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ベンチャー法務の部屋

株式買取請求権のあり方「スタートアップと出資者の取引実態と独占禁止法上の考え方」を踏まえて

1 はじめに 

 これまで、投資契約書の株式買取請求権については、フェアかアンフェアか等といった議論や、その発動要件(の相場)についての議論は見られましたが、独占禁止法から論じられることは少なかったように思います。 今回、公正取引委員会作成の報告書という形で、「 投資契約書の株式買取請求権 」に、独占禁止法から光をあてられることになりました。今後の投資契約書実務に、それなりに影響を与える可能性があるため、本ブログにて、検討します。 拙いながら、数多くの投資契約書の締結及び、株式買取請求権の行使を含めた投資契約書の運用場面に携わってきた弁護士の観点から、可能な範囲で、コメントを加えようと試みたいと思います。

2 公正取引委員会の報告

(1)  2020年11月の報告書 

 公正取引委員会 は、令和2年11月27日付け「スタートアップの取引慣行に関する実態調査について(最終報告)」を作成して、公表しています。

 こちらについて、日本経済新聞(2020年11月25日)では、以下のように報道しています。

 公取委の調査では大企業やVCがスタートアップに対し、不当な要求をするケースが多いことがわかった。特に公取委が問題視するのは出資者による株式の「買い取り請求権」の乱用だ。

 出資者が出資先企業に株を買い取るよう請求できる権利で、大企業やVCがスタートアップに出資する際の慣習となっている。スタートアップは実際に請求されると、資金的に困るケースが多い。大企業がこうした状況を利用し、買い取り請求権の行使をちらつかせながら、不当な要求をするケースがあるという。

 公取委の調査に応じたスタートアップからは「知財の無償提供に応じないと請求権を行使すると示唆された」といった訴えがあった。営業秘密を話すことを強要されたり、必要以上の受注を迫られたりしたケースもあるとみられる。請求権の行使は契約違反など一定の条件を満たす必要があるが、違反がなくても大企業が「脅し」のように使うケースもあるという。

 公取委はスタートアップが出資の引き揚げを恐れて要求をのまざるを得なくなった場合、出資者側は独占禁止法上の「優越的地位の乱用」にあたる恐れがあるとする。

 買い取り請求権は経営者個人に対して行使できる「個人保証」が設定される場合もある。公取委は個人保証は特に負担が大きいとし「設定を外すことが望ましい」とする。

 出資関係がなくても共同研究などで大企業と連携する場合、スタートアップが技術やノウハウなどの開示を強いられる場合がある。調査では重要な資料を開示させられたり、類似のサービスを勝手に立ち上げられたりしたとの声もあった。公取委はこうした行為も優越的地位の乱用にあたる恐れがあると指摘する。

日本経済新聞(2020年11月25日)

 後述しますが、株式買取請求権は、「伝家の宝刀」「抜かずの剣」のようなものであり、投資家といえども、そう簡単に、言及すべきものではなく、真の最終手段にすべきであると考えます。

 そもそも、本気で株式買取請求権を行使しなければならない事態が生じた時点で、その投資や資本関係は、失敗といえます。投資家が株式買取請求権を行使してまで、回収しなければならないシチュエーションは、限定的でしょう。さらに言えば、投資家側が、実際に法的に適切な理解の上で、株式買取請求権を行使することは、難易度がそれなりに高いものであり(例えば、意思表示の撤回の可否や当事者間の株式の効力の移転時期、それに伴って投資契約の効力如何等が問題になります。)、色々な事態を想定して、株式買取請求権を規定している事例は、それほど多くないというのが実感です。

 個人的には、スタートアップ投資の経験が浅い投資家(一部の大企業や大企業CVCを含みます。)が、投資契約書のひな型に株式買取請求権があることをよいことに、 株式買取請求権に安易に言及している事例がそれなりに生じているのではないかと危惧しています。

 なお、投資家側が、発行会社だけでなく、経営株主個人を株式買取請求権の対象としたい理由は、よく理解できます。特に、経営株主個人の表明保証違反や契約違反の場合に、株式買取請求権を行使できなければ、詐欺的な資金調達事例や悪質な契約違反事例への対処が困難になります。また、会社への買取請求権は、会社法の自己株式取得規制、特に財源規制の問題があり、実現が困難であることは少なくありません。

 濫用的な株式買取請求権の行使を防止する観点と、投資者側の 詐欺的な資金調達事例や 悪質な契約違反事例への懸念の両方を満たす調和的な考え方(投資契約書の定め方)については、後記「あるべき投資契約書の株式買取請求権の定め方」にて触れたいと思います。

 現実に、大企業から株式買取請求権の行使を絡めて、不当とも思える請求を受ける事態に直面して、困っているスタートアップがおられれば、是非、当事務所を含め、スタートアップ法務に強い法律事務所に相談いただきたいところです。当事務所では、投資家から株式買取請求権を行使する旨の書面を送付されたスタートアップから依頼を受けて、交渉して、撤回させた事例もあります。

(2) 「スタートアップと出資者の取引実態と独占禁止法上の考え方 」(報告書概要)

 さて、報告書概要の 「スタートアップと出資者の取引実態と独占禁止法上の考え方 」には、株式の買取請求権に関連して、以下のとおり、実態を示したうえで、考え方を示しています。報告書本体82頁以下にも、詳述されています。

【実態】
①知的財産権の無償譲渡等を要請され,その要請に応じない場合には買取請求権を行使すると示唆された。
②スタートアップの事業資金が枯渇しつつある状況において,出資額よりも著しく高額な価額での買取請求が可能な買取請求権の設定を要請された。
③買取請求権の行使条件が満たされていなかったにもかかわらず,出資者から,保有株式の一部について買取請求権を行使された。
④スタートアップの経営株主等の個人に対する買取請求が可能な買取請求権の設定を要請された。

【考え方】
①正当な理由がないのに,知的財産権の無償譲渡等を要請する場合であって,スタートアップが今後の取引に与える影響や買取請求権の行使の可能性等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合,優越的地位の濫用のおそれ
②一方的に,出資額よりも著しく高額な価額での買取請求が可能な買取請求権の設定を要請する場合であって,スタートアップが今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合,優越的地位の濫用のおそれ
③正当な理由がないのに,保有株式の一部の買取りを請求する場合であって,スタートアップが今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合,優越的地位の濫用のおそれ
④経営株主等の個人に対する買取請求が可能な買取請求権については,出資者からの出資を受けて起業しようとするインセンティブを阻害することとなると考えられるところ,出資契約において買取請求権を定める場合であっても,その請求対象から経営株主等の個人を除くことが,競争政策上望ましい

