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ベンチャー法務の部屋

ワクチン休暇

新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐり、河野規制改革担当大臣は、2021年5月13日、経団連に対し、働く人が接種しやすい環境を整えるため、産業医による職場での接種や「ワクチン休暇」の導入などの検討を要請しました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210513/k10013028031000.html

これを受けて、経団連は、2021年6月1日、「新型コロナウイルスワクチン接種に関する緊急提言」を公表し、その中で、「各企業における職域接種の実施に加え、従業員や従業員の家族がワクチン接種を受けやすいよう、休暇の取得促進等、就業環境の整備を行う。」として、ワクチン休暇について言及しています。

個別の企業においてワクチン休暇を導入したという報道や、企業による公表も、随時、されています。

https://www.calbee.co.jp/newsrelease/210527b.php

では、ワクチン休暇とは、何でしょうか。現時点で、ワクチン休暇を導入していないけど、導入を検討している企業もあると思いますので、少し、検討してみたいと思います。

まず、「ワクチン休暇」というものは、法律上明記されているものではありません。したがって、ワクチン休暇を導入しないことが、ただちに、違法(労働基準法違反等)になるというわけでは、ありません。

ワクチン休暇を導入している企業は、「従業員や従業員の家族がワクチン接種を受けやすいよう、休暇の取得促進等、就業環境の整備を行う」こと、ひいては、集団免疫の獲得等、社会公共の健康や安全を目的として、自主的に、ワクチン休暇を導入していることになります。

年次有給休暇を消化して、ワクチンを接種することを推奨する企業もあるようです(なお、年次有給休暇の消化は、基本的に従業員の自由ですので、企業がワクチン接種のために、強制的に消化させることは違法となる可能性が高いと考えます。)。

他方、年次有給休暇が減ってしまうのであれば、ワクチン接種を控えるという判断をする方もいるという前提で、ワクチン接種を推奨するために、年次有給休暇とは別に、特別休暇として、有給扱いで、ワクチン休暇を導入している企業も多いように思います(報道されるのは大企業が多いですから、中小企業を含めた場合に、日本に存在する企業数に対する割合として、「多い」か否かは定かではありません。)。

この場合、雇用契約や就業規則との整合性についても注意しましょう。就業規則等で、「会社が必要と認めたとき」等に、特別休暇を付与するといった条項があれば、これを適用することが考えられます。仮に、こういった規定がなければ、就業規則等を改定して、特別休暇に関する規定を追加することも考えられます。

また、ワクチン休暇の利用期限、回数、副反応が出た場合や同居の家族の接種に付き添う必要がある場合に特別休暇を付与するか否か、付与するとして何日までとするか等についても検討すべきでしょう。

このあたりは、上記のようなワクチン休暇の導入趣旨だけでなく、当該企業の組織構成や財務基盤等とのバランスにも配慮しながら、制度設計をする必要があるでしょう。

なお、厚生労働省が「職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていない人に差別的な扱いをすることのないようお願いいたします。」としているように、ワクチン接種は、あくまでも個人の任意の判断に基づくべきものですので、将来の紛争を予防するためにも、ワクチン休暇を導入するに際しては、この点についても留意したいところです。

(文責:藤井宣行)

2021年07月27日 17:03|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません

ベンチャー企業の経営と人権 ~ベンチャー企業経営者が人権について理解しておくべきいくつかのこと~ その1

1 はじめに

 企業経営において、人権は、どのように関わっているのでしょうか。
 最近では、『人権デューディリジェンス』などという言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。
  「人権」と いえば、企業のリスクやコスト構造といった側面でとらえられることが少なくありません。
 また、経営者目線では、人権は「労働者の権利」という形で表れることがあるため、企業経営を圧迫するものと把握されてしまうこともあるでしょう。
 しかし、実は、企業の経営は、「人権」や「自由」という制度に支えられて、守られていることも多いのです。

 経営者が、人権について基本的な理解をもつことは、権利や義務といった社会的に普遍的な価値基準についてのバランス感覚を磨くことにつながります。

 そのバランス感覚は、ベンチャー企業の経営に有益です。
 
 そこで、ベンチャー企業の経営と人権について、思うところを少し述べてみたいと思います。

2 ベンチャー企業の経営は「自由」によって守られている

 「人権」という言葉より「自由」という言葉の方が親しみがある人もいるでしょう。
 日本国憲法に定められた「人権」は、自由権のほかに、社会権がありますが、ここでは、ざっくりと、「人権」=「自由」と理解していただいてかまいません。

 企業経営と密接な関係にある「自由」といえば、「営業の自由」です。

 日本国憲法に「営業の自由」という文言はありませんが、22条1項に「職業選択の自由」が定められており、これに内包されていると考えられています。「職業選択の自由」を認めても、「営業の自由」を認めなければ、職業の選択肢が失われるからです。

