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ベンチャー法務の部屋

ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について その3

これまでコロナ禍下での株主総会運営について、2度取り上げました。

「ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について」

「ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について その2」

今回は、これまでの情報の更新を踏まえて、以前にご紹介した内容をアップデートします。

第1 省庁から発出された情報の更新状況


1 株主総会に関する法務省・経済産業省から発出されたものが更新されています。
「ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について その2」の作成時点である2020年4月6日から、「株主総会運営に係るQ&A」も更新されています。

また、法務省は、 令和2年5月15日、 令和2年2月28日付け「定時株主総会の開催について」を更新しました。 

「商業・法人登記事務に関するQ&A」も、令和2年5月1日に更新されています。

2  「株主総会運営に係るQ&A」の更新内容
「株主総会運営に係るQ&A」(令和2年4月2日 経済産業省 法務省(令和2年4月14日更新)(令和2年4月28日最終更新))

更新された内容の主な点は、「株主等の健康を守り、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主の来場なく開催することがやむを得ないと判断した場合には、その旨を招集通知や自社サイト等において記載し、株主に対して理解を求めることが考えられます。」という部分です。
要するに、 新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、オンラインのみでの開催がやむを得ないとの判断は、適法と判断される可能性があると考えられ、その際には、株主総会招集通知や自社のウェブサイトで、丁寧に理解を求め、参加方法や議決権行使などを案内することが望ましいと考えられる、というものです。
従前だと、結果的に、会場に事実上株主が出席していなかったとしてもよいという表現であったために、実際の出席は、かなり限定することはできるものの、予め「0人」、すなわちオンラインのみとすることは、難しいというようにも読めました。そのため、出席者を1人に限定し、経営株主が独占するという方法でもよいのか、仮にそうだとして、招集通知に「1人」と記載して、出席できる風を装うのは、ナンセンスではないか、といった疑問が生じたと思われます。そこで、法務省としては、「0人」、すなわちオンラインのみでもよいということを明確にしたのだと推測されます。
なお、これまでと同様、あくまで、法務省の見解ですので、裁判所の判断を拘束するものではない点には留意が必要です。ただ、私見として、裁判所も、これに準じた判断をする可能性は高いと予想します。
これを踏まえると、前回案内した【招集通知の文言の例】に、「当社は、当日、株主総会にお越しになる株主様を●名に限定させていただく予定であり、実際に来場する予定がある場合には、●年●月●日までに、●宛にご連絡ください。」という表現を記載しておりましたが、この部分は、外してもよいということになります。
外出自粛要請の状況も流動的であり、文言をシンプルにする変更もしています。

【招集通知の文言の例】

 さて、今般当社[第●回定時/臨時]株主総会を下記のとおり開催致しますので、ご出席下さいますようご通知申し上げます。また、本株主総会の付議事項の決議には、法令及び定款に基づく定足数を満たす株主のご出席を必要と致しますので、当日ご出席願えない場合は、お手数ながら後記の参考書類 をご検討いただいて、同封の委任状用紙に賛否をご明示賜り、ご捺印の上、折返しご送付下さいますようお願い申し上げます。

 ところで、昨今の、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、当社は、株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保された形でのオンラインを通じた出席を可能とするよう、準備しており、実際の会場への出席はお控えいただくこととさせていただきました。具体的には、当日、~~(URL等のオンライン参加方法)の方法で、ご出席下さい。株主の皆様におかれましては、同感染症への感染拡大防止の観点から、オンラインを通じた出席のみとさせていただくことに、ご理解をいただきますようお願い申し上げます。

(筆者の私案であり、裁判所で適法と認められることを保証するものではありません。)

第2  定時株主総会の開催時期や基準日について


定時株主総会の開催時期や基準日について、法務省のウェブページによると、以下のとおりです。一部、割愛しています。

■■■引用開始■■■

1 定時株主総会の開催時期に関する定款の定めについて
 定時株主総会の開催時期に関する定款の定めがある場合でも,通常,天災その他の事由によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じたときまで,その時期に定時株主総会を開催することを要求する趣旨ではないと考えられます。
 したがって,今般の新型コロナウイルス感染症に関連し,定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には,その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるものと考えられます。なお,会社法は,株式会社の定時株主総会は,毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないと規定していますが(会社法第296条第1項),事業年度の終了後3か月以内に定時株主総会を開催することを求めているわけではありません。
 
2 定時株主総会の議決権行使のための基準日に関する定款の定めについて
 会社法上,基準日株主が行使することができる権利は,当該基準日から3か月以内に行使するものに限られます(会社法第124条第2項)。
 したがって,定款で定時株主総会の議決権行使のための基準日が定められている場合において,新型コロナウイルス感染症に関連し,当該基準日から3か月以内に定時株主総会を開催できない状況が生じたときは,会社は,新たに議決権行使のための基準日を定め,当該基準日の2週間前までに当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を公告する必要があります(会社法第124条第3項本文)。
 
3 剰余金の配当の基準日に関する定款の定めについて
 特定の日を剰余金の配当の基準日とする定款の定めがある場合でも,今般の新型コロナウイルス感染症に関連し,その特定の日を基準日として剰余金の配当をすることができない状況が生じたときは,定款で定めた剰余金の配当の基準日株主に対する配当はせず,その特定の日と異なる日を剰余金の配当の基準日と定め,当該基準日株主に剰余金の配当をすることもできます。なお,このように,剰余金の配当の基準日を改めて定める場合には,2の場合と同様に,当該基準日の2週間前までに公告する必要があります(会社法第124条第3項本文)。

○ 参考情報  

(一部、割愛)
4 「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」の公表について
 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会は,令和2年4月15日,「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」を公表しました(金融庁ホームページ を御覧ください。)。
 これは,新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて,3月期決算業務及び監査業務に大きな遅延が生じる可能性が高まっていることを踏まえ,通常6月末に開催される株主総会の運営等についての同協議会の考えを示したものです。
 また,続行の決議(会社法第317条)によりいわゆる継続会を開催する場合における留意点等については,「継続会(会社法317条について) 」【PDF】も御覧ください。

5 新型コロナウイルス感染症に関連した商業・法人登記における取扱いについては,「商業・法人登記事務に関するQ&A 」を御覧ください。

6 令和2年5月15日,会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令(法務省令第37号)が公布され,同日から施行されました(本省令の内容はこちら【PDF】)。本省令は,新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ,本省令の施行の日から6か月以内に招集の手続が開始される定時株主総会に限り,単体の貸借対照表や損益計算書等をいわゆるウェブ開示によるみなし提供制度の対象に含めることとするものです。
 本省令の内容等については,「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令(令和2年法務省令第37号)について」【PDF】も御覧ください。  
■■■引用終わり■■■

6は、時限的に、単体のBS及びPLなどがウェブ開示によるみなし提供制度の対象になるという話であり、非上場企業で、そもそもウェブ開示していないということであれば、関係ないでしょう。

(文責:森 理俊)

ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について その2

前回、「ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について」と題するブログ(前回ブログ)をアップしました。

今回は、その続報を踏まえた対応です。前回から少し状況が変化していますので、ご注意ください。

2020年4月2日付け「株主総会運営に係るQ&A」( 経済産業省・法務省)の内容

経済産業省と法務省は、2020年4月2日、「株主総会運営に係るQ&A」を発表しました。

概要は、以下のとおりです。

  1. 株主総会の招集通知等において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために出席を控えることを呼びかけることは可能である。その際には、書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましい。
  2. 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、会場に入場できる株主の人数を制限することは可能である。現下の状況においては、その結果として、会場に事実上株主が出席していなかったとしても、株主総会を開催することは可能と考えられる。
  3. 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、株主総会への出席について事前登録制を採用し、事前登録者を優先的に入場させることは可能である。事前登録を依頼するに当たっては、全ての株主に平等に登録の機会を提供するとともに、登録方法について十分に周知し、株主総会に出席する機会を株主から不公正に奪うものとならないよう配慮すべきと考えられる。
  4. 発熱や咳などの症状を有する株主に対し、入場を断ることや退場を命じることは可能である。
  5. 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、株主総会の時間を短縮すること等は可能である。

この内容は、裁判所の判断を拘束するものではありませんが、裁判所も、これに準じた判断をする可能性は高いと予想します。

多少私見を含めて、述べるとすれば、ポイントとしては、以下のとおりです。

  • 現在の状況(2020年4月2日現在)であれば、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、オンラインのみ出席の株主総会であっても、株主総会の開催として、問題はないと考えられる。
  • オンラインのみ出席の株主総会の場合、書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましい。ベンチャー企業の場合は、後述のとおり、書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法が、大変な場合もある。この場合、委任状による議決権の代理行使を強く推薦する方法もある程度、認められるだろう。
  • 株主総会への出席について事前登録制も採用可能であるが、人数制限を課す場合は、株主平等原則に十分配慮する必要がある。
  • 発熱や咳などの症状を有する株主の入場拒否や強制退場、総会の時間短縮など、感染拡大防止や安全配慮のための具体的な危険回避の措置は、問題がない。

