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ベンチャー法務の部屋

令和4年4月1日施行改正個人情報保護法を踏まえたプライバシーポリシーの具体的な改定ポイント6選

1.プライバシーポリシーとは 

プライバシーポリシー(個人情報保護方針)とは、個人情報の取扱いについて事業者が実施している方針・措置を示すものです。個人情報保護法上、プライバシーポリシーの設置自体が義務付けられているわけではありませんが、個人情報保護上の義務を効率よく遵守し、また遵守状況を公表してユーザーの安心感を得るために、多くの企業がプライバシーポリシーを策定・公表しています。

2.一般的なプライバシーポリシーの構成と改正ポイント

プライバシーポリシーは、下表のような内容から構成されることが一般的です(※1)。下表では、このような一般的なプライバシーポリシーの構成に対応させて、令和4年4月1日に施行された個人情報保護法の改正を踏まえたプライバシーポリシーの主要な改定ポイントを、赤字でまとめています。

なお、令和4年4月1日から施行される改正には、厳密には、「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」による改正と、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」による改正がありますが、本稿では両者を特に区別せずに説明します。以下、「法」は個人情報保護法、「規則」は個人情報の保護に関する法律施行規則、「政令」は個人情報の保護に関する法律施行令を意味します。また、法・規則・政令の条文番号は、令和4年4月1日時点の条文番号とします。

【一般的なプライバシーポリシーの構成と改正ポイント】

1)会社の名称の基本情報等

―会社基本情報を記載します。

(改正ポイント①)会社の住所及び代表者名を追記しましょう。

2)個人情報保護法等の遵守

―関係法令等を遵守して適正に個人情報/個人データ等を取り扱う旨を記載します。

3)個人情報の取得・利用

―利用目的の公表・通知等を行った上で、適法に個人情報を取得すること等を記載します。

(4)個人情報の利用目的

―個人情報の利用目的を具体的に特定して列挙した上で、利用目的の範囲内で個人情報/個人データを取り扱うこと等を記載します。

(改正ポイント②)本人から得た情報から、本人に関する行動・関心等の情報を分析する場合(Cookieを活用した広告を利用している場合等)は、このような取扱いについて追記しましょう。

(5)個人情報の共同利用

―グループ会社間等で個人データを共同利用する場合には、共同利用者等を記載します。

(改正ポイント③)共同利用する個人データの管理責任者の住所、代表者名を追記しましょう。

(6)個人情報の第三者提供

―個人データを第三者に提供するのはどのような場合か等を記載します。

(改正ポイント④)プライバシーポリシーに対する同意をもって、外国にある第三者に個人データを提供するために原則として必要な「本人の同意」を取得する場合、同意取得の前提として提供しなければならない情報(後述します。)を、プライバシーポリシーに追記しましょう。

7)安全管理措置に関する事項

 ―保有個人データの安全管理(セキュリティ)のために実施している措置等を記載します。

(改正ポイント⑤)「安全管理措置に関する事項」という項目を新設して、安全管理のために実施している措置を追記しましょう。

(8)個人情報に関連する請求・質問・苦情等の受付方法(お問い合わせ窓口)

(改正ポイント⑥)保有個人データの利用停止・消去等の要件や、開示請求の対象となる情報、開示の方法について記載している場合は、改正を踏まえて表現を修正する必要がないか検討しましょう。

3.各改正ポイントの解説

1)(改正ポイント) 「会社の名称の基本情報等」

改正により、個人情報取扱事業者が本人の知り得る状態に置く(本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む。)べき事項として、個人情報取扱事業者の氏名又は名称に加えて、住所及び代表者氏名が追加されました(法第32条第1項第1号)。これらの事項を、プライバシーポリシーへの記載をもって「本人の知り得る状態に置く」場合、プライバシーポリシーに、会社の住所及び代表者氏名を追記しましょう。もっとも、プライバシーポリシーとは別に会社概要ページを設けてこれらの情報を掲載したり、プライバシーポリシーに会社概要ページへのリンクを貼り付けたりすることで「本人の知り得る状態に置く」ことも可能です(※2)。また、「本人の求めに応じて遅滞なく回答」することによって「本人の知り得る状態に置く」こともできるので、この意味でも、必ずプライバシーポリシーに記載しなければならないわけではありません。

(2) (改正ポイント) 「個人情報の利用目的」

個人情報保護委員会は、個人情報保護法の内容を補足するために、各種のガイドラインを公表しており、これらのガイドラインも実務の重要な指標となっています。これらのガイドラインも、今回の個人情報保護法の改正にあわせて改正されました。そして、改正後の個人情報保護法ガイドライン(通則編)「3-1-1利用目的の特定(法第17条第1項関係)」では、個人情報の利用目的の特定について、近年のCookie等を駆使したマーケティング活動の発達に鑑みて、以下の内容が追加されました。

例えば、本人から得た情報から、本人に関する行動・関心等の情報を分析する 場合、個人情報取扱事業者は、どのような取扱いが行われているかを本人が予測・想定できる程度に利用目的を特定しなければならない。

