ベンチャー法務の部屋

製造業の行く末

先日、ライフネット生命の出口社長とお話しさせていただいたときに、製造業は、究極的には、「最高の機械で、最安の労働力をつかって世界中に売るモデル」しかないという話をされていたので、気になって考えていました(趣旨を正確に理解できていないかもしれませんので、異なっていた場合はご容赦ください。)。

おそらく「最安の労働力」の意味するところは、コストパフォーマンスの最も高いという意味であろうと思います。私は、この出口社長の意見は、製造業の1つの側面を適確に言い表しておられると考えます。

現実にサムスンやユニクロは、このモデルでしょう。日本の多くの製造業が苦しいと「言われている」背景には、このようなモデルが一つの成功モデルであることにも起因すると思います。

とはいえ、一方で、製造業には別の生き残り方もあるのではないかとも思います。例えば、エルメス社です。(エルメス製品について私が解説するのは無謀もよいところですが、)全ての商品が、非常に厳しいチェックを経て、多くの商品が今もmade in Franceです。みなさん、高くても買います。値下げしたら、喜ぶ人より、がっかりする人の方が多そうです。このエルメス社には、先程のモデルは当てはまらないことは自明です。最高の機械で、コストパフォーマンスの高い労働力をつかっても、エルメス製品ではないと消費者は判断するでしょう。これは、高級ブランド戦略とでも呼べるモデルでしょう。

日本の電化機器でも、例えば、炊飯器はある程度、高級ブランド戦略での生き残りに成功しているのではないかと思います。ただ炊くだけの炊飯器と全く値段が違いますが、それでもかなり売れているようで、中国の富裕層も日本への旅行の土産に購入すると言う話はよく聞きます。掃除機や扇風機ですら、この方向性で成功している商品があります。

法律家の私がこのようなマーケティングやブランディングについて話をするのは、専門外と言われてしまえばその通りです。ただ、日本の製造業の行く末をふと考えたときに、まだまだこのような戦略での生き残り策はありそうですし、ダイソン等の例は、製造業でのベンチャー企業が高級ブランド戦略で勝負しても、可能性があることを伝えているように思います。

ところで、私の本業の法務に関連してこの戦略を考えてみます。ベンチャー企業や中小企業がこのような高級ブランド戦略をとる場合に重要なのは、知的財産権の戦略、特に商標権や意匠権も含めた抜かりない出願が必須です。しかも、この知的財産権の戦略は、サムスンやユニクロのモデルをとる場合でも、決して軽視してはならないものです。

時々、中小企業の担当者の方と話をしていると、「これまで~しなくても、問題は起きなかった」という話を聞きます。「~しなくても」には、「契約書に気を払わなくても」「知的財産権のことを考えなくても」等が入ります。しかし、それは、(1)日本国内の特定の狭い世界だから通用した、(2)問題は起きなかったが、より利益をあげるチャンスを失っていた、(3)運が良かったのいずれか又は全部の可能性があります。

知的財産権や法務に資金を投じる習慣がなかった会社にとっては、これらに投資することに当初は抵抗感があることも多いでしょうけれども、将来、足元をすくわれないためにも、より利益を上げるためにも、一度、コストとリターン(リスク低減)を比較して、戦略を再検討されることをお薦めします。

執筆者
S&W国際法律事務所

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