なお、「 オンラインのみ出席の株主総会であっても、株主総会の開催として、問題はない 」という場合でも、 株主総会自体は、リアルの場所で開催されたものとし、具体的には、議長のいる場所を、総会の開催場所とする等の前提は必要と思われます。オンライン上の仮想空間やURLを会場を開催場所とすることは、許されないという点は、変わっていません。

ところで、書面による議決権行使(書面投票制度)は、招集通知に際して、株主に対し、株主総会参考書類及び議決権行使書面を交付しなければなりません。小規模なベンチャー企業では、株主総会招集通知とは別に、株主総会参考書類を適法に作成するための人的時間的リソースがないことも少なくありません。 そこで、ベンチャー企業の株主総会を、どのようにするか、ということが問題になります。

なお、議決権を有する株主の数が1000人以上の会社においては、書面による議決権行使を株主に認めるべきことが法律上強制されていますが、ベンチャー企業では、通常、そのようなことがありませんので、書面による議決権行使を採用する必要はありません。

2020年4月2日付け「株主総会運営に係るQ&A」( 経済産業省・法務省) を踏まえたベンチャー企業の株主総会対応

オンラインのみ出席の株主総会の場合、書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましいとされています。しかし、ベンチャー企業は、上述のとおり、一般的には、事前の議決権行使の方法を採用しないことが多いと思います。 事前の議決権行使の方法を採用しない 場合は、やはりオンラインのみではなく、建付けとしては、オンライン+リアル総会としつつ、かなり強く、委任状による議決権の代理行使と、オンラインによる出席を、強く推薦するという方法が現実的であろうと思われます。全株主同意を前提とする書面株主総会による方法(前回ブログの2(1))が採用可能である点は、変わりません。

前回ブログでは、「仮にハイブリッド型バーチャル株主総会を実施したとしても、具体的に既に感染している株主であること等の具体的な感染リスクが懸念される等の例外事由がない限り、実際の来場を拒むことは、基本的にできないと考えられます。」と記載しました。
この点は、少し変更になります。すなわち、いわゆる「三密」ではない空間を用意することが難しいこと、外出自粛要請や10 名以上が集まる集会・イベントへの参加を避けることが要請されていること、新型コロナウイルス感染防止拡大、緊急事態宣言が発令されていること等を理由として、オンライン出席や委任状提出を強く促しつつ、株主の入場を数名程度に制限することと通知して、実際に総会会場にリアルに出席を希望する株主には、一定の期日までに連絡してもらい、制限員数を超える場合は抽選にすることとし、招集通知等で、その旨を記載する方法などが考えられます。そのため、招集通知の記載方法次第では、ほぼ事実上、オンラインをメインとした株主総会を開催することはできると考えます。

【招集通知の文言の例】

さて、今般当社[第●回定時/臨時]株主総会を下記のとおり開催致しますので、ご出席下さいますようご通知申し上げます。また、本株主総会の付議事項の決議には、法令及び定款に基づく定足数を満たす株主のご出席を必要と致しますので、当日ご出席願えない場合は、お手数ながら後記の参考書類 をご検討いただいて、同封の委任状用紙に賛否をご明示賜り、ご捺印の上、折返しご送付下さいますようお願い申し上げます。

 ところで、昨今の、新型コロナウイルス感染症拡大の状況並びに政府、地方自治体等からの外出自粛等の要請を踏まえ、当社は、株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保された形でのオンラインを通じた出席を可能とするよう、準備しております。具体的には、当日、~~(URL等のオンライン参加方法)の方法で、ご出席下さい。株主の皆様におかれましては、同感染症への感染防止及び感染拡大防止の観点から、株主総会の会場に実際にお越しになる代わりにオンラインを通じた出席を強くお願い申し上げます。当社は、当日、株主総会にお越しになる株主様を●名に限定させていただく予定であり、実際に来場する予定がある場合には、●年●月●日までに、●宛にご連絡ください。上記制限人数を超過する場合は、抽選などの方法で、来場者を限定させていただく場合がありますので、予めご了承ください。

(筆者の私案であり、裁判所で適法と認められることを保証するものではありません。)

なお、オンラインでの出席を認める場合には、株主総会に、出席の方法として、開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されている状況を基礎づける事実(ビデオ会議・電話会議システムの使用等)の記載が必要であるとする点は、前回ブログから変更はありません。

2020年5月29日 アップデート情報があります。
「ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について その3」をご確認ください。

(文責:森 理俊)

ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について

1 はじめに
COVID-19(新型コロナウイルス)への対応について、現時点で、政府・厚生労働省は、下記の要請等があります。

令和2年2月20日(抜粋)
イベント等の主催者においては、感染拡大の防止という観点から、感染の広がり、会場の状況等を踏まえ、開催の必要性を改めて検討していただくようお願いします。なお、イベント等の開催については、現時点で政府として一律の自粛要請を行うものではありません。
また、開催にあたっては、感染機会を減らすための工夫を講じていただくようお願いいたします。例えば、参加者への手洗いの推奨やアルコール消毒薬の設置、風邪のような症状のある方には参加をしないよう依頼をすることなど、感染拡大の防止に向けた対策の準備をしていただくようお願いいたします。

令和2年2月26日(安倍総理)
政府といたしましては、この1、2週間が感染拡大防止に極めて重要であることを踏まえ、多数の方が集まるような全国的なスポーツ、文化イベント等については、大規模な感染リスクがあることを勘案し、今後2週間は、中止、延期又は規模縮小等の対応を要請することといたします。

「新型コロナウイルスの集団感染を防ぐために」(令和2年3月1日版)(抜粋)
イベントを開催する方々は、風通しの悪い空間や、人が至近距離で会話する環境は、感染リスクが高いことから、その規模の大小にかかわらず、その開催の必要性について検討するとともに、開催する場合には、風通しの悪い空間をなるべく作らないなど、イベントの実施方法を工夫してください。

令和2年3月10日(安倍総理)
政府としては、先般決定された基本方針において、イベントの開催の必要性について主催者等に検討をお願いし、またそれを踏まえて、全国規模のイベントについては中止、延期、規模縮小等の対応を要請したところですが、専門家会議の判断が示されるまでの間、今後概ね10日間程度はこれまでの取組を継続いただくよう御協力をお願い申し上げます。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00002.html#26
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000601720.pdf

この状況を踏まえて、ベンチャー企業(非上場企業)における株主総会の開催方法について検討します。

2 株主総会の実際の開催方法について

(1) 実際の開催を中止して、書面株主総会による方法

株主総会は、決議事項について議案に対する賛否を書面等で問い、総株主の賛成が得られれば、決議が成立したものとみなすことができます(いわゆる書面株主総会。会社法第319条第1項)。株主への報告の通知も、総株主が同意すれば通知で足ります(同法第320条)。したがって、非上場企業で、株主が少ない場合は、この書面株主総会を利用することができます。

これは、決議を行う方法として書面などによる決議方法によることについて総株主の同意を得ることを要求している物ではなく、議案そのものへの同意が必要で、且つ、それで十分です。要するに、会議体としての株主総会を開かないでよいことになります。

【参考条文】
(株主総会の決議の省略)
第319条
第1項 取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。
(省略)
第5項 第一項の規定により定時株主総会の目的である事項のすべてについての提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされた場合には、その時に当該定時株主総会が終結したものとみなす。

(株主総会への報告の省略)
第320条 取締役が株主の全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知した場合において、当該事項を株主総会に報告することを要しないことにつき株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該事項の株主総会への報告があったものとみなす。

(2) 株主総会の延期による方法

法務省は、令和2年2月28日付けで「定時株主総会の開催について」(本稿作成時点では、最新は令和2年3月13日更新版)を公表し、概要として、以下のように述べています。

(i) 定時株主総会の開催時期に関する定款の定めがある場合でも、今般の新型コロナウイルス感染症に関連し、定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるものと考えられます。なお、会社法は、株式会社の定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないと規定していますが(会社法第296条第1項)、事業年度の終了後3か月以内に定時株主総会を開催することを求めているわけではありません。