 【本人から得た情報から、行動・関心等の情報を分析する場合に具体的に利用目的を特定している事例】

事例 1)「取得した閲覧履歴や購買履歴等の情報を分析して、趣味・嗜好に応じた新商品・サービスに関する広告のために利用いたします。」

事例 2)「取得した行動履歴等の情報を分析し、信用スコアを算出した上で、 当該スコアを第三者へ提供いたします。」

閲覧履歴や購買履歴等の情報を広告等に利用している場合には、上記事例を参照して、その旨を利用目的に追記するようにしましょう。

(3) (改正ポイント) 「個人情報の共同利用」

個人データをグループ会社間等で(本人の同意を得ずに)共同利用するにあたり、あらかじめ本人に通知し、または本人が容易に知り得る状態に置くべき事項の1つとして、個人データの管理責任者の氏名・名称に加えて、改正により、同責任者の住所と(同責任者が法人の場合はその)代表者氏名が追加されました(法第27条第5項第3号)。

個人データを共同利用する場合には、個人データの管理責任者の住所と代表者氏名もプライバシーポリシーに追記しましょう。

(4) (改正ポイント) 「個人情報の第三者提供」

 個人データを外国(EU及び英国を除きます。)にある第三者に提供するためには、原則として「本人の同意」が必要とされるところ、改正により、かかる同意を取得するために、本人に対して以下の参考情報を提供しなければならなくなりました(法第28条第2項,規則第17条第2項)。プライバシーポリシーへの同意をもって「本人の同意」を取得する場合は、以下の事項をプライバシーポリシーに追記しましょう。

【同意を取得するために本人に提供すべき情報】

  • 当該外国の名称(※3)
  • 適切かつ合理的な方法により得られた当該外国における個人情報の保護に関する制度に関する情報
  • 当該第三者が講ずる個人情報の保護のための措置に関する情報(※4)

 具体的な記載内容については、提供先の国にもよるため、個人情報保護委員会が提供する情報を参照しつつ、弁護士等の専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。

(5) (改正ポイント⑤)「安全管理措置に関する事項」

 改正により、「保有個人データの安全管理のために講じた措置」(以下「安全管理措置」といいます。)が、新たに、本人の知り得る状態に置く(本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む。)べき事項として追加されました(法第32条第1項第4号、政令第10条第1項)。

  したがって、プライバシーポリシーへの記載をもって、安全管理措置を「本人の知り得る状態に置く」場合には、安全管理措置に関する事項を、プライバシーポリシーに新たに盛り込みましょう。安全管理措置の記載例については、個人情報保護法ガイドライン通則編「3-8-1保有個人データに関する事項の公表等(法第 32 条関係)の」【安全管理のために講じた措置として本人の知り得る状態に置く内容の事例】の記載等が参考になるでしょう。安全管理措置に関する事項についても、「本人の求めに応じて遅滞なく回答す」れば足りるため、プライバシーポリシーには概括的な内容のみ記載して、詳細については本人の求めに応じて遅滞なく回答するといった対応も考えられるでしょう(※5)。

(6) (改正ポイント⑥)「個人情報に関連する請求・質問・苦情等の受付方法(お問い合わせ窓口)」

個人情報保護法の改正により、保有個人データの利用停止・消去等の要件が緩和されたほか(法第35条第5項)、保有個人データの開示対象に第三者提供記録が追加され(法第33条第5項)、開示方法も本人が指定できるようになる(第33条第2項)等の変更がありました。したがって、「(8)個人情報に関連する請求・質問・苦情等の受付方法(お問い合わせ窓口)」といった項目の中で、利用停止・消去等の要件や、開示対象となる情報の種類、開示の方法といった詳細な内容まで記載している場合、改正に合わせて文言を修正しなければならない可能性があります。

(7)  その他のポイント

 上記のほか、会社の事業活動の内容や、プライバシーポリシーの記載ぶりによっては、以下のような事項についても修正を行う必要が生じる可能性があります。

  • 個人関連情報の第三者提供
メディア企業からCookie等の情報(当該メディア企業からは個人が識別できず当該メディア企業にとっては「個人データ」に該当しない情報)を受け取り、かつ、受け取った情報を(自社で他の情報と照合する等して個人を識別可能な状態で)「個人データ」として取り扱っている場合は、当該メディア企業から自社への情報提供について、本人の同意を得ておく必要があります(法第31条第1項)。かかる本人の同意をプライバシーポリシーへの同意をもって取得する場合には、上記のような情報(個人情報保護法上、「個人関連情報」にあたります。)の提供を受けることについて、プライバシーポリシーに記載しておく必要があります。
  • 学術研究機関等に関する例外事由の追記
原則として、個人データは、本人の同意を得なければ第三者に提供できませんが、例外的に本人の同意を得なくても提供可能な事由が個人関連情報上、列挙されています(法第27条第1項第1号~第7号)。改正により、このような例外事由として、学術研究機関等が当該個人データを学術研究目的で提供する場合や、学術研究目的で取り扱う必要がある学術研究機関等に個人データを提供する場合が追加されました(法第27条第1項第6号・第7号)。他にも、例外的に本人の同意を得ずに個人情報の利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱うことができる事由や、例外的に本人の同意を得ずに要配慮個人情報を取得できる事由にも、学術研究機関等に関する記載が追記されました(法第18条第3項第5号・第6号、法第20条2項第5号・第6号)。これらの例外事由について、改正前の個人情報保護法が列挙していた事由をそのままプライバシーポリシーに記載している場合は、改正を踏まえて記載を調整しなければならない可能性があります。

4.まとめ

本稿では、個人情報保護法改正に伴う、典型的・一般的なプライバシーポリシーの改定ポイントをお伝えしました。もっとも、改定のポイントは、個々の企業の活動状況や、現在のプライバシーポリシーの記載ぶりによって異なり、本稿でご紹介していない事項について修正の必要が生じる可能性も大いにあります。