 営業の自由とは、(諸説ありますが、)自己の選択した職業を遂行する自由と考えられ、また、職業遂行上の諸活動のうち、営利を目指す継続的で、自主的な活動を行う自由であるととらえられたりしています。

 要するに、営利活動は自由に行えるという原則です。

 もちろん、何でもかんでも自由ということではなく、「公共の福祉」による制約を受けます(日本国憲法12条)。そして、国が、その自由を制約する場合には、法律上の根拠が必要ということになります。

 逆に言えば、法律上の根拠がない限り、国家権力との関係では、どのように経営しても自由であり、どのような事業を展開しても自由であるということになります。

 さらに、法律自体が憲法に反するものである場合は、法律自体が無効とされることさえあります(日本で違憲判決は極めて例外的ではありますが、過去に、薬局開設はおおむね100メートルとの距離制限という適正配置規制を定めた薬事法の規定が、憲法22条1項に違反し無効とされたことがあります。最高裁判所昭和50年4月30日判決)。

 

3 数多の例外


 とはいえ、その原則の例外は、少なくありません。

 日本には、業態を規制する法律が沢山あります。資格がないと行ってはならないと定める規制が典型的です。医師法、薬事法、弁護士法、銀行法、信託業法、資金決済法、金融商品取引法、、、、挙げるときりがありません。

 ほかに、資格は必要なくても、法で定めた規範に反すると、ペナルティーを課されるものもあります。刑法を筆頭とする刑罰法規はもちろんそうです。
 他に、個人情報保護法、不正競争防止法、特定商取引法、特許法等の知的財産権に関する法律などです。
 また、民法の不法行為も、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」としており、他人の権利又は法律上保護される利益を侵害することで、損害賠償というペナルティーを課されるといえます。

 そのため、他人の権利や利益を侵害していないかや、法が定めたルールに反していないかをチェックする必要があります。

 ベンチャー企業の経営に法務が必要なのも、ここに理由があります。

4 保護法益と他人の権利との調整

 法規範は、法律上保護すべき利益(保護法益)を守るためか、権利や自由がぶつかったときに、どちらをどのように優先するかという調整のためか、だいたいどちらかの役割をになっています。

 経営上、実現したいことがあっても、保護すべき利益があったり、他人の権利とぶつかったりしたときに、どのような形で、その調整を実現していくか、という役割があるのです。

 例として、経営者が、従業員との雇用契約を解除したい、という自由を実現したくとも、労働者の人たるに値する生活を営むための必要を充たす(労働基準法1条1項参照)という保護法益のため、経営者からは、契約書で定めても、いつでも雇用契約を解除できるようにする自由は制約されています。一方で、労働者には、職業選択の自由があり、そのこととの関係で、使用者との雇用契約の解除は、かなり高い自由度で認められています。

 法は、価値判断として、労働者の職業選択の自由 > 使用者の経営の自由(契約自由の原則)という判断をしているということです。
 法がどのような価値判断をしているのか、それはこの国の基礎となる価値観と、それに基づく法律がどのような価値体系を構築しているか、ということでもあります。
 

次回は、「自由の重要さに濃淡がある。」という点から、話を進める予定です。

(文責:森 理俊)

納税管理人

日本において納税義務を負う個人や法人は、通常、自ら、申告や納付(以下「申告等」といいます。)を行います(代理人として、税理士に依頼して申告等を行う場合も、法的には、当該申告等の効果は、本人である個人や法人に帰属しますので、ここでは、「自ら」行う場合に含めています。)。

しかし、国税通則法第117条第1項では、自己の納税義務について、他人に処理を依頼すべき場合を規定しています(参考までに、末尾に条文を引用しています。)。この処理を依頼される者を「納税管理人」といいます。納税管理人は、日本に住所等を有しない場合等に、定めることを義務付けられています。
したがって、被相続人の最後の住所地が日本にあって、海外居住者(法人を含みます。)に遺贈する場合の当該海外居住者や、日本で納税義務を負担する海外居住者(法人を含みます。)は、日本で、納税管理人を選任する義務を負うことになります。
実務上は、税理士の方に依頼して、納税管理人に就任していただくことが多いように思います。私がスキーム構築をする際に、納税管理人が必要となる場合にも、そのようにしています。

海外に生活の本拠と移す個人の方も増えていますし、日本に子会社や営業所をもたずに日本でビジネスを行う海外企業も多くあります。こういった場合においても、税務面でのコンプライアンスに注意して、法令に違反しないよう注意する必要があります。