(ii) 定款で定時株主総会の議決権行使のための基準日が定められている場合において、新型コロナウイルス感染症に関連し、当該基準日から3か月以内に定時株主総会を開催できない状況が生じたときは、会社は、新たに議決権行使のための基準日を定め、当該基準日の2週間前までに当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を公告する必要があります(会社法第124条第3項本文)。

(iii) 特定の日を剰余金の配当の基準日とする定款の定めがある場合でも、今般の新型コロナウイルス感染症に関連し、その特定の日を基準日として剰余金の配当をすることができない状況が生じたときは、定款で定めた剰余金の配当の基準日株主に対する配当はせず、その特定の日と異なる日を剰余金の配当の基準日と定め、当該基準日株主に剰余金の配当をすることもできます。なお、このように、剰余金の配当の基準日を改めて定める場合には(ii)の場合と同様に、当該基準日の2週間前までに公告する必要があります(会社法第124条第3項本文)。

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html

ただ、「定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況」というのは、判断が難しいのが実際であろうと思われます。
特に、書面株主総会や、後述するオンライン参加での株主総会等も考えられますし、延期したとしても、いつ、現在のような状況が終息するか、まだわかりません。そのため、ベンチャー企業では、株主総会の延期は、現実的な選択にはならないのではないでしょうか。

(3) いわゆるハイブリッド型バーチャル株主総会

経済産業省は、2020年2月26日付けで「「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を策定しました」を公表しています。

ハイブリッド型バーチャル株主総会とは、取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所で株主総会(リアル株主総会)を開催する一方で、リアル株主総会の場に在所しない株主がインターネット等の手段を用いて遠隔地から参加/出席することができる株主総会をいう、とのことです。

株主のバーチャル参加を認めるにあたっては、zoomやgoogle hangout meets 等の動画配信を行う web サイト等にアクセスするためのURL(ID、PW) を招集通知等と同時に通知する方法や、既存の株主専用サイト等を活用する方法などが考えられます。

参加型の場合、インターネット等の手段を用いて参加する株主は、会社法上、株主総会において株主に認められている質問(法 314 条)や動議(法 304 条等)を行うことはできないと考えられます。しかし、株主総会の会議中にインターネット等の手段による参加株主からコメント等を受け付けたり、回答したりすることは、否定されていないと考えられます。

https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001.html

なお、仮にハイブリッド型バーチャル株主総会を実施したとしても、具体的に既に感染している株主であること等の具体的な感染リスクが懸念される等の例外事由がない限り、実際の来場を拒むことは、基本的にできないと考えられます。(2020年4月6日追記:この点を変更し、「オンライン出席や委任状提出を強く促しつつ、株主の入場を数名程度に制限することと通知して、実際に総会会場にリアルに出席を希望する株主には、一定の期日までに連絡してもらい、制限員数を超える場合は抽選にする」方法は、可能と考えます。詳細は、ベンチャー企業(非上場企業)におけるCOVID-19(新型コロナウイルス)に対応するための株主総会運営について その2をご覧ください。)

また、会社法上、株主総会の招集に際して株主総会の場所を定めなければならないとされている(会社法第298条第1項第1号)ことなどに照らすと、物理的な会場を明確にしないで株主総会の開催すること、すなわち、オンライン上の仮想空間やURLを会場を開催場所とすることは、許されないと考えらえます。

3 議決権の行使

ベンチャー企業(非上場企業)の多くでは、議決権行使は、委任状等で代理権を授与する代理人による議決権行使をする方法が用いられています。
ほかに、書面投票制度(会社法第311条)や、電子投票制度(会社法第312条)も考えられますが、ベンチャー企業(非上場企業)は、株主数が比較的少なく、委任状で賛否を確認することが可能ですので、委任状よりもコストがかかりうる、これらの制度が用いられることは、それほど多くないと思われます。

なお、上記のハイブリッド型バーチャル株主総会でも、その置かれている状況により、インターネット等の手段を用いて審議を傍聴した株主が傍聴後に議決権を行使することを可能にするような選択肢を検討することも考えられます。この点、会社法第298条第1項第4号、同法施行規則第63条3号は、同法施行規則第70条が、「出席しない株主」のための電磁的方法による議決権行使の期限を株主総会の日時以前の時と定めているのは議決権行使結果の集計に係る会社の便宜のためであり、会社の判断で採決に入る時まで事前の議決権行使を受け付けることを会社法が許容していないとは考えにくいとして、同施行規則 63 条 3 号ハにいう「株主総会の日時以前の時」とは株主総会における採決時以前の時と解すこととなり、取締役が事前に電磁的方法による議決権行使の期限を株主総会における採決時と定めた場合には、中継動画等を傍聴した株主が、その様子を確認した上で議決権行使を行うことも可能とする考えは、ありうるものといえます(「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」9頁参照)。ただ、この考え方は、確定した判例や裁判例によるものではない点にご留意ください。

仮に、株主や取締役がオンラインで出席した場合の議決権行使、議事録については、以下のように考えられます(相澤哲、葉玉匡美、郡谷大輔編著「新・会社法 千問の道標」(商事法務)472頁)。

(i) 株主総会の開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されているといえる環境にあるのであれば、個々の株主が、インターネットを使って株主総会に参加し、議決権を行使することは可能である。
(ii) 議決権の行使は、電子投票(298 条 1 項 4 号)ではなく、その株主が招集場所で開催されている株主総会に出席し、その場で議決権を行使したものと評価されることとなる。
(iii) 株主総会議事録には、株主総会の開催場所に存しない株主の出席の方法を記載する必要がある(施行規則 72 条 3 項 1 号)。同号は「株主の所在場所及び出席の方法」等という規定を置いているわけではなく、株主の所在場所は議事録に記載することを要しない。ただし、出席の方法としては、開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されている状況を基礎づける事実(ビデオ会議・電話会議システムの使用等)の記載が必要である。

また、オンライン等の手段を用いた「出席」として提供する以上、会社は、株主総会において株主に認められた議決権行使を初めとする諸権利の行使に係るリアル株主総会との違いについて、事前に説明を行うなど、適切な対応を行う必要があります。

加えて、ベンチャー企業では、あまり考えられませんが、具体的に、株主のなりすましや議決権行使の脅迫等の可能性が存在するのであれば、これらの点には、ご留意下さい。

4 取締役・監査役等のオンラインでの出席

取締役・監査役の出席は、総会における決議成立の要件ではなく、また、出席義務を定めた規定もありません。一方で、取締役、会計参与、監査役及び執行役は、原則として、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならないという説明義務があります(会社法第314条)。

したがって、株主総会において、取締役・監査役等が、株主総会の開催場所と当該取締役・監査役等との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されているといえる環境にあり、それぞれの説明義務を果たすことができるのであれば、オンラインでの出席は、認められると考えられます(筆者私見)。

但し、議長は、株主総会の秩序を維持し、議事を整理する権限を有する者であり(会社法第315条第1項)、ベンチャー企業であっても、特段の事情がない限り、株主総会の開催場所に実際にいる必要があると考えます(筆者私見)。

5 規模縮小などの対応策

実際の開催にあたっては、規模縮小への対応策や、総会当日の感染防止策等が必要になります。

具体的には、(a)事前の議決権行使の推奨、(b)オンライン(ハイブリッド型バーチャル)株主総会の実施におけるオンラインでの出席への誘導、(c)お土産の廃止、(d)株主懇親会等のイベントの中止、のほか(e)、関係者のマスク着用や(f)アルコール消毒液の設置、(g)発熱があるや体調が悪い方に来場を控えてもらう、といった一般的な対策及びその告知等が考えられます。

6 実際のバーチャル株主総会実施の動き

上場企業でも、いわゆるバーチャル株主総会が実施されつつあるとのことです。

■■■引用開始■■■
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中企業の間で大勢の株主が参加する株主総会をどう開催するかが課題になっています。感染を防ぐため株主が自宅からインターネットを通じて総会に出席する新たな動きが始まりました。
■■■引用終わり■■■

■■■引用開始■■■
新型コロナウイルスの感染拡大で大勢の人が集まるイベントの自粛が広がる中、ソフトウエア開発を手がける「富士ソフト」は13日、ネットも活用してバーチャル株主総会を開きました。

東京・千代田区の会場のほか、ネットからも出席できるようにし、株主はアプリを操作して総会の議案の賛否を表明していました。
■■■引用終わり■■■

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200314/k10012330981000.html

(文責 森 理俊)

2020年03月17日 15:42|カテゴリー:企業法務, 法務関連ニュース||コメントはまだありません

スタートアップ企業が陥りがちな法務の失敗 その1 ~株式関連編~

 

