

  • 経営層への理解促進(デジタル技術の導⼊に当たっては、事業の⼀部に導⼊するよりも、企業全体としての導⼊を求められることが多々ある。そうした判断は、経営層が⾏うきものであり、担当者のみならず経営層にもデジタル技術への理解が必要)
  • 優良事例の横展開(サステナビリティに資するデジタル技術の活⽤優良事例も周知することで、繊維産業内における取組の活発化)
  • 支援施策の周知

まとめ

報告書の「おわりに」の部分には、

  • これまで、繊維産業において⻑く複雑なサプライチェーンを管理することへの取組は、進んでこなかった。しかし、今後、最終製品等に責任を持つことは所与のものとして⾒られるようになり、特にアパレル企業は素材や労働環境、⽣産量など、確実に把握していく必要がある。
  • さらに、そうした取組を進めていくためには、サプライチェーン上における企業の協⼒が必要であり、川上から川下まで、そして⼤企業から中⼩企業まで、取り組んでいくものである

との記載があります。

繊維産業におけるサプライチェーン管理の取組の重要性は高まる一方であり、大企業から中小企業まで企業の規模には関係なく、上記の指針を参考としながらサプライチェーン管理の具体的取り組みが必要と考えます。

弊所では、サプライチェーン管理に関する取り組みを支援させていただくために、取引基本契約書等でサプライチェーンに関する条項の整備、サプライチェーンの人権デュー・ディリジェンスなどSDGs関連サービスを幅広く提供しております。ぜひ、お気兼ねなくお問い合わせください。

執筆者
河野 雄介
マネージングパートナー/ニューヨーク州弁護士/弁護士

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