国税通則法第117条
1 個人である納税者がこの法律の施行地に住所及び居所(事務所及び事業所を除く。)を有せず、若しくは有しないこととなる場合又はこの法律の施行地に本店若しくは主たる事務所を有しない法人である納税者がこの法律の施行地にその事務所及び事業所を有せず、若しくは有しないこととなる場合において、納税申告書の提出その他国税に関する事項を処理する必要があるときは、その者は、当該事項を処理させるため、この法律の施行地に住所又は居所を有する者で当該事項の処理につき便宜を有するもののうちから納税管理人を定めなければならない。
2 納税者は、前項の規定により納税管理人を定めたときは、当該納税管理人に係る国税の納税地を所轄する税務署長(保税地域からの引取りに係る消費税等又は国際観光旅客税(国際観光旅客税法第十六条第一項(国内事業者による特別徴収等)の規定により徴収して納付すべきものを除く。)に関する事項のみを処理させるため、納税管理人を定めたときは、これらの国税の納税地を所轄する税関長)にその旨を届け出なければならない。その納税管理人を解任したときも、同様とする。

(文責:藤井宣行)

2021年05月31日 07:53|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス|タグ: コメントはまだありません

押印廃止と電子契約

在宅勤務・リモートワークの浸透と歩調を合わせて、契約書を始めとする各種の文書に対する押印の廃止・省略も進められています。2021年1月19日付け日本経済新聞電子版によれば、河野太郎規制改革相が、行政手続きで必要な押印を99%以上廃止できたと述べたとされています。

契約書に関しては、日本では、従来、紙媒体で印刷したものに、記名または署名と、押印をするという実務が一般的でした。では、そもそも、契約書に押印をしていたのは、どうしてなのでしょうか。

契約は、契約当事者間の申込みの意思表示と、承諾の意思表示が合致することによって成立します(民法第522条第1項)。契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備する必要はありません(同条第2項)。

したがって、法律上、契約の成立には、押印は必要とされていません。

では、契約書への押印は、まったく無意味な行為かというと、そうではありません。

民事訴訟法第228条第1項は、「文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。」と規定しています。成立が真正であること、というのは、作成名義人が真実の作成者であることを意味します。簡単にいえば、偽造ではなく、文書に文書の作成者として記載されている人が、当該文書を作成しているということです。この文書の成立の真正が証明できなければ、その文書は、民事訴訟において、証拠として役に立ちません。

この点に関し、民事訴訟法第228条第4項は、「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」と規定しています(「本人・・・の押印」の意義や、推定の構造に関しては、いろいろと面白い議論等があるのですが、ここでは省略します。)。

このように、法律上、偽造ではない、真正に成立した文書であることを推定してもらうために、契約書に押印しているのですね。

では、電子契約の場合には、この成立の真正について、どうするのでしょうか。

この点についても、法律上、きちんと手当がされています。すなわち、電子署名及び認証業務に関する法律(いわゆる「電子署名法」)第3条で、「電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。」と規定しています。

「本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)」が行われていれば、真正に成立したものと推定されるのですね。

そうすると、「本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)」とは何か、ということになります。

この点については、総務省、法務省及び経済産業省が、「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法3条に関するQ&A)」を公表しており、ここで詳しく解説されています。ご興味のある方は、ぜひ、ご一読ください。

https://www.meti.go.jp/covid-19/denshishomei3_qa.html

なお、実務上、現在、標準的に利用されている電子契約サービスは、サービス提供事業者名義で電子署名が付され、その上で、「当該措置が利用者の意思に基づいていることが明らか」で、「当該サービスが十分な水準の固有性を満たしていること(固有性の要件)」を満たす形で、「サービス提供事業者が利用者の指示を受けてサービス提供事業者自身の署名鍵による暗号化等を行う電子契約サービス」として提供されていることが多いです。

今も、さまざまな企業において、DXを推進させ、紙の撤廃・押印の撤廃を進められています。その中で、私も、職務上、企業のご担当者が、「何を、どこまですべきか」について、悩まれている場面を目にすることがあります。まずは、上記のように、そもそも契約書に押印されていた背景について正しく理解することが、正しい取り組みに近づくために重要であると感じています。

(文責:藤井宣行)

2021年04月28日 10:08|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません

帳簿の保存と電子化対応

請求書や納品書等の帳票類の保管について、いかがされていますでしょうか。

法律の規定としては、各種の税法に、帳票類の保管に関する規定がおかれています。例えば、法人税法第126条第1項、法人税法施行規則第59条で、青色申告の承認を受けている内国法人について、7年間の帳簿書類の保管義務を定めています(ご参考に、文末に、条文を引用しています。)。

このため、大量の帳簿書類の詰まった段ボール箱を、倉庫等に保管されている会社も多いのではないでしょうか。

これらの帳簿書類について、紙媒体ではなく、電子データで保管することが許容される場合があることについて、ご存知でしょうか。「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」という名称の法律(いわゆる電子帳簿保存法)が、平成10年に施行されています。当該法律の目的は、第1条で、「この法律は、情報化社会に対応し、国税の納税義務の適正な履行を確保しつつ納税者等の国税関係帳簿書類の保存に係る負担を軽減する等のため、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等について、所得税法(昭和四十年法律第三十三号)、法人税法(昭和四十年法律第三十四号)その他の国税に関する法律の特例を定めるものとする。」とされています。

