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国際法務の部屋

マネー・ローンダリング②

マネー・ローンダリングとは、一般的には、違法な起源を偽装する目的で犯罪収益を仮装・隠匿することを言います。

これまで公表され、耳目を集めたマネー・ローンダリング事案としては、①山口組系暴力団五菱会の幹部が「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」に違反して受領した犯罪収益をスイス連邦チューリッヒ州所在の金融機関に送金して隠匿したのに対し、同州が当該資産を没収したことを受け、両政府間で協議した結果、当該没収資産のうち、約50%に当たる2,897万9,738.88スイス・フラン(約29億円)をスイス連邦政府が日本国政府に譲与したいわゆる五菱会事件(平成20年4月22日 外務省報道発表より引用)、②日本の投資会社「ワールドオーシャンファーム」がフィリピンのマニラ近郊で営んでいるブラックタイガー養殖事業(東京ドーム300~450個分の広さ)や不動産事業などを投資対象とする匿名組合に出資して投資すると1年で倍になる(10日毎に5.556%、1年間で36回で合計100%の配当)との宣伝文句で多数の消費者から投資を募り、匿名組合員が他の投資家を紹介すると3~19%の紹介料を得られる仕組み(マルチ商法的要素)であり、口コミで被害が拡大した事案で、マネーローンダリング(米国の金融機関を経るなど)された資金が、米司法省により没収された事案(消費者庁ウェブページより引用)、③米国のトランプ元大統領の2016年の大統領選の際に、選挙対策委員長を務めていたPaul Manafort氏が、ウクライナ政権から受け取った巨額の顧問料をオフショア口座を経由した、不動産等購入の手法により資金洗浄していた事案等があります。

このように、マネー・ローンダリング事犯については、様々な類型がありますが、国家公安委員会がまとめた犯罪収益移転危険度調査書(令和2年)概要版では、我が国におけるマネー・ローンダリング事犯について、主体と前提犯罪に分けた詳細な分析がなされいます。

マネー・ローンダリング事犯の主体については、暴力団、特殊詐欺の犯行グループ、来日外国人犯罪グループが挙げられており、それぞれについて調査・分析が加えられています。

また、前提犯罪としては、窃盗、詐欺、電子計算機使用詐欺、出資法・貸金業法違反、常習とばく・賭博場開帳等図利、風営適正化法・売春防止法違反、薬物事犯が挙げられておりそれぞれについて犯行形態や手口が紹介されています。

我が国における、マネー・ローンダリング対策に関する法制度としては、一定範囲の事業者に顧客管理その他の防止措置の義務付けを課す、犯罪収益移転防止法や外為法、マネー・ローンダリングを犯罪として犯罪収益を収奪するための組織的犯罪処罰法や麻薬特例法等がありますが詳細な内容については、おってブログで取り上げたいと思います。

文責 河野雄介

2021年03月29日 13:17|カテゴリー:

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マネー・ローンダリング①

先日、河野弁護士と共に、『金融商品取引業者が押さえておくべきマネロン対策』と題する企業内セミナーを担当させて頂きました。

今後、河野弁護士と共にマネー・ローンダリングに関する情報をブログで提供していこうと考えています。

まず、今回は、マネー・ローンダリングに関する基礎的な知識について紹介します。

 

1 マネー・ローンダリングとは?

マネー・ローンダリング(money laundering)とは、違法な行為による収益の出所を隠すことであると言われています。具体的には、表に出せないようなお金を偽名で開設した金融機関の口座に隠匿したり、複数の預貯金口座に次々と移動させたり、不動産を購入したり、様々な方法によってその出所を分からなくするための行為を指します。

このマネー・ローンダリング(money laundering)という言葉は、アメリカのギャングであったアル・カポネがコインランドリーをマネー・ローンダリングに利用したことに由来すると言われています。すなわち、犯罪によって稼ぎ出した膨大なお金を合法的な収入に見せかける方法として、アル・カポネは、現金払いで商売をするコインランドリーをいくつも買って、汚れた金をきれいな金に紛れ込ませ、賭博や密売ではなくアメリカ一般市民のシャツや靴下を洗濯することで富を築いたのだと言ってのけたとのことです。

