ベンチャー法務の部屋

義援金と課税関係

2019.09.17

今年の7月18日、京都アニメーションで放火事件が発生しました。その背景等については、今でも、いくつもの報道がされています。本ブログでは、この件に関する税金の問題を、少し検討してみたいと思います。

 

2019年9月6日付の京都新聞電子版では、事件の被害者及び遺族に対し、世間から寄付された金銭について、義援金制度を設けることによって、「・・・受け取った義援金は非課税となるため、集まった善意のお金は全て被害者と遺族の手元に届く。」、「寄付した側は、個人なら2千円以上の寄付で所得税や住民税の控除を受けられ、法人も寄付額全額が損金に算入可能となる。」と記載されていました。

https://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20190906000054

これは、どのような法的根拠に基づくのでしょうか。

 

 

今回、新たに設けられた義援金制度を検討する前提として、当該制度がない場合には、どのようになるのでしょうか。

 

まず、寄付をした側について検討します。

今回のケースであれば、一般の寄付金として、当該法人の事業年度において資本金等に応じて設定される損金算入限度額を超過した部分は損金に算入することができません(法人税法37条1項等)。

個人が寄付をした場合には、本件のようなケースでは必要経費等として収入金額等から控除することができません。

 

次に、寄付を受けた被害者及び遺族については、義援金制度(以下「本件制度」といいます。)創設後の課税関係とまとめて後述します。

 

 

では、本件制度では、どのようにして、税法上の優遇措置を実現しているのでしょうか。

 

寄付をした法人についてみると、法人税法37条3項に、国または地方公共団体に対する寄付金については、損金に算入することができる旨の規定があり、この規定を活用するようです。すなわち、寄付をした企業(以下「寄付企業」といいます。)から、株式会社京都アニメーション(以下「京アニ」といいます。)という法人に対する金銭の提供ではなく、寄付企業から京都府に対する金銭の提供というスキームを採用しています。本件制度開始前に、すでに、京アニの口座に送金されたものについては、一定の手続をすることで(詳しくは京アニのウェブサイトを参照ください。http://www.kyotoanimation.co.jp/information/?id=3096)、単に京アニが一時的に預かっていたものであり、経済実態としては当該預り口座内の金銭は京アニには帰属していないという考え方だと思われます。

 

寄付をした個人についてみると、所得税法78条1項に、個人が特定寄附金(国または地方公共団体に対する寄附金(同法78条2項))を支出した場合で、当該支出が2000円を超える場合には、当該超過金額を総所得金額等から控除する旨の規定があり、この規定を活用することになります。

こちらも、すでに京アニ口座に送金されているものについては、法人が寄附金を支出した場合と同様、京アニへの寄付ではなく、京アニの預り口座を活用した京都府への金銭の提供というスキームを採用していることがポイントです。京アニへの金銭の提供になってしまうと、寄付された金銭が京アニの益金に算入され法人税の課税対象となりますし、寄付した側も、上記のような制度を活用できなくなるからです。

 

 

では、寄付を受けた被害者及び遺族については、いかがでしょうか。

所得税法9条1項では、非課税所得について多くの事項を規定しますが、その中に、「・・・その他の政令で定めるもの・・・」との規定があり、これを受けた所得税法施行令30条3号では、「心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金」を非課税としています。

京アニ等が公表している内容を見ると、本件では、これに該当するとして、被害者及び遺族が受け取られた金銭が非課税所得になると考えられているようです。この点、本件において寄附された金銭が「見舞金」に該当することについては、異論の余地がなさそうです。もっとも、見舞金であったとしても、非課税所得となるためには、「相当の」見舞金であることが必要となります。本件では、京都府において、「その全額について被害の程度等に応じた公平かつ適正な金額による配分を行うための義援金配分委員会を設置する」とのことです。

https://www.pref.kyoto.jp/chiiki/news/higaisyagienkin.html)、

京都府が、当該委員会を設置し、当該委員会で「被害の程度等に応じた公平かつ適正な金額による配分」を決定することから、「見舞金」の相当性を担保されるとの考えに基づくものであると考えられます。

 

ただ、全ての犯罪被害者に対して、「相当の」見舞金とするような措置が採られているわけではないようです。今回の事件が凄惨で痛ましい事件であったことは間違いありませんが、報道されていない、又は被害人数がより少ない事件でも、優遇措置が得られる方がより公平であり、被害者支援にも資するように思います。

 

いずれにせよ、広く社会から行われる善意としての寄付が、犯罪被害者の方及び遺族の方に対し、関係者の誰もが意図しない税負担の生じることなく届く本件制度が円滑に運用されることを祈念します。

(文責:藤井宣行)

執筆者
S&W国際法律事務所

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