簡単にいえば、電子データでの保存を認めて、負担を軽減しようということですね。意外に早くから、デジタルトランスフォーメーション(DX)っぽいことが行われていたのですね。

国税庁も、「はじめませんか、帳簿書類の電子化!」ということで、令和元年ですが、帳簿書類の電子化を推奨しています。

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sonota/0018004-061_01.pdf

帳簿書類の電子化については、少し、制度が複雑で分かりにくい部分があるのですが、国税庁のウェブサイトで、詳細に説明されていますので、ご参考ください。

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07/01.htm

同法は、平成10年の施行の後、数回の改正が行われていますが、直近では、令和2年10月に、改正法が施行されています。

https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei20/nouzei.html

同改正には、PDF等の形式で、請求書等について、印刷せずにデータのままで保存する場合、従来は、タイムスタンプの付与が必要とされていましたが、ユーザーが自由にデータを改変できないシステム等を利用している場合には、タイムスタンプの付与を不要とする点等が、含まれています。

帳簿書類の電子化を有効活用して、帳簿書類の保管に要していた費用、労力、スペース等の削減について、ご検討されてはいかがでしょうか。

法人税法

(青色申告法人の帳簿書類)

第百二十六条 第百二十一条第一項(青色申告)の承認を受けている内国法人は、財務省令で定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならない。

2 納税地の所轄税務署長は、必要があると認めるときは、第百二十一条第一項の承認を受けている内国法人に対し、前項に規定する帳簿書類について必要な指示をすることができる。

法人税法施行規則

(帳簿書類の整理保存)

第五十九条 青色申告法人は、次に掲げる帳簿書類を整理し、起算日から七年間、これを納税地(第三号に掲げる書類にあつては、当該納税地又は同号の取引に係る国内の事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地)に保存しなければならない。

一 第五十四条(取引に関する帳簿及び記載事項)に規定する帳簿並びに当該青色申告法人の資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引に関して作成されたその他の帳簿

二 棚卸表、貸借対照表及び損益計算書並びに決算に関して作成されたその他の書類

三 取引に関して、相手方から受け取つた注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し

2 前項に規定する起算日とは、帳簿についてはその閉鎖の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月(法第七十五条の二(確定申告書の提出期限の延長の特例)の規定の適用を受けている場合には二月にその延長に係る月数を加えた月数とし、清算中の内国法人について残余財産が確定した場合には一月とする。以下この項において同じ。)を経過した日をいい、書類についてはその作成又は受領の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月を経過した日をいう。

3 第一項各号に掲げる帳簿書類のうち次の表の各号の上欄に掲げるものについての当該各号の中欄に掲げる期間における同項の規定による保存については、当該各号の下欄に掲げる方法によることができる。

一 第一項第三号に掲げる書類(帳簿代用書類に該当するものを除く。)のうち国税庁長官が定めるもの

前項に規定する起算日以後三年を経過した日から当該起算日以後五年を経過する日までの期間

財務大臣の定める方法

二 第一項各号に掲げる帳簿書類

前項に規定する起算日から五年を経過した日以後の期間

財務大臣の定める方法

4 前項の表の第一号の上欄に規定する帳簿代用書類とは、第一項第三号に掲げる書類のうち、別表二十に定める記載事項の全部又は一部の帳簿への記載に代えて当該記載事項が記載されている書類を整理し、その整理されたものを保存している場合における当該書類をいう。

5 国税庁長官は、第三項の表の第一号の規定により書類を定めたときは、これを告示する。

6 財務大臣は、第三項の表の各号の規定により方法を定めたときは、これを告示する。

(文責:藤井宣行)

下請代金支払遅延等防止法

日本政府は、新型コロナウイルスに関連する各種の財政政策を行っていますが、過日、約300兆円ともいわれる巨額の財源の一部として、消費税率の引き上げが議論されているとの記事を目にしました。消費税率の引き上げに関しては、平成26年(2014年)4月に5%から8%、令和元年(2019年)10月に8%から10%に引き上げられました。

これに関し、中小企業及び事業者等が、消費税率の引き上げに伴う負担を大企業等に転嫁できない事態が生じることを防ぐため、平成25年(2013年)10月1日付けで消費税転嫁対策特別措置法が施行されました。同法では、大規模小売事業者等による転嫁拒否等の禁止等が規定されていました。そして、同法は、令和3年(2021年)3月31日限りで、その効力を失うこととされてます(同法附則第2条第1項)。
では、同法の失効に伴い、同法で禁止されていた大規模小売事業者等による転嫁拒否等は、適法になるのでしょうか。