マネー・ローンダリング(money laundering)の「launder(ラウンダー)」とは、日本語で「洗濯する」という意味です。したがって、マネー・ローンダリングは、「資金洗浄」と訳されます。

アル・カポネの時代と比べ、マネロンの規模と複雑さは格段に増していると言われています。2018年の国連の推計によれば、1年間に資金洗浄される犯罪収益は1兆6千億ドルから4兆ドルで、全世界GDPの2~5%にのぼるとのことです。

この度、我々がマネロンセミナーを開催させて頂いた企業は、不動産事業に関連する企業でした。この点、不動産とマネロンの関係について、国際通貨基金(IMF)の法律局長による、「悪弊を一掃する」というタイトルの記事では、次のように紹介されていました

「ある意味では、高級物件は現代のギャングにとってのコインランドリーだ。米国当局が昨年(2017年)発行した公告によれば、ニューヨーク市などいくつかの大都市圏における高額で現金決済の不動産購入の3割以上が、既に疑わしい取引への関与が疑われている人物によるものだった。オーストラリア、オーストリア、カナダをはじめとする各国の政府は、自国の不動産市場が不正資金の投資や洗浄に使われる可能性があると結論づけている。」

このように、不動産とマネロンは非常に密接な関係にあると言えます。

 

2 マネー・ローンダリングはどのように行われるのか?

マネロンに用いられる手法は様々であり、時代によって変化しますが、そのプロセスについては3つの段階に分解できると考えられています。

①プレイスメント(預入)

第1段階は、犯罪によって得られたお金を金融システムに取り込む、あるいは合法的な商取引の流れに取り込む段階への資金の取り込む段階です。

例えば、犯罪収益(現金)を銀行口座に預け入れる方法、現金を多く取り扱う業種(カジノ、小売業者等)において、合法的な事業による売上金の中に犯罪収益を混入させる方法などが考えられます。

②レイヤリング(分別)

第2段階は、金融システムに取り込まれた犯罪資金の出所を分からなくするための処理です。例えば、複雑な送金取引を繰り返して資金の追跡を困難にする方法や、国際的な送金取引(マネロン規制の緩い国等)を利用したり、実体のない法人名義の口座を経由させる方法などによって資金の流れを不透明なものにします。

③インテグレーション(統合)

第3段階は、出所を隠ぺいした犯罪資金を、合法的なビジネスによる収益等であるように偽装するなどして、表の経済に統合させる処理です。

このフェーズは、「正当化」と「投資」の2つのフェーズから構成されると言われています。「正当化」とは、正当な事業資金への組み入れ(例:金融機関からのローンを不必要に借り入れて、資金の原資は金融機関からの借入金であるように偽装する方法)のことを言います。「投資」とは、手元に残った洗浄済み犯罪収益を大手を振って利用する段階のことを言います。

先ほどの不動産取引が出てくるのは、この第3段階となります。不動産取引がマネロンの手法として利用されるのは、不動産は一般的に価格が安定し、将来の値上がりが期待できる点、1回の取引で大量の資金を移動できる点が主な理由となっているようです。このような理由から、不動産取引はマネロンの方法として用いられるリスクが高い取引であると言われています。

 

次回以降、マネロンに対する規制の内容について説明します。

 

当事務所では、AML/CFT(Anti-Money Laundering/Counter Financing of Terrorism)(マネー・ローンダリング防止/テロ資金供与防止)のための規程整備、態勢整備に関するアドバイス、セミナーも行っておりますので、お気軽にご相談下さい。

 

(文責:三村雅一)

2021年03月12日 13:23|カテゴリー:

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マネロン

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シンガポール調停条約と日本での仲裁法等改正(調停合意への執行力付与)

2020年9月12日「国際的な調停による和解合意に関する国際連合条約」(シンガポール調停条約)が発効しました。日本は、まだ批准していません。

この条約は、調停の結果として当事者が締結した和解合意に対して、判決や仲裁判断と同様に執行力を与えるものです。当事者が調停による和解合意で定めた義務を任意に履行しない場合に、強制執行を求めるためには、従来であれば改めて訴訟等を提起する必要がありましたが、今後、同条約の締結国においては、訴訟等を提起することなく、当該和解合意に基づき強制執行を行うことができるようになりました。

