ベンチャー法務の部屋

美容医療に関する法律問題(美容医療における説明義務の内容及び程度)

2018.12.21

1 はじめに
前回のブログでは、一般医療と比較した場合の美容医療の特徴について、①美容医療の目的は、一般的に患者の疾患を治癒させることを目的とするものではなく、身体の審美性の向上や、精神的な不満を解消することを目的としたものであること、②美容医療には、一般的に緊急性が認められず、医学的な必要性が認められないこと、といった点を紹介しました。
今回は、このような美容医療の特徴が、医師等の負う義務にどのような影響を与えるのかについて説明します。

2 求められる注意義務の水準
一般医療行為においては、医師はその病気を治す、という一定の結果を達成すべき義務を負っているものではなく、善良な管理者の注意をもって、当時の医療水準に従って、適切な医療行為を遂行すること自体を義務として負っていると考えられます。これは、一般の医療においては、医療行為としての必要性や緊急性が認められ、また患者それぞれの状況も異なり、リスクはあるものの、手術を行う緊急性がある場合などもあるという一般医療の性質から導かれるものです。
他方で、美容医療においては、前述のとおり、必要性や緊急性は認められず、専ら、「より美しくなりたい」という患者個人の主観的な願望の実現、または精神的な不満を解消することを目的としていることから、患者は当然にその「結果」の実現を求めて美容医療を受けるのであり、一般医療と比べて、より患者の期待する「結果」を実現することが重視されているという考え方があります。
このように、一般医療と比較した場合、患者が期待する「結果」に対する医師の注意義務について、美容医療ではより高度なものが求められると考えられます。

3 説明義務の内容及び程度
(1)説明義務が要求される趣旨
医療行為において、何をどこまで説明すればよいのか、を検討するためには、そもそも、なぜ説明義務が要求されるのか、を知ることが重要となります。
この点については、患者の自己決定権の保障が説明義務の要求される趣旨であるとされています。
すなわち、患者には、自らの生命・身体・健康については自ら決めることができるという自己決定権が認められています。しかし、医療の素人である患者が、医療行為を受けるか否か、受けるとしてどのような医療を受けるのか、といった点について、この自己決定権を適切に行使することは極めて困難です。したがって、医師には、患者が自らの意思でいかなる医療行為を受けるか、受けないかということを決定することができるように、すなわち、患者の自己決定権の実現を保障するために、当該疾患の診断、実施予定の治療法の内容、危険性などの必要な情報を説明する義務があるとされています。
(2)説明義務の程度
東京地方裁判所平成15年4月22日判決(判例タイムズ1155号257頁)は、美容医療において求められる説明義務の程度について、美容医療は、「より美しくなりたいとの個人の主観的願望を満足させるために行われるものであって、生命ないし健康の維持に必須不可欠なものではないのであるから、患者のその治療を受けるべきか否かの判断をするための情報があたえられるべき要請は一般の医療行為よりも大きく、したがって、その実施にあたっては、被告において、原告が十分な情報を得た上で、その治療を受けるか否かを決定することができるよう、事前に同手術の内容、方法、費用等についてひととおりの説明をするだけでなく、その予想される副作用や後遺症等についても十分な説明をなし、そのうえで、その手術の実施につき承諾を得る必要があったものというべきである」と述べました。
このように、裁判例は、美容医療の目的が、「より美しくなりたいとの個人の主観的願望を満足させるために行われるものであって、生命ないし健康の維持に必須不可欠なものではない」ことを根拠に、美容医療において求められる説明義務の水準が、一般の医療よりも高いことを明言しています。
(3)説明義務の内容
上記裁判例は、美容医療における説明義務の内容につき、「当該美容形成手術に関する正しい情報、すなわち、手術の具体的な内容、成功の見通し、手術後患部が治癒するまでに要する時間、その間に通常生じる患部の変化、術後の管理の方法、発生が合理的に予想される危険性や副作用等について、適切な情報が必要であることは他言を有しないところである」と述べています。
この点、美容医療における説明義務の内容として、特に、マイナスの情報である、「発生が合理的に予想される危険性や副作用等」が重視されている点に注意が必要です。

4 おわりに
上記の通り、裁判例は、美容医療の特徴を根拠として、医師に対して高度の説明義務を課していることが分かります。このことを前提として、次回は、美容医療における説明義務が問題となった裁判例を検討し、美容医療における説明義務をさらに掘り下げます。

(文責:三村 雅一)

執筆者
S&W国際法律事務所

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