この点に関し、公正取引委員会は、令和3年1月7日、「消費税転嫁対策特別措置法の失効後における消費税の転嫁拒否等の行為に係る独占禁止法及び下請法の考え方に関するQ&A」を公表しました。
https://www.jftc.go.jp/tenkataisaku/tenka-shikko-QandA.html

同Q&Aでは、「同法の失効後においても,取引上優越した地位にある事業者が,その地位を利用して,取引の相手方に対して消費税の転嫁拒否等の行為を行う場合は,優越的地位の濫用として私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)上の問題となり得る。また,資本金の額及び取引の内容から,下請代金支払遅延等防止法(昭和31年法律第120号。以下「下請法」という。)の対象となる場合において,発注者である親事業者が,取引先である下請事業者に対して消費税の転嫁拒否等の行為を行うことは,下請法上の問題となり得る。
 このため,消費税転嫁対策特別措置法の失効後においては,消費税の転嫁拒否等の行為に係る独占禁止法違反行為及び下請法違反行為に対し,厳正に対処することとしている。」とされており、注意が必要です。

なお、下請法については、業務上、ご相談等を受ける機会が多くありますが、下請法の適用の有無について、資本金の額で判断することは多くのご担当者がご存知であるものの、限定された契約類型についてのみ下請法が適用されることについては、意外に知られていないことがあります(一般に、純粋な売買契約には下請法の適用がない等)。
当事務所では、下請法に関する社内セミナーの実施や、社内で活用していただくための下請法チェックリストの作成、提供等も行っていますので、ご興味をお持ちの方は、是非とも、お声がけください。

(文責:藤井宣行)

2021年03月04日 09:22|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません

会社法改正(D&O保険)

令和元年12月4日に成立した会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)が、本年3月1日から施行されます。当該改正には、D&O保険に関するものが含まれており、今回は、この点について、少し説明します。

D&O保険(D&OはDirectors and Officersの略です。会社役員賠償責任保険ともいいます。)は、一般に、会社が保険契約者となり、役員等が被保険者となるもので、当該保険では、役員等がその業務として行った行為に基因して法律上負担する損害賠償金及び弁護士費用等を補償の対象とします。

D&O保険では、保険金に限度額が定められおり、また、さまざまな免責条項(役員等が法令違反を認識しながら(認識していたと判断できる合理的な理由がある場合を含みます。)行った場合等)が設けられています。

従来、D&O保険は、会社法上の制度ではなく、単に、保険契約として存在するものでしたが、上記の改正で、会社法に取り込まれることになりました。

すなわち、会社法第430条の3第1項で、D&O保険について、「保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、役員等を被保険者とするもの」と規定されました。また、同項では、株式会社が、D&O保険の「内容の決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。」と規定されました。

また、D&O保険にかかる保険契約の締結については、同契約に関する承認決議があれば、利益相反取引(会社法第356条第1項等)には該当しないとされました(改正会社法第360条の3第2項)。

なお、D&O保険については、会社が保険料を支払うことから、当該保険料について、会社から役員等に対する経済的利益が供与されており、役員等に対する所得税の課税が生じるのではないか、という問題がありました(課税があるとすれば、所得分類は給与所得となると考えられますから、会社には源泉徴収義務・納付義務の問題が生じることになります。)。

しかしながら、この点については、経済産業省から、令和2年9月30日付けで、「令和元年改正会社法施行後における会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて」が公表されていますので、ご紹介します。これによると、国税庁は、「会社が、改正会社法の規定に基づき、当該保険料を負担した場合には、当該負担は会社法上適法な負担と考えられることから、役員個人に対する経済的利益の供与はなく、役員個人に対する給与課税を行う必要はない。」と結論付けています。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/200930doinsurance.pdf

参考:

会社法(令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正)

(役員等のために締結される保険契約)

第433条の3

株式会社が、保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、役員等を被保険者とするもの(当該保険契約を締結することにより被保険者である役員等の職務の執行の適正性が著しく損なわれるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。第三項ただし書において「役員等賠償責任保険契約」という。)の内容の決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。

2 第三百五十六条第一項及び第三百六十五条第二項(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)並びに第四百二十三条第三項の規定は、株式会社が保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、取締役又は執行役を被保険者とするものの締結については、適用しない。

3 民法第百八条の規定は、前項の保険契約の締結については、適用しない。ただし、当該契約が役員等賠償責任保険契約である場合には、第一項の決議によってその内容が定められたときに限る。

(文責:藤井宣行)

2021年01月21日 11:52|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません

正社員から個人事業主に

2020年11月11日付け日本経済新聞電子版に、「電通、社員230人を個人事業主に 新規事業創出ねらう」との記事が掲載されていました。同記事の概要を、以下に引用します。