1 スタートアップ企業が陥りがちな法務の失敗

Twitterをみていると、「スタートアップ企業が陥りがちな法務の失敗」というテーマでの投稿がありました。

今回、私も経験から、スタートアップ企業が陥りがちな法務の失敗を、お伝えします。

シード期は、まずサービスをローンチすることや、売上を上げること、ユーザーを増やすこと、資金を調達すること、人材を集めることに、集中しますので、法務は疎かになりがちです。法務に避けられる予算にも限りがあります。サービスが始まらないのに、法務も何もないというのが、正直なところでしょう。

そこで、シード期の法務は、ひとまず、失敗すると後から挽回することが困難になる可能性高いものを、主として留意することをお勧めします。

「失敗すると後から挽回することが困難になる可能性高いもの」とは、何か。

ずばり、株式関連と、知的財産権です。

2 株式関連で気をつけるべき点

シード期に株式関連で気を付けるべき点は、
① 創業者間のシェアと離脱時の約束
② 初期の第三者割当増資のシェアや株価
③ ストックオプションの割当個数
④ 投資契約や株主間契約、種類株式の不利な条件
⑤ 株主名簿の管理

あたりです。

① 創業者間のシェアは、1/2ずつや1/3ずつにしないことが原則です。まず、最終的に意思決定できないシェア割は避けるべきです。また、意見が割れたときに、2:1となり、少数派が生まれる三頭政治のような体制も経験上失敗事例が多いです。

基本的には、中心となっている人物(起業を志した者など)がマジョリティを有して、できれば、IPOより前までの資金調達を経た後でも、過半数を維持できる程度は、あった方が良いでしょう。

また、株式を保有する主要メンバーが、後から何らかの理由で離脱することは、あり得ます。その場合に、離脱者が株式全部を保有し続けることは、良くありません。離脱後の株主価値の上昇分にフリーランチすることになりますし、実務上、社外の、株主総会招集通知の送り先が1つ増え、さらに、議決権の行使の予想が不安定にもなります。加えて、M&Aの際には、反対株主として株式取得請求権を行使されるかもしれません。
そこで、創業者間でも、株主間契約を締結し、離脱時の譲渡の約束や、強制売却義務を、設定することがオススメです。昨今では、創業者間株主間契約を、定めることが増えてきたと実感します。

② 初期の第三者割当増資は、シェアを出しすぎないこと、株価を適正にすることが大原則です。株価は、低すぎても駄目ですが、高すぎても、次のファイナンスに悪影響を及ぼすことがあります。

③ ストックオプションも同じで、初期に出しすぎると、後から入ってくる有用な人材に、十分な量を用意できないということがあります。

④ 投資契約、株主間契約、種類株式の内容には、要注意です。特に、事前承諾事項や種類株主総会決議事項のほか、金銭を対価とする取得請求権などは、慎重に検討を要します。他にも、表明保証条項の内容や株式買取請求権の条件など、理解できない場合や、相場感がわからない場合、納得できない場合、どのような影響がでるか予想できない場合には、応じるべきではありません。

⑤ 株主名簿は、よくエクセルで、現在の個数のみを記載して管理されている例をみかけます。しかしながら、会社法上、株主名簿は、(i) 株主の氏名又は名称及び住所、(ii) 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)、(iii) 第一号の株主が株式を取得した日、(Iv)  株式会社が株券発行会社である場合には、第二号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号、を記載しなければなりません(会社法121条)。

私の経験上、(i)株主の住所と、(iii)株主が株式を取得した日の記載がないものが、散見されます。株主ごとに、いつ、どのような理由で、誰から何株を取得したのか、を明記した方がよいでしょう。具外的には、備考欄に、「●年●月●日 第三者割当増資●株取得」「●年●月●日 ●氏から株式譲渡により●株取得」などと記載して、現在の合計株数とは別に、その来歴をすべて記載するようにしましょう。

次回は、知的財産権で気をつけるべき点をお伝えします。

文責 森理俊

譲渡制限株式の株式譲渡の手順(買取請求がある場合を中心に)

今回は、譲渡制限株式の株式譲渡の手順のうち、買取請求がある場合を中心に解説します。

なお、これまでも、以下のブログで、譲渡制限株式の株式譲渡に触れていますので、これらもご参考にしてください。

「株式譲渡の手続を確実に進めるために」

「株式譲渡契約に関する注意点(1)」

 

1 譲渡制限株式の株式譲渡
具体的に、以下の段取りで進めます。
(1) 株式譲渡契約の締結(譲渡人・譲受人間)
(2) 譲渡承認の請求(譲渡人(原則)から発行会社に対して。会社法第136条)
(3) 承認決定決議(発行会社にて。定款記載の譲渡承認機関による承認決定決議。会社法第139条第1項)
(4) 承認決定の通知(発行会社→承認請求者。会社法第139条第2項)
(5) 株主名簿の名義書換請求(譲渡人・譲受人→発行会社。会社法第133条)
(6) 株主名簿の名義書換(発行会社にて。会社法第121条)

2 買取請求がある場合の流れ
では、譲渡承認の請求をしているものの、会社が譲渡を認めない見込みの場合には、承認請求者は、買取請求をするか否かを選択することになります。

その場合の流れを整理しましょう。

上記1(3)の承認決定決議ではなく、譲渡否認決議が生じることになります。

買い取り請求がある場合は、
(a) 譲渡否認決議(会社法第139条第1項)
(b) 譲渡否認通知(会社法第139条第2項)(譲渡請求から原則2週間以内。会社法第145条第1号)

【発行会社が買う場合】
(c) 株主総会決議(会社法第140条第1項、第2項)。
(d) 供託(会社法第141条第2項)
(e) 買取通知(発行会社から。会社法第141条第1項)(譲渡否認通知から原則40日以内。会社法第145条第2号)、供託書面交付(会社法第141条第2項)
(f) 売買価格決定協議(会社法第144第1項)
(g) 裁判所への売買価格決定申立期間(20日。会社法第144第2項)

【指定買受人を指定する場合】
(c)’ 取締役会決議(取締役会設置会社ではない場合は株主総会の決議。定款に別段の定めがある場合は、定款の定めによる。会社法第140条第4項、第5項)
(d) ’ 供託(会社法第142条第2項)
(e) ’ 買取通知(指定買受人から。会社法第142条第1項)(譲渡否認通知から原則10日以内。会社法第145条第2号)、供託書面交付(会社法第142条第2項)
(f) ’ 売買価格決定協議(会社法第144条第7項、第1項)
(g) ’ 裁判所への売買価格決定申立期間(20日。会社法第144条第7項、第2項)

買取者の一部を指定買取人、残りを発行会社にて、買うという方法も可能です。ただ、供託も複数必要になります。

売買価格は、申立てがあれば裁判所により決定された金額となり、申立てがなければ1株当たり純資産額が売買価格となります(会社法第144条第4項、第5項、第7項)。

3 買取請求の実際
買取請求は、譲渡承認請求とともにする必要があります。

譲渡承認請求は、口頭でも、書面でも、電子メール等電磁的方法でも、可能です。
ただ、以下のイからハまでの内容が明確にされている必要があります。
イ 譲り渡そうとする譲渡制限株式の種類・数
ロ 譲り受ける者の氏名又は名称
ハ 会社が承認(請求された株式譲渡の承認)をしない旨の決定をする場合において、貴社または指定買取人が譲渡制限株式を買い取ることを請求するときはその旨

譲渡承認請求の受領日は、譲渡否認通知の期間制限(譲渡請求から原則2週間以内)の起算点にもなりますので、上のイからハまでの内容を明確にしつつ、会社法に定められた譲渡承認請求であることを明記した方がよいでしょう。受信の有無について争われないようにするためには、内容証明郵便で送付するのが最も安全と言えます。

会社側は、会社法に定められた譲渡承認請求であるか否かが不明確な請求を受け取った場合は、直ちに、それが、会社法に定められた譲渡承認請求であるか否かを問い返した方がよいでしょう。

(文責:森 理俊)

2019年12月25日 10:59|カテゴリー:企業法務||コメントはまだありません

研修会「日本におけるODRの導入」~世界での導入状況と日本における導入可能性について~

 

先日(2019年8月26日)、大阪弁護士会にて、「日本におけるODRの導入」~世界での導入状況と日本における導入可能性について~というテーマで、研修会を行いました。

基調講演として、渡邊真由先生(元・一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻特任助教)に「日本におけるODRの導入」~世界での導入状況と日本における導入可能性について~というテーマで、お話しいただきました。

