ベンチャー法務の部屋

「起業に大学教育は必要か」という議論

表題の議論は、形やテーマを変えて、度々耳にするもので、いま起業を考えている学生にとって関心の高い議論でしょう。

「起業するのに、学位を取る必要があるのか、大学に行く必要があるのか」というテーマです。

具体例としては、マイクロソフト社の創立者であるビル・ゲイツ氏やFacebookの創立者であるマーク・ザッカーバーグ氏は、ハーバードを中退して、会社を設立し、億万長者になったといったものが挙げられるでしょうし、日本でもライブドア社の堀江貴文氏は東大中退です。古くは、松下幸之助さんを始めとする日本のアントレプレナーには、大学にすら通っておられない方も少なくありません。

Professor Says Michael Arrington Lives In An Ivory Tower (TCTV)


ここに引用させていただいた動画及び記事は、「大学教育の価値」と「優れた起業家への道」の関係についての議論です。論者は、Michael Arrington氏 (Stanford Law School出身の弁護士であり、TechCrunchのファウンダーでもあるアントレプレナー)とVivek Wadhwa氏 (UCバークレー客員教授、ハーバード法科大学院上級研究員、およびデューク大学常任理事であり、自身も2つの会社のアントレプレナー)のお二人の間で交わされています。

私自身は、


会社を作るためには、経理、マーケティング、知的財産権、会社法などの知識を理解しておく必要がある。ビジネスの世界に入ってしばらくするまで、君たちは契約交渉のやり方や、人との接し方、従業員の管理や育成、そして顧客に売る方法を知らない。さらに重要なのは、自分が始めたことをやり遂げることの大切さを学ばない学生は、成功できないことだ ― それには忍耐力と決断力が必要だ。

私から学生たちへのアドバイスは、教育は、受けられる間はできるだけ受けよ。最低でも学部、可能なら修士の学位を修了すること。(引用終わり)


というVivek Wadhwa氏の意見に賛成する者で、私自身は、体験も踏まえて、大学教育に価値があると信じています。

勿論、学位なぞに拘わらずに成功している起業家を否定するものではありません。むしろ尊敬の念を覚えています。だからといって、学生から「起業したいのですが、中退した方がよいでしょうか」と質問されても、基本的には「No」と回答するでしょう。まず第一に、「学位なぞに拘わらずに成功している起業家」は、そもそも「起業したいのですが、中退した方がよいでしょうか」等という質問はしないでしょうし、その点で迷うくらいならやめておけばよいと考えます。また、「学位なぞに拘わらず、成功している起業家」がみな大学教育を否定しているわけでもなく、それ相応の知識や経験等を他の手段で身につけているケースも少なくないからです(例えば、本田宗一郎さんは、浜松高等工業学校(現:静岡大学工学部)機械科の聴講生でした。)。

先程の両者の議論で、より重要で、興味深いのは、

A piece of advice both panelists agreed on was to never forget the importance of ethics. As Arrington said, “Never hurt anyone to benefit yourself…but do something amazing, however you define it, and change the world”.


という部分です。すなわち “never forget the importance of ethics”(倫理の重要性を忘れるな!)ということに異論はなかったということです。どこかの国の検察官に、口を酸っぱくして、何度も繰り返したい内容です。。。(どこかの国の検察官についての話は、長くなりそうなので、いずれまた。本件では、学校教育+司法修習を受けたからといって、それだけでは倫理的な行動を維持し続けることはできないことが立証されてしまいました。)

私個人としては、起業こそが経済を下支えしており、新たな雇用を生み出すものであると考えていますし、起業を活性化することに貢献することを自身の目的としています。そして、起業には、志や目標、理念といった部分と、会計や法律等の知識や営業や交渉等の技術といった部分の両方が車の両輪のように必要であり、且つ、その両方において、倫理的であること、利益のために誰かを傷つけないことという土台が必要であると考えています。

最後は、大学教育の必要性から少しずれてしまいましたが、上の議論からの私の雑感です。

執筆者
S&W国際法律事務所

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