  • 電通は一部の正社員を業務委託契約に切り替え、「個人事業主」として働いてもらう制度を始める。
  • 新制度の適用者は、営業や制作、間接部門など全職種の40代以上の社員約2800人を対象に募集した。適用者は早期退職したうえで、電通が11月に設立する新会社と業務委託契約を結ぶ。契約期間は10年間。電通時代の給与を基にした固定報酬のほか、実際の業務で発生した利益に応じてインセンティブも支払われる。
  • 適用者は電通社内の複数部署の仕事をするほか、他社と業務委託契約を結ぶこともできる。ただ競合他社との業務は禁止する。

要は、電通の正社員が、電通を退職し、個人事業主として、電通(または子会社)と業務委託契約を締結し、業務委託料の支払いを受けるというものです。同様の取り組みは、電通以外の企業でも実施されているようです。計測器メーカーのタニタでは、2016年から、同様の取り組みを実施されていて、現在では、社員の約1割にあたる24名が、タニタを退職し、個人事業主として、業務を行っているとのことです(https://seleck.cc/1419)。

タニタによれば、この取り組みの目的は、「優秀な人材がより主体性を発揮できるよう支援し、努力に報いること」です。

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO50531260T01C19A0000000?channel=DF130420167231

この制度は、業務を受けるか否か、受ける場合の対価の額について、その都度、検討し、業務遂行に際しては、会社の指揮監督命令の下ではなく、自分の裁量と判断によって行う。また、労働時間の長短・休憩時間等についても、自己責任で調整する。これによって、正社員(労働者)の立場では実現できなかった「主体性」を発揮し、付加価値の高い業務を行って、提供した価値に応じた経済的利益を得られるようにする、という考えで、行われているのだと思います。

たしかに、この制度を利用した元社員の方のインタビューを読むと、個人事業主になって良かった点が多くあると感じている方もいるようです(https://seleck.cc/1419)。

他方、業務委託の契約期間が満了した時点で、契約を更新してもらえない場合や、満足できる対価での合意が困難な場合に、元従業員の生活保障については、どのように考えるのかという点(一般的には、他社からの発注を広く受けられるケースは多くないように思います。また、こういったリスクをふまえて、独立後の業務委託料を、独立前の給与に比較して大幅に高額に設定されることも想定しにくいです。)、もし雇用契約であれば時間外手当等が支給されるべき時間を働かなければこなせない業務を受注しても時間外手当等を支払ってもらえないという点、社会保険や年金はどうするのかという点、及び、社員の場合は給与所得としての給与所得控除があったうえ、源泉徴収と年末調整で済んでいたものが、事業所得となり給与所得控除がなくなり確定申告が必要となる点など、解決すべき課題は、たくさんあります。

実際に、これらの懸念点について、各所で議論されているようです。

https://news.yahoo.co.jp/articles/a96e7117dea95e8d43b0c9ab72b9152a7a3bac61

なお、もちろん、電通にしても、タニタにしても、上記のような懸念点については、十分に認識したうえで、対応されていることと思います。

個人的には、このような取り組みについて、貴重なチャレンジであると思っています。現在の労働法制下において、柔軟な制度設計をすることは必ずしも容易ではない面があることは否定できません。他方、多様な人材を確保し、かつ、多様な働き方を用意することによって、企業としての国際競争力を強化する必要性は、日増しに高まっています。そのためには、これまでにない発想と工夫で、新たな取り組みにチャレンジすることも必要でしょう。

もっとも、導入に際しては、上記の例のように、労働者にデメリットや不利益が生じることも想定されますので、これらの点について、労働者に対し、十二分に理解してもらったうえで、自主的な選択の機会を確保すべきことは言うまでもありません。

(文責:藤井宣行)

2020年11月18日 12:06|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません

SNS等のアカウントで、会社の業務を行っていた取締役が、退職後にアカウントのパスワードを開示しなければならないか。

1 問題の所在

スタートアップ企業では、取締役や従業員が、フェイスブックやインスタグラム等のSNSの個人アカウントで、会社の業務執行の一環として、製品の画像をアップしたり、他のインフルエンサーとつながっていることなどがあります。また、SNSではなく、開発に関するアカウントを作成することもあります。取締役や従業員が退職した場合に、どのような場合にまでパスワードの開示義務を負うのでしょうか。特に、会社から支給されたメールアドレスでID登録し、会社の業務のみに使用していた場合(明白に会社の業務執行である場合)だけではなく、IDのメールアドレスが会社支給のものではなかったり、SNS上でプライベートと仕事の境目が判別しない関係性があったりする場合に、どのように判断できるのでしょうか。

2 裁判例

参考裁判例として、大阪高裁平成31年3月27日判決(平成30年(ネ)第1767号)があります。(時間の関係上、この問題について、関連する裁判例をくまなくチェックできているわけではありません。予めご了承ください。)