当事務所では、プライバシーポリシー改定のご依頼や、個人情報保護法の改正に関するリーガルアドバイスも数多く取り扱っています。お気軽にお問い合わせからご連絡ください。

(文責:崔 加奈)

(※1)会社の個人情報の取扱い状況や方針によって、プライバシーポリシーに記載すべき事項は異なるので、あくまでも一般的な例としてご参照ください。

(※2)個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)の一部を改正する告示案」に関する意見募集結果(別紙2-1)」(令和3年8月2日)(以下「パブコメ通則編」といいます。)意見番号446。

(※3)「当該外国の名称」については、特定できない場合には、これに代えて、特定できない旨及びその理由等を情報提供することでも足りるものとされています(法第28条第2項,規則第17条第3項)。

(※4)「当該第三者が講ずる個人情報の保護のための措置に関する情報」については、情報提供できない場合には、これに代えて、特定できない旨及びその理由について情報提供することでも足りるものとされています(法第28条第2項,規則第17条第4項)

(※5)パブコメ通則編意見番号456

令和4年4月1日施行改正個人情報保護法を踏まえたプライバシーポリシーの改定

1. はじめに

本年4月1日から、個人情報保護法(正式名称:個人情報の保護に関する法律)の改正が施行されました。今回は、個人情報保護法の改正点のうち、プライバシーポリシーの改定に関わりうる内容を抜粋して、ご紹介します。

2. 個人情報の本人からの請求について

プライバシーポリシーに、個人情報の本人から、保有している個人情報の開示、訂正、利用停止、消去等の請求を受け付ける旨の規定や、その手続きについて規定している場合、その規定が、以下の内容に違反していないか確認をする必要があります。

3. 公表事項の追加について

改正により、本人の知りうる状態に置かなければならないとされている事項について、以下のとおり、追加がありました。この点からも、プライバシーポリシーの変更が必要な場合があります。

4.「保有個人データ」の定義変更

改正前は、6ヵ月以内に消去することとなるものについては、「保有個人データ」から除外されていましたが、改正により6ヵ月以内に消去することとなるものについても「保有個人データ」に含まれることになりました(法第16条第4項)。

従前、自社は、6ヵ月以内に保有個人データを削除するため、自社で保有している個人情報は「保有個人データ」に該当しないことを前提で個人情報の取扱いを行っていた場合、改正後は、改正前と同じ取扱いでも保有している個人情報が「保有個人データ」に該当する可能性もあるため、注意が必要です。

5. おわりに

以上が、プライバシーポリシーに関わる主な改正個人情報保護法の内容です。

社内で改正個人情報保護法をふまえたプライバシーポリシーの改定を行うのは不安という場合や、これを機会にプライバシーポリシーを新たに制定しようという場合は、当事務所にても対応が可能です。また、今回ご紹介しなかった改正の内容についてのご相談にも対応が可能です。お気軽にお問い合わせからご連絡下さい。

(文責:本多 望)

※注)上記の画像では、個人情報の保護に関する法律を 「法」 、個人情報の保護に関する法律施行令を 「令」 、個人情報の保護に関する法律施行規則を 「規則」 と記載しています。

ベンチャー企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その3)

~~ベンチャー企業が従業員に提出してもらうべき誓約書に、競業避止義務や引抜き防止に関する規定は、どのように書けばよいか~~

今回は、「ベンチャー企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その2)」の続きです。

1 競業避止義務

(1)総論

ベンチャー企業が従業員に提出してもらうべき誓約書に、競業避止義務に関する規定は、どのように書けばよいでしょうか。

憲法に定められた人権の1つである、職業選択の自由がありますので、誓約書に規定して合意すればなんでも有効になるというものではありません。

このあたりに配慮した規定を設けることが重要です。

(2)「職業選択の自由」と競業避止義務

① 業業避止義務が問題となる場面


労働者は、労働契約の存続中は、一般的には、使用者の利益に著しく反する競業行為を差し控える義務があると考えられています。また、就業規則等で、競業行為が明文で禁止されている例も少なくありません。

したがって、労働契約の存続中の競業行為については、仮に誓約書に規定がなかったとしても、就業規則の規定に従った懲戒処分や損害賠償請求が可能であるケースが多いと考えます。

ただ、何が競業行為であるかについては、なかなか明確化しにくいことに加え、実務上、労働者の協業避止が問題となるのは、労働者の退職後であることが多く、労働者の退職後に、同業他社に就職したり、同業他社を開業したりする場合に、退職金の減額や没収、損害賠償請求、競業行為の差止請求が可能であるか、という形で問題になることが多いです。

そして、労働契約の終了後については、労働者に職業選択の自由(日本国憲法第22条第1項)があり、一定の範囲であれば、自らが積極的に放棄する自由もまた認められると考えられるものの、労働者が積極的に放棄する自由を超えて、職業選択の自由を過度に制限しているような場合には、無効と判断されることになります。

② 競業避止義務規定の有効性と裁判例の傾向

就業中の競業避止義務は、その必要性から比較的緩やか認められており、簡単に調査した範囲では、無効であるという判断は見当たりません。

一方、退職後の競業避止義務に基づく損害賠償請求について、労働者の職業選択の自由に照らして、特約における制限の期間・範囲(地域・職種)を最小限にとどめることや一定の代替措置を求めるなど、厳しい態度をとる傾向にあるといわれています(菅野和夫著「労働法第十二版」(弘文堂)160頁)。

