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ベンチャー法務の部屋

会社法改正(D&O保険)

令和元年12月4日に成立した会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)が、本年3月1日から施行されます。当該改正には、D&O保険に関するものが含まれており、今回は、この点について、少し説明します。

D&O保険(D&OはDirectors and Officersの略です。会社役員賠償責任保険ともいいます。)は、一般に、会社が保険契約者となり、役員等が被保険者となるもので、当該保険では、役員等がその業務として行った行為に基因して法律上負担する損害賠償金及び弁護士費用等を補償の対象とします。

D&O保険では、保険金に限度額が定められおり、また、さまざまな免責条項(役員等が法令違反を認識しながら(認識していたと判断できる合理的な理由がある場合を含みます。)行った場合等)が設けられています。

従来、D&O保険は、会社法上の制度ではなく、単に、保険契約として存在するものでしたが、上記の改正で、会社法に取り込まれることになりました。

すなわち、会社法第430条の3第1項で、D&O保険について、「保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、役員等を被保険者とするもの」と規定されました。また、同項では、株式会社が、D&O保険の「内容の決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。」と規定されました。

また、D&O保険にかかる保険契約の締結については、同契約に関する承認決議があれば、利益相反取引(会社法第356条第1項等)には該当しないとされました(改正会社法第360条の3第2項)。

なお、D&O保険については、会社が保険料を支払うことから、当該保険料について、会社から役員等に対する経済的利益が供与されており、役員等に対する所得税の課税が生じるのではないか、という問題がありました(課税があるとすれば、所得分類は給与所得となると考えられますから、会社には源泉徴収義務・納付義務の問題が生じることになります。)。

しかしながら、この点については、経済産業省から、令和2年9月30日付けで、「令和元年改正会社法施行後における会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて」が公表されていますので、ご紹介します。これによると、国税庁は、「会社が、改正会社法の規定に基づき、当該保険料を負担した場合には、当該負担は会社法上適法な負担と考えられることから、役員個人に対する経済的利益の供与はなく、役員個人に対する給与課税を行う必要はない。」と結論付けています。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/200930doinsurance.pdf

参考:

会社法(令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正)

(役員等のために締結される保険契約)

第433条の3

株式会社が、保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、役員等を被保険者とするもの(当該保険契約を締結することにより被保険者である役員等の職務の執行の適正性が著しく損なわれるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。第三項ただし書において「役員等賠償責任保険契約」という。)の内容の決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。

2 第三百五十六条第一項及び第三百六十五条第二項(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)並びに第四百二十三条第三項の規定は、株式会社が保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、取締役又は執行役を被保険者とするものの締結については、適用しない。

3 民法第百八条の規定は、前項の保険契約の締結については、適用しない。ただし、当該契約が役員等賠償責任保険契約である場合には、第一項の決議によってその内容が定められたときに限る。

(文責:藤井宣行)

2021年01月21日 11:52|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません

令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正のうち、 取締役の報酬等として当該株式会社の株式又は新株予約権を付与しようとする場合の改正点の解説

1 はじめに

今月(2020年11月)20日、令和元年会社法改正の施行日が公布されました。
令和3年3月1日です。

この令和元年会社法改正は、おおむね以下の事項を定めています。いくつかの新制度の制定があり、それなりに大きな改正です。
(1) 株主総会資料の電子提供制度の創設
(2) 株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備
(3) 取締役の報酬に関する規律の見直し
(4) 会社補償及び役員等のために締結される保険契約に関する規律の整備
(5) 社外取締役の活用等
(6) 社債の管理に関する規律の見直し
(7) 株式交付制度の創設
(8) その他(①募集新株予約権について募集事項として募集新株予約権の払込金額の算定方法を定めた場合であっても、原則的には、募集新株予約権の払込金額を登記すれば足りることとし、例外的に、登記の申請の時までに募集新株予約権の払込金額が確定していないときは、当該算定方法を登記しなければならないことと、②成年被後見人等についての取締役等の欠格条項を削除、③会社の支店の所在地における登記の廃止、等)

このうち、今回は、「 取締役の報酬に関する規律の見直し 」のうち、「取締役の報酬等として当該株式会社の株式又は新株予約権を付与しようとする場合には、定款又は株主総会の決議により、当該株式又は新株予約権の数の上限等を定めなければならないこと」について、解説します。

概要は、「取締役の報酬等を決定する手続等の透明性を向上させ,また,株式会社が業績等に連動した報酬等をより適切かつ円滑に取締役に付与することができるようにするため,上場会社等の取締役会は,取締役の個人別の報酬等に関する決定方針を定めなければならないこととするとともに,上場会社が取締役の報酬等として株式の発行等をする場合には,金銭の払込み等を要しないこととするなどの規定を設けることとしています」というものです(令和元年12月11日付け(令和2年9月1日更新)法務省民事局 「会社法の一部を改正する法律について」)。

2 現行会社法における取締役への新株予約権の付与と取締役報酬規制

以前、「いわゆる有償ストック・オプションを発行する場合に、株主総会において報酬等に関する決議が必要か」というエントリーを当ブログに上げました。

現行(令和3年2月末日まで)の会社法では、取締役の報酬等(職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益)については、額、具体的な算定方法、又は内容を、定款又は株主総会の決議によって定めなければならないとのみ規定されています(会社法第361条第1項)。

現行の会社法では、会社法の取締役の報酬に関する規律との関係で、取締役に無償で新株予約権(ストックオプション)を付与する場合に、 具体的な算定方法、又は内容について、株主総会でどのように決議すべきかは、必ずしも会社法上明確ではありません。また、 取締役に有償で新株予約権(ストックオプション)を付与する場合にも、会社法361条にいう「報酬等」に該当するかどうか、はっきりせず、報酬決議が必要か否かも明確ではありませんでした。

3 ベンチャー企業の取締役にストックオプション(新株予約権)を付与する場合における、令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正後の取締役報酬規制

令和元年会社法改正の第361条第1項では、 「報酬等のうち当該株式会社の募集新株予約権(第二百三十八条第一項に規定する募集新株予約権をいう。以下この項及び第四百九条第三項において同じ。)については、当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項」(第4号)や「 報酬等のうち次のイ又はロに掲げるものと引換えにする払込みに充てるための金銭については、当該 イ又はロに定める事項」「 当該株式会社の募集新株予約権取締役が引き受ける当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項 」(第5号ロ)を株主総会で決議すれば、足りることが明確になりました。

 

 したがって、令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正後は、
 【取締役に無償で新株予約権(ストックオプション)を付与する場合】は
 「報酬等」に該当するものとして、
 改正後の会社法第361条第1項第4号に基づき、
 ストックオプションの内容を決議した方がよいと考えます。


【 取締役に有償で新株予約権(ストックオプション)を付与する場合】も、
 「報酬等」に該当するものとして、
 それぞれ改正後の会社法第361条第1項第4号に基づき、
 ストックオプションの内容を決議した方がよいと考えます。