この事例は、ある取締役が,会社以外の業者のメールアドレスをIDとして、SNSにログインして、その取締役自身の写真や会社が販売していた商品等の写真を投稿していたところ,取締役を退任後,会社にアカウントのパスワードを開示しないため,会社がログインできないことなどから損害を受けたとして,その退職した取締役に対し,アカウントのパスワード開示及び損害賠償を求めた事例です。

この事件では、原審(大阪地裁:大阪地方裁判所 平成30年7月20日 判決(平成29年(ワ)第8880号))では、請求が棄却され、パスワードの開示も、損害賠償請求も認められませんでした。

しかし、控訴審である大阪高裁は,退職した取締役は本件アカウントを会社の業務の一環として開設・管理運営してきたものであり,委任契約終了に当たっての引継義務には本件アカウントの移管が含まれるとして,その退職した取締役に対し,本件アカウントのパスワードの開示,並びに広告媒体機能不使用による財産的損害として相当額の支払を各命じ,原判決を変更しました。

【参考裁判例からの抜粋】
1 事案の骨子
 本件は,訴外A(A社)との間で契約を締結して,訴外B(B社)との契約に基づき付与されたメールアドレス(本件メールアドレス)をA社に後記の個人識別子として提供してA社提供の画像共有ウェブサービス(本件サービス)を受けるとともに,本件メールアドレス利用者としてのアカウント(本件アカウント)を付与されていた被控訴人が,本件アカウントにログインして,自らあるいは仲間のラグビー選手の写真とともに,控訴人において「△△ ◇◇ □□」ブランドで販売していた商品等の写真も投稿していたものであるが,被控訴人が,控訴人の取締役退任後,控訴人に対し,本件アカウントのパスワードを開示しないため,これに起因して,控訴人が本件アカウントにログインして画像を投稿等の管理運営をすることができず,これら画像を自動的に共有閲覧することとなる不特定の利用者が減少し,これにより売上減少等の損害を受けたとして,被控訴人に対し,①取締役辞任に伴う報告義務ないし引継ぎ義務の履行として,本件アカウントにログインするためのパスワードを控訴人に開示すること並びに②上記①の義務不履行を原因として生じた売上減少等に対する損害賠償として,300万円の支払及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成29年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

(中略)
3 争点1(本件アカウントの委任契約上のパスワード開示義務の存否) 
(1) 委任契約上の義務の存否について 
ア 本件アカウントの利用者たる地位
  前記2の本件サービスの概要に照らせば,A社に対する関係において,本件アカウントは,その利用者たる地位は,これを開設し,そのメールアドレスを提供した被控訴人に帰属するものといわざるを得ない。
イ 本件アカウントの管理について
  他方,本件アカウントは,控訴人の業務に関連するものであることは外形的に明らかであり,次の事実を総合すると,被控訴人は,本件アカウントを控訴人の業務の一環(広報や販売促進の手段)として,開設し,管理運営してきたというべきであるから,被控訴人の控訴人に対して負う委任契約の終了に当たっての引継義務には,本件アカウントの移管が含まれるというべきである。

(以下、略)

大阪高等裁判所平成31年3月27日判決(平成30年(ネ)第1767号)

3 ポイント

上記参考裁判例では、「本件アカウントは,その利用者たる地位は,これを開設し,そのメールアドレスを提供した被控訴人(著者注:退職した取締役)に帰属するものといわざるを得ない。」としながらも、「控訴人(著者注:会社)の業務に関連するものであることは外形的に明らかであり,次の事実を総合すると,被控訴人 (著者注:退職した取締役) は,本件アカウントを控訴人 (著者注:会社) の業務の一環(広報や販売促進の手段)として,開設し,管理運営してきたというべきであるから,被控訴人 (著者注:退職した取締役) の控訴人 (著者注:会社) に対して負う委任契約の終了に当たっての引継義務には,本件アカウントの移管が含まれる」として、委任契約の終了に伴う引継義務の一環として、開示義務や損害賠償義務が認められています(但し、裁判所の判断として明示的に、これらの条文を根拠としたとされているわけではありません。)。

なお、本裁判例では、控訴人は、取締役辞任に伴う報告義務ないし引継義務の法的根拠を、会社法330条,民法645条、本件アカウントの移管義務の法的根拠を、民法646条2項に求めています。

会社法330条
 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。
民法645条
 受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
民法646条2項
 受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。

本件では、「次の事実を総合すると,」という文言があるように、事例における細部の事実関係が総合的に考慮されており、他の事実関係を前提とした場合に、どこまで適用できるかは、必ずしも明らかではありません。