以下、一部紹介します。


退職金規程における競業避止規定の合理性に関連する判例・裁判例
・最高裁昭和52年8月9日判決 三晃社事件
・名古屋高裁平成2年8月31日 中部日本広告社事件
・東京高裁平成22年4月27日判決 三田エンジニアリング事件
退職後の競業行為の差止に関連する裁判例
・奈良地裁昭和45年10月23日判決 フォセコ・ジャパン事件
・大阪地裁平成3年10月15日判決 新大阪貿易事件
・東京地裁平成7年10月16日判決 東京リーガルマインド事件
退職後の競業避止義務に基づく損害賠償請求に関連する裁判例
・大阪地裁平成12年6月19日判決 キヨウシステム事件
・大阪地裁平成28年7月14日判決 リンクスタッフ元従業員事件
・大阪地裁平成15年1月22日判決 新日本科学事件

(3)規定例~競業避止義務をどのように定めるべきか~ 

競業避止義務及びそのサンクション(制裁)を、どの規定に、どのように定めるべきかが問題となります。以下に規定例を挙げていますので、参考にしてください。

ここでは期間を「2年」としています。確実に有効といえる期間はありませんが、裁判例などを見ていると、3年を超えてくると、無効となるリスクがどんどんと高くなるように思われます。禁止となる対象の業務を狭く規定することや代替措置を明確にすることにより、より有効性を高める方向も考えられますので、適宜、ご調整下さい。実際の策定にあたっては、企業労務に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。


(a) 就業規則:就業規則には、「懲戒」や「禁止行為」などの規定に定めることになります。「会社の利益に反する著しく不都合な行為」や「故意又は過失により会社に損害あるいは事故を引き起こす行為」等と定めることが多いでしょう。そのほか、最近では、副業を認めるケースが話題になっているものの、原則は禁止として個別に承諾する制度にして、「服務規律」等の規定で、「会社の事前の許可がある場合を除き、第三者に就業し又は自己の営業を行わないこと」等と定めて、競業であるか否かにかかわらず、副業を原則禁止する方法もあります。
就業規則自体は、基本的に労働者の在職中の行為に対する規範として機能するものですので、退職後の行為に対して、どの程度効力があるかについては疑問があり、別途の誓約書を取得するなどして、明確に合意を得た方がよいです。

(b) 退職金規程:スタートアップでは、退職金制度を設けていないところがほとんどです。ただ、仮に設けるのであれば、同業他社に転職した者に対する退職金の減額や没収を明確に規定した方がよいことになります。こちらは、退職後の競業制限の必要性や範囲、競業行為の態様等に照らして有効性が左右されます。下記の規定例は一例です。競業の範囲が広めに設定しており、より絞っておくことで、有効となる可能性は高くなります。

規定例:
従業員もしくは当該従業員の遺族が何らかの方法で会社を欺き、故意に会社に損害を与え、または会社に対して有害な行為(例えば競争会社に対する会社の秘密情報の漏洩)を行ったと会社が判断した場合、又は、在職中若しくは退職後2年間において、会社が行っている業務若しくはこれらに類する事業を行う企業に就職したり、その役員に就任したり、アドバイスを行ったりして、競合事業に関与したと会社が判断した場合、会社は、独自の判断で、当該従業員またはその法律上の遺族に対し、本規程に従い支給される予定である給付金の支払を取消し若しくは停止し、又は、既に支給された給付金の返還請求を行う権利を有する。

(c) 誓約書:スタートアップでは、入社時に誓約書を取得することが多いですので、その誓約書に退職後の競業禁止規定を入れておくことがもっともスムースでしょう。こちらも、下記の規定例は一例であり、常に有効であるかは、わかりません。

規定例:私は、貴社の書面による事前の同意を得た場合を除き、在職中及び退職後2年間は、貴社が行っている業務又はこれらに類する事業(以下、これらをまとめて「競合事業」という。)を行う企業に、就職したり、その役員に就任したり、アドバイスを行ったりするなど、直接間接を問わず競合事業に関与せず、また、競合事業につき会社の設立その他の方法により自ら開業いたしません。

(4)実際に競業避止義務が生じた場合

退職金規程や誓約書などに競業避止義務に関する規定がある場合は、その規定を根拠に、退職金の減額や没収、競業行為の差止めや損害賠償請求が考えられます。

既に述べたとおり、職業選択の自由との関係で、規定が無効であると判断される可能性がありますので、この点は、常に、意識していただいた方がよいでしょう。

2 勧誘・引抜き等の禁止

(1)誓約書に規定する意味

スタートアップ企業は、退職した従業員が、会社の顧客を勧誘したり、会社の従業員を引き抜いたりする行為は、絶対に止めたい行為であろうと思います。

顧客の大掛かりな簒奪や従業員の大量引抜きは、仮に退職後の勧誘や引抜き等の禁止についての合意がなかったとしても、その行為が、営業権を侵害する不法行為として認められる可能性があります(参照:東京地裁平成19年4月24日判決 ヤマダ電機事件)。

ただ、少人数であっても、顧客の簒奪や従業員の引抜きは、避けたいところであり、その観点から誓約書を設けて、その中で勧誘や引抜き等の禁止を明確に規定した方がよいです。

(2)規定例

誓約書には、以下のような規定を設けることが考えられます。

規定例:
私は、貴社の書面による事前の同意を得た場合を除き、在職中及び退職後2年間は、自ら設立した事業のため、又は私が役員若しくは従業員等の立場で関与する第三者若しくは関与する予定のある第三者のために、貴社の役員、従業員及び取引先(ユーザー等を含みます。)に対する勧誘・引抜き活動や営業活動を行いません。また、私は、貴社の書面による事前の同意を得た場合を除き、在職中及び退職後2年間は、自ら、又は第三者をして、貴社の役員及び従業員を採用せず、採用を決定することもしません。

(3)実際に勧誘や引抜きが生じた場合

実際に勧誘や引抜きが生じた場合は、誓約書などの明文規定がないか、営業権侵害に該当しないかなどを検討することになります。

また、上記のほかに、営業秘密の侵害や、別途の義務(秘密保持義務など)の違反でも、対応できる可能性があります。

これらの法的構成を検討し、損害賠償請求や差止め、それらを元にした交渉等が考えられます。

実際にどのような対応方法が有効であるかについては評価が難しいところがありますので、企業労務に詳しい弁護士に相談して決めることを強くお勧めします。

3 今後の予定

今後、以下の条項について、触れる予定です。

・引継ぎ
・反社会的勢力との接触の禁止等

(文責 森 理俊)

第三者委員会

企業において不正・不祥事が発生した場合に、調査委員会が設置され、調査委員会が調査を行って報告書を作成することがあります。

こういった調査は、企業がステークホルダーに対して不正・不祥事の事実関係を公表するといった情報公開、及び、原因を分析することによって将来における不正・不祥事の予防といったことを目的として行われます。また、不正・不祥事の規模、企業の規模等によって、調査委員会の構成も様々です。例えば、非上場企業で、インパクトが比較的大きくない規模の不正・不祥事であれば、監査役等を主要なメンバーとした社内の調査委員会を設置することもあります。他方、インパクトの大きな不正・不祥事では、顧問弁護士ではない弁護士のみをメンバーとする独立性・客観性の強い外部の調査委員会を設置することもあります。

日本弁護士連合会では、企業等から独立した委員のみをもって構成するタイプの委員会について、ガイドラインを策定しています。

https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2010/100715_2.html

先日、クライアントからのご依頼を受けて、当事務所の弁護士で調査委員会を設置した案件が終了しました。私が委員長として、調査及び報告書の作成を行ったのですが、不正・不祥事が発生する原因というのは、表面的に事象が目につきやすいのですが、根本的または潜在的な原因を検討・分析することは容易ではありません。企業文化や、商習慣についても理解する必要がありますし、ビジネスの進め方や関係者のあるべき言動等についての洞察も必要となります。その意味では、普段の企業法務や社外監査役の業務が、調査委員会での調査にも非常に有用であることを、改めて実感しました。

また、調査報告書では、再発防止策を提言することが一般的です。再発防止策を検討する際には、表面的・形式的な内容となることなく、真にクライアントに役立ち、クライアントのステークホルダーから信頼され得る施策となるよう徹底的に検討することになります。

不正・不祥事の原因を究明して、将来の再発を防止し、ステークホルダーからの信頼を取り戻し、その結果、企業の成長に寄与するという思いを忘れずに、今後も調査委員会の業務を行いたいと考えています。

(文責:藤井宣行)

2022年02月24日 11:35|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません

公益通報者保護法改正②

公益通報者保護法は、令和2年6月に改正されています。この改正の内容については、当事務所の和田弁護士が、同年7月に、ブログで詳しく紹介していますので、よろしければ、お読みください。

他方、改正法が公布された後に、重要な点が、いくつか公表されていますので、本ブログでは、これについて紹介します。

まず、改正法の施行日について、「公布の日から2年以内」とされていましたが、公益通報者保護法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令により、令和4年6月1日とされました。

また、改正法第11条第4項では、内閣総理大臣は、同条第1項及び第2項に基づいて事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めると規定しています。これを受け、消費者庁は、令和3年8月20日、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年内閣府告示第118号。以下「指針」といいます。)を公表し、同年10月13日、「公益通報者保護法に基づく指針の解説」(以下「解説」といいます。)を公表しました。

指針では、改正法第11条第1項に関して、事業者は、内部公益通報受付窓口の担当者を、書面により指定する等の方法で、選定することが義務付けられています。

改正法第11条第2項に関する指針では、事業者は、①部門横断的な公益通報対応業務を行う体制を整備するための措置、②公益通報者を保護する体制を整備するための措置、③内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置をとることが義務付けられています。

① 部門横断的な公益通報対応業務を行う体制を整備するための措置としては、以下の事項が記載されています。

  • 内部公益通報受付窓口の設置等
  • 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
  • 公益通報対応業務の実施に関する措置
  • 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置

② 公益通報者を保護する体制を整備するための措置としては、以下の事項が記載されています。

  • 不利益な取扱いの防止に関する措置
  • 範囲外共有等の防止に関する措置

③ 内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置としては、以下の事項が記載されています。

  • 労働者等及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置
  • 是正措置等の通知に関する措置
  • 記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者等及び役員への開示に関する措置
  • 内部規程の策定及び運用に関する措置

事業者としては、改正法及び指針に基づき、上記の内容について対応する必要があります。

当事務所では、社内規程のドラフト、レビュー、社内セミナー、及び、内部通報制度の構築サポートを提供しています。また、内部通報窓口を担当することも可能ですので、これらの事項について、ご質問等がございましたら、お問合せフォームからご連絡ください。

(文責:藤井宣行)

ベンチャー企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その1)

1 序論

「ベンチャー企業が従業員に提出してもらうべき誓約書に、どのようなものを記載すればよいでしょうか」という質問を受けることがよくあります。

10年以上前に、同趣旨の内容で、ブログを作成しています。10年経ったからといって、使えないわけではありませんが、その後の知見や法改正もありますし、リンクがずれていますので、アップデートしたいと思います。