 また、【 取締役に有償で新株予約権(ストックオプション)を付与する場合】も、
 事実上有償部分の対価(払込金額)を役員に交付する場合は、「報酬等」に該当するものとして、改正後の会社法第361条第1項第4号又は第5号に基づき、ストックオプションの内容を決議した方がよい場面がでてくる可能性があると考えます。

(★ この内容は、2021年1月8日に変更しております。)

 決議すべき事項は、以下のとおりです。
① 当該募集新株予約権の数の上限
② 当該新株予約権の目的である株式の数 (種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数) 又はその算定方法
③ 当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法
④ 金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
⑤ 当該新株予約権を行使することができる期間
⑥ 一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要
⑦ 前二号に掲げる事項のほか、当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要
⑧ 譲渡による当該新株予約権の取得について当該株式会社の承認を要することとするときは、その旨
⑨ 当該新株予約権について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、会社法236条第1項第7号イからチに掲げる事項(いわゆる取得条項の内容)
⑩ 当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要

会社法第236条第1項の事項の他、行使資格や行使条件を明確にする必要があり、結局のところ、新株予約権の要項と割当契約書を別紙で添付して、報酬等の内容として決議することになるものと考えられます。

4 留意事項

 会社法改正施行前、要するに令和3年2月末日までに、株式やストックオプション(新株予約権)の授権枠の決議のみを株主総会で行い、取締役等への具体的な割当決議を施行後、すなわち令和3年3月1日以後に行う場合は、改めて株主総会で報酬決議を要するか否かについては、確認が必要であるため、弁護士にお問い合わせください。
 また、RSU等の事後交付型株式報酬等は、個別に検討を要しますので、こちらも弁護士にお問い合わせください。
 なお、 会社法改正施行前であっても、役員報酬決議に際して、改定後の決定事項を網羅した形で、役員報酬決議を取得しておくことは、会社法上、問題がないと考えられますので、今から取締役等にストックオプションを付与する場合は、是非、株主総会にて、 改定後の決定事項を網羅した形で役員報酬決議も同時に行っていただく方法がよいと考えます。

5 参考

参考までに、改正後の会社法第361条第1項第4号から第6項、施行規則第112条の2を掲載します。

会社法(令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正)
(取締役の報酬等)
第361条第1項
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
   (中略:1号~3号)
 四 報酬等のうち当該株式会社の募集新株予約権(第二百三十八条第一項に規定する募集新株予約権をいう。以下この項及び第四百九条第三項において同じ。)については、当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項
 五 報酬等のうち次のイ又はロに掲げるものと引換えにする払込みに充てるための金銭については、当該イ又はロに定める事項
  イ 当該株式会社の募集株式取締役が引き受ける当該募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び種類ごとの数)の上限その他法務省令で定める事項
  ロ 当該株式会社の募集新株予約権取締役が引き受ける当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項
 六 報酬等のうち金銭でないもの(当該株式会社の募集株式及び募集新株予約権を除く。)については、その具体的な内容
  

会社法施行規則
第98条の3
法第三百六十一条第一項第四号に規定する法務省令で定める事項は、同号の募集新株予約権に係る次に掲げる事項とする。
 一 法第二百三十六条第一項第一号から第四号までに掲げる事項(同条第三項の場合には、同条第一項第一号、第三号及び第四号に掲げる事項並びに同条第三項各号に掲げる事項)
 二 一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要
 三 前二号に掲げる事項のほか、当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要
 四 法第二百三十六条第一項第六号に掲げる事項
 五 法第二百三十六条第一項第七号に掲げる事項の内容の概要
 六 取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要(取締役の報酬等のうち株式等と引換えにする払込みに充てるための金銭について定めるべき事項)

第98条の4

法第三百六十一条第一項第五号イに規定する法務省令で定める事項は、同号イの募集株式に係る次に掲げる事項とする。
 一 一定の事由が生ずるまで当該募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要
 二 一定の事由が生じたことを条件として当該募集株式を当該株式会社に無償で譲り渡すことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要
 三 前二号に掲げる事項のほか、取締役に対して当該募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件又は取締役に対して当該募集株式を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要

2 法第三百六十一条第一項第五号ロに規定する法務省令で定める事項は、同号ロの募集新株予約権に係る次に掲げる事項とする。 
  一 法第二百三十六条第一項第一号から第四号までに掲げる事項(同条第三項の場合には、同条第一項第一号、第三号及び第四号に掲げる事項並びに同条第三項各号に掲げる事項)
 二 一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要
 三 前二号に掲げる事項のほか、当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要
 四 法第二百三十六条第一項第六号に掲げる事項
 五 法第二百三十六条第一項第七号に掲げる事項の内容の概要  
 六 取締役に対して当該募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件又は取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要  

文責:森 理俊

正社員から個人事業主に

2020年11月11日付け日本経済新聞電子版に、「電通、社員230人を個人事業主に 新規事業創出ねらう」との記事が掲載されていました。同記事の概要を、以下に引用します。

  • 電通は一部の正社員を業務委託契約に切り替え、「個人事業主」として働いてもらう制度を始める。
  • 新制度の適用者は、営業や制作、間接部門など全職種の40代以上の社員約2800人を対象に募集した。適用者は早期退職したうえで、電通が11月に設立する新会社と業務委託契約を結ぶ。契約期間は10年間。電通時代の給与を基にした固定報酬のほか、実際の業務で発生した利益に応じてインセンティブも支払われる。
  • 適用者は電通社内の複数部署の仕事をするほか、他社と業務委託契約を結ぶこともできる。ただ競合他社との業務は禁止する。

要は、電通の正社員が、電通を退職し、個人事業主として、電通(または子会社)と業務委託契約を締結し、業務委託料の支払いを受けるというものです。同様の取り組みは、電通以外の企業でも実施されているようです。計測器メーカーのタニタでは、2016年から、同様の取り組みを実施されていて、現在では、社員の約1割にあたる24名が、タニタを退職し、個人事業主として、業務を行っているとのことです(https://seleck.cc/1419)。

タニタによれば、この取り組みの目的は、「優秀な人材がより主体性を発揮できるよう支援し、努力に報いること」です。

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO50531260T01C19A0000000?channel=DF130420167231

この制度は、業務を受けるか否か、受ける場合の対価の額について、その都度、検討し、業務遂行に際しては、会社の指揮監督命令の下ではなく、自分の裁量と判断によって行う。また、労働時間の長短・休憩時間等についても、自己責任で調整する。これによって、正社員(労働者)の立場では実現できなかった「主体性」を発揮し、付加価値の高い業務を行って、提供した価値に応じた経済的利益を得られるようにする、という考えで、行われているのだと思います。

