国際法務の部屋

マネー・ローンダリング③~疑わしい取引について

2021.05.20

これまで、マネー・ローンダリングについて、マネー・ローンダリング①(基礎知識)マネー・ローンダリング②(具体例)を過去のブログでご紹介してきましたが、今回は、疑わしい取引について、取り上げます。

疑わしい取引の届出制度は、マネー・ローンダリングを防止するための対策の一つであり、金融機関等の特定事業者(ベンチャーファンドを運営する適格機関投資家等特例業者等も対象となります)から、犯罪収益に係る取引に関する情報を集めて捜査に役立てることを目的とする制度です

犯罪による収益の移転防止に関する法律の第8条1項では、疑わしい取引の届出制度について、

特定事業者(第二条第二項第四十四号から第四十七号までに掲げる特定事業者を除く。)は、特定業務に係る取引について、当該取引において収受した財産が犯罪による収益である疑いがあるかどうか、又は顧客等が当該取引に関し組織的犯罪処罰法第十条の罪若しくは麻薬特例法第六条の罪に当たる行為を行っている疑いがあるかどうかを判断し、これらの疑いがあると認められる場合においては、速やかに、政令で定めるところにより、政令で定める事項を行政庁に届け出なければならない。

と規定されています。

具体的には、こちらの金融庁のウェブサイトに、疑わしい取引についての届出手続、届出様式及び参考事例(預金取扱い金融機関、保険会社金融商品取引業者、仮想通貨交換業者について、疑わしい取引に該当する可能性のある取引として特に注意を払うべき取引の類型が例示されています)が記載されており、参考になります。

また、犯罪による収益の移転防止に関する法律の第3条3項では、

国家公安委員会は、毎年、犯罪による収益の移転に係る手口その他の犯罪による収益の移転の状況に関する調査及び分析を行った上で、特定事業者その他の事業者が行う取引の種別ごとに、当該取引による犯罪による収益の移転の危険性の程度その他の当該調査及び分析の結果を記載した犯罪収益移転危険度調査書を作成し、これを公表するものとする。

と規定されており、疑わしい取引として届出が行われた情報について、毎年、この規定に基づいて、犯罪収益移転危険度調査書が作成、公表されており、下記のリンクから確認できます。この犯罪収益移転危険度調査書には、最新のマネー・ローンダリングに関する動向や事例が公表されており、非常に参考になります。

https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/nenzihokoku/nenzihokoku.htm

さらに、金融庁が令和3年2月19日に公表した、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドラインでは、下記のような記載があります。

疑わしい取引の届出は、犯収法に定める法律上の義務であり、同法の「特定事業者」に該当する金融機関等が、同法に則って、届出等の義務を果たすことは当然である。

また、金融機関等にとっても、疑わしい取引の届出の状況等を他の指標等と併せて分析すること等により、自らのマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢の強化に有効に活用することができる。

【対応が求められる事項】

① 顧客の属性、取引時の状況その他金融機関等の保有している具体的な情報を総合的に勘案した上で、疑わしい取引の該当性について適切な検討・判断が行われる態勢を整備し、法律に基づく義務を履行するほか、届出の状況等を自らのリスク管理態勢の強化にも必要に応じ活用すること

② 金融機関等の業務内容に応じて、IT システムや、マニュアル等も活用しながら、疑わしい顧客や取引等を的確に検知・監視・分析する態勢を構築すること

③ 疑わしい取引の該当性について、国によるリスク評価の結果のほか、疑わしい取引の参考事例、自らの過去の疑わしい取引の届出事例等も踏まえつつ、外国PEPs該当性、顧客属性、当該顧客が行っている事業、顧客属性・事業に照らした取引金額・回数等の取引態様、取引に係る国・地域その他の事情を考慮すること

④ 既存顧客との継続取引や一見取引等の取引区分に応じて、疑わしい取引の該当性の確認・判断を適切に行うこと

⑤ 疑わしい取引に該当すると判断した場合には、疑わしい取引の届出を直ちに行う態勢を構築すること

⑥ 実際に疑わしい取引の届出を行った取引についてリスク低減措置の実効性を検証し、必要に応じて同種の類型に適用される低減措置を見直すこと

⑦ 疑わしい取引の届出を契機にリスクが高いと判断した顧客について、顧客リスク評価を見直すとともに、当該リスク評価に見合った低減措置を適切に実施すること

以上の情報源等を参考にしながら、疑わしい取引に関する最新情報を入手し、疑わしい取引を適切に検知することができる態勢及び、届出を行う必要がある場合は直ちに届出を行うことができる態勢を継続的に構築していくことが重要となります。

当事務所では、AML/CFT(Anti-Money Laundering/Counter Financing of Terrorism)(マネー・ローンダリング防止/テロ資金供与防止)のための規程整備、態勢整備に関するアドバイス、セミナーも行っておりますので、お気軽にご相談下さい。

執筆者
河野 雄介
マネージングパートナー/ニューヨーク州弁護士/弁護士

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