これに関連して、日本でも調停合意への執行力付与へ向けて、法務省の法制審議会仲裁法部会で、議論がなされています。

法制審議会仲裁法制部会第5回会議(令和3年2月12日開催)では、
仲裁法等の改正に関する中間試案のたたき台(1) 暫定保全措置関連【PDF】、及び
仲裁法等の改正に関する中間試案のたたき台(2) 調停による和解合意関連【PDF】
が提示されました。(1)は仲裁に関連するものであり、(2)は調停に関するものです。シンガポール調停条約と関連するものは(2)になります。

この中間試案のたたき台(2)では、日本で調停による和解合意に対する執行力の付与の範囲として、主として以下の3つの案が提示されています。
甲案 国際事案に限定
乙1案 国際・国内問わず適用
乙2案 国際事案+ADR認証機関によるなど一定の限定された国内事案

また、以下のような一定の紛争類型については、適用除外とする旨の規定も提案されています。
(1)消費者と事業者の契約に関する民事紛争
(2)個別労働関係紛争
(3)人事に関する紛争その他家庭に関する紛争

日本には、京都に「京都国際調停センター」があり、大阪と東京に「日本国際紛争解決センター」があります。

費用等の観点から 国際仲裁の利用を逡巡する場面であっても、国際調停であれば、活用できることもあるため、今後の国際紛争の選択肢として、「調停」が脚光を浴びる土壌が整いつつあります。

もし、国際紛争に巻き込まれそうになっている方は、是非、国際調停の活用を検討いただければと思います。また、活用に際して、相談がございましたら、お気軽にご連絡ください。

販売店契約書(Distributorship Agreement)作成上の留意点

販売店契約書(Distributorship Agreement)を作成する場合には、まず下記の表にまとめたように、代理店契約(Agency Agreement)との違いをおさえたうえで、想定している取引がどちらに該当するのかを明確にしておく必要があります。

 

そして、具体的に、販売店契約書(Distributorship Agreement)を作成していく際には、下記に留意しながら、具体的な条項をドラフトしていきます。

  • 自社がサプライヤーなのか、販売店なのかで、注意すべき点が大きく異なる
  • 対象製品の特定(品番など)
  • 独占権の有無
  • テリトリーの設定(明確に)
  • 最低購入義務(最低購入量の定義に注意。個別売買契約成立分か、引渡がされた分か)
  • 最低購入義務を果たせなかった場合の効果
  • 商標やラベルについての取り決め(サプライヤーは、テリトリーにおいて商標登録しているかに留意する必要あり)
  • 製造物責任や保険についての取り決め
  • 販売店によるマーケティング活動やアフターサービス提供の定めを置くか
  • 販売店に、対象製品と市場において競合する可能性のある商品の取り扱いを禁止する規定を置くか

上記の点に留意せずに、取引の実情にあわないままに既存のひな形を契約書として用いてしまうと、想定外のリスクが発生する可能性があります。

弊所では、日本語、英語、中国語にかかわらず、多数の契約書を作成・レビューしてきた経験があります。販売店契約書(Distributorship Agreement)その他の契約書の作成やレビューについてのご質問やご依頼がおありでしたら、こちらまでご連絡ください。

文責 河野雄介

2021年01月21日 10:28|カテゴリー:

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不動産投資とESG投資、SDGs

先日、不動産関係のある企業様において、弊所の河野弁護士とともに、「不動産投資とESG、SDGs」について講演しました。

 

先日の河野弁護士のブログでも紹介したとおり、令和2年10月16日、関係府省庁連絡会議において、企業活動における人権尊重の促進を図るため、「ビジネスと人権」に関する行動計画が発表されました。日本政府は、この計画の策定を、SDGsの実現に向けた取り組みの一つとして位置づけた上で、同計画の第3章「政府から企業への期待表明」において、

 

政府からは企業に対し、その規模、業種等にかかわらず、

 