たしかに、この制度を利用した元社員の方のインタビューを読むと、個人事業主になって良かった点が多くあると感じている方もいるようです(https://seleck.cc/1419)。

他方、業務委託の契約期間が満了した時点で、契約を更新してもらえない場合や、満足できる対価での合意が困難な場合に、元従業員の生活保障については、どのように考えるのかという点(一般的には、他社からの発注を広く受けられるケースは多くないように思います。また、こういったリスクをふまえて、独立後の業務委託料を、独立前の給与に比較して大幅に高額に設定されることも想定しにくいです。)、もし雇用契約であれば時間外手当等が支給されるべき時間を働かなければこなせない業務を受注しても時間外手当等を支払ってもらえないという点、社会保険や年金はどうするのかという点、及び、社員の場合は給与所得としての給与所得控除があったうえ、源泉徴収と年末調整で済んでいたものが、事業所得となり給与所得控除がなくなり確定申告が必要となる点など、解決すべき課題は、たくさんあります。

実際に、これらの懸念点について、各所で議論されているようです。

https://news.yahoo.co.jp/articles/a96e7117dea95e8d43b0c9ab72b9152a7a3bac61

なお、もちろん、電通にしても、タニタにしても、上記のような懸念点については、十分に認識したうえで、対応されていることと思います。

個人的には、このような取り組みについて、貴重なチャレンジであると思っています。現在の労働法制下において、柔軟な制度設計をすることは必ずしも容易ではない面があることは否定できません。他方、多様な人材を確保し、かつ、多様な働き方を用意することによって、企業としての国際競争力を強化する必要性は、日増しに高まっています。そのためには、これまでにない発想と工夫で、新たな取り組みにチャレンジすることも必要でしょう。

もっとも、導入に際しては、上記の例のように、労働者にデメリットや不利益が生じることも想定されますので、これらの点について、労働者に対し、十二分に理解してもらったうえで、自主的な選択の機会を確保すべきことは言うまでもありません。

(文責:藤井宣行)

2020年11月18日 12:06|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません

取締役の選任に係る株主間の契約や合意の有効性

1 はじめに

スタートアップ企業への投資に際しては、株主間契約や投資契約において、ベンチャーキャピタル(主にリード)側が、取締役1名の選任権を有する旨などと、規定していることが少なくありません。
この取締役選任権の趣旨は、取締役会の出席権を確保して、会社の業績や運営状況を把握し、適宜、コミュニケーションを図って、業績が想定通りに推移しているか、適切な会社運営がなされているかを確認しつつ、場合によっては企業価値向上のための適時適切なサポートにつなげたいということがあります。また、社外からの監視体制を維持することで、会社の体制が向上することへの期待もあるでしょう。

このような、取締役の選任についての株主間の契約や合意は、常に有効なのでしょうか。

2 検討

(1) 取締役の選任についての 株主間の契約や合意は、 株主総会における議決権を拘束する形で規定されます。
具体的な条文例として、

投資者は発行会社の取締役を1名指名する権利を有する。投資者がかかる権利を行使する場合、発行会社及び経営支配者は投資者が指名した者が取締役として速やかに選任されるために必要なあらゆる措置をとる。

といった形で規定されます。

かつては、議決権拘束契約は無効であるとの立場があったようですが、現在は、このような株主間の議決権拘束契約は有効であるとの立場が支配的であるとされています。

(2) ここでの「 株主間の議決権拘束契約は有効 」との意味は、いわゆる債権的効力として有効という意味です。

すなわち、当事者間では、拘束力があり、違反した場合には、債務不履行に基づく損害賠償請求ができる、という関係にはある一方で、合意内容に反した議決権行使がされたとしても議決権の効力自体には影響を及ぼしません。

(3) 実は、裁判例は、背景事業に応じて、判断が分かれています。
詳細は、割愛しますが、次のような事例で、 議決権拘束契約の法的拘束力を否定したものがあります。

取締役の選任につき、原告と被告の2人を代表取締役に選出するとの裁判外での和解が成立したとの背景事情がある事案で、

原告と被告の二人を代表取締役に選出するということで妥協点を見出して裁判外で和解し、右の訴訟等も取下げて紛争を解決したことが認められる。
原告は、右の和解によつて、被告が原告に対し、昭和四四年当時にあつても、原告が取締役に選出されるべく株主ないし取締役として行動すべき法的義務を負つていることを前提にして、被告の行為の和解契約違反を主張する。しかし、原被告各本人尋問の結果によれば、右和解に関しては何らの書面も作成されなかつたことが認められ、このことに照らすと、原告を(代表)取締役に選出するべく行動するといつても、これはせいぜい、いわゆる紳士協定といわれるものではないかと思われるし、かりに契約上の厳格な義務を定めたものであるにしても、その後一五年を経た昭和四四年当時にも存続しているとする原告の主張は採り得ない。そもそも、原被告各本人尋問の結果によれば、原被告を代表取締役に選出するというのは、当時生じていた前記紛争をその時点において解決するための方策であつて、暫定的な義務を定めたにすぎないとみるのが相当である。かりに、当事者間で将来に及ぶものと約束したとすれば、法が、取締役の選任を株主総会の専権事項とし(商法二五四条一項)、取締役の任期につき二年を超えることができないと定めている(同法二五六条一項)趣旨に反し、約束自体の効力が問題とされなければならない。原、被告らの内部的な問題としても、一五年も後において右約束に法的拘束力を認めることは相当でない。
結局、原告が和解違反をいう点はその前提を欠き失当というべきである。

東京地方裁判所昭和56年6月12日判決(昭和46年(ワ)第1283号 )

と判示し、法的拘束力を否定した裁判例があります。

一方、原審の議決権拘束契約の法的拘束力を否定する判断を覆し、議決権拘束契約を有効とした裁判例もあります。

東京高等裁判所 平成12年5月30日判決(平成11年(ネ)第5672号)は、以下のように判示しました。

右(1)の合意は、KSの株主総会において控訴人一夫と訴外春夫とをともに取締役として選任するよう議決権を行使すべきことを約束したものと解されるが、本来、株主がどのように議決権を行使するかは株主の自由であり、商法上、株主総会は株式数の多数によって決議される機関とされており、したがって、会社は多数の株式を有する株主によって支配されるものであるとされていることに鑑みると、株主が多数の賛成を得るために他の株主に働きかけて右のような合意をすることは、何らこれを不当視すべきものではなく、これが商法の精神にもとるものともいえないから 右の合意もまた有効であるというべきであり、控訴人一郎及び被控訴人は、KSの株主総会において右の合意に従った議決権を行使すべき義務を負うに至ったものというべきである。

東京高等裁判所 平成12年5月30日判決(平成11年(ネ)第5672号)