 上記(1)でも述べたように、投資家側にも、発行会社だけでなく、経営株主個人も、株式買取請求権の対象としたい合理的理由がそれなりにあるなかで、 「出資契約において買取請求権を定める場合であっても,その請求対象から経営株主等の個人を除くことが,競争政策上望ましい」という記載は、かなり踏み込んだ内容であるように思います。ただ、「優越的地位の濫用のおそれ」としなかったのは、投資家側の事情にも配慮した表れでしょう。

 ここで、気になるのは、ファンドが満期になる場合を株式買取請求権の発動事由として、実際にファンドの満期を理由に行使することは、「正当な理由がないのに,保有株式の一部の買取りを請求する場合」に該当するか、という点です。

 この点は、非常に難しいですが、ここでの正当な理由は、発行会社又は経営株主個人に起因する理由であると限定されるように読めば(そのような文脈である可能性は高いです)、ファンドの満期は、正当な理由に該当しないと判断される可能性はそれなりにありそうです。したがって、 ファンドが満期になる場合を株式買取請求権の発動事由とするような規定において、経営株主などの個人を買取義務者とすることは、競争政策上望ましくないということは言えるかもしれません。

(3) 報告書本体記載の事例

 報告書本体には、株式の買取請求権の行使事例が複数記載されており、それぞれにコメントしたいところですが、今回は、割愛して、いずれ機会があれば、論じたいと思います。
 ただ、一点申し上げるとすれば、「 <出資者の意見> ○ かつては,融資のような条件の出資が行われることもあったが,今は少ないと思っている。 」(報告書51頁)とありますが、この「融資のような条件の出資」は、今でもそれなりに見かけます。
 特に、種類株式の内容に、金銭を対価とする取得請求権が含まれているケースで、一定期間の経過が取得請求権の発動事由になっている場合は、事実上の劣後債と変わりありません。投資家に債権と株式の良いとこどりをされているといえ、発行会社側に非常に不利なスキームであると言わざるをえません。
 このような種類株式を用いたスタートアップ投資は、少なからずみられます。発行会社側にとっては、かなりリスクが高く、不利なスキームで出資を受け入れていることを十分理解しているかどうか、よく確かめて、どうしてもその資金調達方法に頼らないといけないのか、再度、慎重にご検討いただいた方がよいでしょう。

3 あるべき投資契約書の株式買取請求権の定め方

 ここでは、発動事由と行使の相手方に絞って、検討したいと思います。

 まず、発動事由は、以下のあたりが相当であると考えます。
(1) 当該投資契約及び株主間契約違反
(2) 発行会社及び経営株主による表明保証違反
(3) (払込の前提条件の定めがある場合)前提条件の不充足
(4) 経営成績及び財政状況の点で株式公開の要件を満たしているにもかかわらず、株式公開を行わない場合

 また、これらに加えて、「(1)の契約違反や(2)の表明保証に反する程度が投資契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない」旨の規定を備えることが相当でしょう。
 (1)から(4)までの規定は、およそ一般的な規定であり、いずれも発行会社及び経営株主の責めに帰すべき事由といえます。また、民法の解除事由でも定められいるとおり(第541条但書参照)、軽微な場合を除外する旨の規定を、投資契約における事実上の解除規定である株式買取請求権規定に設けることは、合理的であると考えます。
 行使の相手方については、報告書にて「経営株主等の個人に対する買取請求が可能な買取請求権については,出資者からの出資を受けて起業しようとするインセンティブを阻害することとなると考えられるところ,出資契約において買取請求権を定める場合であっても,その請求対象から経営株主等の個人を除くことが,競争政策上望ましい」とあるものの、現に、詐欺的な資金調達事例や悪質な契約違反事例が存在し、このような事例で株主代表訴訟等の手続きが有用ではないことが容易に想定できることに加え、会社法の自己株式取得規制、特に財源規制の問題があり、初期に累積の損失が積み重なることの多いスタートアップでは、財源規制をクリアできる見込みも低いことから、経営株主個人を対象とすることはやむを得ない部分が残っていると考えます。

4 終わりに 

 今回の報告書は、大変興味深い事例及び内容が盛りだくさんです。 現に投資家との関係に悩んでおられる方、一緒に報告書の内容を検討したいと希望される方、株式買取請求権の定め方や対処について悩んでいる方は、是非、一度、ご相談ください。 https://www.swlaw.jp/contact/

文責:森 理俊

取締役の選任に係る株主間の契約や合意の有効性

1 はじめに

スタートアップ企業への投資に際しては、株主間契約や投資契約において、ベンチャーキャピタル(主にリード)側が、取締役1名の選任権を有する旨などと、規定していることが少なくありません。
この取締役選任権の趣旨は、取締役会の出席権を確保して、会社の業績や運営状況を把握し、適宜、コミュニケーションを図って、業績が想定通りに推移しているか、適切な会社運営がなされているかを確認しつつ、場合によっては企業価値向上のための適時適切なサポートにつなげたいということがあります。また、社外からの監視体制を維持することで、会社の体制が向上することへの期待もあるでしょう。

このような、取締役の選任についての株主間の契約や合意は、常に有効なのでしょうか。

2 検討

(1) 取締役の選任についての 株主間の契約や合意は、 株主総会における議決権を拘束する形で規定されます。
具体的な条文例として、

投資者は発行会社の取締役を1名指名する権利を有する。投資者がかかる権利を行使する場合、発行会社及び経営支配者は投資者が指名した者が取締役として速やかに選任されるために必要なあらゆる措置をとる。

といった形で規定されます。

かつては、議決権拘束契約は無効であるとの立場があったようですが、現在は、このような株主間の議決権拘束契約は有効であるとの立場が支配的であるとされています。

(2) ここでの「 株主間の議決権拘束契約は有効 」との意味は、いわゆる債権的効力として有効という意味です。

すなわち、当事者間では、拘束力があり、違反した場合には、債務不履行に基づく損害賠償請求ができる、という関係にはある一方で、合意内容に反した議決権行使がされたとしても議決権の効力自体には影響を及ぼしません。

