ベンチャー法務の部屋

種類株式の実務的争点(3) 議決権

これまで、種類株式の実務的争点として、(1)で残余財産分配優先を、(2)で配当優先を、取り上げてきました。

今回は、種類株式における議決権について、実務的な争点を検討します。

【目次】
1 残余財産分配優先 ~種類株式の実務的争点(1)~
(1) 種類株式の必須項目
(2) 標準は、払込価額(&調整条項)+参加型
(3) 定款変更案では「株式取得時の1株あたりの払込金額」と記載することは避けた方がよい
2 配当優先 ~種類株式の実務的争点(2) ~
(1) 種類株式の標準項目
(2)  標準的な定め方は、特定された金額(&調整条項)+参加型+非累積
(3)  「株式取得時の1株あたりの払込金額」と定めることは避けた方がよい
(4) 上記以外の配当優先の定め方
(5) 配当の性質とスタートアップ企業の配当方針
3 議決権 ~種類株式の実務的争点(3)<今回> ~
(1)  議決権に関連する会社法の規定
(2)  ベンチャー投資で利用される種類株式の議決権についての実務
(3)  投資契約書等の事前承諾事項と、定款の種類株主総会決議事項の違い
(4)  スタートアップ企業への投資における他の事例

【目次・終わり】

 

(1) 議決権に関連する会社法の規定(1) 議決権に関連する会社法の規定

株式会社は、種類株式の内容として、「株主総会において議決権を行使することができる事項」(会社法第108条第1条第3号)や「株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの」(会社法第108条第1条第8号)について、異なる株式を設計することができます。
他に、会社法第199条第4項、会社法第200条第4項、会社法第238条第4項又は会社法第239条第4項によって、必要とされる種類株主総会決議を不要とする旨や、会社法第322条第2項に基づき同条第1項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができます。

(2)  ベンチャー投資で利用される種類株式の議決権についての実務

実務上、VCからスタートアップへの投資では、議決権については、特に種類株主総会決議事項を定めず、特別の定めを置かないか、置くとしても「A種優先株主は、当会社株主総会において、A種優先株式1株につき1個の議決権を有する。」程度の規定を置くスタイルが多数派であるように思います。
種類株主総会決議事項が活用されることが少ないことの理由としては、VC側として、事前にVCの承諾を得て欲しい事項であっても、投資契約書か株主間契約書で、事前承諾事項として定めておけば、スタートアップへの実務的な拘束としては十分という判断があるように思います。

(3) 投資契約書等の事前承諾事項と、定款の種類株主総会決議事項の違い

契約書で、事前承諾事項として定める方法と、種類株式の内容として、種類株主総会決議事項として定める方法の違いは、前者は、いわゆる債権的効力しかないのに対し、後者は、決議が不存在の場合に会社法上無効であるということがあります。
後者(定款の種類株主総会決議事項)は、ある意味、効力が強すぎて、手続が手落ちになってしまうと、無効であり、たとえ種類株主であっても、意思表示のみで、遡及的に有効にすることは難しいからです。手続のミスがあると、登記もとおらないでしょう。
前者(契約書の事前承諾事項)では、債権的な効力しかありませんので、後から手続がミスで手落ちであっても、契約当事者が事後的でも承諾すれば(承諾が得られれば、ですが)、基本的に問題なく、手続が進んで行きます。加えて、事業会社が、意図的に、予め契約書で、事前承諾事項として定めて合意をしていたのに、VCの承諾を得なかった場合のサンクションは、日本の投資実務では、ほとんどのケースで株式買取請求権の発動です。株式買取義務は、かなり重いサンクションですので、抑止力として機能しているのでしょう。

(4) スタートアップ企業への投資における他の事例

議決権に関する定めとして、私が体験してきたものについて、上記の他には、①事業会社(上場企業)からの投資で、連結させたくない、持分法適用会社にしたくない等の理由で、無議決権にするパターン、②エンジェルからの投資で、シェアも大きくないので、個々の総会決議に、毎回反応するのが面倒である(発行会社側に負担をかけたくない)という理由で、(個人でありVCファンドのようにLPへの説明責任もないこともあって)無議決権でよいというパターン、③種類株主のシェアがそれなりに大きく、投資した金額やバリュエーションもそれなりに高いため、種類株主総会決議事項を定めるパターン、④募集株式や募集新株予約権の発行の手続を簡便にするために、普通株主を構成員とする種類株主総会の決議を不要とするパターンが、それなりに見かけます。

議決権は、その後のオペレーションにもかかわるところであり、会社の支配権や企業再編などの意思決定にかかわるところでもありますので、ベンチャー投資を専門に扱う弁護士と相談の上、設計されることが望ましいです。

 

執筆者
S&W国際法律事務所

お問い合わせ
メールでお問い合わせ
お電話でお問い合わせ
TEL.06-6136-7526(代表)
電話/平日 9時~17時30分
(土曜・日曜・祝日、年末年始を除く)
page top