近時の裁判例( 東京地裁令和元年5月17日判決 )では、

本件取締役選任合意は、本件会社が新ビルを建築しようという場面において、新ビルに係る権利関係を確認した上で、その建築等を新たな取締役の下で促進すべく締結した契約書の中で、取締役の人選について具体的に定めたものであるから、法的拘束力を有するものと解するのが相当である。

としつつ、

以上によれば、本件取締役選任合意は、その文言や、新ビル契約書の他の条項、本件会社設立時の取締役選任についての合意との整合やその他諸般の事情に照らすと、B、C及びD(その指名された者を含む)がそれぞれ本件会社の取締役に選任されることを暫定的に合意したものと解するのも十分に可能であり、原告らが主張するように、それぞれの相続人の代に至った段階における本件会社の利益分配をも意識して、Q家とR家とから少なくとも1名ずつの取締役を選出する趣旨で本件取締役選任合意をしたとまでは認められないというべきである。

東京地裁令和元年5月17日判決

として、株主総会において取締役選任議案に賛成の意思表示を求めた原告の請求を棄却したものがあります(控訴)。

この事例の条文は、「Aビルデイング株式会社は本年5月迄に取締役を改選し、B、C、E(Dの代理人)の三名を新取締役に選任する。我々は今后、Aビルデイング株式会社の取締役は我々三名(その指名された者を含む)を互選する事に定めた。又取締役は累積投票で選任出来る如将来定款を改正する事を協議する。Eは取締役就任迄部長として勤務す。Dの代理人は日本人に限る。」というものであり、文言だけを見ても、確かに「 Q家とR家とから少なくとも1名ずつの取締役を選出する趣旨で本件取締役選任合意をしたとまでは認められない」という判断もやむを得ないように思います。

(4) 翻って、 スタートアップ企業への投資に際して締結される株主間契約や投資契約の、 取締役の選任についての株主間の契約や合意は、有効でしょうか。

当職の見解ですが、有効(債権的に有効)だと考えます。

一般に、 議決権拘束契約の法的拘束力は有効と考えられていることに加えて、その効力の時間的な範囲(期間)が、通常、上場までの間、又は投資家が株式を保有している間、などとして明確にされていることが通例であり、締結の趣旨とその範囲が明確になっていること等から、裁判になっても、有効と判断されるものと考えます。

(5) 上記の裁判例(東京地裁令和元年5月17日判決)の判例研究(金融商事判例No,1600)に、「現在の会社法の下では、本件のような事案においては種類株主総会により取締役・監査役を選任できる株式(108条1項8号)を利用すればよいのであろうが」(7頁)、との記載がありますので、この点は、実務的な観点を補足したいと思います。

確かに、 種類株主総会により取締役・監査役を選任できる株式(108条1項8号)を利用すれば、「 Q家とR家とから少なくとも1名ずつの取締役を選出する 」といった趣旨は達成できる可能性があります。

しかし、一方で、種類株式を利用すると、種類株式発行会社となり、募集株式の発行の際に、(定款で排除しない限り)発行する種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要するなど、その後の会社のオペレーションが煩雑になり、増資への拒否権の内容が想定と異なる事態が生じ得ることもあって、 種類株式発行会社となることを選択しないことが合理的なケースが少なくありません。

そもそも、様々な事態を想定して、種類株式を設計し、適切に定款に反映することは、容易なことではなく、種類株式の発行を熟知した法律の専門家の助言を得て作成することが強く推奨されます。

そうすると、本件のような事案では、わざわざ定款を変更して、種類株式を導入するといった動機は生じにくく、比較的容易に実現可能な議決権拘束契約が選択されることが多いといえます。

なお、 種類株式を利用することのメリットとして、単なる債権的効力のみではなく、相手方の行動に左右されることなく、着実に取締役を選任できるということを実現することができる点が挙げられます。ただ、このメリットも、取締役1名の選任のみと考えると、重要性が高い(種類株式を導入してまで実現したい)ものかというと、ベンチャー投資の場面に限って言えば、実務上は、それほどでもないことが多いように思います。

3 結論

以上のとおり、 取締役の選任についての株主間の契約や合意は、原則として有効であり、スタートアップ企業がVCと締結する投資契約や株主間契約に規定されている場合は、ほぼ間違いなく有効であると考えられます。

SNS等のアカウントで、会社の業務を行っていた取締役が、退職後にアカウントのパスワードを開示しなければならないか。

1 問題の所在

スタートアップ企業では、取締役や従業員が、フェイスブックやインスタグラム等のSNSの個人アカウントで、会社の業務執行の一環として、製品の画像をアップしたり、他のインフルエンサーとつながっていることなどがあります。また、SNSではなく、開発に関するアカウントを作成することもあります。取締役や従業員が退職した場合に、どのような場合にまでパスワードの開示義務を負うのでしょうか。特に、会社から支給されたメールアドレスでID登録し、会社の業務のみに使用していた場合(明白に会社の業務執行である場合)だけではなく、IDのメールアドレスが会社支給のものではなかったり、SNS上でプライベートと仕事の境目が判別しない関係性があったりする場合に、どのように判断できるのでしょうか。

2 裁判例

参考裁判例として、大阪高裁平成31年3月27日判決(平成30年(ネ)第1767号)があります。(時間の関係上、この問題について、関連する裁判例をくまなくチェックできているわけではありません。予めご了承ください。)

この事例は、ある取締役が,会社以外の業者のメールアドレスをIDとして、SNSにログインして、その取締役自身の写真や会社が販売していた商品等の写真を投稿していたところ,取締役を退任後,会社にアカウントのパスワードを開示しないため,会社がログインできないことなどから損害を受けたとして,その退職した取締役に対し,アカウントのパスワード開示及び損害賠償を求めた事例です。

この事件では、原審(大阪地裁:大阪地方裁判所 平成30年7月20日 判決(平成29年(ワ)第8880号))では、請求が棄却され、パスワードの開示も、損害賠償請求も認められませんでした。

しかし、控訴審である大阪高裁は,退職した取締役は本件アカウントを会社の業務の一環として開設・管理運営してきたものであり,委任契約終了に当たっての引継義務には本件アカウントの移管が含まれるとして,その退職した取締役に対し,本件アカウントのパスワードの開示,並びに広告媒体機能不使用による財産的損害として相当額の支払を各命じ,原判決を変更しました。

【参考裁判例からの抜粋】
1 事案の骨子
 本件は,訴外A(A社)との間で契約を締結して,訴外B(B社)との契約に基づき付与されたメールアドレス(本件メールアドレス)をA社に後記の個人識別子として提供してA社提供の画像共有ウェブサービス(本件サービス)を受けるとともに,本件メールアドレス利用者としてのアカウント(本件アカウント)を付与されていた被控訴人が,本件アカウントにログインして,自らあるいは仲間のラグビー選手の写真とともに,控訴人において「△△ ◇◇ □□」ブランドで販売していた商品等の写真も投稿していたものであるが,被控訴人が,控訴人の取締役退任後,控訴人に対し,本件アカウントのパスワードを開示しないため,これに起因して,控訴人が本件アカウントにログインして画像を投稿等の管理運営をすることができず,これら画像を自動的に共有閲覧することとなる不特定の利用者が減少し,これにより売上減少等の損害を受けたとして,被控訴人に対し,①取締役辞任に伴う報告義務ないし引継ぎ義務の履行として,本件アカウントにログインするためのパスワードを控訴人に開示すること並びに②上記①の義務不履行を原因として生じた売上減少等に対する損害賠償として,300万円の支払及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成29年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