実際に考慮された要素として、アカウントのユーザー名が会社の商標(出願登録)と同じ点、フランチャイジー店舗のSNSのアカウントのユーザーネームを本件アカウントのユーザー名を含むものとなるよう指示していた点、本件アカウントの閲覧により最初に現れる画面に表示される会社の公式ウェブサイトのトップページ(ホームページ)へのハイパーリンクが設定されている点などが挙げられています。

筆者の私見を述べると、全くの個人アカウントであれば、パスワードの開示は認められないものの、会社の業務に必要なアカウントや業務の一環として管理運営されてきたアカウントであれば、仮にアカウントに関する契約の当事者が個人であったとしても、引継ぎ義務の対象になる可能性が高く、退職した取締役や従業員は、アカウントの適切な引継ぎを拒絶した場合は、損害賠償義務や開示義務を負うことがありうると考えます。ただ、会社側も、このような事態を招かないようにするために、予め、会社の業務で使うアカウントを明確にした上で、パスワードも、会社で把握する等の措置をとっておいた方がよいでしょう。(なお、上記参考裁判例では、退職した取締役は、取締役兼代表取締役であったようであり、このような措置をあらかじめ採ることは難しかったと思われます。)

(文責:森 理俊)

ジョブ型雇用

昨今、各種の報道等で、ジョブ型雇用という言葉を、目や耳にする機会が多いかと思います。

ジョブ型雇用とは、どのような雇用形態を指すのでしょうか。

記事等の内容からは、統一された定義は存在しないように思います。

厚生労働省の規制改革会議が公表した「ジョブ型正社員の雇用ルール整備に関する意見」(平成25年12月5日付け)では、ジョブ型正社員について、「職務、勤務地、労働時間いずれかが限定される正社員」と定義しています。

また、日本経済新聞電子版朝刊(2020年9月2日付け)では、「職務を明確にした上で最適な人材を配置する欧米などで一般的な雇用形態。終身雇用を前提に会社の一員となった社員が様々な職責を負う日本の「メンバーシップ型」雇用と対比される概念。労働時間ではなく、職務に対する成果や目標の達成度合いで賃金が決まる。欧米ではその職務がなくなったり、能力が不足したりした場合、雇用契約を解除されるケースが多い。」と記載されています。

このジョブ型雇用を導入する目的は、専門性に特化したプロフェッショナルな労働力の確保、子育てや介護等の関係から転勤を望まない正社員としての労働力の確保等であると考えられます。

昨今、ジョブ型雇用について、コロナ対策で、リモートワーク・テレワークが増加し、定着してきたことから、アフターコロナでは、ジョブ型雇用が増える(または増やすべき)といった内容が多いように思います。

たしかに、リモートワーク・テレワークのみを行う従業員について、「勤務地や勤務方法が限定された正社員」との観点から、ジョブ型雇用であると評価することも可能であるとは思います。しかしながら、本来、ジョブ型雇用は、多様な働き方に関する制度であり、必ずしもリモートワーク・テレワークとは関係がない制度です(現に、上記の規制改革会議の意見書は平成25年に作成されています。)。

個人的には、現在のジョブ型雇用に関する議論は、どちらかというと、ジョブ=職務を限定し、その職務と従業員との関係性を重視するものが多いように感じています。一般に、ジョブ型雇用では、ジョブディスクリプション(職務記述書)を作成して、従事すべき業務を明確にすることが予定されています。

そうだとすると、そのジョブディスクリプションに記載された業務が会社から無くなった場合、どのような対応をすべきなのでしょうか。上記の日経電子版の記事では、「欧米ではその職務がなくなったり、能力が不足したりした場合、雇用契約を解除されるケースが多い。」と紹介されています。

しかしながら、現在の日本の労働法では、会社が、正社員について雇用契約を解除(=解雇)した場合に、解雇の有効性を維持できることは多くありません。

会社と従業員ではなく、職務と従業員の結びつきを重視することを、ジョブ型雇用とするのであれば、会社内にその職務が存在しなくなった場合等に、会社と従業員との関係を、どのような設計にするのかについての十分な議論が重要です。具体的には、期間の定めのある雇用契約を活用したり、ジョブディスクリプションの記載方法に工夫する等の方策が考えられます。

ジョブ型雇用等の新たな制度を導入し、多様な労働力の確保をすることや、労働力の有効活用をすることは、本来、労使双方にとって有益であるはずです。社会全体にとっても、適切に、ジョブ型雇用が導入され、活用されることは、有益であり、個人的にも良いことであると考えています。他方、導入に際しては、当然ながら、現行の法制度に抵触してはなりませんし、現行の就業規則等の社内規定の修正が必要となることもありますので、慎重な検討が必要です。

当事務所では、ジョブ型雇用の導入に関するご相談はもちろん、労務面の法令適合性の確認(労務デュー・ディリジェンス)等のサービスも提供しておりますので、関心がおありの方は、お問い合わせください。

(文責:藤井宣行)

2020年09月23日 13:44|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません