ベンチャー法務の部屋

企業が従業員に提出してもらうべき誓約書の内容(その3)

企業が従業員に提出してもらうべき誓約書について、前々回(その1)前回(その2)の続きです。

3 競業禁止

従業員との間の競業禁止規定には、大きな法律上の制約があります。

それは、「職業選択の自由」です。

憲法第22条第1項の「職業選択の自由」です。小学校か中学校でも社会か公民の時間に勉強するあの「職業選択の自由」です。企業法務で、憲法が出てくることは極めて少ないですが、ここでは例外です。

従業員には職業選択の自由があるために、競業禁止規定が無効になるかもしれないのです。

ただ、職業選択の自由があるといっても、従業員は、自ら誓約しているのですから、私的自治の観点では、それを積極的に放棄したとも解する余地があります。

したがって、「職業選択の自由」と「私的自治(=契約で自ら義務を負うことを選択した)」という2つの法律上の要請が、競業禁止規定をめぐってせめぎ合うことになります。

その結果、職業選択の自由を不当(必要以上)に誓約するような競業禁止規定は、無効になる可能性が高いといえます。

では、実務的には、どうすればよいのでしょうか。

結論からいえば、「常識的な範囲で、且つビジネスに支障が生じることを防ぐために最低限と思われる内容で、競業禁止規定を定めておく」ということになります。

具体的には、年数、地域、事業内容で、範囲を絞って、競業禁止を規定すると、無効にはなりにくいでしょう。

規定案としては、

私は、貴社を退職後●年間は、●地方において、●、●又はこれらに類する事業を行う事業を開始したり、役員や従業員やアドバイザーになる等、携わったりしません。

等という内容が考えられます。

年数について、よく質問されますが、これという回答は難しいです。事業内容や事業の展開の速さ等にもよります。ただ、「3年」とされているケースが割と多いような気がします。

地域も、元の会社の事業範囲との比較で決めることになります。広ければ広いほど、無効になる可能性は高くなりますが、地域の制約が意味のない業界(IT等)では、地域を制限しないことも考えられます。

事業内容は、必ず明記しなければなりません。ある程度、曖昧な表現になってもやむを得ないとは思いますが、それなりに特定できる表現、例えば、「○○を販売する事業」等としておくことが考えられます。

【関連法令】

日本国憲法

第22条第1項 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

執筆者
S&W国際法律事務所

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