その後、座談会という形で、「日本においてODRはどのように展開するのか」というテーマで、パネリストには、山田文先生(京都大学大学院法学研究科 教授)、羽深宏樹先生(経済産業省訟務情報政策局 弁護士)と、基調講演をしていただいた渡邊真由先生に加わって頂き、私(森 理俊)がコーディネーターとして、進めさせて頂きました。

 

1 ODRとは

ODRとは、ベンチャー法務の部屋「裁判手続等のIT化とODR」でも紹介したとおり、Online Dispute Resolutionの略です。具体的には、民事裁判手続のIT化と、ADR(裁判外紛争処理)のIT化を意味します。

とはいえ、単に、紛争解決手続に、ライブ動画などのITツールを使うという話に留まるものではありません。

特に、eBayなどの事業者が、プラットフォーム上で生じる紛争をオンラインで簡易に処理するシステムを、ユーザーに提供するといった動きがODRという概念をスタートさせた側面を背景として、既存の紛争解決プロセスよりも、遙かに迅速・簡便で、少額なものに対応可能な(即ち、紛争解決コストが低い)ものが生み出されつつあります。

すなわち、ODRが促進されることは、これまで司法手続による正義の実現の恩恵を受けられなかった人が、より司法的解決を受けられる可能性が出てくることになります。要するに、金額が小さくて、弁護士に頼むのを諦めていたケースでも、解決できる可能性が高まりそうであるということです。

キーワードは、「Access to Justice」です。

ODRの展開は、民事司法における「Justice」とは何かが改めて問われるとともに、現在の日本の民事司法がかかえる問題をあぶり出すことにもありそうです。

 

2 日本のおけるODRの導入可能性と現実
(1) 日本のこれまで
日本では、2003年~2006年という比較的速い段階で、ECOMネットショッピング紛争相談室(経済産業省委託事業)が実施されていました。
これはユーザーの満足度も高く、比較的評価の高いプロジェクトだったそうです。しかし、コストが見合わないということで、2006年に停止したようです。

その後、2007年ADR法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)の施行や、2011年から越境消費者センターの運営もあり、少しずつ民間ADRが活発になり、同時にITツールの活用も進みました。

また、本年(2019年)、6月21日には、内閣の「成長戦略フォローアップ」にて、「紛争の多様化に対応した我が国のビジネス環境整備として、オンラインでの紛争解決(ODR)など、IT・AI を活用した裁判外紛争解決手続などの民事紛争解決の利用拡充・機能強化に関する検討を行い、基本方針について 2019 年度中に結論を得る。」という文言が盛り込まれ、ODRが強く意識されることになりました。

さらに、今月(2019年8月)、APECにて、ODR Collaborative Frameworkが採択される予定とのことです。
これは、BtoBを中心に、ODRで紛争解決する旨を規定し、ODRプロバイダーのもとで、交渉、調停、仲裁をシームレスに実現させようとするフレームワークのようです。

(2) 日本の特殊性
日本は、民事訴訟の件数が少なく(地裁民事通常訴状新受件数:15万件弱)、弁護士が増員しても、民事紛争の件数が増えていないという現実があります。特に、少額の事件について、簡易裁判所での調停や民事通常訴訟は、減少又は横ばいという状況です。
一方で、国民生活センターへの相談件数は、100万件に近いものがあるなど、少額な民事トラブル(数万円から10数万円の貸金返還や賃金不払、交通事故などが想定される。)は、「何もしない(あきらめる)」という選択がされ、紛争解決サービスを受けられていない割合が高いと推定されます。

そこで、裁判所を通じた解決と並行して、民間でもオンラインのみで紛争解決できるサービスに需要があると期待されています。

一方で、ODRには、以下のような課題も指摘されています。

  • (a)類型化されにくい紛争への対応が難しい。
  • (b)インターフェースを容易にするデザイン思考が必要である。
  • (c)オンライン調停人の育成が必要である。なお、オンライン調停人には、裁判予測というよりも交渉促進に長けた調停人が望ましいようである。日本は調停人のトレーニングが不足しているにもかかわらず、調停人に裁判予測を期待しすぎる文化があると指摘されている。
  • (d)相手方に応諾義務又は応諾しやすい環境を構築する必要がある。EUでは一部の紛争類型で事業者に応諾義務があるとのこと。
  • (e)執行手段が確保されていないことが多い。なお、eBayでは、合意した金額は顧客のPaypalから直ぐに支払われる。
  • (f)既に存在するプラットフォーム提供事業者が運営するのでない限り、ODRプラットフォーム運営はパブリックな支援がないと運営がコスト的に見合わない。

それでも、欧州では、EU主導のプラットフォームが整備されるなど、一部の紛争類型には、かなり積極的に活用され始めており、リーガルテックの一分野としても注目され、日本でも、これから発展する分野であると期待されています。

日本の特殊性はいくつかありますが、いずれもODRの導入を妨げる要因とばかりはいえず、逆にdisruptive(破壊的)なイノベーションによって、大きく発展する可能性を秘めているといえそうです。

(3) 参考文献
過去にご紹介した、一橋大学法学研究科 渡邊真由先生のプレゼン資料(2018/07/27, 日本ADR協会)は、こちらです。

また、山田文教授の「ADRのIT化(ODR)の意義と課題」と題する論文が、法律時報2019年6月に記載されています。

 

3 研修会を終えて

私は、業務改革委員会副委員長(ベンチャー法務プロジェクトチームの座長)として、同PTのメンバーとともに、この研修会を発案・企画しました。現在のODRに関する先端の議論ができたと思っております。

出席者の中には、日弁連会長を務められた方や大阪弁護士会の現在の副会長数名もお越しになり、弁護士の業務や民事司法の行く末に関心のある方が、多数集まりました。

裁判のIT化とともに、ODRは、民事司法の大きな変革をもたらす可能性があり、これまで弁護士が救えなかった法律問題にも積極的に専門的な支援が受けられる可能性がでてきました。

また、登壇者の皆様が非常に穏和でありながら、明晰なトークが繰り広げられ、3時間があっという間に過ぎました。

ODRの議論は、まだまだ始まったところです。

私個人としても、できることに積極的に関与したいと思っております。

 

(文責:森 理俊)

自動運転と法①

1 日本における交通事故の数
最近、立て続けに自動車による事故が発生し、連日ニュースで取り上げられました。
警察庁交通局発表の「平成30年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」によると、平成30年の交通事故については、発生件数43万0601件(前年比-4万1564件、-8.8%)、うち死亡事故3449件(同-181件、-5.0%)、死者数3532人(同-162人、-4.4%)、負傷者数52万5846人(同-5万5004人、-9.5%)となっています。
この点、交通事故発生件数については、平成16年の95万2720件をピークに半数以下に減っており、死者数については、昭和45年の1万6765人をピークに約5分の1まで減っています。交通事故は、保有自動車数の増加と共に増えてきたと言われていますが、交通インフラの整備や自動車自体の性能の向上等によって、その数自体は減少し、死者数も減少していることは事実です。
しかし、平成30年の統計からは、平均すると、未だ1日に約1180件の交通事故が発生し、約1440人の方が負傷され、約10人の方が命を落としていることが分かり、この数は決して少ないとは言えないというのが私の印象です。(なお、上記「交通事故」とは、道路交通法第2条第1項第1号に規定する道路において、車両等及び列車の交通によって起こされた事故で、人の死亡又は負傷を伴うもの(人身事故)をいい、物損事故は含まれていません。)
ふと、4~5年程前に損害保険会社の方から聞いた話を思い出しました。
その方は、自動運転の技術が進めば交通事故は激減する、保険会社としても、自動運転システムを搭載している自動車については事故を起こす可能性が低いことから保険料を値下げする予定である、といった話をされていました。
「自動運転」という言葉はよく耳にするものの、一体、自動運転の技術はどこまで進んでいるのか、また自動運転の実現にはどのような法的課題が考えられるのか、ということについて今回と次回の2回で紹介したいと思います。

2 自動運転とは
まず、「自動運転」は、人=運転手と、車=システムが担う運転動作の比率や技術到達度、走行可能エリアの限定度合いなどによって、アメリカの「自動車技術会」(SAE)が示した基準に基づいて、レベル0から5の6つの段階に分類されています。
そして、各レベルについて、国土交通省は以下のように説明しています
自動運転のレベル分けについて

まず、自動運転レベル0は、全くシステムが介入することなく、ドライバーがすべての運転タスクを実施します。

自動運転レベル1は、「運転支援」であり、システムが前後・左右のいずれかの車両制御を実施します。例えば、自動ブレーキ、前の車に付いて走る、車線からはみ出さないといった内容です。