(中略)
3 争点1(本件アカウントの委任契約上のパスワード開示義務の存否) 
(1) 委任契約上の義務の存否について 
ア 本件アカウントの利用者たる地位
  前記2の本件サービスの概要に照らせば,A社に対する関係において,本件アカウントは,その利用者たる地位は,これを開設し,そのメールアドレスを提供した被控訴人に帰属するものといわざるを得ない。
イ 本件アカウントの管理について
  他方,本件アカウントは,控訴人の業務に関連するものであることは外形的に明らかであり,次の事実を総合すると,被控訴人は,本件アカウントを控訴人の業務の一環(広報や販売促進の手段)として,開設し,管理運営してきたというべきであるから,被控訴人の控訴人に対して負う委任契約の終了に当たっての引継義務には,本件アカウントの移管が含まれるというべきである。

(以下、略)

大阪高等裁判所平成31年3月27日判決(平成30年(ネ)第1767号)

3 ポイント

上記参考裁判例では、「本件アカウントは,その利用者たる地位は,これを開設し,そのメールアドレスを提供した被控訴人(著者注:退職した取締役)に帰属するものといわざるを得ない。」としながらも、「控訴人(著者注:会社)の業務に関連するものであることは外形的に明らかであり,次の事実を総合すると,被控訴人 (著者注:退職した取締役) は,本件アカウントを控訴人 (著者注:会社) の業務の一環(広報や販売促進の手段)として,開設し,管理運営してきたというべきであるから,被控訴人 (著者注:退職した取締役) の控訴人 (著者注:会社) に対して負う委任契約の終了に当たっての引継義務には,本件アカウントの移管が含まれる」として、委任契約の終了に伴う引継義務の一環として、開示義務や損害賠償義務が認められています(但し、裁判所の判断として明示的に、これらの条文を根拠としたとされているわけではありません。)。

なお、本裁判例では、控訴人は、取締役辞任に伴う報告義務ないし引継義務の法的根拠を、会社法330条,民法645条、本件アカウントの移管義務の法的根拠を、民法646条2項に求めています。

会社法330条
 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。
民法645条
 受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
民法646条2項
 受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。

本件では、「次の事実を総合すると,」という文言があるように、事例における細部の事実関係が総合的に考慮されており、他の事実関係を前提とした場合に、どこまで適用できるかは、必ずしも明らかではありません。

実際に考慮された要素として、アカウントのユーザー名が会社の商標(出願登録)と同じ点、フランチャイジー店舗のSNSのアカウントのユーザーネームを本件アカウントのユーザー名を含むものとなるよう指示していた点、本件アカウントの閲覧により最初に現れる画面に表示される会社の公式ウェブサイトのトップページ(ホームページ)へのハイパーリンクが設定されている点などが挙げられています。

筆者の私見を述べると、全くの個人アカウントであれば、パスワードの開示は認められないものの、会社の業務に必要なアカウントや業務の一環として管理運営されてきたアカウントであれば、仮にアカウントに関する契約の当事者が個人であったとしても、引継ぎ義務の対象になる可能性が高く、退職した取締役や従業員は、アカウントの適切な引継ぎを拒絶した場合は、損害賠償義務や開示義務を負うことがありうると考えます。ただ、会社側も、このような事態を招かないようにするために、予め、会社の業務で使うアカウントを明確にした上で、パスワードも、会社で把握する等の措置をとっておいた方がよいでしょう。(なお、上記参考裁判例では、退職した取締役は、取締役兼代表取締役であったようであり、このような措置をあらかじめ採ることは難しかったと思われます。)

(文責:森 理俊)

ジョブ型雇用

昨今、各種の報道等で、ジョブ型雇用という言葉を、目や耳にする機会が多いかと思います。

ジョブ型雇用とは、どのような雇用形態を指すのでしょうか。

記事等の内容からは、統一された定義は存在しないように思います。

厚生労働省の規制改革会議が公表した「ジョブ型正社員の雇用ルール整備に関する意見」(平成25年12月5日付け)では、ジョブ型正社員について、「職務、勤務地、労働時間いずれかが限定される正社員」と定義しています。

また、日本経済新聞電子版朝刊(2020年9月2日付け)では、「職務を明確にした上で最適な人材を配置する欧米などで一般的な雇用形態。終身雇用を前提に会社の一員となった社員が様々な職責を負う日本の「メンバーシップ型」雇用と対比される概念。労働時間ではなく、職務に対する成果や目標の達成度合いで賃金が決まる。欧米ではその職務がなくなったり、能力が不足したりした場合、雇用契約を解除されるケースが多い。」と記載されています。

このジョブ型雇用を導入する目的は、専門性に特化したプロフェッショナルな労働力の確保、子育てや介護等の関係から転勤を望まない正社員としての労働力の確保等であると考えられます。

昨今、ジョブ型雇用について、コロナ対策で、リモートワーク・テレワークが増加し、定着してきたことから、アフターコロナでは、ジョブ型雇用が増える(または増やすべき)といった内容が多いように思います。

たしかに、リモートワーク・テレワークのみを行う従業員について、「勤務地や勤務方法が限定された正社員」との観点から、ジョブ型雇用であると評価することも可能であるとは思います。しかしながら、本来、ジョブ型雇用は、多様な働き方に関する制度であり、必ずしもリモートワーク・テレワークとは関係がない制度です(現に、上記の規制改革会議の意見書は平成25年に作成されています。)。

個人的には、現在のジョブ型雇用に関する議論は、どちらかというと、ジョブ=職務を限定し、その職務と従業員との関係性を重視するものが多いように感じています。一般に、ジョブ型雇用では、ジョブディスクリプション(職務記述書)を作成して、従事すべき業務を明確にすることが予定されています。

そうだとすると、そのジョブディスクリプションに記載された業務が会社から無くなった場合、どのような対応をすべきなのでしょうか。上記の日経電子版の記事では、「欧米ではその職務がなくなったり、能力が不足したりした場合、雇用契約を解除されるケースが多い。」と紹介されています。

