ベンチャー法務の部屋

投資契約(株式引受契約)や株式譲渡契約における表明保証条項について(その1)

今回は、投資契約(株式引受契約)や株式譲渡契約における表明保証条項について、考えてみます。

過去に、「株式譲渡契約に関する注意点(1)」というタイトルで、当事務所の三村雅一弁護士が、株式譲渡契約について、記載しています。

今回、私は、投資契約(株式引受契約)や株式譲渡契約に必ずといってよいほど、規定される表明保証条項を掘り下げてみたいと思います。

 

1 表明保証条項とは

表明保証条項は、
契約時ないしクロージング時といった一定の時点における契約の前提となる事実(例えば、財務諸表のデータ、法令違反や行政指導の事実の有無、反社会的勢力等との接触の不存在等)、発行会社や経営支配株主(発行会社の代表者であることがほとんどです。)に関する重要な情報で、引受や譲受の判断や、株式の発行価額や譲渡代金等の設定に際して、発行会社等や譲渡人等側が事実の存否・内容を保証するというものです。

また、「すべて真実かつ正確であり、虚偽の事実を含んでおらず、記載すべき重要な事項又は誤解を生じさせないために必要な事実の記載を、欠いていないこと」を、表明して保証するといった文言が頭書に記載されていることが多いです。

 

2 表明保証違反が判明した場合

表明保証違反とは、表明保証が為された時点の後に、表明保証された事実の認識が実際と違っていたことが判明した場合を、意味します。

一般的には、契約書に、表明保証違反の制裁が規定されています。多くは、損害賠償と解除です。また、対価の支払い前に発覚すると、前提条件の不充足として、代金を支払わない(=契約は有効にならない)という形を、とる場合も多いです。

法律上の議論としては、民法に基づく錯誤による無効、詐欺による取消しといった意思表示の欠缺の問題として捉える場合や、瑕疵担保責任や債務不履行等に関する考え方を適用する場合があろうかと思います。

株式引受契約の場合は、会社法第211条第2項によって、錯誤無効や詐欺取消しの主張は、制限されているため、注意が必要です。

 

【会社法第211条第2項】
募集株式の引受人は、第209条の規定により株主となった日から一年を経過した後又はその株式について権利を行使した後は、錯誤を理由として募集株式の引受けの無効を主張し、又は詐欺若しくは強迫を理由として募集株式の引受けの取消しをすることができない。

 

ベンチャー投資実務における投資契約書では、表明保証違反の制裁として、株式引受人(=投資家)の株式買取請求権を、定めていることが多いです。この株式買取請求権が発動すると、発行会社や経営支配株主が、株式引受人(=投資家)が保有している株式を買い取る義務が生じます。株式買取請求権の設計では、発動の条件と株価の定め方がポイントになります。

なお、表明保証違反が瑕疵担保責任や債務不履行に該当するかという問題と、さらに、該当したとしても、表明保証違反の場合の損害とは何かという問題は、法律上、難しい問題が潜んでいますので、今回は割愛します。

 

3 表明保証違反と株式引受人・譲受人(=投資家)側の悪意又は重過失

株式引受人・譲受人の悪意又は重過失がある場合に、補償等を求めることができるかという問題です。

株式引受人・譲受人が、表明保証違反を知りながら、取引を完結して、クロージング後に、発行会社や譲渡人に、表明保証違反に基づく請求をすることは、サンドバッギングと呼ばれています。契約書で、サンドバッギングを認める条項を規定する例は、日本でも、見かけることはありますが、割合的に多くないと思います。また、日本の裁判例では、特に契約書に記載がない場合は、サンドバッギングを否定される方向(=株式引受人・譲受人が、表明保証違反を知っていれば、制裁措置を発動できない)で判断されるケースがほとんどのようです。

したがって、発行会社等についてデュー・ディリジェンスをすればするほど、色々事情を知ることになるわけですから、契約書上も工夫が必要になります。

特に、特定の事項について、リスクがありそうだが、そのリスクの程度や処理にかかるコストがはっきりとはわからない、又は契約当事者間で、意見が違うといった場合は、表明保証に記載し、且つ、その事項だけ抜き出して、特別補償という形で、引受人・譲受人の主観を問題としない補償条項を用意するか、サンドバッギング条項を設けるか、ということになります。

執筆者
S&W国際法律事務所

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