ベンチャー法務の部屋

会社の未来は4つしかない

2010.09.02

みなさんが何かの事業を行うために、会社を設立するとき、会社の未来にどの程度、想いを馳せるでしょうか。

理念や志、経営戦略、ビジネスモデル、事業ドメイン、マーケティング、資金調達、、、etc.起業家や経営者が考えることはたくさんあります。

それらは極めて重要なことばかりであり、実際に起業家や経営者は考えていることでしょう。しかし、会社が順調に成長した場合、どのような未来になるかまで考えられているケースは、多くないように感じます。

事業会社の未来は、基本的に以下の4つしかありません。

① 上場(IPO)
② 買収される(M&A)
③ 事業承継(相続)
④ 破産・清算(事実上の破綻も含む)

そして、この4つの未来のどれを志向するかは、予め決めておいた方がよいでしょう。もちろん、状況に応じて、途中で変わることは十分ありうることですので、実際には、「現時点では」「ざっくりとしたイメージとして」という形になることが多いでしょう。また、ビジネスモデル等の経営戦略によってどれを志向すべきかということが自ずと決まる場合もあり得ます。

①の上場(IPO)とは、基本的には「公の会社になる」ということです。いつでもだれても会社の株式を買ってもよいという状態になりますので、株式市場に対して常に誠実な態度と取らなければなりません。上場には、優れた人材が集まりやすい、市場から資金を調達することができる、上場前からの株主やストック・オプション保有者が上場とともに個人資産を形成できる、会社の事業継続が大株主の相続問題に巻き込まれにくい(全く巻き込まれないわけではない)等といったメリットがあります。一方、重要な会計情報等を開示しつづけなければならないという義務が課されます。したがって、ある程度の規模であることや将来の企業成長が予想されることあることが求められますし、継続開示に耐えうるような社内体制の整備も求められます。社長の地位は、多くの株主に信任が得られそうな人物のなかから現社長や取締役会が選ぶことになります。

②の買収(M&A)とは、基本的には「どこかの会社のものになる」ということです。上場会社の子会社になる場合は、その上場会社の傘下に入るということを意味し、事実上の上場に近い効果もあります。100%子会社になる場合や全部の事業の譲渡の場合では、既存の株主は、これまでの株式に代わって現金や株式を手にすることになります。社長のイスは、親会社の意向で決まります。

③の事業承継(相続)とは、「非公開会社で居続ける」場合です。多くの日本の中小企業がこれに当てはまります。この場合、「次の社長はだれか」という事業経営の後継者の問題と、「大株主の保有する株式をだれが相続するか」という相続問題の両方を解決しなければなりません。

④の破産・清算は、最初から志向する人はいません。夜逃げでからっぽに幽霊会社になるケースもこれに含まれます。破産の場合は、社長も併せて個人破産するケースがほとんどです。利益を生み出す事業が残っている場合は、民事再生や会社更生という手段がとられることもあります。

①から③までのどれを志向するか、明確になっていると、ファイナンスの戦略だけでなく、社内体制の準備もできます。チャンスがあれば、上場することや買収されることを考えている場合、いつ提案があっても、提出を求められた資料を提出できるように資料を整理しておくでしょう。M&Aの場面では、事業の継続性についてのリスク高い場合、売却価格が下がってしまいます。普段からの社内体制の整備しだいで、相当の金額の差になるかもしれません。将来、①のIPOや②のM&Aを考えている場合は、早い段階から弁護士に相談して、ビジネスモデルや契約書、各種議事録をチェックしてもらうことが、外から見た会社のリスク評価を下げることに繋がるのです。

①でも②でもない場合は、会社の主要株主の株式が相続されることに想いを馳せておかなければ、主要株主が亡くなった後に、会社が相続問題に巻き込まれるリスクが高くなります。株式は、法定相続されると、相続人間で共有されてしまいます。100株を保有する株主について相続が生じ、相続人が、妻1人、子2人の場合、その100株は、妻50株、子25株ずつとなるのではなく、その100株総てが共有となってしまうのです。こうなると遺産分割協議か株式の権利の行使者を誰にするかの合意がまとまるまで、原則として権利行使できなくなります。遺言でその株式を誰に相続するかを予め決めておくことが会社を継続することに繋がります。

会社の将来についての戦略をExit戦略等ということもあります。ただ、Exitとはいえ、会社が終わるわけではなく、継続して成長していくために、言わば、どのように脱皮してゆくのか、という観点から今するべきことを決めると考えていただく方がよいかもしれません。

これから起業される方、起業して間もない方におかれても、上記の①から③までのどれを志向するのか、頭の片隅にでも置いていただけると、よいのではないでしょうか。

執筆者
S&W国際法律事務所

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