参考までに、10年以上前のブログを紹介しておきます。
企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その1) 
 取得のタイミングと秘密保持関連について、触れています。

企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その2) 
 知的財産権について、触れています。特許法第35条は改正前のものが引用されており、古いです。

企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その3) 
 競業禁止について、触れています。

企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その4) 
 会社の従業員に対する調査権について、触れています。

2 秘密保持

秘密保持義務は、誓約書に定めた方がよい規定です。

就業規則に規定されている場合も多いと思います。ただ、就業規則では、詳細な規定を定めづらいことから、秘密情報の定義がなかったり、退職後の守秘義務についての効力が不明確であったり、職務外で知った情報が対象外とされていたり、個人情報に触れられていなかったり、サンクションが定められていなかったりします。

就業規則と重複したとしても、矛盾がなければ、問題が生じることはありませんので、就業規則に秘密保持について規定があってもなくても、誓約書には秘密保持に関する規定を記載した方がよいです。

ポイントは、以下のとおりです(太字は、以前のブログを比較して、追記した箇所です。)。
・ 秘密情報を定義する(就業規則や営業秘密管理指針がある場合は、それらの定義を援用することも可)
・ 秘密情報を記載又は包含した書面その他の媒体物の持出禁止・返還義務
・ 退職後の義務(退職後の守秘義務の明確化)
・ 個人情報が秘密情報に準じること
・ 義務の存続期間又は無期限であること
・ 制裁措置(サンクション)の設定(損害賠償・ 損害を最小限にとどめるよう最善の処置を尽くす義務等)

【規定例】

(1) 私は、秘密情報並びに秘密情報を記載又は包含した書面その他の媒体物を貴社から持ち出すことはしません。また、退職時には全てを返却します。
(2) 私は、職務上知り得たものであると職務外で知り得たものであるとを問わず、貴社又は貴社の関連企業、顧客若しくは取引先の業務上の秘密情報及びこれらに不利益となる情報を、在職中も、退職後も、いかなる第三者にも開示又は漏洩しません。
(3) 私は、在職中も、退職の後も、私の責めに帰すべき事由により万一秘密情報が漏洩したことにより、貴社又は貴社の関連企業、顧客若しくは取引先に損害を与えた場合には、これらに対する損害賠償の責めに応じるとともに、秘密情報を記載した文書その他の媒体等の回収、秘密情報の漏洩又は利用により得られた成果の回収等を行い、秘密情報の漏洩により生じた損害を最小限にとどめるよう最善の処置を尽くします。
(4) 私は、貴社が取り扱う一切の個人情報(個人情報の保護に関する法律において定義される個人情報を意味します。以下同じ。)について、貴社の秘密情報に準じて本条の定めに従って、取り扱うものとします。
(5) 秘密情報及び個人情報に関する本条の義務は、私の退職の前後を問わず無期限に存続することについて、異議ありません。

3 今後の予定

今後、以下の条項について、触れる予定です。
知的財産権
競業避止
勧誘・引抜き等の禁止
引継ぎ
反社会的勢力との接触の禁止等


この後も、お楽しみいただければ幸いです。

(文責:森理俊)

2021年12月01日 16:18|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス|タグ: , コメントはまだありません

社外監査役

2021年8月26日、ナッシュ株式会社の社外監査役に選任されました。

監査役は、取締役の職務執行を監査することを職務内容とします。監査役のうち、「社外」監査役といえるためには、会社法第2条第16号に規定される要件を満たす必要があります(ご参考までに、末尾に条文を引用しています。)。

監査役は、取締役の職務執行を監査するため、会社の重量な書類の提供を受けて調査を行ったり、取締役会や経営会議に出席します。私も、定期的に、監査役として、取締役会に出席する等しています。

社外とはいえ、会社の役員として、取締役の職務執行を監査するという重要な職務を担います。また、社外監査役は、取締役会や監査役会等で、その場での質問に対する回答をするケースもあり、瞬発力が求められます。また、ビジネスに対する理解力や、法律家ではない経営者、投資家等とのコミュニケーション能力等も求められますので、緊張感を持ちつつ職務にあたり、かつ、自己研鑽を続けたいと考えています。

他方において、これまで、弁護士として、多くの企業に関与させていただいてきましたが、やはり、外部者であることから、企業内の情報に距離感を感じたり、企業の意思決定のプロセスが見えないことについて、「ホントのところは、どうなのかな」と感じることも、ありました。それが、現在、取締役会や、その他の会議等に参加させてもらい、多様なバックグラウンドを有する経営陣の生の議論に触れる機会を得られて、刺激を得たり、勉強になることも、少なくありません。こういった経験は、私自身の弁護士としての活動において、経営者の悩み、意思決定において役に立つ情報の選別等、多くの側面において、プラスの効果をもたらしてくれると信じています。

会社法第2条第16号

株式会社の監査役であって、次に掲げる要件のいずれにも該当するものをいう。

  • その就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員。ロにおいて同じ。)若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。
  • その就任の前十年内のいずれかの時において当該株式会社又はその子会社の監査役であったことがある者にあっては、当該監査役への就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。
  • 当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役、監査役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと。
  • 当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役等でないこと。
  • 当該株式会社の取締役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は二親等内の親族でないこと。

(文責:藤井宣行)

2021年10月14日 12:44|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務|タグ: コメントはまだありません