①「人権デュー・ディリジェンスのプロセスを導入すること」

②「サプライチェーンにおけるものを含むステークホルダーとの対話を行うこと」

③「日本企業が効果的な苦情処理の仕組みを通じて、問題解決を図ること」

 

を期待する、と表明しています。

 

この①の内容については、先日の河野弁護士のブログで紹介したところであり、②③の参考になる取り組みについては、私の過去のブログにおいて紹介させて頂きました。

 

なお、③の苦情処理・問題解決制度については、これを強化することによって、

・企業不祥事及びレピュテーション上の損害と経済的不利益の発生・拡大の防止

・責任ある企業行動のためのデュー・ディリジェンス、CSR調達、指導原則で言及されている人権デュー・ディリジェンスの効果的な実施

・取引先・投資家を含むステークホルダーからの信頼の確保と経済的利益(ESG投資を含む)の獲得

といったメリットが認められる他方で、企業がステークホルダーからの苦情申立てや問題提起に対し十分に対応できず、その結果、企業価値が毀損する不祥事が生じた場合、取締役が善管注意義務違反を問われることにもなりかねないというリスクがあると言われています。

 

不動産投資とESG投資、SDGsについて、令和元年7月3日に、国土交通省「ESG不動産投資のあり方検討会」が中間とりまとめを発表しました。

同とりまとめにおいては、【ESG投資、SDGsにおける不動産の重要性】について、「我が国において、2600兆円を超えるとされる不動産は、国民生活や経済成長を支える不可欠かつ重要な基盤であり、環境や社会に関する問題解決に貢献できるポテンシャルも大きい。そのため、不動産の開発・運用・投資において、ESG投資やSDGsの考え方を踏まえることは重要である。」と述べられています。

その上で、【不動産へのESG投資の基本的な考え方】として、我が国の不動産市場・不動産投資市場が、世界的に拡がるESG投資に対応するためには、リスク・リターンの二軸のみを踏まえた投資ではなく、社会的なインパクトという第三軸目も意識した投資が実践される必要がある。そして、それにより、不動産投資が不動産取引の短期的な価値上昇期待のみに基づくものではなく、ESGの組み込みにより、資産が中長期的に生み出す価値を踏まえて行われるようになることが望ましい、との内容が記されています。

 

今回のセミナーでは同とりまとめの内容を紹介した上で、同業他社の具体的取り組みを参考にしながら、SDGsの17のゴールについて自社で取り組むことのできる内容についてグループに分かれでディスカッションをして頂きました。

皆様に基本的な知識を知って頂くにとどまらず、自社で具体的にどのような取り組みができるのかについて考えて頂くことで、より自分の問題として考えて頂く機会を持って頂けたと考えております。

 

当S&W国際法律事務所では、SDGsの基本的な知識から、それぞれの業種に合わせた具体的な取り組み、自社における取組の検討などについて社内セミナーも担当させて頂いておりますので、気軽にお問い合わせ下さい。

 

(文責:三村雅一)

2020年11月16日 15:14|カテゴリー:

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、不動産、ESG投資SDGs、弁護士、法律

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人権デュー・ディリジェンスについて

先日、神戸市、ひょうご・神戸国際ビジネススクエア(神戸市海外ビジネスセンター、ひょうご海外ビジネスセンター、ジェトロ神戸)及び弊所が主催する、SDGsビジネスセミナーで、弊所の三村弁護士とともに、「企業にとって必要なSDGsと法務と取り組み事例の紹介」について講演致しました。

このセミナーでも取り上げさせていただいたのですが、企業にとって、人権デュー・ディリジェンス(人権への影響を特定し、予防し、軽減し、そしてどのように対処するかについて説明するために、人権への悪影響の評価、調査結果への対処、対応の追跡調査、対処方法に関する情報発信を実施すること)の重要性が高まってきています。

というのも、令和2年10月16日、関係府省庁連絡会議において、企業活動における人権尊重の促進を図るため、「ビジネスと人権」に関する行動計画が策定され、外務省の報道発表ウェブページには、行動計画が策定された経緯について、下記のような説明がなされています。

「近年、企業による人権尊重の必要性について国際的な関心が高まっています。国連人権理事会では「ビジネスと人権に関する指導原則」が支持され、各国に国別行動計画の策定が促されており、また、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に当たっては、人権の保護・促進が重要な要素と位置付けられています。本行動計画は、こうした背景の下、関係府省庁が協力し、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」を踏まえた上で、策定されたものです。」

「本行動計画においては、「ビジネスと人権」に関して、今後政府が取り組む各種施策が記載されているほか、企業に対し、企業活動における人権への影響の特定、予防・軽減、対処、情報共有を行うこと、人権デュー・ディリジェンスの導入促進への期待が表明されています。」

そして、「ビジネスと人権」に関する行動計画の第3章にも、「政府は、その規模、業種等にかかわらず、日本企業が、国際的に認められた人権及び『ILO宣言』に述べられている基本的権利に関する原則を尊重し、『指導原則』その他の関連する国際的なスタンダードを踏まえ、人権デュー・ディリジェンスのプロセスを導入すること、また、サプライチェーンにおけるものを含むステークホルダーとの対話を行うことを期待する」との記載があります。

また、2020年10月23日付の日経新聞でも、人権デュー・ディリジェンスの重要性について、上記の「ビジネスと人権に関する指導原則」の策定にも携わった、ハーバード大学ケネディ・スクールのジョン・ラギー教授への下記のようなインタビュー記事が掲載されており、その中で、ラギー教授は、

最も重要なのが指導原則で定めた人権デューデリジェンス(DD)だ。世界では人権DDの活用や義務化が進んでいる。日本も取り残されないよう義務化すべきだ」

「多国籍企業の多くは持続可能な供給網(サプライチェーン)の構築を目指し、公正な生活賃金を支払える仕組み作りをしている。アジアでも日本企業が拠点を置いているミャンマーやタイは強制労働の問題があり、人権DDの必要性は高い

とコメントしています。

このような流れを見ると、海外(とくにASEAN諸国)でビジネスをしている日本企業については、具体的に人権デュー・ディリジェンスに取り組む必要性が加速していくと考えられます。

弊所では、ASEAN諸国に拠点を持つケルビンチアパートナーシップと緊密に連携しておりますので、ASEAN諸国における人権デュー・ディリジェンスをサポートさせていただくことが可能です。また、ビジネスと人権の観点や贈収賄防止の観点から海外のサプライチェーンと締結する契約(取引基本契約書等)において盛り込むべき契約条項ついても研究を重ねており、対応させていただくことが可能です。

ぜひ、お気兼ねなくお問い合わせください。

文責 河野雄介

2020年11月16日 12:28|カテゴリー:

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中小企業に対する支払保障条例

中国の国務院は、2020年7月15日、「中小企業への代金支払保障条例」を公布しました(2020年9月1日から施行されています。)。

本条例は、「公的機関、公的事業法人及び大企業の中小企業への代金支払を促進、中小企業の合法的権益を保護し、経営環境を最適化する」(第1条)ことを目的としています。公的機関、公的事業法人及び大企業(以下「大企業等」といいます。)から中小企業に対する支払いについての規制を設けるという意味で、日本における下請代金支払遅延等防止法(下請法)と類似しています。

 

本条例第3条では、中小企業の定義について、国務院が承認した中小企業区分基準に基づくとされており、大企業は中小企業以外の企業をいうと規定されています。当該中小企業区分基準では、業種別に、売上、従業員数、及び、総資産等を基準に決定されることになります。例えば、卸売業では、従業員数が200人より少ないか、もしくは、売上が4億人民元より少なければ中小企業に分類されます。

 

本条例では、大企業等が中小企業と取引するに際し、原則として商品、工事、またはサービスを提供した後30日以内の支払義務や、中小企業への代金支払が遅延した場合の遅延利息(約定がなければ1日あたり0.05%)の支払義務を規定しています。

他方、中小企業においても、大企業等と契約を締結する際に、自らが中小企業に属することを積極的に告知することを義務付けています。

 

本条例は、違反した場合のサンクションに関する規定が必ずしも明確ではありません。また、施行されて間もないこともあり、実務における運用状況が不透明であることから、今後の実務の状況を注視する必要があります。

 

日本においては、下請法に関する社内マニュアルの整備といった対応を既にされている企業も多いと思います。本条例は、実務に与える影響が小さくないと考えられますので、中国にグループ会社が存在する企業においては、本条例の理解と対応指針の策定が必須であるといえます。

 

(文責:藤井宣行)

2020年10月29日 09:37|カテゴリー:

中国法務

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「東南アジア・インドにおけるスタートアップ投資の現状と日本企業への提言」について

これまで、経済産業省が海外M&Aに関連してまとめた報告書について、下記のブログでご紹介してきました。

 

「我が国企業による海外M&A研究会」報告書(平成30年3月 経済産業省 )について(その1)

 

「我が国企業による海外M&A研究会」報告書(平成30年3月 経済産業省 )について~その2

 

海外M&Aにおいて法務担当役員に期待される役割 ~「9つの行動」別冊編のご紹介

 

その後、経済産業省は、上記の海外M&Aに係る取組から得られた知見も踏まえつつ、近年成長が著しい東南アジア・インドにおけるスタートアップ投資に焦点を当てた委託調査を行い、日本企業が東南アジア及びインドのスタートアップ投資に取り組む際の課題・提言等の整理を行い、2020年5月に「東南アジア・インドにおけるスタートアップ投資の現状と日本企業への提言」を公表しました。

同報告書では、

  • 東南アジアでは中国企業等から、インドでは米国企業等からの投資が増加しており、こうした国々の企業と比較して、日本企業の存在感は決して高くないとの声もある。今後も、他国企業との競争環境は益々厳しくなるものと予想されており、日本企業にとって、アジアの成長に貢献し、現地スタートアップのパートナーとしての地位を築いていくことが重要である。
  • 東南アジアやインドにおけるスタートアップとの協業は、高い成長性が期待される一方、不確実性も高く、短期的な結果が得られないことも多い、いわば長期的で過酷な挑戦である。こうした取り組みだからこそ、長期的な視野に立って、自社の成長戦略の実現のために「なぜ投資をするのか?」という目的を明確化し、それに合致したスタートアップの探索や投資実行、投資後の関与のあり方等を検討し、必要な体制等を整備していくことが重要である。

という問題意識から、調査対象国をシンガポール、インドネシア、ベトナム、マレーシア、タイ、フィリピンの7か国に絞り、

  • スタートアップ投資の市場規模
  • スタートアップの特徴
  • スタートアップ・エコシステムの状況
  • 今後の見通し

について調査・報告を行っています。

我々の事務所のメインドメインである、ベンチャー法務と国際法務が交錯する報告書であり、全編にわたり大変興味深いのですが、約140頁ものボリュームがある内容となっていますので、本ブログでは、法務面に関連のある「4.2 新興国におけるスタートアップ投資に取り組むに当たっての前提」をご紹介します。

同パートでは、通常のM&Aとの比較に基づいたスタートアップ投資の特性として、下記の4点を挙げています。

  • 不確実性が極めて高く、成功確率が低いハイリスクハイリターン型であり、 積極的なリスクテイクが必要である
  • 事業の安定性よりも、事業の成長性を重要視することが多い
  • 個別案件への限定投資に留まらず、複数企業に対するポートフォリオ投資により、総体としての投資リターンを追求する
  • 資金調達プロセスなどの時間軸が短期間(数週間)で進行する

さらに、先進国投資と比較した新興国投資の特性として、下記の点が挙げられています。

  • 新興国の社会インフラが未整備であることや商習慣・文化の違いなどに 起因して、各国固有の社会的課題が存在し、それら課題解決を目指すスタートアップの起業機会が豊富(先進国の社会的課題とは相違)
  • 現地法制・規制変更が唐突かつ頻繁に行われる等、先進諸国に比較して 高いカントリーリスクが存在し、スタートアップや投資家も対応が求められる
  • 現地有力企業(例:財閥系企業)の存在感が極めて大きいことも

そして、新興国スタートアップへの投資は、上記の2つの特性を意識することが必要であると結論付けるとともに、上記の二つの特性についての具体的配慮事項がまとめられています。

たとえば、スタートアップ投資の特性のうち、時間軸が短時間で進行するという点については、

 