しかしながら、現在の日本の労働法では、会社が、正社員について雇用契約を解除(=解雇)した場合に、解雇の有効性を維持できることは多くありません。

会社と従業員ではなく、職務と従業員の結びつきを重視することを、ジョブ型雇用とするのであれば、会社内にその職務が存在しなくなった場合等に、会社と従業員との関係を、どのような設計にするのかについての十分な議論が重要です。具体的には、期間の定めのある雇用契約を活用したり、ジョブディスクリプションの記載方法に工夫する等の方策が考えられます。

ジョブ型雇用等の新たな制度を導入し、多様な労働力の確保をすることや、労働力の有効活用をすることは、本来、労使双方にとって有益であるはずです。社会全体にとっても、適切に、ジョブ型雇用が導入され、活用されることは、有益であり、個人的にも良いことであると考えています。他方、導入に際しては、当然ながら、現行の法制度に抵触してはなりませんし、現行の就業規則等の社内規定の修正が必要となることもありますので、慎重な検討が必要です。

当事務所では、ジョブ型雇用の導入に関するご相談はもちろん、労務面の法令適合性の確認(労務デュー・ディリジェンス)等のサービスも提供しておりますので、関心がおありの方は、お問い合わせください。

(文責:藤井宣行)

2020年09月23日 13:44|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません

大会社への移行は何が問題か

1 はじめに

ベンチャー企業が増資を繰り返して、資本金が5億円以上となることがあります。
資本金が5億円以上となる場合に気をつけなければならないのが、「大会社」に該当することに伴い、会社法上の義務が増える点です。

今回は、この大会社に該当することの問題について、検討します。

2 大会社とは何か。

「大会社」の定義は、会社法第2条第6号に規定されています。

会社法第2条第6号
大会社 次に掲げる要件のいずれかに該当する株式会社をいう。
イ 最終事業年度に係る貸借対照表(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、同条の規定により定時株主総会に報告された貸借対照表をいい、株式会社の成立後最初の定時株主総会までの間においては、第四百三十五条第一項の貸借対照表をいう。ロにおいて同じ。)に資本金として計上した額が五億円以上であること。
ロ 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が二百億円以上であること。

簡単に申せば、定時株主総会で承認される貸借対照表において、資本金が5億円以上となるか、負債が200億円以上となると、その承認を決議をする定時株主総会以降、大会社となり、会社法上の種々の義務を負います。

3 大会社へ移行することで生じる問題


(1) 会計監査人
公開会社でであるか否かにかかわらず、大会社は会計監査人を置かなければなりません(会社法第328条)。
会計監査人を設置するためには、まず、監査法人等と監査契約を締結する必要があります。 小さいベンチャー企業であっても、 コストは、年間で最低数百万円から必要となり、決して馬鹿になりません。
なお、会社法上の会計監査人設置の手続きは、株主総会の決議による会計監査人を設置する旨の定款変更と、会計監査人の選任です。

また、会計監査人設置会社になることに伴って、監査役の監査の範囲を会計監査に限定することはできなくなります(同法第389条第1項)。そのため、 監査役の監査の範囲を会計監査に限定している場合は、会社法上 、株主総会の決議で、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを廃止する旨の定款変更と、監査役選任の決議が必要となります(同法第336条第4項第3号)。

(2) 内部統制システム
大会社の取締役会は、いわゆる内部統制システムの整備にかかる決定をしなければなりません(会社法第362条第4項第6号、第5項)。

(3) 公告義務の加重
株式会社は、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表を公告しなければなりませんが、大会社は、さらに、損益計算書も公告しなければなりません(会社法第440条第1項)。なお、いわゆる継続開示会社は、この公告義務を負いませんが(同条第4項)、その代わり、 大会社で、且つ継続開示会社は、連結計算書類を作成しなければなりません(同法第444条第3項)。

4 大会社になることを回避する方法

大会社になることを回避するためには、年度末までに資本金を5億円未満にすれば、足ります ( なお、ほとんどの未上場ベンチャー企業の負債額は200億円未満と思われますが、もし負債額が200億円以上であれば、負債額を200億円未満に減らすことも必要です。) 。

資本金を減らすためには、株主総会を開催し、資本金の額の減少を決議(会社法第447条)する必要があります。

(文責:森 理俊)

SDGsのチャンスとリスク

去る8月6日に、株式会社日本総合研究所と当事務所の主催、三井住友銀行(中国)有限公司深圳支店の後援で、「SDGsのチャンスとリスク」という題目でオンラインセミナーを開催しました。

当日は、日本国内の企業のみならず、日本企業の中国現地法人の方々を含め、約50名の方々にご参加頂きました。

今回のセミナーは、日本企業が中国を含む、海外の主要拠点において、本業を通じてどのように現地のサステナビリティに貢献し、SDGs達成のための取り組みをどのようにビジネスチャンスとするのか、またSDGsに取り組まないことで発生するリスクを知り、そのリスクをどのように予防するのかという点についてお話をしました。

SDGsが共通言語化してきた現在、企業がSDGsを本業に取り込み、環境・社会的課題の解決に資する製品やサービスを提供できれば、新たなビジネスチャンスに繋げることができます。

他方で、SDGsは世界共通の達成目標として企業にとってのコンプライアンスの内容の1つとなっており、企業がSDGsに逆行する行動をとった場合、顧客からの取引停止や投資・融資の引き上げを受けるリスク、企業価値毀損のリスクに繋がります。

世界的にも、2020年4月末に欧州委員会の司法担当のコミッショナーが、企業に対しサプライチェーンを通じた人権・環境DDを義務付ける法案を提出する予定があることを発表するなど、サプライチェーンに対する環境・社会配慮の要請が拡大しています。

また、日本においても、コーポレートガバナンス・コードにおいて、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題の対処及び内部通報制度の整備のいずれに関しても、取締役が取り組むべき旨が規定されています。

【原則2-3】社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題

上場会社は、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティ(持続可能性)を巡る課題について、適切な対応を行うべきである。

【補充原則2-3①】

取締役会は、サステナビリティ(持続可能性)を巡る課題への対応は重要なリスク管理の一部であると認識し、適確に対処するとともに、近時、こうした課題に対する要請・関心が大きく高まりつつあることを勘案し、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討すべきである。

さらに2020年は、日本政府の「ビジネスと人権に関する行動計画」(National Action Plan)の発表が予定されています。日本政府はこの計画における優先分野として、「国内外のサプライチェーンにおける企業の人権尊重を促進する仕組みの整備」及び「救済メカニズムの整備及び改善」を挙げています。( https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000502531.pdf

このように、世界だけでなく、日本においてもサステナビリティすなわちSDGsを意識した経営が求められるようになっています。

先ほど述べたように、企業がSDGsに逆行する行動をとった場合、コンプライアンス違反、ひいては取締役の責任を問われる事態が生じかねません。したがって、このSDGsの分野においても弁護士の果たすべき役割は大きくなると考えています。

これからのウィズコロナ、アフターコロナの時代においてもますます大切となる「SDGs」の考え方について、今後も広くセミナーを行う予定にしています。規模を問わず、出張セミナー等にも対応させて頂きますので、気軽にお問い合わせ下さい。

