ベンチャー法務の部屋

営業出身の社長が陥りがちな罠

昨日のエントリーは、「技術畑出身の社長が陥りがちな罠」というテーマで書かせていただきました。このエントリーで触れさせていただいた藤沢武夫さんが書かれた『経営に終わりはない』という本は、藤沢武夫さんが、本田宗一郎さんという希代の情熱的なエンジニアを如何に上手く縁の下で支えられておられたか、よくわかる本です。HONDAがどのようにして生まれ、成長したかがよくわかる私の好きな本の1つです。

ところで、本日は、営業出身の社長と話をしたときに、聞いた話をさせていただこうと思います。

営業出身の方は、「営業して、売れば何とかなる」という発想が頭にあるようです。営業出身の方は、独立しても、とにかく自社製品・自社サービスを自分の足と口で売ってお金にするのはできるだろうという自信があるようなのです。実際、営業出身の方がベンチャー企業を起こしてその後ある程度上手くいくことは少なくないように思います。

とはいえ、営業出身の方が実際に独立して、社長となり、つまずくケースもあるかと思います。

まず、最初にあり得るのが、売る商品やサービスがよくない、又はマーケット自体がよくないケースです。顧客に満足を与えることができない商品やサービスは、いくら営業によって販売できたとしても、長期的な事業としては成り立たないでしょう。また、縮小傾向にあるマーケットに参入しても、全体の流れに逆らうことはできず、上手く行かない可能性があります。

さらに、資金繰りで困るパターンも少なくないように思います。営業というのは、会社の資産を使って、いかに(売上及び)利益を増やすかという点に意識が向きがちです。当初は、会社の資産といっても、社長の身1つといった状態ですので、社長が動いて利益を上げればよいですが、事業を拡大するにつれ、固定費が増えたり、必要な運転資金が増えたりすると、資金繰りが重要になってきます。経営は、バランスシートの左側(Asset)を増やすことだけでなく、右側(DebtとEquity)の中身や、左側と右側とのバランスが重要である、又はキャッシュ・フローを常にチェックしておかなければならない、といったビジネス書に出てくるような問題点が生じます。

最後に、ある程度の規模になったとしても、それ以上伸び悩むケースがあるように思います。社長の枠を超えた組織に脱皮できず、その手前にある壁に阻まれているような状態です。この問題についての話は、坂本桂一さんの『年商5億円の「壁」のやぶり方』という本の中でも詳しく取り上げられています。社長が営業から手を引いても、組織が大きくなるかという壁を乗り越えなければなりません。

これらの問題は、それぞれの段階ごとに解決の方法が異なります。例えば、財務面についていえば、優れたCFOがいるといないのとでは、大きく違います(CFOについては、以前の「ベンチャー企業のCFOとは」も参考にしてください。)。社長が資金繰りに時間をとられていると、社長が本来為すべき仕事がおろそかになります。

営業出身の社長が事業を立ち上げた場合、それなりに売れる商品やサービスを扱っているのであれば、事業をある程度の軌道にのせておられるケースは少なくないように感じます。しかし、今回、指摘させていただいたような理由で、伸び悩むケースも少なくありません。また、そもそも「それほど大きくしたいわけではない」「それなりに利益が出ているので、かまわない」ということもあります。それは、社長の価値観や起業の目的、ゴールに依存する問題です。ただ、事業をさらにのばしたい場合には、社長の営業力だけでは上手く行かないことがほとんどでしょうから、商品・サービスの内容、マーケットの選択、資金繰り、ビジネスモデルに合致した資金調達、社長が営業を離れても事業が回るための組織作り等の問題を、どう乗り越えていくのか、考えることが重要だと思います。

執筆者
S&W国際法律事務所

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