(3) 実は、裁判例は、背景事業に応じて、判断が分かれています。
詳細は、割愛しますが、次のような事例で、 議決権拘束契約の法的拘束力を否定したものがあります。

取締役の選任につき、原告と被告の2人を代表取締役に選出するとの裁判外での和解が成立したとの背景事情がある事案で、

原告と被告の二人を代表取締役に選出するということで妥協点を見出して裁判外で和解し、右の訴訟等も取下げて紛争を解決したことが認められる。
原告は、右の和解によつて、被告が原告に対し、昭和四四年当時にあつても、原告が取締役に選出されるべく株主ないし取締役として行動すべき法的義務を負つていることを前提にして、被告の行為の和解契約違反を主張する。しかし、原被告各本人尋問の結果によれば、右和解に関しては何らの書面も作成されなかつたことが認められ、このことに照らすと、原告を(代表)取締役に選出するべく行動するといつても、これはせいぜい、いわゆる紳士協定といわれるものではないかと思われるし、かりに契約上の厳格な義務を定めたものであるにしても、その後一五年を経た昭和四四年当時にも存続しているとする原告の主張は採り得ない。そもそも、原被告各本人尋問の結果によれば、原被告を代表取締役に選出するというのは、当時生じていた前記紛争をその時点において解決するための方策であつて、暫定的な義務を定めたにすぎないとみるのが相当である。かりに、当事者間で将来に及ぶものと約束したとすれば、法が、取締役の選任を株主総会の専権事項とし(商法二五四条一項)、取締役の任期につき二年を超えることができないと定めている(同法二五六条一項)趣旨に反し、約束自体の効力が問題とされなければならない。原、被告らの内部的な問題としても、一五年も後において右約束に法的拘束力を認めることは相当でない。
結局、原告が和解違反をいう点はその前提を欠き失当というべきである。

東京地方裁判所昭和56年6月12日判決(昭和46年(ワ)第1283号 )

と判示し、法的拘束力を否定した裁判例があります。

一方、原審の議決権拘束契約の法的拘束力を否定する判断を覆し、議決権拘束契約を有効とした裁判例もあります。

東京高等裁判所 平成12年5月30日判決(平成11年(ネ)第5672号)は、以下のように判示しました。

右(1)の合意は、KSの株主総会において控訴人一夫と訴外春夫とをともに取締役として選任するよう議決権を行使すべきことを約束したものと解されるが、本来、株主がどのように議決権を行使するかは株主の自由であり、商法上、株主総会は株式数の多数によって決議される機関とされており、したがって、会社は多数の株式を有する株主によって支配されるものであるとされていることに鑑みると、株主が多数の賛成を得るために他の株主に働きかけて右のような合意をすることは、何らこれを不当視すべきものではなく、これが商法の精神にもとるものともいえないから 右の合意もまた有効であるというべきであり、控訴人一郎及び被控訴人は、KSの株主総会において右の合意に従った議決権を行使すべき義務を負うに至ったものというべきである。

東京高等裁判所 平成12年5月30日判決(平成11年(ネ)第5672号)

近時の裁判例( 東京地裁令和元年5月17日判決 )では、

本件取締役選任合意は、本件会社が新ビルを建築しようという場面において、新ビルに係る権利関係を確認した上で、その建築等を新たな取締役の下で促進すべく締結した契約書の中で、取締役の人選について具体的に定めたものであるから、法的拘束力を有するものと解するのが相当である。

としつつ、

以上によれば、本件取締役選任合意は、その文言や、新ビル契約書の他の条項、本件会社設立時の取締役選任についての合意との整合やその他諸般の事情に照らすと、B、C及びD(その指名された者を含む)がそれぞれ本件会社の取締役に選任されることを暫定的に合意したものと解するのも十分に可能であり、原告らが主張するように、それぞれの相続人の代に至った段階における本件会社の利益分配をも意識して、Q家とR家とから少なくとも1名ずつの取締役を選出する趣旨で本件取締役選任合意をしたとまでは認められないというべきである。

東京地裁令和元年5月17日判決

として、株主総会において取締役選任議案に賛成の意思表示を求めた原告の請求を棄却したものがあります(控訴)。

この事例の条文は、「Aビルデイング株式会社は本年5月迄に取締役を改選し、B、C、E(Dの代理人)の三名を新取締役に選任する。我々は今后、Aビルデイング株式会社の取締役は我々三名(その指名された者を含む)を互選する事に定めた。又取締役は累積投票で選任出来る如将来定款を改正する事を協議する。Eは取締役就任迄部長として勤務す。Dの代理人は日本人に限る。」というものであり、文言だけを見ても、確かに「 Q家とR家とから少なくとも1名ずつの取締役を選出する趣旨で本件取締役選任合意をしたとまでは認められない」という判断もやむを得ないように思います。

(4) 翻って、 スタートアップ企業への投資に際して締結される株主間契約や投資契約の、 取締役の選任についての株主間の契約や合意は、有効でしょうか。

当職の見解ですが、有効(債権的に有効)だと考えます。

一般に、 議決権拘束契約の法的拘束力は有効と考えられていることに加えて、その効力の時間的な範囲(期間)が、通常、上場までの間、又は投資家が株式を保有している間、などとして明確にされていることが通例であり、締結の趣旨とその範囲が明確になっていること等から、裁判になっても、有効と判断されるものと考えます。

(5) 上記の裁判例(東京地裁令和元年5月17日判決)の判例研究(金融商事判例No,1600)に、「現在の会社法の下では、本件のような事案においては種類株主総会により取締役・監査役を選任できる株式(108条1項8号)を利用すればよいのであろうが」(7頁)、との記載がありますので、この点は、実務的な観点を補足したいと思います。

確かに、 種類株主総会により取締役・監査役を選任できる株式(108条1項8号)を利用すれば、「 Q家とR家とから少なくとも1名ずつの取締役を選出する 」といった趣旨は達成できる可能性があります。

しかし、一方で、種類株式を利用すると、種類株式発行会社となり、募集株式の発行の際に、(定款で排除しない限り)発行する種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要するなど、その後の会社のオペレーションが煩雑になり、増資への拒否権の内容が想定と異なる事態が生じ得ることもあって、 種類株式発行会社となることを選択しないことが合理的なケースが少なくありません。

そもそも、様々な事態を想定して、種類株式を設計し、適切に定款に反映することは、容易なことではなく、種類株式の発行を熟知した法律の専門家の助言を得て作成することが強く推奨されます。

そうすると、本件のような事案では、わざわざ定款を変更して、種類株式を導入するといった動機は生じにくく、比較的容易に実現可能な議決権拘束契約が選択されることが多いといえます。

なお、 種類株式を利用することのメリットとして、単なる債権的効力のみではなく、相手方の行動に左右されることなく、着実に取締役を選任できるということを実現することができる点が挙げられます。ただ、このメリットも、取締役1名の選任のみと考えると、重要性が高い(種類株式を導入してまで実現したい)ものかというと、ベンチャー投資の場面に限って言えば、実務上は、それほどでもないことが多いように思います。

3 結論

以上のとおり、 取締役の選任についての株主間の契約や合意は、原則として有効であり、スタートアップ企業がVCと締結する投資契約や株主間契約に規定されている場合は、ほぼ間違いなく有効であると考えられます。

お知らせ「第7回SUEセミナー -ベンチャー企業のファイナンス 実務と法務から-」の開催

大阪イノベーションハブにて、『第7回SUEセミナー -ベンチャー企業のファイナンス 実務と法務から-』を開催することになりました。

起業家やベンチャー企業経営者が、エクイティー・ファイナンスをするときに、どのような点に留意して資本政策や投資家へのプレゼンテーションを行なえばよいか、投資契約書や投資手法の選択において気をつけるべきことがないかを解説します。
また、ベンチャー・キャピタリストである出口彰浩さんをお迎えして、実務上の観点や動向もお伝えします。

イベントの後には、ネットワーキングディナーを開催する予定です。
概要及び申込みは、こちらからご覧いただけます。

【日 時】 2016年3月15日(火) 18:00~20:00 (開場17:30)
【会 場】大阪イノベーションハブ(グランフロント大阪 ナレッジキャピタルタワーC 7階) 案内図(PDF)
【参加費】 2,000円(税込)
【ウェブページ】 http://startup-engine.com/event/846
【ネットワーキングディナー】 夜8時から、開催予定(参加費2,000円)(先着40名様)

お申し込みは、こちらからお願いします。

ベンチャーファイナンスの行方

先週末、札幌で開催されていたIVSというイベントに出席させていただきました。

多くのSessionが開催され、大変、刺激的なイベントでした。

本当は、キューエンターテインメント社の水口哲也さんと慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の稲見昌彦さんのクリエーター・トークや、関西外国語大学准教授のGarr ReynoldsさんのプレゼンテーションZENの話は、非常に面白く、勉強になるというか、それ自体が1つの素晴らしいエンターテイメントとして、成り立つ程でした。ただ、残念ながら、私には、その魅力を十分にお伝えすることはできませんので、この方々の講演に出席する機会がありましたら、参加することをお勧めします。

ちなみに、関連する本としては、今の水口哲也さんの問題意識に大きな影響を与えている「NHKスペシャル 世界ゲーム革命」と、Garr Reynoldsさんが著作された「プレゼンテーションzen」を挙げさせていただきます。

特に、後者は、講演や裁判員裁判等で、Power Point を利用しようと考えている弁護士にも、強くお勧めします。

さて、今回は、IVSの中で、取り上げられた「ベンチャーファイナンスの行方」というテーマについて、考えてみます。

スピーカーとモデレーターは、下記の方々です。
Speakers:
・磯崎哲也事務所 代表 磯崎哲也氏
・インキュベイトファンド 代表パートナー 本間真彦氏
・株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー 仮屋薗聡一氏
・DCM パートナー 伊佐山元氏
・UBS証券会社 株式本部株式調査部 エグゼクティブディレクター 武田純人氏
Moderator:
・インフィニティ・ベンチャーズLLP 共同代表パートナー 小林雅氏

1つの大きな問題意識は、“日本には、大粒のベンチャーがない”という点です。この問題点は、”もしGoogleの創業者2名(と全く同じ能力の人間)が日本のVCの前で検索エンジンの開発をやりたいといっていたら、Googleは日本に生まれたであろうか”という表現でも、問題提起されていました。

この問題点について、スピーカーの方は、いくつかの興味ある回答を用意されていました。1つは、起業の世界には、まだまだ人・金をマネージするイメージができている人がほとんどいないということです。単にお金を流し込めばよいのではなく、人・情報・ノウハウといったものを有機的に連携していく能力のある人が、経営者側・投資家側を含めて、まだまだ少ないという問題意識ではないだろうかと思います。数多くのイケている人が起業の世界に携わるようになれば、自然といい起業家も増えるのではないかという意見もありました。

もう1つの回答には、日本では、資金提供者が早く回収を望む傾向にあるのではないかということです。シリコンバレーのVCが期待されていることは、「次のGoogleを見つけてくれ」ということであり、中途半端な成功は求めていないということです。すなわち、シリコンバレーのVCの投資家にとっては、最初から売上を気にするようなベンチャーはそれはそれであってもいいけれども、魅力的な投資先ではないということだと思います。

ここで重要な点は、VCの背後にいるLPの存在です。LPとは、Limited Partner の略で、VCの運営するファンドに投資している投資家のことです。このLPの性格によって、必然とVCの性質が決定され、引いては、投資スタンスやVCの投資先に求めることが違ってくるということです。この点では、米国の投資家の方が長期的な視点で考えているのではないかと指摘されていました。

この点は、これからVCから資金の提供を受けようとするベンチャー企業にとっても、重要な視点だと思います。

上場(IPO)との関係では、未熟なまま上場することにより、経営の自由度が下がる一方で、上場のメリットを十分に得られていないケースも少なくないのではないかという指摘もありました。この点は、先ほどの日本の投資家の早期回収傾向とも関連しますが、時価総額数十億程度で、上場してしまうと、瞬間的に株価が上がってもその後は下がる一方ということも少なくなく、経営者にとっても、既存株主にとっても、新規株主にとっても、不幸なのではないかという指摘です。私には、その数字の当否は、わかりませんが、500億くらいになってからでないと、上場しない方が良いという指摘もありました。

ところで、日本には、自動車産業を筆頭に、多くのニッチ産業においても、製造業を中心に、世界市場で、大活躍している会社は少なくありません。しかも、製造業だけではなく、ファッションの世界、ゲームの世界のような、カルチャーに多くを依存していそうな世界でも、国境を越えて大活躍している会社があります。しかし、ネットの世界では、上記のような「大粒のベンチャーがない」という嘆きをきくことが少なくありません。これは、いったいどうしたことなのでしょうか。時代のせいなのでしょうか。カルチャーのせいなのでしょうか。シリコンバレーのVCが有能なせいなのでしょうか。失われた10年のせいなのでしょうか。このあたりは、最近の私の関心事であり、いくつか仮説はあるものの、確たるものはありません。今後の課題としたいです。

お知らせ「Startup Engine 2011」の開催

大変、ご無沙汰しております。諸事情により、更新が滞っておりました。

今日は、5月20日に開催予定の「Startup Engine 2011」というイベントについてのお知らせです。

来る5月20日の午後1時から、大阪中之島の国際会議場にて、「Startup Engine 2011」というイベントを開催させていただきます。

関西では、ベンチャーや起業に関連したイベントが少なくなりつつあるという話を聞き、全くの手弁当で、友人知人に声をかけて、志に賛同してくださる方々と立ち上げたイベントです。

今こそ、関西が頑張るべき時であるという声は少なくありません。関西は、古代から江戸時代や近代にかけて、起業や金融という意味では、最先端の地でした。今も、高い技術や志を持つ方が大勢いらっしゃいます。また、商人の地、大阪だけではなく、伝統と新しい価値が融合する地、京都、先端技術の拠点を持つ古都奈良、新しい文化とバイオベンチャー等のシードも多い神戸等、素晴らしい土地が近接しているという地の利があります。一方で、ここ数年、「最近の関西・大阪は元気がない」という言葉を聞くことも少なくありませんでした。

そこで、微力ながらも、関西でも、起業家精神とそれを支えるネットワークを構築するため、そして、その土壌を耕し続けるため、志を同じくする人と一緒に、関西、そして日本が、新しい産業のエンジンとなることを祈念して、「Startup Engine 2011」というイベントを開催させていただく運びとなりました。

新進気鋭の素晴らしいスピーカーに、お話をいただけることになっております。
僭越ながら、私も最後にお話をさせていただく機会を設けさせていただいています。

【日 時】 2011年5月20日(金)13:00〜17:30
【会 場】 大阪国際会議場
【後援・協力】 [後援]大阪証券取引所 [協力]株式会社 幕末
【セッション】
Session 1 ライフネット生命の挑戦

ライフネット生命保険株式会社 代表取締役副社長 岩瀬 大輔 様

Session 2 マイノリティのすすめ

日本マイクロソフト株式会社 コミュニケーションズ・セクター

クラウド・ソリューション営業部 統括部長 今井 早苗 様

Session 3 等身大の経営者が語るBuyout

株式会社オークファン 代表取締役 武永 修一 様
ジンガジャパン株式会社 ジェネラル・マネージャー 山田 進太郎 様
株式会社美人時計 専務取締役 早 剛史 様
株式会社アトランティス 代表取締役社長 CEO 木村 新司 様

Session 4 目指せ!Good to Great~起業を支えるプロフェッショナルの立場から~

アントレプレナーファクトリー 代表取締役嶋内秀之
武田公認会計士事務所 公認会計士武田雄治
山本・森・松尾法律事務所 弁護士森理俊

【参加費】 一般席:3,000円(税込)  学生席:1,000円(税込)
※学生席には限りがございます。
【ウェブページ】http://startup-engine.com/
【懇親会】 夜6時から、開催予定(参加費5000円)

お申し込みは、こちらからお願いいたします。

なお、夜6時からの懇親会には、スピーカーの方の中からも参加していただける予定です。

起業について関心のある方、企業内部で新しいことに挑戦する方、ベンチャー企業への就職や転職を考えたことのある方、ベンチャー・キャピタル等の投資家の方、証券会社等の金融機関で上場やバイアウトを担当されている方、中小企業・ベンチャー企業のサポートをしているプロフェッショナルの方など、多くの方のご参加をお待ちしています。

社長が一番エラいという観念


日本では、代表取締役社長が会社で一番エラいという観念が、東証一部の大企業から、中小企業・零細企業・ベンチャー企業までにいたるほとんどの会社で色濃く残っているように思います。社長は、会社の行為について全責任を持つ代わり、社長が一番エラく、他のものは最終的には逆らえないという関係性があるともいえるかもしれません。

会社の代表者が、会社の行為に責任を持つ立場にであることは、法律的に間違いありません。このような「社長がエラい」という観念は、歴史的にどのように発展してきたのかはよくわかりませんが、ひょっとしたら、封建時代(御恩と奉公の時代)が長かったからかもしれませんし、戦国時代・幕藩体制における家父長制・家督制を戦前まで引きずっていたからかもしれません。それに、このような観念は、日本固有のものではなく、ヨーロッパでも少なくないでしょうし、アメリカでさえ全くないということはないと思います。

しかし、一方で、会社の発展、特にスタートアップやアーリーステージにおける発展を考えた場合に、常に社長が一番エラいという考え方ではない発想が有効となることはあり得るように思います。(あえて「エラい」という曖昧な単語を用いているのは、「社長」という言葉に潜む感覚的なものを表したいという趣旨ですので、不正確な議論となってしまうことはお許し下さい。)

一昨日のエントリー「あるベンチャー・キャピタリストからのメッセージ」で紹介させていただいた原丈人さんの『21世紀の国富論』
には、次のようなくだりがあります。

肩書きは、必ずしも上下関係を意味するものではない
 私たちベンチャーキャピタリストは、優れたビジョンや才能をもつ個人に出会うと創業を勧めます。しかし、この人物を新しい会社の社長に据えることは、決して多くありません。多くの場合、彼が担うのは研究開発担当の部長という役職です。一方、管理能力を要求される社長は、なるべく外部からスカウトするようにしています。
 日本の感覚で言えば、創業者が社長にならないなんて、ずいぶんひどい話だと思われるかもしれません。けれども創業者の多くは、そもそも財務やマーケティング、セールスといった仕事をやりたがらないものです。むしろ研究開発に専念し、没頭したいというタイプの方が多い。とりわけバイオテクノロジー分野のように、発明・発見型の企業ではその傾向が強いでしょう。また研究開発に対する適正が高いからといって、社長職が務まるものではありません。社長職というのは、マネジメントに関するプロでなければ決して十分な職務を遂行できないものなのです。
 アメリカでは管理に長けた人物が社長を務め、技術開発に向いた人が研究開発担当部長、もしくは研究開発担当副社長を務める、というのは当たり前のことです。
(中略)
 アメリカでも日本でも、ベンチャービジネスをつくりだすような創業者はクリエイティビティ(創造性)に富んでいても、マネジメント(管理)は不得意であることが多いのは同じです。
 しかし、日本の銀行はそんな彼らに対して「経営者なら在庫管理や財務を勉強しなさい」と指導する傾向が強い。これでは、せっかく際立ったビジョンがあったとしても、生かされないまま不得意なことに時間を浪費することになりかねません。クリエイティビティとマネジメントは、しばしば相反する概念なのですから。

社長よりも部長のほうが高い報酬をもらうこともある
(中略)
 創業期の企業では始終ポジションが変わるものですが、そこに降格といった暗いイメージはありません。
(中略)
 実はアメリカのベンチャー企業で、社長が最高給をとっているというケースはむしろ稀です。特異な才能をもった人間は、企業のマネジメント能力をもつ人間より少なく、求めようとしても求められない希少価値があります。それならば、社長の報酬よりも研究開発担当部長の報酬が高いのは当たり前でしょう。
(引用終わり)


米国グーグル社のCEOであるEric Schmidt氏は、創業者ではありません。米国グーグル社は、ベンチャーキャピタリストからプロの経営者を雇い入れるよう強く求められたため、同氏が外部から招聘され、当初は会長となり、その後CEOに就任し、現在に至っています。創業者の1人であるLarry Page氏は製品部門担当社長に、Sergey Brin氏が技術部門担当社長になりました。

日本でも研究者の方が始めたベンチャー企業は少なくありません。大企業の研究職に在籍していた方が設立したベンチャー企業や、大学発ベンチャー企業等です。そのような会社では、研究者の方や教授の方が社長に就任されることがほとんどです。ただ、既に述べたように、優れた研究者が優れた社長・経営者とは限りません。老婆心と言われればそれまでですが、社長という言葉に惑わされず、社長を1つの役割に過ぎないと考え、ベターチームを作ることを優先することにより、道が開けるベンチャー企業も少なくないのかもしれないと思うことがあります。

ただ、現実に、プロの経営者を適切にアレンジすることは、優れたベンチャーキャピタリストでも容易ではなく、また日本では、そこまでプロの経営者が流動的ではない(そもそも希少?)こともあり、なかなか実現は難しいでしょう。

それでも、個人的には、そのような体制が整えば、成長する可能性がある開発系のベンチャー企業は少なくないように思います。その意味で、「社長が一番エラい」という観念から脱却し、経営者を1つの職人的仕事と捉える文化や、経営者となり得る人材が豊富にいるという環境もベンチャー企業が育つための生態系の一環を成すのかもしれません。

あるベンチャー・キャピタリストからのメッセージ

日本の優れたベンチャー・キャピタリストに、原丈人さんという方がいます。「日本の」と書きましたが、正確な記載ではないかもしれません。国籍が日本であり、母国語は日本語であると推察されますが、主な活躍の場は米国シリコン・バレーですので、米国のベンチャー・キャピタリストと表現しても差し支えはないと思います。残念ながら私は直接お目にかかったことはありません。

この原丈人さんが執筆された本に、『21世紀の国富論』という本があります。私は最近この本を手にしました。この本は、2007年6月に出版された本ですので、最新の情勢が含まれているではありませんが、日進月歩のベンチャーの世界で普遍的に通じる内容に加え、経営全体やコーポレート・ガバナンスについての鋭い洞察が数多く含まれていますので、経営者やこれから起業を目指す方、その他、企業に関わる多くの方に読んでいただきたいです。

筆者は、経営の道具であるはずのROEを目的にすることは、本末転倒であり、たとえ短期的にROEが下がろうとも、研究開発にお金をかけ、内部留保を大切にし、優れた工業製品を作ることが重要であると説いておられます。本書中の印象的なフレーズをいくつか紹介させていただきます。

・アメリカに理想のガバナンスはない / 機能しなかったアメリカ型のコーポレート・ガバナンス

・(当たり前のことですが、)財務は経営の主役ではない / ゲームに踊らされて力を失ったアメリカ

・内部留保は中長期の経営に不可欠

・ベンチャー・キャピタルが果たす大きな役割は、兆円単位の新しい基幹産業を生み出すような技術を見抜き、それを長期間にわたって育てていくこと / シリコンバレーでは、もはや「本物のベンチャーキャピタルは死んだ」 / 小さな成功ばかり志向するベンチャー企業

・金融商品化してしまった企業、産業


本書のすべての項目について、すぐに首を縦にふることができたわけではありませんが、様々な視点からの数多くの指摘は、大変勉強になりました。特に、「企業は誰のもの」という議論に、意味はない(株主だけのものでも、従業員だけのものでもなく、すべてのステークホルダーを含めた仕組み)という点は、かねてより考えていたことと同じであり、心から納得できるものでした。

ところで、本書には、昨今、話題となっている社外取締役の議論についての安易な制度設計論に対する警告も含まれているように考えます。詳しくは本書を参照していただきたいのですが、少し触れさせていただきます。実際に多くの、そして様々なステージの欧米企業の社外取締役を務めた筆者は、社外取締役が過半数というアメリカ型のコーポレート・ガバナンスは、実際には機能しないと主張されています。それは、結局、(このような制度を採用したとしても)原則論とかけ離れ、CEOが推薦した人が社外取締役として選ばれることが多く、馴れ合いが生じることが少なくない上、仮に株主の意向を反映する人が社外取締役に就任したとしても中長期の視野に立った経営より、短期的に株価を上げるような施策を望むことが多いからであると述べています。日本の会社法の制度設計論が、このような現場の声を無視した頭でっかちの議論とならないことを望みます。

ちなみに、この本にiPodは少し出てきますが、2007年1月に発表され同年6月から発売が開始されたiPhoneとその後のアップル社の大躍進については出ていません。クラウドという言葉もありません。個人的には、筆者に、お金目当てで経営をしているとはとても思えない天才的経営者に率いられているアップル社が今のiPhoneやMac Book 等の魅力的なApple製品群を提供している現状について、その評価をお聞きしてみたいです。筆者の造語であるPUC(パーベイシブ・ユビキタス・コミュニケーションズ)に今のところ一番近いのもiPhoneだと思われますので、こちらの観点からもお聞きしてみたいです。

ベンチャー企業におけるベンチャー・キャピタルから派遣される社外取締役の役割


ベンチャー企業の社外取締役として、ベンチャー・キャピタルから派遣される取締役がいます。今回は、このベンチャー・キャピタルから派遣される取締役の役割について、考えたいと思います。

そもそも、なぜベンチャー・キャピタルは、投資契約書に取締役派遣条項を入れようとするるのでしょうか。それは、主に以下の2つの役割が考えられます。

1 適切な経営が行われているか、チェックする
2 株主として、企業価値が上がることに貢献できる可能性を見逃さない

1の「適切な経営が行われているか、チェックする」というのは、決して現実に経営全般を監視することを意味するわけではありません。理想としては、経営全般の監視ができれば良いでしょうけれども、1人の社外取締役が為し得る現実としては、(i)月次決算や事件・事故の報告を受けて、売上や費用の変動及びその原因を知ること(過去業績情報の収集及び分析)、(ii)各プロジェクトの進捗状況、製品やサービスの内容やリリースの見込みを知ること(将来業績予測に関わる社内情報の収集及び分析)、(iii)既存及び新規の取引先との取引・交渉の状況、新規事業・製品・サービスの内容や見込、顧客・潜在顧客動向、ライバル社・競合製品・新規参入の動き等の分析・検討(将来業績予測に関わる社外情報の収集及び分析)にかかわることにより、会社が健全に発展する様に指導し、代表取締役の決断を支援するということになるでしょう。通常は、変なお金の動きがないか、投資した資金が有効に使用されているか(投資した資金の想定外の使用も問題であるが、資金を使用しないことも問題。使用しない問題については、こちらを参照「ベンチャー企業のお金の使い方」)といった点に焦点をあててチェックすることが多いと思います。勿論、ベンチャー・キャピタルから派遣された社外取締役とはいえ、オフィス内に机があり、週に2~3日以上のペースで業務に携わっている方もおられますので、一概に言えるものではなく、より広範囲に監視等されているケースもあるかと思います。

社外取締役がチェックすることの動機・背景事情には、ベンチャー・キャピタル・ファンドへの出資者(投資家=LP:有限責任組合員)への説明義務があります(株主として会社が健全に成長することへ期待しているのは勿論です。)。ベンチャー・キャピタルとしては、投資先企業から話を聞いて、ファンドの出資者に報告できるようにする必要があります。(なお、実務上、VCのLPへの説明責任と、取締役としての善管注意義務・守秘義務の抵触といった問題が生じることがあり、悩ましい局面が生じることがあります。投資契約書等で予め解決しておくのがよいでしょう。)従って、ベンチャー・キャピタル側としては、ファンドの出資者にきちんと説明を尽くせる程度に、投資資金の使い道や投資先の状況を把握しておく必要があるのです。

投資先企業の業界については、ベンチャー・キャピタルの担当者もある程度詳しいことが多いですが、普通は投資先企業の社長の方が詳しいものです。ですから、ベンチャー・キャピタルから派遣された社外取締役は、新規のプロジェクトやリリース、製品概要について、余計な口出しをして、イノベーションを抑制するようにならないように心がけていることも多いでしょう。

2の「株主として、企業価値が上がることに貢献できる可能性を見逃さない」とは、何でしょうか。それは株主や当該社外取締役がもっているネットワークや情報、知識、アイディア等によって、事業の効率を高めたり、新規の取引につなげたりすることです。

独立系のベンチャー・キャピタルでは、投資先に取締役を派遣することは少なくなく、多くの派遣取締役がMBAホルダーや事業経営の経験が豊かな方です。この方々は、1のチェック機能が果たせるのは勿論のこと、取締役個人の力量で、マーケティング戦略を立案したり、コストを削減をしたりすることが可能ですので、投資先の企業価値の向上に貢献することが可能です。

また、ベンチャー企業が、商社系のベンチャー・キャピタルからの投資に対し、その親会社となっている商社のネットワークを利用したいという期待を抱くことも少なくありません。実際、商社系のベンチャー・キャピタルが、そのネットワークから投資先のビジネスに有用と思われる人を投資先に紹介することは稀ではありません。

ところで、法制審議会会社法制部会第4回会議(平成22年8月25日開催) の参照資料・部会資料2・「企業統治の在り方に関する検討事項(1)」 【PDF】 には、次のようなくだりがあります。

社外取締役の役割等については,「平時における経営者の説明責任の確保,有事における社外の視点を入れた判断の担保や経営者の暴走等の防止・安全弁といった役割」や,「取締役の業務執行に対する監督に加え,当該社外又は独立取締役の持つ識見等に基づき,外部的視点から,いかに企業価値を高めていくかといった助言機能」等が挙げられている。これらも踏まえると,社外取締役に期待される主な機能については,以下のような整理をすることができるのではないかと考えられる。
① 経営効率の向上のための助言を行う機能(助言機能)
② 経営者の評価・選解任その他の取締役会における重要事項の決定に関して議決権を行使することなどにより,経営全般を監督する機能(経営全般の監督機能)
③ 会社と経営者との取引の承認など会社と経営者等との間の利益相反を監督する機能(利益相反の監督機能)
(引用終わり)


これにあてはめると、私の分析の1「適切な経営が行われているか、チェックする」は強いて言えば②と③に、2「株主として、企業価値が上がることに貢献できる可能性を見逃さない」は①に該当します。とはいえ、②の「重要事項の決定に関して議決権を行使することなどにより」という部分は、ベンチャー企業の社外取締役について言うのであれば、「月次決算や事件・事故等の会社の過去業績に関わる報告を受け、さらに社内及び社外における会社の将来業績に影響を与える情報を収集及び分析する等すること、その他取締役会の様々な意思決定に関与することなどにより」となるのではないかと考えられます。

なぜなら、実務的には、報告事項や事業展開の決定事項に接することへのウェイトが、会社法的な重要事項の決定に対するものと比べると、同じかそれ以上に大きいと思われるからです。例えば、ベンチャー企業では取締役会と株主総会が対立することがないわけではありませんが、代表取締役は、株主の意向で決まることがほとんどで、取締役会の選任・解任が実質的な意味を持つケースはそれほど多くありません。その意味では、代表取締役の選任・解任議案といった重要事項の決定への議決に関わるためというよりか、月次の業績報告を聞くことの方が重要性があります(「企業統治の在り方に関する検討事項(1)」の「平時における経営者の説明責任の確保,有事における社外の視点を入れた判断の担保や経営者の暴走等の防止・安全弁といった役割」というのは意思決定への議決権行使以外の重要性を述べているものだと理解しますが、同資料の分類では少しわかりにくくなってしまっています。)。