(文責:三村雅一)

2020年08月12日 19:34|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません

ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について その3

これまでコロナ禍下での株主総会運営について、2度取り上げました。

「ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について」

「ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について その2」

今回は、これまでの情報の更新を踏まえて、以前にご紹介した内容をアップデートします。

第1 省庁から発出された情報の更新状況


1 株主総会に関する法務省・経済産業省から発出されたものが更新されています。
「ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について その2」の作成時点である2020年4月6日から、「株主総会運営に係るQ&A」も更新されています。

また、法務省は、 令和2年5月15日、 令和2年2月28日付け「定時株主総会の開催について」を更新しました。 

「商業・法人登記事務に関するQ&A」も、令和2年5月1日に更新されています。

2  「株主総会運営に係るQ&A」の更新内容
「株主総会運営に係るQ&A」(令和2年4月2日 経済産業省 法務省(令和2年4月14日更新)(令和2年4月28日最終更新))

更新された内容の主な点は、「株主等の健康を守り、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主の来場なく開催することがやむを得ないと判断した場合には、その旨を招集通知や自社サイト等において記載し、株主に対して理解を求めることが考えられます。」という部分です。
要するに、 新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、オンラインのみでの開催がやむを得ないとの判断は、適法と判断される可能性があると考えられ、その際には、株主総会招集通知や自社のウェブサイトで、丁寧に理解を求め、参加方法や議決権行使などを案内することが望ましいと考えられる、というものです。
従前だと、結果的に、会場に事実上株主が出席していなかったとしてもよいという表現であったために、実際の出席は、かなり限定することはできるものの、予め「0人」、すなわちオンラインのみとすることは、難しいというようにも読めました。そのため、出席者を1人に限定し、経営株主が独占するという方法でもよいのか、仮にそうだとして、招集通知に「1人」と記載して、出席できる風を装うのは、ナンセンスではないか、といった疑問が生じたと思われます。そこで、法務省としては、「0人」、すなわちオンラインのみでもよいということを明確にしたのだと推測されます。
なお、これまでと同様、あくまで、法務省の見解ですので、裁判所の判断を拘束するものではない点には留意が必要です。ただ、私見として、裁判所も、これに準じた判断をする可能性は高いと予想します。
これを踏まえると、前回案内した【招集通知の文言の例】に、「当社は、当日、株主総会にお越しになる株主様を●名に限定させていただく予定であり、実際に来場する予定がある場合には、●年●月●日までに、●宛にご連絡ください。」という表現を記載しておりましたが、この部分は、外してもよいということになります。
外出自粛要請の状況も流動的であり、文言をシンプルにする変更もしています。

【招集通知の文言の例】

 さて、今般当社[第●回定時/臨時]株主総会を下記のとおり開催致しますので、ご出席下さいますようご通知申し上げます。また、本株主総会の付議事項の決議には、法令及び定款に基づく定足数を満たす株主のご出席を必要と致しますので、当日ご出席願えない場合は、お手数ながら後記の参考書類 をご検討いただいて、同封の委任状用紙に賛否をご明示賜り、ご捺印の上、折返しご送付下さいますようお願い申し上げます。

 ところで、昨今の、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、当社は、株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保された形でのオンラインを通じた出席を可能とするよう、準備しており、実際の会場への出席はお控えいただくこととさせていただきました。具体的には、当日、~~(URL等のオンライン参加方法)の方法で、ご出席下さい。株主の皆様におかれましては、同感染症への感染拡大防止の観点から、オンラインを通じた出席のみとさせていただくことに、ご理解をいただきますようお願い申し上げます。

(筆者の私案であり、裁判所で適法と認められることを保証するものではありません。)

第2  定時株主総会の開催時期や基準日について


定時株主総会の開催時期や基準日について、法務省のウェブページによると、以下のとおりです。一部、割愛しています。

■■■引用開始■■■

1 定時株主総会の開催時期に関する定款の定めについて
 定時株主総会の開催時期に関する定款の定めがある場合でも,通常,天災その他の事由によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じたときまで,その時期に定時株主総会を開催することを要求する趣旨ではないと考えられます。
 したがって,今般の新型コロナウイルス感染症に関連し,定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には,その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるものと考えられます。なお,会社法は,株式会社の定時株主総会は,毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないと規定していますが(会社法第296条第1項),事業年度の終了後3か月以内に定時株主総会を開催することを求めているわけではありません。
 
2 定時株主総会の議決権行使のための基準日に関する定款の定めについて
 会社法上,基準日株主が行使することができる権利は,当該基準日から3か月以内に行使するものに限られます(会社法第124条第2項)。
 したがって,定款で定時株主総会の議決権行使のための基準日が定められている場合において,新型コロナウイルス感染症に関連し,当該基準日から3か月以内に定時株主総会を開催できない状況が生じたときは,会社は,新たに議決権行使のための基準日を定め,当該基準日の2週間前までに当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を公告する必要があります(会社法第124条第3項本文)。
 
3 剰余金の配当の基準日に関する定款の定めについて
 特定の日を剰余金の配当の基準日とする定款の定めがある場合でも,今般の新型コロナウイルス感染症に関連し,その特定の日を基準日として剰余金の配当をすることができない状況が生じたときは,定款で定めた剰余金の配当の基準日株主に対する配当はせず,その特定の日と異なる日を剰余金の配当の基準日と定め,当該基準日株主に剰余金の配当をすることもできます。なお,このように,剰余金の配当の基準日を改めて定める場合には,2の場合と同様に,当該基準日の2週間前までに公告する必要があります(会社法第124条第3項本文)。

○ 参考情報  

(一部、割愛)
4 「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」の公表について
 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会は,令和2年4月15日,「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」を公表しました(金融庁ホームページ を御覧ください。)。
 これは,新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて,3月期決算業務及び監査業務に大きな遅延が生じる可能性が高まっていることを踏まえ,通常6月末に開催される株主総会の運営等についての同協議会の考えを示したものです。
 また,続行の決議(会社法第317条)によりいわゆる継続会を開催する場合における留意点等については,「継続会(会社法317条について) 」【PDF】も御覧ください。

5 新型コロナウイルス感染症に関連した商業・法人登記における取扱いについては,「商業・法人登記事務に関するQ&A 」を御覧ください。

6 令和2年5月15日,会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令(法務省令第37号)が公布され,同日から施行されました(本省令の内容はこちら【PDF】)。本省令は,新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ,本省令の施行の日から6か月以内に招集の手続が開始される定時株主総会に限り,単体の貸借対照表や損益計算書等をいわゆるウェブ開示によるみなし提供制度の対象に含めることとするものです。
 本省令の内容等については,「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令(令和2年法務省令第37号)について」【PDF】も御覧ください。  
■■■引用終わり■■■