自動運転レベル2は、「特定条件下での自動運転機能」であり、システムが前後・左右双方の車両制御を実施します。例えば、車線を維持しながら前の車に付いて走る、高速道路での自動運転モード機能(遅い車がいれば自動で追い越す)という内容です。

なお、レベル2までは運転手がシステムを常に監督する必要があり、自動運転の主体は「人」ということになります。

自動運転レベル3は、「条件付自動運転」であり、システムが全ての運転タスクを実施するが、システムの介入要求等に対して運転手が適切に対応することが必要となるという状態のことを指します。レベル2との大きな違いは、原則的にはシステム側の責任において全ての自動運転が行われるという点です。

自動運転レベル4は、「特定条件下における完全自動運転」であり、特定条件下においてシステムが全ての運転タスクを実施します。レベル3との違いは、緊急時にも運転手が対応せず、全てシステム側が自動運転の主体として責任を持つことにあります。もっとも、レベル4は「特定条件下」における完全自動運転であることから、限定されたエリア外を走行する場合に備えるため、ハンドルやアクセルなどは必要になると考えられています。

そして、自動運転レベル5は、「完全自動運転」であり、常にシステムが全ての運転タスクを実施します。運転手を必要とせず、どこでも自動運転で走行が可能な状態のことを指します。そのため、ハンドルやアクセル、ブレーキなども必要とされません。

3 現在発売されている自動車
日本においては、2016年8月に国産車としては初めてレベル2の自動運転機能搭載ミニバン「セレナ」を日産自動車が発売しました。
さらに2017年7月には、アウディが世界で初めて、自動運転レベル3に対応する自動運転機能を「新型Audi A8」に搭載すると発表し、2018年1月に販売を開始しました。
また、つい先日の記事で、日産は2019年5月16日、運転支援システム「プロパイロット」のアップデート版「プロパイロット2.0」を発表し、今秋発売予定のスカイライン(マイナーチェンジモデル)に搭載する旨が紹介されていました。このプロパイロット2.0の大きな特徴は、一定条件において高速道路の同一車線内で手放し運転を実現したこと及び自動追い抜き機能にあるとのことです。この自動追い抜き機能とは、前方にドライバーが設定した速度より遅い車が走行しているとき、システムが追い抜き可能と判断すると、メーターパネル内のインフォメーション・ディスプレイに表示するとともに、音でドライバーに知らせ、続いてドライバーが、ステアリングにあるスイッチを押すと、自動で右側の車線へ変更する。そして、追い抜きが完了すると、車線変更可能なタイミングをシステムが判断し、元の車線に戻る、という内容とのことです。
国土交通省によれば、今後2020年を目途として高速道路等一定条件下での自動運転モード機能を有する「自動パイロット」(レベル3)、限定地域での無人自動運転移動サービス(レベル4)、2025年を目途として高速道路での完全自動運転(レベル5)を目標として掲げています。

4 自動運転と法
自動運転技術の進歩に伴い、法的な課題も多々発生します。
すでに警察庁は2018年12月20日、自動運転社会の到来を見据え、道路交通法の改正案を発表しました。同改正案は、緊急時以外はシステムが運転を担う自動運転レベル3について、人が即座に運転を交代できる状況であることを前提に、スマートフォンや携帯電話の利用のほか、読書をすることなども認める内容となっています。そして、今回の道路交通法の改正の施行目標は2020年前半とされています。
それだけでなく、特に、レベル3以降の自動運転システムにおいては、原則的にはシステム側の責任において全ての自動運転が行われるところ、レベル3以降の自動運転システム利用中の事故について、自賠法の「運行供用者責任」をどのように考えるか、自動運転システムのハッキングにより引き起こされた事故の損害(自動車の保有者が運行供用者責任を負わない場合)についてどのように考えるかなど、検討すべき法的課題は多々あると言われています。

この点については、次回詳しく取り上げたいと思います。

以上

(文責:三村雅一)

特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律(チケット不正転売禁止法)について(2)

前回のブログで、平成30年12月8日に、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(以下「チケット不正転売禁止法」といいます。)が成立し、平成30年12月14日に、平成30年法律第103号として公布されたことを紹介しました。

この新規立法の背景にあると考えられている2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックについて、今月18日にチケット販売の方法が発表されました。
東京2020組織委員会(以下「組織委員会」といいます。)のホームページによると、チケットは2019年5月9日から公式チケット販売サイトで抽選申込受付が開始され、組織委員会が指定した公式チケット販売事業者によるチケットの販売も予定されているとのことです。なお、同ホームページによると、開会式のチケット価格は、2020円~30万円、閉会式のチケット価格は、2020円~22万円とされています。
半世紀ぶりに国内で開かれるオリンピックであり、おそらく私を含め、このブログを読んで頂いている方々にとっては、生涯で最後の国内で開かれるオリンピックとなることから、そのチケットも人気が高騰することが必至であると思われます。したがって、組織委員会としては、高額転売を防ぐための対策を進めています。
同対策の一環として、組織委員会は18日に、メルカリ、ヤフオク、ラクマが、チケットの出品を禁止することを表明したと発表しました。組織委員会は、今後、海外の業者などにも出品禁止を働きかけていくとのことです。
組織委員会のホームページによると、オリンピックのチケットはチケット不正転売禁止法の適用を受けるものであることが明記されています。それでは、東京オリンピックのチケットについて、転売の可否はどのように判断されるのでしょうか。
まず、前回のおさらいになりますが、チケット不正転売禁止法においては、不正転売(第3条)及び不正転売を目的としたチケットの譲受け(第4条)が禁止されます。そして、同法において「不正転売」とは、「興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするものをいう。」(同法第2条第4項)とされていることから、チケット不正転売禁止法上は、興行主である組織委員会の事前の同意を得ず、定価を上回る価格で転売を行うことは禁止されることになります。なお、チケット不正転売禁止法第3条、第4条に違反した場合、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」という罰則規定が設けられています(同法第9条第1項)。
この点、チケット不正転売禁止法の施行は2019年6月14日であり、東京オリンピックのチケットの発売が開始される5月9日には未だ施行されていませんが、東京2020チケット購入・利用規約によると、第35条において転売は原則禁止された上で、例外規定として第36条が設けられています。

第36条(転売禁止の例外)
1.当法人から直接購入したチケットの第三者への譲渡は、東京2020公式チケットリセールサービスを利用した購入価格での再販売のみが認められます。ただし、チケット購入者は、チケット購入者の親族または友人、同僚その他の知人に対する場合に限り、同サービスによらずチケットを譲渡することができます。この場合でも、譲渡代金その他の譲渡対価として、チケットの券面額を超えた金銭または利益を受領してはなりません。

したがって、(1)「東京2020公式チケットリセールサービス」を利用する場合、(2)同サービスを利用しない場合であっても、チケット購入者の親族または友人、同僚その他の知人に対して定価以下で譲渡する場合には、転売が認められています。このように、東京オリンピックのチケット規約の転売に関する規定は、チケット不正転売禁止法における内容とほぼ同一の内容となっています。

また、例外規定であるチケット規約第36条は、チケット不正転売禁止法第5条第2項で努力義務として定められている、「興行主等以外の者が興行主の同意を得て興行入場券を譲渡することができる機会の提供その他の必要な措置」にあたるものであると思われます。

特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律第5条
1 興行主等は,特定興行入場券の不正転売を防止するため,興行を行う場所に入場しようとする者が入場資格者と同一の者であることを確認するための措置その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。
2 前項に定めるもののほか,興行主等は,興行入場券の適正な流通が確保されるよう,興行主等以外の者が興行主の同意を得て興行入場券を譲渡することができる機会の提供その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。
3 国及び地方公共団体は,興行主等に対し,特定興行入場券の不正転売の防止その他の興行入場券の適正な流通の確保のために必要な措置に関し必要な助言及び協力を行うよう努めるものとすること。

転売防止を重視するあまり、誤ってチケットを購入したり、事情変更によってチケットが不要となった消費者の利益が軽視されるという問題が生じている中で、東京オリンピックの組織員会が設けた上記のチケットに関するシステムは、興行主、チケットを求める消費者、購入したチケットが不要となった消費者の三者の利益を守れるという点で、今後の興行におけるチケット販売の大きな参考になるのではないかと考えます。
以上

(文責:三村 雅一)

2019年04月24日 10:53|カテゴリー:企業法務|タグ: , , コメントはまだありません

労働条件通知書の電子メール等による提供

大企業でも、ベンチャー企業でも、個人でも、人を雇用する場合には、労働契約を締結し、その際に、労働条件通知書を交付しなければなりません(労働基準法第15条、同法施行規則第5条第1項、第3項)。