通常の M&A であれば、入念な準備に時間をかけ、DDを通して買収対象となる企業に関するリスクをしっかりと精査し、リスクへの対処方法も検討した上で意思決定を行うことが多い。このようなM&A ディールは、スケジュールありきで進めることは得策ではなく、自らの判断軸に照らし合わせた冷静な意思決定が求められる。一方で、スタートアップは、通常の M&A で対象となる企業と比較すると、様々なリスクを抱えながら事業を推進していることが多く、かつ、通常M&Aと同じようにDDを行うための各種資料は整備されていない。投資家としては、リスクを粒さに洗い出してどのように対処するかを精査しだすと、自社が納得できるだけの DD の成果は得られないばかりか、多くの時間を費やしてしまい、投資そのものが難しくなってしまう。スタートアップ投資におけるDDでは、リスクの網羅的な検出を主眼とせず、特に Early Stage のスタートアップへの投資においては、将来の成長ポテンシャルの大きさやビジネスモデル上の優位性、及びそれらの成長に導きうる経営チームを構築できているか(またはできそうか)に力点が置かれることが一般的である。もちろん、成長に向けた阻害要因・リスクについては慎重な検討を要する場合もあるが、最終的にあらゆるリスクを解消することはできず、一定のリスクを許容する投資姿勢が重要となってくる。例えば、VCが実施するDDは短期間で実施され、通常のM&Aで事業会社が行うDDとは、分析の粒度や視点が異なっていることを理解しておく必要がある。そのようなVCの行動特性もあって、スタートアップの資金調達に参加できる機会を得た場合でも、通常は1ヵ月前後での迅速な意思決定を求められることが多く(Early Stage であるほど短く、Later Stage であるほど検討時間を確保できる傾向にはある)、既に他の投資家の検討が進んでいる場合は数週間で意思決定を求められる場合もある。特に、Early Stage のスタートアップの場合では、資金調達プロセスが速いスピードで進行し、各 Round での投資スケジュールについていくためにも迅速な意思決定が必要となる。また、有望なスタートアップであればあるほど、投資を希望する多数の投資家が集まり、投資競争は激化しがちである。このような中では、起業家(またはリードインベスター)側のペースでRoundが進んでいくため、ますます制約された時間と情報の中での意思決定が求められる傾向が強い

 

とされており、大変参考になるとともに、実務経験からも共感する部分が多いです。

 

また、二つ目の特性である、先進国投資と比較した新興国投資の特性に関する配慮事項として、

 

現地独自の法制・規制も存在し、ビジネスモデルを評価する上で、それらに対する基本的な理解が必要となることも、新興国における投資の特性の一つである。加えて、それらの法制・規制が突然変更となることもあり、更に、それらの変更の一部は、自国企業による産業振興を目的として、自国外の企業にとっては不利益となるようなものである可能性もある。そのような、いわゆるカントリーリスクは、現地でのスタートアップ投資にも一定程度の影響があるため、それらに対する理解・対応力も必要となってくる。

との記載があり、こちらも大変参考になります。こちらは、当該国の弁護士と密接に連携しながらしっかりとした調査・確認を進めていくべきポイントであると考えます。

 

弊所では、ベンチャー法務及び国際法務の分野での豊富な実務経験に加えて、ASEAN諸国に拠点を有するケルビンチアパートナーシップとの業務提携により、新興国スタートアップへの投資をサポートさせていただくことが可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

文責 河野雄介

 

2020年09月08日 09:21|カテゴリー:

ASEAN法務

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新興国、スタートアップ、投資

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中国における広告規制

今回のブログでは、中国の広告に関する法規制を紹介します。

広告に関する法規制としては、まず、広告法が存在します(条文の日本語訳がJETROのウェブサイトで紹介されています。

https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/regulation20150424.pdf)。

中国特有の表現が用いられている条文としては、第3条があり、「広告は、真実で、合法的で、健全な表現形式により広告内容を表現し、社会主義精神文明の構築及び中華民族の優秀な伝統文化の発揚に関する要求を満たさなければならない」と規定されています。

 