6は、時限的に、単体のBS及びPLなどがウェブ開示によるみなし提供制度の対象になるという話であり、非上場企業で、そもそもウェブ開示していないということであれば、関係ないでしょう。

(文責:森 理俊)

ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について その2

前回、「ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について」と題するブログ(前回ブログ)をアップしました。

今回は、その続報を踏まえた対応です。前回から少し状況が変化していますので、ご注意ください。

2020年4月2日付け「株主総会運営に係るQ&A」( 経済産業省・法務省)の内容

経済産業省と法務省は、2020年4月2日、「株主総会運営に係るQ&A」を発表しました。

概要は、以下のとおりです。

  1. 株主総会の招集通知等において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために出席を控えることを呼びかけることは可能である。その際には、書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましい。
  2. 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、会場に入場できる株主の人数を制限することは可能である。現下の状況においては、その結果として、会場に事実上株主が出席していなかったとしても、株主総会を開催することは可能と考えられる。
  3. 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、株主総会への出席について事前登録制を採用し、事前登録者を優先的に入場させることは可能である。事前登録を依頼するに当たっては、全ての株主に平等に登録の機会を提供するとともに、登録方法について十分に周知し、株主総会に出席する機会を株主から不公正に奪うものとならないよう配慮すべきと考えられる。
  4. 発熱や咳などの症状を有する株主に対し、入場を断ることや退場を命じることは可能である。
  5. 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、株主総会の時間を短縮すること等は可能である。

この内容は、裁判所の判断を拘束するものではありませんが、裁判所も、これに準じた判断をする可能性は高いと予想します。

多少私見を含めて、述べるとすれば、ポイントとしては、以下のとおりです。

  • 現在の状況(2020年4月2日現在)であれば、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、オンラインのみ出席の株主総会であっても、株主総会の開催として、問題はないと考えられる。
  • オンラインのみ出席の株主総会の場合、書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましい。ベンチャー企業の場合は、後述のとおり、書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法が、大変な場合もある。この場合、委任状による議決権の代理行使を強く推薦する方法もある程度、認められるだろう。
  • 株主総会への出席について事前登録制も採用可能であるが、人数制限を課す場合は、株主平等原則に十分配慮する必要がある。
  • 発熱や咳などの症状を有する株主の入場拒否や強制退場、総会の時間短縮など、感染拡大防止や安全配慮のための具体的な危険回避の措置は、問題がない。

なお、「 オンラインのみ出席の株主総会であっても、株主総会の開催として、問題はない 」という場合でも、 株主総会自体は、リアルの場所で開催されたものとし、具体的には、議長のいる場所を、総会の開催場所とする等の前提は必要と思われます。オンライン上の仮想空間やURLを会場を開催場所とすることは、許されないという点は、変わっていません。

ところで、書面による議決権行使(書面投票制度)は、招集通知に際して、株主に対し、株主総会参考書類及び議決権行使書面を交付しなければなりません。小規模なベンチャー企業では、株主総会招集通知とは別に、株主総会参考書類を適法に作成するための人的時間的リソースがないことも少なくありません。 そこで、ベンチャー企業の株主総会を、どのようにするか、ということが問題になります。

なお、議決権を有する株主の数が1000人以上の会社においては、書面による議決権行使を株主に認めるべきことが法律上強制されていますが、ベンチャー企業では、通常、そのようなことがありませんので、書面による議決権行使を採用する必要はありません。

2020年4月2日付け「株主総会運営に係るQ&A」( 経済産業省・法務省) を踏まえたベンチャー企業の株主総会対応

オンラインのみ出席の株主総会の場合、書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましいとされています。しかし、ベンチャー企業は、上述のとおり、一般的には、事前の議決権行使の方法を採用しないことが多いと思います。 事前の議決権行使の方法を採用しない 場合は、やはりオンラインのみではなく、建付けとしては、オンライン+リアル総会としつつ、かなり強く、委任状による議決権の代理行使と、オンラインによる出席を、強く推薦するという方法が現実的であろうと思われます。全株主同意を前提とする書面株主総会による方法(前回ブログの2(1))が採用可能である点は、変わりません。

前回ブログでは、「仮にハイブリッド型バーチャル株主総会を実施したとしても、具体的に既に感染している株主であること等の具体的な感染リスクが懸念される等の例外事由がない限り、実際の来場を拒むことは、基本的にできないと考えられます。」と記載しました。
この点は、少し変更になります。すなわち、いわゆる「三密」ではない空間を用意することが難しいこと、外出自粛要請や10 名以上が集まる集会・イベントへの参加を避けることが要請されていること、新型コロナウイルス感染防止拡大、緊急事態宣言が発令されていること等を理由として、オンライン出席や委任状提出を強く促しつつ、株主の入場を数名程度に制限することと通知して、実際に総会会場にリアルに出席を希望する株主には、一定の期日までに連絡してもらい、制限員数を超える場合は抽選にすることとし、招集通知等で、その旨を記載する方法などが考えられます。そのため、招集通知の記載方法次第では、ほぼ事実上、オンラインをメインとした株主総会を開催することはできると考えます。

【招集通知の文言の例】

さて、今般当社[第●回定時/臨時]株主総会を下記のとおり開催致しますので、ご出席下さいますようご通知申し上げます。また、本株主総会の付議事項の決議には、法令及び定款に基づく定足数を満たす株主のご出席を必要と致しますので、当日ご出席願えない場合は、お手数ながら後記の参考書類 をご検討いただいて、同封の委任状用紙に賛否をご明示賜り、ご捺印の上、折返しご送付下さいますようお願い申し上げます。

 ところで、昨今の、新型コロナウイルス感染症拡大の状況並びに政府、地方自治体等からの外出自粛等の要請を踏まえ、当社は、株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保された形でのオンラインを通じた出席を可能とするよう、準備しております。具体的には、当日、~~(URL等のオンライン参加方法)の方法で、ご出席下さい。株主の皆様におかれましては、同感染症への感染防止及び感染拡大防止の観点から、株主総会の会場に実際にお越しになる代わりにオンラインを通じた出席を強くお願い申し上げます。当社は、当日、株主総会にお越しになる株主様を●名に限定させていただく予定であり、実際に来場する予定がある場合には、●年●月●日までに、●宛にご連絡ください。上記制限人数を超過する場合は、抽選などの方法で、来場者を限定させていただく場合がありますので、予めご了承ください。

(筆者の私案であり、裁判所で適法と認められることを保証するものではありません。)

なお、オンラインでの出席を認める場合には、株主総会に、出席の方法として、開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されている状況を基礎づける事実(ビデオ会議・電話会議システムの使用等)の記載が必要であるとする点は、前回ブログから変更はありません。

2020年5月29日 アップデート情報があります。
「ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について その3」をご確認ください。

(文責:森 理俊)

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