昨日(2019年3月31日)までは、労働契約締結時に労働条件を書面で通知しなければならないと定められていましたが、一定の場合にはFAXやSNS等による通知が可能となりました(平成31年4月1日から施行)。詳しい条文は、末尾をご確認下さい。

ポイントは、次の点です。

(1) 労働者が希望した方法によること

FAXや電子メール等にする場合は、当該方法によることを、労働者が希望している必要があります。この希望については、「書面」という要件はありませんので、口頭でもFAXでも電子メール等でもよいことになります。実務上は、使用者:「電子メール等での交付でいいね」、労働者「はい」というやり取りが予想されますが、希望の立証責任は、使用者側にあることを考えると、できれば、電子メール等やウェブへの入力で、「労働条件通知書の交付は、電子メール等によることを希望します。」という文言で、返信又はチェックボックスにチェックしてもらうようにすれば、より安全であると考えます。

なお、規則には、「当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。」とありますので、労働者の希望を聴取するに際しては、FAXなのか、電子メール等か、いずれの方法を希望するのかを、明確にしてもらう必要がありそうです。

(2) 労働条件通知書の内容は事実と同じものとすること

労働条件通知書の内容に虚偽があってはならないのは、当たり前のことですが、今回の規則改正で、規定されました(規則第5条第2項)。労働契約書と労働条件通知書の内容が、一致していない事例はないわけではありませんので、合致するようにしましょう。労働契約書に、規則第1項第1号から第4号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)が記載されているのであれば、労働契約書自体の交付とした方が、内容のずれを防ぐためにも、安全であると考えます。

(3) 電子メール等により送信する場合は、その受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信によること

対象となる労働者を、「受信をする者」として特定して情報を伝達するために用いられる電気通信を採用しなければなりません。「本年の新卒採用者の労働条件は、以下のウェブページを参照してください。」として、URLを指定する方法では、この要件は満たさないことになります。
基本的には、個人のアドレス宛の電子メールか、SNSであればいわゆるDM機能を採用することが求められると解されます。
ファックスの場合は、ファックス番号の指定が(類型的に)受信者特定になると判断されたためか、本号の内容は要件にはなっていません。

(4) 電子メール等により送信する場合は、当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものにすること
印刷可能なファイルやテキストデータで、送信する必要があります。プリントアウト禁止のPDFファイルは駄目ということだと思われます。
ファックスの場合は、印刷禁止機能がないためか、本号の内容は要件にはなっていません。

本日(2019年4月1日)以降は、労働者宛の電子メールに、「当社とあなたとの労働契約の内容は、以下のとおりです。」と記載して、以下の内容を含めた労働条件を通知すれば、書面での労働条件通知書の交付が不要となります。

  • 労働契約の期間に関する事項
  • 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
  • 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
  • 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
  • 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

労働条件通知書は厚生労働省が出している雛形( サンプル )が有名ですが、必ずしもこの書式による必要はなくこの雛形に書かれている要素が記載されていれば他の様式でも問題ありません。
したがって、上記の要素がメール本文や添付ファイル(印刷可能なものに限る)に記載されていれば、労働条件の通知として認められるようになりましたので、是非、ご活用ください。

【関連条文】

労働基準法第15条(労働条件の明示)
第1項 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
第2項 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
第3項 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

旧・労働基準法施行規則第5条
第1項 使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第一号の二に掲げる事項については期間の定めのある労働契約であつて当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、第四号の二から第十一号までに掲げる事項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
一 労働契約の期間に関する事項
一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
三 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
五 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
六 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
七 安全及び衛生に関する事項
八 職業訓練に関する事項
九 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
十 表彰及び制裁に関する事項
十一 休職に関する事項
第2項 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める事項は、前項第一号から第四号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。
第3項 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。

新・労働基準法施行規則第5条第2項~第4項(第1項は旧規則と同じ)
第2項 使用者は、法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない。
第3項 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める事項は、第一項第一号から第四号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。
第4項 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。
一 ファクシミリを利用してする送信の方法
二 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)

なお、本件に関する厚生労働省の関連ウェブは、こちらです。


(文責:森 理俊)

2019年04月03日 15:02|カテゴリー:企業法務||コメントはまだありません

株式会社の利益相反取引と関連当事者取引

今回は、ベンチャー企業からの法律相談で頻出する、株式会社の利益相反取引と関連当事者取引がテーマです。

株式会社の利益相反取引と関連当事者取引は、いずれも、会社と会社の役員等との取引に関する規制であり、時折、混乱が見られることから、今回、整理します。

1 利益相反取引と関連当事者取引の特徴と違い(概要)

利益相反取引は、会社法に基づく手続規制があります。全ての株式会社が対象となり、機関承認が必要となります。

一方、関連当事者取引は、会社計算規則や財務諸表等規則(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則)、開示府令(企業内容等の開示に関する内閣府令)に基づく開示規制があります。主に上場企業が開示する際のルールであり、監査法人や証券会社からの審査において、問題となり得るものであるという点に違いがあります。

関連当事者取引は、利益相反取引より大きな概念であり、利益相反取引であれば関連当事者取引である(利益相反取引⊆関連当事者取引)という関係にあります。

2 株式会社の利益相反取引

株式会社は、利益相反取引であれば、株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)において、事前に、重要な事実を開示して、承認を得る必要があります(会社365I,356I)。また、取締役会設置会社の場合は、取締役会において、事後に、重要な事実を開示して、報告をする必要があります(会社365II)。

さらに、利益相反取引を行って、その結果、会社に損害が生じた場合は、その取引に関し任務懈怠のある取締役は、会社に対する損害賠償義務を負います(例外あり)。また、利益相反取引について承認等の手続違背がある場合、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、損害の額と推定されます(会社423II)。

実務上、会社の取締役や監査役、法務担当者は、利益相反取引に該当するか否かについて、直ぐに判断できる能力があれば理想的です。少なくとも、これから行おうとする取引について、「利益相反っぽい」と感じて、利益相反取引が必要か、調査する指示ができる体制を構築した方がよいです。取締役や法務担当者が気付かないで、利益相反取引を進めると、後から大きな問題に発展することがあり得ますが、誰も気付かないと、承認決議をする切欠を失いますので、誰かが気づける状態にしておく必要があります。

利益相反取引は、①直接取引、すなわち、取締役が当事者として、または他人の代理人・代表者として、会社と取引しようとする場合、又は②間接取引、すなわち、会社が取締役の債務を保証する等、取締役以外の者との間で会社、取締役間の利害が相反する取引をしようとする場合に、該当します。いずれも、取締役が、会社の利益の犠牲において自己又は第三者の利益を図ろうとすることを防止する趣旨で設けられています。

典型例は、取引相手や取引相手の代表者が、会社の取締役個人である場合です。

利益相反取引に該当するかどうか、判別できなければ、取引を強行せずに、顧問弁護士等の弁護士に相談していただいた方がよいでしょう。

3 株式会社の関連当事者取引

関連当事者取引は、親会社や法人主要株主等、子会社等、兄弟会社等、役員やその近親者等といった、会社に関連する者との取引です。「関連当事者」は、かなり広い概念ですので、詳しくは、後述の【関連当事者の定義に関する規定】をご確認下さい。

関連当事者取引であっても、利益相反取引に該当しない場合は、株主総会や取締役会での承認といった手続は不要です。また、非上場で、会計監査人を設置していない場合等は、意識する必要はありません。

しかし、上場会社等の財務諸表提出会社や、将来IPOを考えている会社は、常に留意する必要があります。

具体的には、関連当事者取引に該当する場合は、重要であると判断されれば、計算書類の注記表や目論見書、有価証券報告書等にて、開示しなければならないため、他の取引との比較の観点等から、一般投資家等への開示に耐えられるだけの公正な内容となっているかを意識して、契約内容を決定した方がよいということになります。

4 関連法規

以下は、利益相反取引と関係会社取引に関連する規定です。ご参考にしてください。なお、本稿執筆後の法改正等には対応していない可能性がありますので、ご留意下さい。

【利益相反取引に関する規定】

会社法
(競業及び利益相反取引の制限)
第356条第1項 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
第2項 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号の取引については、適用しない。

(競業及び取締役会設置会社との取引等の制限)
第365条第1項 取締役会設置会社における第三百五十六条の規定の適用については、同条第一項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。
第2項 取締役会設置会社においては、第三百五十六条第一項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。