この議論がそのまま上場企業、一部上場の巨大企業に当てはまるとは申しませんし、全てのベンチャー企業に当てはまるわけではないと思いますが、近時盛んな社外取締役(強制)導入論についての議論の参考になれば幸いです。特に、この議論を踏まえると、一般論として、社外取締役の条件としては、(1)会計資料等から業績や状況を分析できること、(2)会社のビジネスや業界に詳しいこと、(3) 企業価値の向上が期待できる知識や知恵、ネットワークを持っていること、を挙げることができると考えますが、現実に上場企業がそのような人材を調達するのは現実的か(若しくは、このような条件のいくつかは満たさなくてもよいか)という観点から検討することも必要なのではないかと考えています。

ベンチャー企業のお金の使い方

以前のエントリーでご紹介した『ガズーバ!―奈落と絶頂のシリコンバレー創業記』という本の中に、シリコンバレーで創業したベンチャー企業がベンチャー・キャピタルからの資金調達に成功した後、ベンチャー・キャピタルの担当者からお金の使い方について、指導されるというシーンがあります。
 

「金の使い方が遅い!」と叱られる

昔は投資の目的は「Preservation of Capital」、すなわちインフレで資産が目減りしないようにするのが目的だった。でもVCの投資目的は違う。だから「目的遂行のためにしっかり金を使え! 使ってないってことは何かがおかしい!」という具合になる。必要なコンサルタントはどんどん雇って、プロジェクトをとにかく前へ前へと進めなければならない。(引用終わり)

 
ここには、株式で資金調達した会社やベンチャー・キャピタルからの出資の大きな特徴が出ているように思います。勿論、やみくもにお金を使うことが奨励されているわけではありません。しかし、経営者が自分でコツコツ地道に時間をかけてプロジェクトを進める代わりに、お金を使って効率よくスピードアップする(そして、チャンスを逃さない)ことがこのような世界では求められているように思います。一歩進んで言うなれば、資本効率について、常に株主から強く意識させられているということでしょうか。

この本では、実に様々なコンサルタントが登場します。著者の大橋禅太郎さんは、そのうち1人の会議を効率的に進めるためのコンサルタントから受けたレクチャーを基に、『すごい会議-短期間で会社が劇的に変わる!』という本を出して、その内容でコンサルティングをされている程です。他にも、マーケティング・コミュニケーション、CFO、総務、広報、人材採用と、様々なレンタル人材や、ネーミング、ロゴ、法律家等のコンサルタントが出てきます。こういった人材レンタル文化、コンサルタント文化もシリコンバレーのスタートアップ・サポートの生態系の1つといえるのでしょうね。

日本の製造業系のベンチャー企業で、技術や商品のアイディアは良いが、その他の分野(マーケティングやブランディング、総務、知財戦略から経営そのものに至るまで)はカバーできていないというケースが時々みかけられるように思います。このようなケースでは、極端な話、他からCEOやCFO、その他のプロフェッショナルをレンタルし、創業者兼技術者は、一旦、CTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)等になることも含めて、検討することにより、道が開けることがあるのではないでしょうか。第三者がこのようなことを申し上げるのは筋違いのことも少なくないですが、一度、思考実験だけでもして頂いて損はないかと思います。

エフオーアイ粉飾事件、東証などを損賠提訴


30日の日本経済新聞に、「エフオーアイ粉飾事件、東証などを損賠提訴 株主ら「上場チェック不十分」 」という記事がありました。

東京証券取引所マザーズ上場が廃止となった半導体製造装置メーカー「エフオーアイ」(相模原市、破産手続き中)の粉飾決算事件を巡り、株価下落で損失を被ったとして、同社の株主らが29日、証券会社や東証などを相手取って、総額約2億8千万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。

訴状によると、原告は1人当たり最大で3千万円余りの損失を受けたとして「監査法人、証券会社、取引所の3重チェックは空虚。見抜けない粉飾ではなかっ た」と主張。弁護団は「東証が上場審査について訴訟で責任を問われるのは初めてではないか。審査の信頼を守るためにも、民事で実態を解明したい」としてい る。(引用終わり)


とあります。

この訴訟は、様々な論点が含まれることが予想されますが、証券会社の引受審査が、どの程度行われていれば、免責されるのかという点についての判断がなされる可能性が高く、今後の引受審査の実務に影響を与える可能性があります。

いわゆる継続開示書類と呼ばれる有価証券報告書については、そもそも「主幹事証券会社」という概念もなく、虚偽記載について証券会社が責任を負うということはありません。

しかし、発行市場では、目論見書等や有価証券届出書の虚偽記載について、幹事証券会社(目論見書等の使用者、元引受契約を締結した金融商品取引業者)が責任を負う可能性があります。

この場合、ざっくりと申し上げると、原告(株主)側で、 「重要な事項の虚偽記載等」 + 「損害」 を立証すれば、被告(証券会社)側では、 「虚偽記載等の不知」 + 「相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったこと」を立証しなければ(原則として)免責されません(他にも、取得者が虚偽記載等について知っていた場合に免責される場合があります。)。なお、有価証券届出書の虚偽記載等については、財務計算書類は「虚偽記載等の不知」のみが免責要件となっています。

「相当な注意」とは、どの程度のデュー・ディリジェンスが為されたかという点につきますので、その点の事実の積み上げが裁判の中で明らかになってくるのかもしれません。和解での解決の可能性がどの程度あるかは全く想像できませんが、判決での解決となる可能性も十分にあります。判決が出た場合は、この「相当な注意」とは・・・という点について判示される可能性も十分あり得ると考えます。IPO 関係者やベンチャー・キャピタリストにとって、要注目の裁判となります。

被告当事者は、証券会社の他、役員、監査法人や証券取引所等が挙がっているようですが、免責要件がそれぞれ異なりますし、「不知」の立証も異なるでしょうから、一部の被告のみ責任が認められる可能性もあります。そのあたりも要注目です。

なお、この「相当な注意」についての話は、10月26日(火)の講演でも触れさせていただく予定です。

【追記:10/1】

※ 10月26日(火)の講演は、事前のエントリーが必須となります。エントリーをされていない方は、事前に、当職から池銀キャピタル様に連絡する必要がありますので、必ず御連絡いただきますようお願い申し上げます。当日、エントリー無しにお越しになった場合、入室できない可能性もありますので、御留意下さい。

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