実務においては、第9条が規定する使用禁止用語が重要です。同条では、「中華人民共和国の国旗、国歌、国章、軍旗、軍歌、軍の記章を使用する、又は形を変えて使用する。」こと(第1号)、「国家級、最高級、最良等の用語を使用する。」こと(第3号)、「国家の尊厳又は利益を損ね、国家秘密を漏洩する」こと(第4号)、「社会の安定を妨害し、社会公共の利益を損ねる」こと(第5号)などが禁止されています。

このほかにも、多くの規制が設けられていますので、関係するビジネスをされている方は、一度、条文に目を通されることを、お勧めします。

 

広告法の規制に違反した場合には、行為態様に応じた罰金や、営業許可証の取消しといったサンクションが規定されています。

上記の禁止用語の表現からは、該当性について明確に判断することが困難なケースもありますので、慎重に、対応することが必要です。

 

 

また、広告法のほかに、インターネットを用いた広告に特化した規制として、インターネット広告管理暫定規則が存在します。同規則では、一定の場合に、電子メールに広告又は広告リンクを貼ることを禁止するなど(第8条第3項)、実務上、注意すべき規制が多く規定されています。同規則に違反した場合には、広告法の罰則規定が多く引用されていることから、広告法と同様、同規則についても、慎重な対応が必要です。

 

 

なお、広告法及びインターネット広告管理暫定規則に関連して、2018年にロシアにて開催されたサッカーワールドカップの際、ピッチ横の看板に、スポンサー企業であるHisense(中国名:海信)の広告文語「海信电视 中国第一」が表示され、中国国内の視聴者も、看板に記載された広告を目にすることになりました(このような状態は、ワールドカップに限らず、多くのスポーツ中継等で、目にするようになっています。)。

このような広告について、中国法令である広告法やンターネット広告管理暫定規則が適用されるのかについて、中国内で、議論になりましたが、明確な結論は出されていません。また、私の知る限り、国外での上記のような広告について、中国当局が、何らかのペナルティーを課したということも、ありません。しかしながら、理論上は、適用可能性が存在すると思われますので、特に中国内に拠点を有する企業や、中国内でのビジネスを行っている企業としては、今後の動向に注意する必要があるでしょう。

 

(文責:藤井宣行)

2020年08月24日 09:26|カテゴリー:

中国法務

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中国、広告

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中国における商標権侵害判断基準の公布

中国の知的財産権局は、2020年6月15日、商標権侵害判断基準(以下「本基準」といいます。)を制定・公布しました(以下のサイトで、原文が公開されていますので、ご参考までに引用します。http://www.cnipa.gov.cn/gztz/1149656.htm)。

 

これまでは、商標権侵害については、商標法及び商標法実施条例等を参照しつつ、判断していました。しかしながら、判断基準が必ずしも明確ではなかったことから、結論を導くことが困難なケースも多くありました。

 

本基準は、第1条から第38条までで構成され、商標権利侵害の判断における重要基準を、リストアップする形式で規定されています。

その内容についても、商標法及び商標法実施条例等と比較して、具体性・明確性が増していますので、実務上の重要な指針となると思われます。

例えば、本基準第3条では、「商標権の使用」について、「商標を、商品、商品の包装、容器、サービス提供場所または取引書類に用い、もしくは、商標を広告宣伝、展示又はその他の商業活動において用い、もって、商品またはサービスの出所の識別に用いる行為」であると定義しています。

この内容については、これまでも、商標法第48条で、ほぼ同内容の規定が存在しましたが、本基準では、この定義をさらに細分化して定義しています。例えば、第4条で「商標を、商品、商品の包装、容器、サービス提供場所または取引書類に用いる」という規定について、商品の説明書や販売契約書等に用いること等を含むことが明記されています。さらに、第5条では、「サービス提供場所または取引書類に用い」るという規定について、従業員の衣服やメニュー表等に用いること等を含むことが明記されています。」。

 

このように、本基準では、これまでよりも、具体的かつ明確な基準が多く規定されていますので、今後、取引実務において、参考にする価値が大いにあると考えます。

 

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(文責:藤井宣行)

2020年07月29日 09:47|カテゴリー:

中国法務

|タグ:

中国、商標

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