(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
第423条第1項 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第2項 取締役又は執行役が第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。
第3項 第三百五十六条第一項第二号又は第三号(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。
一 第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役
二 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役
三 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(指名委員会等設置会社においては、当該取引が指名委員会等設置会社と取締役との間の取引又は指名委員会等設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)
第4項 前項の規定は、第三百五十六条第一項第二号又は第三号に掲げる場合において、同項の取締役(監査等委員であるものを除く。)が当該取引につき監査等委員会の承認を受けたときは、適用しない。

【関連当事者の定義に関する規定】

会社計算規則
第112条第4項
前三項に規定する「関連当事者」とは、次に掲げる者をいう。
一 当該株式会社の親会社
二 当該株式会社の子会社
三 当該株式会社の親会社の子会社(当該親会社が会社でない場合にあっては、当該親会社の子会社に相当するものを含む。)
四 当該株式会社のその他の関係会社(当該株式会社が他の会社の関連会社である場合における当該他の会社をいう。以下この号において同じ。)並びに当該その他の関係会社の親会社(当該その他の関係会社が株式会社でない場合にあっては、親会社に相当するもの)及び子会社(当該その他の関係会社が会社でない場合にあっては、子会社に相当するもの)
五 当該株式会社の関連会社及び当該関連会社の子会社(当該関連会社が会社でない場合にあっては、子会社に相当するもの)
六 当該株式会社の主要株主(自己又は他人の名義をもって当該株式会社の総株主の議決権の総数の百分の十以上の議決権(次に掲げる株式に係る議決権を除く。)を保有している株主をいう。)及びその近親者(二親等内の親族をいう。以下この条において同じ。)
イ 信託業(信託業法(平成十六年法律第百五十四号)第二条第一項に規定する信託業をいう。)を営む者が信託財産として所有する株式
ロ 有価証券関連業(金融商品取引法第二十八条第八項に規定する有価証券関連業をいう。)を営む者が引受け又は売出しを行う業務により取得した株式
ハ 金融商品取引法第百五十六条の二十四第一項に規定する業務を営む者がその業務として所有する株式
七 当該株式会社の役員及びその近親者
八 当該株式会社の親会社の役員又はこれらに準ずる者及びその近親者
九 前三号に掲げる者が他の会社等の議決権の過半数を自己の計算において所有している場合における当該会社等及び当該会社等の子会社(当該会社等が会社でない場合にあっては、子会社に相当するもの)
十 従業員のための企業年金(当該株式会社と重要な取引(掛金の拠出を除く。)を行う場合に限る。)

財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
第8条第17項
この規則において「関連当事者」とは、次に掲げる者をいう。
一 財務諸表提出会社の親会社
二 財務諸表提出会社の子会社
三 財務諸表提出会社と同一の親会社をもつ会社等
四 財務諸表提出会社のその他の関係会社並びに当該その他の関係会社の親会社及び子会社
五 財務諸表提出会社の関連会社及び当該関連会社の子会社
六 財務諸表提出会社の主要株主(法第百六十三条第一項に規定する主要株主をいう。以下同じ。)及びその近親者(二親等内の親族をいう。次号及び第八号において同じ。)
七 財務諸表提出会社の役員及びその近親者
八 財務諸表提出会社の親会社の役員及びその近親者
九 前三号に掲げる者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社等及び当該会社等の子会社
十 従業員のための企業年金(財務諸表提出会社と重要な取引(掛金の拠出を除く。)を行う場合に限る。)

【関連当事者との取引に関する注記に関する規定】

会社計算規則
第112条第1項
関連当事者との取引に関する注記は、株式会社と関連当事者との間に取引(当該株式会社と第三者との間の取引で当該株式会社と当該関連当事者との間の利益が相反するものを含む。)がある場合における次に掲げる事項であって、重要なものとする。ただし、会計監査人設置会社以外の株式会社にあっては、第四号から第六号まで及び第八号に掲げる事項を省略することができる。
一 当該関連当事者が会社等であるときは、次に掲げる事項
イ その名称
ロ 当該関連当事者の総株主の議決権の総数に占める株式会社が有する議決権の数の割合
ハ 当該株式会社の総株主の議決権の総数に占める当該関連当事者が有する議決権の数の割合
二 当該関連当事者が個人であるときは、次に掲げる事項
イ その氏名
ロ 当該株式会社の総株主の議決権の総数に占める当該関連当事者が有する議決権の数の割合
三 当該株式会社と当該関連当事者との関係
四 取引の内容
五 取引の種類別の取引金額
六 取引条件及び取引条件の決定方針
七 取引により発生した債権又は債務に係る主な項目別の当該事業年度の末日における残高
八 取引条件の変更があったときは、その旨、変更の内容及び当該変更が計算書類に与えている影響の内容
第2項 関連当事者との間の取引のうち次に掲げる取引については、前項に規定する注記を要しない。
一 一般競争入札による取引並びに預金利息及び配当金の受取りその他取引の性質からみて取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引
二 取締役、会計参与、監査役又は執行役(以下この条において「役員」という。)に対する報酬等の給付
三 前二号に掲げる取引のほか、当該取引に係る条件につき市場価格その他当該取引に係る公正な価格を勘案して一般の取引の条件と同様のものを決定していることが明白な場合における当該取引
第3項 関連当事者との取引に関する注記は、第一項各号に掲げる区分に従い、関連当事者ごとに表示しなければならない。

(注記表の区分)
第98条第1項
注記表は、次に掲げる項目に区分して表示しなければならない。
(略)
十五 関連当事者との取引に関する注記
(略)

第2項 次の各号に掲げる注記表には、当該各号に定める項目を表示することを要しない。
一 会計監査人設置会社以外の株式会社(公開会社を除く。)の個別注記表 前項第一号、第五号、第七号、第八号及び第十号から第十八号までに掲げる項目
二 会計監査人設置会社以外の公開会社の個別注記表 前項第一号、第五号、第十四号及び第十八号に掲げる項目
三 会計監査人設置会社であって、法第四百四十四条第三項に規定するもの以外の株式会社の個別注記表 前項第十四号に掲げる項目
四 連結注記表 前項第八号、第十号、第十一号、第十四号、第十五号及び第十八号に掲げる項目
五 持分会社の個別注記表 前項第一号、第五号及び第七号から第十八号までに掲げる項目

財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
第8条の10第1項
財務諸表提出会社が関連当事者との取引(当該関連当事者が第三者のために当該財務諸表提出会社との間で行う取引及び当該財務諸表提出会社と第三者との間の取引で当該関連当事者が当該取引に関して当該財務諸表提出会社に重要な影響を及ぼしているものを含む。)を行つている場合には、その重要なものについて、次の各号に掲げる事項を関連当事者ごとに注記しなければならない。ただし、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合は、この限りでない。
一 当該関連当事者が会社等の場合には、その名称、所在地、資本金又は出資金、事業の内容及び当該関連当事者の議決権に対する当該財務諸表提出会社の所有割合又は当該財務諸表提出会社の議決権に対する当該関連当事者の所有割合
二 当該関連当事者が個人の場合には、その氏名、職業及び当該財務諸表提出会社の議決権に対する当該関連当事者の所有割合
三 当該財務諸表提出会社と当該関連当事者との関係
四 取引の内容
五 取引の種類別の取引金額
六 取引条件及び取引条件の決定方針
七 取引により発生した債権債務に係る主な科目別の期末残高
八 取引条件の変更があつた場合には、その旨、変更の内容及び当該変更が財務諸表に与えている影響の内容
九 関連当事者に対する債権が貸倒懸念債権(経営破綻の状態には至つていないが、債務の弁済に重大な問題が生じている、又は生じる可能性の高い債務者に対する債権をいう。)又は破産更生債権等(破産債権、再生債権、更生債権その他これらに準ずる債権をいう。以下同じ。)に区分されている場合には、次に掲げる事項
イ 当事業年度末の貸倒引当金残高
ロ 当事業年度に計上した貸倒引当金繰入額等
ハ 当事業年度に計上した貸倒損失等(一般債権(経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権をいう。)に区分されていた場合において生じた貸倒損失を含む。)
十 関連当事者との取引に関して、貸倒引当金以外の引当金が設定されている場合において、注記することが適当と認められるものについては、前号に準ずる事項

第2項 前項本文の規定にかかわらず、同項第九号及び第十号に掲げる事項は、第八条第十七項各号に掲げる関連当事者の種類ごとに合算して記載することができる。

第3項 関連当事者との取引のうち次の各号に定める取引については、第一項に規定する注記を要しない。
一 一般競争入札による取引並びに預金利息及び配当の受取りその他取引の性質からみて取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引
二 役員に対する報酬、賞与及び退職慰労金の支払い

第4項  第一項に掲げる事項は、様式第一号により注記しなければならない。


(文責:森 理俊)

2020年8月
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