ベンチャー企業の経営と人権  ~ベンチャー企業経営者が人権について理解しておくべきいくつかのこと~ その3

今回は、前回からのシリーズ「ベンチャー企業の経営と人権」です。

これまで:
 ~ベンチャー企業経営者が人権について理解しておくべきいくつかのこと~ その1 
 ~ベンチャー企業経営者が人権について理解しておくべきいくつかのこと~ その2 

7 企業体が人権を尊重すべき典型事例

これまで、企業体が人権を尊重すべき典型事例は、自社内で生じたハラスメントにつき、企業体自体が、従業員の安全に配慮する義務や、職場環境に配慮する義務に、違反するものとして、責任を負うというものです。たとえ、従業員間で生じた人権侵害行為であっても、企業体は、原則としてそれを放置することは許されません。

昨今では、自社内だけではなく、社外の問題であっても、放置することが許されなくなってきたという事例があります。

例えば、企業体の仕入先の工場で人権侵害行為があり、それを認識している場合には、その仕入先との取引を放置することは許されなくなりつつあります。

先日(2021/07/16)、

カジュアル衣料「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの岡崎健取締役は15日の決算記者会見で、新疆ウイグル自治区の人権侵害問題について、「縫製工場は第三者の監査機関に入ってもらい、人権に問題がないことを確認している」と説明した。

というニュースがありました。

このユニクロの説明は、中国の新疆ウイグル自治区の綿製品が強制労働で生産された疑いがあると国際的に批判が高まり、同自治区で生産される綿製品をめぐって、フランスの司法当局がNGOからの告発を受けて強制労働によって作られた材料を使っている疑いがあるとしてユニクロのフランス法人への捜査を始めていたという流れをうけての説明でした。

企業体は、自社内の人権問題のみならず、取引先で生じた人権問題にも目を配らないといけない時代に入ってきたのです。

次の「8 企業体がどこまで人権に配慮すればよいか悩ましい事例」は、ユーザー側が起こす人権等の権利侵害に配慮しなければならなくなってきたという問題でもあります。

8 企業体がどこまで人権に配慮すればよいか悩ましい事例

SNSなどのプラットフォームサービスにおいては、日々、言論が行われています。twitterやfacebookなどが典型例です。このようなサービスは、これまで世の中に情報を発信する術をもたなかった一般市民が世界に直接情報発信をするために極めて有用なツールとなっています。このようなサービスのおかげで、私たちは、アメリカの大統領がどのような言葉を発したのか、メディアによる編集を経ない生の情報に接することができますし、時に事件事故や戦場といった普通では立ち入れない場所からの生の情報を得ることができます。また、政治的な意見が市民の間の連帯を生み、革命を起こして政権を変えた事例さえあります。

一方で、プラットフォーム上の言論は、憲法に定められた言論の自由によって保障されているわけではありません。その理由は、前回申し上げたとおり、憲法は、私人間、この場合は私企業とユーザーに直接適用されるわけではないためです。要するに、ユーザーは、プラットフォーム上で、市民生活上許される言論であれば、どのような言論をしても許されるとは限らず、憲法は、それを「言論の自由」としては保障してくれません。少なくとも従来の、そして現在における主流の考え方は、このようなものです。

したがって、このようなプラットフォーム上の言論の適否、強制的に削除されるか否か、アカウントが停止されるか否かは、専ら、運営する私企業とユーザーとの間に成立する契約(利用規約に基づくことがほとんどです。)と、それを運用して実際に適用する当該私企業の判断に、委ねられることになるわけです。(ユーザーとしては、運営企業との利用規約に反する運用がされたとして裁判所などで争うことは可能ですが、実際に実行しようとすると弁護士費用の負担など様々なハードルが予想されます。)

ある意味、プラットフォーマー(プラットフォームを運営する企業)は、自分の気に入らない言論を規制することもできるし、全てを放置することもできるわけです。とはいえ、後者に関して、著作権侵害などの明白な不法行為を放置するプラットフォーマーは大手では希少になっています。不法行為の放置に違法性がないとは断言できないということも背景にはあるでしょう。

今年、アメリカの大統領を退職したばかりのトランプ前大統領のtwitterアカウントが運営によって凍結されるということがありました。トランプ前大統領は、大統領時代からそのツイートに「誤解を招く恐れある」や「暴力賛美」などの警告が付されることがありました。一私企業が、大統領の発する言論に、評価を付した状態にしたり、発信手段を止めたりできる、という時代が到来したことを意味するわけです。

今のところ、twitter側の運営は一定程度fairで公正であると社会の大多数が考えていると思われ、現状の運用が是認されている風潮があります。しかしながら、プラットフォーマーが、民族主義的に偏向したり、似非科学に傾倒して、社会的に是認できない判断基準を有してしまった場合に、同じように、「プラットフォーマーの運営方針」ということで、片づけられない事態になるかもしれません。

憲法上の市民の権利は、インターネット上のプラットフォームで、どこまで考慮されるべきなのか、しかもそれをどのように権利実現されるべきなのか、という議論は、まだ始まったところです。

これで、ベンチャー企業の経営と人権 のシリーズは、一旦、終了です。
人権の問題は、SDGsの問題でもあります。当事務所では、SDGs対応にも積極的に取り組んでおり、人権問題への対応や、社内向けSDGs教育について、ご相談がございましたら、こちらからご質問ください。

(文責:森 理俊)

2021年08月31日 12:41|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス||コメントはまだありません

