ベンチャー法務の部屋

中国企業とライセンス契約を結ぶときの留意点

いま、私は、近畿経済産業局が主催している「平成22年度中国ビジネス知財戦略基盤定着支援事業」に参加し、中国の知的財産に関する法律を学びつつ、実務的な対応を検討しています。この企画、講師の弁護士・弁理士の先生方の知識レベルが高いことは勿論のこと、参加者の皆さんのレベル・意識も高く、大変刺激的です。また、支援受入企業側も、これだけの人数で議論した結果によって、プロフェッショナルからのコンサルティングを受けることができますので、双方にとって、非常に良い企画だと思います。講師の先生方には、感謝しても、しきれないくらい、多くのことを教えていただいています。

ところで、この企画において、中国の契約法353条と355条と行政法規である技術輸出入管理条例24条3項の関係についての議論がありました。非常にマニアックな論点なので、悪しからず・・・

それぞれの条文は、以下の内容である。

【関連条文:中国法】
契約法353 :  特許実施により第三者の権利を害した場合、実施許諾者が責任を負う。但し、当事者間に別途の約定がある場合はこの限りではない。
契約法355 :  技術輸出入契約…について、法律、行政法規に別段の規定がある場合は、その規定に従う。
技術輸出入管理条例(行政法規)24 III : 技術を受け入れた側が提供を受けた技術を使用し、第三者の合法的権益を害した場合、提供者が責任を負う。

【問題点】
契約法353は、任意法規規定であるため、ライセンス契約において、ライセンシー側の責任とする旨の規定を定めても、有効と解される。しかし、契約法355及び技術輸出入管理条例24 IIIによって、任意法規性が奪われ、「技術」を受け入れる旨の契約で、第三者の権利侵害はライセンシーの責任と規定しても、無効と解されるおそれがある。

具体的には、日本企業が保有している特許権について、中国企業にライセンスする場合や、中国企業から開発委託を受けて日本の知的財産権を利用して製作した成果物を引き渡す場合に、問題となる。すなわち、中国企業側の特許実施や成果物利用に際して、第三者の権利を侵害しても、(契約での規定に拘わらず)日本企業が責任を負わなければならない可能性がある。

【検討の前提】
そもそも、「法律」は任意法規であるのに、「条例(行政法規)」に強硬法規性を持たせることへの疑問もあるが、中国法において、契約の自由をどこまで徹底されるのかという根本問題に関連しそうであるし、中国の法体系秩序の問題にもかかわるので、ここでは避ける。また、結果として、渉外ライセンサーを国内ライセンサーより不利益に扱うことになるので、WTOに反するのではないかとの疑問も呈されるが、実務では、どうしようもない可能性が高いので、ここでは立ち入らない。

【検討】
ここでは、日本企業が中国企業にライセンスする場合を念頭に置いて、実務的に解決する方法がないかを考えてみる。

通常(日本国内の会社同士の契約等で、ライセンサー側が強い場合)、ライセンス契約や業務委託契約において、第三者からの侵害については、以下のような規定を置く。

■規定例(ライセンス契約)(ライセンサー優位の内容)■
ライセンシーが本発明の実施により、第三者の権利を侵害するに至ったときにおいても、ライセンサーは、その侵害についての責任を一切負わないものとする。

■規定例(業務委託契約)】(受託者優位の内容)■
委託者による成果物の利用に関して第三者の権利を侵害した場合、受託者は、その侵害についての責任を一切負わないものとする。

※ サンプルなので、簡略化した条文例を用いています。

しかし、技術輸出入管理条例24 IIIによると、提供者が責任を負うと規定しており、このような規定を設けても、無効になる可能性が高く、その場合、ライセンサーや受託者(日本企業側)が責任を負わなければならない。

■対策案1■
無効を覚悟で、規定する。そして、無効になった場合に備えて、他の規定を置く。

■対策案2■
ライセンサー側に訴え等が提起された場合に、協力すべきとする協力義務規定を置く。

■対策案3■
ライセンスの対象を出来る限り限定して、そもそも権利侵害が生じにくいようにする。

■対策案4■
ライセンサーが被った損害をさらにライセンシーに求償できる旨を規定しておく。

とりあえず、いま、考えられるのは、このようなところである。これらの対策案は、相互に矛盾しないので、実務に合ったものを適宜利用することになるだろう。■対策案1■の他の規定とは、対策案2や4の規定や、分離可能性条項と呼ばれる、「ある規定が無効となっても、他の規定は有効です。」という内容の条項を念頭に置いている。■対策案4■は、中国の人民法院の解釈で無効にされてしまう可能性も十分にあるが、理論的には、「第三者との関係では技術輸出入管理条例24 IIIで提供者が責任を負うが、当事者間では、技術を受け入れた側がその損害を負担する」と定めることは、技術輸出入管理条例24 IIIに反しないという解釈も成り立ちうるのではないかという発想に基づくものである。

いずれにせよ、問題が起きた場合には、訴訟になる前に解決できる方がよい。訴訟外での交渉では、仮に無効になるかもしれない条項があったとしても、有効となる可能性によって交渉力が得られることもあるので、適宜御検討いただきたい。

(検討終わり)

この見解は、私が備忘録的に作成したものですので、実際にライセンス契約や業務委託契約等を作成する場合は、中国法の専門家を含めた専門家の意見を参考にして下さい。(このエントリーを参考にして作成して頂いても、私は責任を負えません。)

執筆者
S&W国際法律事務所

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