スタートアップとの事業連携に関する指針

スタートアップ・ベンチャー企業と大企業が、ファイナンスではなく共同開発等の契約形態で関係性を有する事象が徐々に増加しています。このことは、イノベーションの促進等の観点から、非常に望ましく、歓迎されるべきことです。
他方において、企業文化の違いや、事実上の力関係の影響等により、公平性の観点から問題があると評価せざるを得ない契約が締結されるケースが存在することも否定できません。この点に関する実態調査の結果として、公正取引委員会は、2020年11月27日、「スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書」を公表しました。

この報告書に関しては、当事務所の森理俊弁護士が、投資契約書における株式買取請求権の定め方にクローズアップして記事を書いていますので、是非とも、ご一読ください。

上記の報告書では、秘密保持契約(NDA)、技術検証(PoC)契約、共同研究契約、及び、ライセンス契約に関して、問題となる事例が紹介されていました。
これを受けて、公正取引委員会は、これらの問題を改善し、ひいては、「企業連携によるイノベーションを成功」させるため、2021年3月29日、「スタートアップとの事業連携に関する指針」(以下「本指針」といいます。)を公表しました。

本指針では、主に、秘密保持契約(NDA)、技術検証(PoC)契約、共同研究契約、及び、ライセンス契約について、類型ごとに、具体的な問題事例を紹介し、問題の背景及び解決の方向性について記載されています。
例えば、NDAに関しては、「NDAを締結しないままにスタートアップが営業秘密の開示を要請される」といった問題事例を紹介し、同事例が独占禁止法で禁止する優越的地位の濫用に該当し得ることを指摘したうえで、解決の方向性として、スタートアップ内部における重要情報の整理、及び、秘密保持リテラシー向上のための施策紹介等が示されています(ここでは、一部のみを、ごく簡単に紹介するにとどめますが、できれば、本ブログで、それぞれの類型について紹介したいと思っています。)。

本指針は、秘密保持契約(NDA)、技術検証(PoC)契約、共同研究契約、及び、ライセンス契約の各類型について紹介した後に、「その他(契約全体等)に係る問題について」として、スタートアップが顧客情報の提供を要請されてしまう場合や、支払いを遅延されてしまう場合等についても言及されており、大変、充実した内容となっていますので、ご興味のある方は、是非とも、ご一読ください。

(文責:藤井宣行)

2021年07月29日 19:43|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません

ワクチン休暇

新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐり、河野規制改革担当大臣は、2021年5月13日、経団連に対し、働く人が接種しやすい環境を整えるため、産業医による職場での接種や「ワクチン休暇」の導入などの検討を要請しました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210513/k10013028031000.html

これを受けて、経団連は、2021年6月1日、「新型コロナウイルスワクチン接種に関する緊急提言」を公表し、その中で、「各企業における職域接種の実施に加え、従業員や従業員の家族がワクチン接種を受けやすいよう、休暇の取得促進等、就業環境の整備を行う。」として、ワクチン休暇について言及しています。

個別の企業においてワクチン休暇を導入したという報道や、企業による公表も、随時、されています。

https://www.calbee.co.jp/newsrelease/210527b.php

では、ワクチン休暇とは、何でしょうか。現時点で、ワクチン休暇を導入していないけど、導入を検討している企業もあると思いますので、少し、検討してみたいと思います。

まず、「ワクチン休暇」というものは、法律上明記されているものではありません。したがって、ワクチン休暇を導入しないことが、ただちに、違法(労働基準法違反等)になるというわけでは、ありません。

ワクチン休暇を導入している企業は、「従業員や従業員の家族がワクチン接種を受けやすいよう、休暇の取得促進等、就業環境の整備を行う」こと、ひいては、集団免疫の獲得等、社会公共の健康や安全を目的として、自主的に、ワクチン休暇を導入していることになります。

年次有給休暇を消化して、ワクチンを接種することを推奨する企業もあるようです(なお、年次有給休暇の消化は、基本的に従業員の自由ですので、企業がワクチン接種のために、強制的に消化させることは違法となる可能性が高いと考えます。)。

他方、年次有給休暇が減ってしまうのであれば、ワクチン接種を控えるという判断をする方もいるという前提で、ワクチン接種を推奨するために、年次有給休暇とは別に、特別休暇として、有給扱いで、ワクチン休暇を導入している企業も多いように思います(報道されるのは大企業が多いですから、中小企業を含めた場合に、日本に存在する企業数に対する割合として、「多い」か否かは定かではありません。)。

この場合、雇用契約や就業規則との整合性についても注意しましょう。就業規則等で、「会社が必要と認めたとき」等に、特別休暇を付与するといった条項があれば、これを適用することが考えられます。仮に、こういった規定がなければ、就業規則等を改定して、特別休暇に関する規定を追加することも考えられます。

また、ワクチン休暇の利用期限、回数、副反応が出た場合や同居の家族の接種に付き添う必要がある場合に特別休暇を付与するか否か、付与するとして何日までとするか等についても検討すべきでしょう。

このあたりは、上記のようなワクチン休暇の導入趣旨だけでなく、当該企業の組織構成や財務基盤等とのバランスにも配慮しながら、制度設計をする必要があるでしょう。

なお、厚生労働省が「職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていない人に差別的な扱いをすることのないようお願いいたします。」としているように、ワクチン接種は、あくまでも個人の任意の判断に基づくべきものですので、将来の紛争を予防するためにも、ワクチン休暇を導入するに際しては、この点についても留意したいところです。

(文責:藤井宣行)

2021年07月27日 17:03|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません
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