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ベンチャー法務の部屋

インターネット上の表現をめぐる法的問題

1 はじめに

近時、テレビに出演していた方が、インスタグラム等のSNS上で、一般の不特定多数の者から、テレビ番組の内容に関連し、誹謗中傷を受け、急逝したとされる報道がありました。

この報道後、ネット上の誹謗中傷への規制強化が法整備によって進めるべきという論調が高まり、実際、そのような動きがあるとのことです。

このニュースでは、さまざまに考えさせられることがありました。
その中で、今回、民間のSNS等のプラットフォーム上でなされた表現への規制について、論点を整理し、SNS事業者がとるべき姿勢についても若干の考察を加えてみたいと思います。

2 表現の自由に対する規制

表現の自由は、日本国憲法第21条第1項に明示的に保障されています。したがって、誹謗中傷と評価されうるようなものであっても、これを規制するには、それ相応の合理性が必要であり、また、その合理性の中身も類型化等の議論が十分になされる必要があり、安易に理由があるからといって表現への規制を強めてよいというものではありません。

実際の、表現への規制としては、(ここでは、公権力によるものか、民間のプラットフォーム事業者によるものかを区別しないとすると)

内容面に注目すれば、
・他の権利を侵害するものへの規制(名誉、プライバシー権等への権利侵害行為や犯罪行為などの他、運営の妨害を導くものやウイルスプログラムの送信行為など)
・いわゆるパターナリスティックな制約(わいせつ表現規制、児童ポルノ規制など)
・政治的社会的に不適切と考えられている類型の表現への規制(人種や障碍の有無等への差別用語の規制等)
・社会的利益への配慮から生じる規制(営業的表現への景観配慮の観点からの規制など)
が考えられ、

方法面について、分類するとすれば
・公権力による規制か、民間事業者による規制か
・公権力による規制の中で、直接規制(さらに表現内容規制や表現内容中立規制か)か、民間事業者によるプラットフォーム運営を規制することによる規制か
・ 民間事業者による規制の中で、純粋な自主規制か、いわゆる共同規制(法令や行政指導などで一定の枠づけを行い、事業者がその範囲内で自主的な規制を行う場合)
・事前規制か事後規制か(公権力による規制と民間事業者による規制のいずれでも生じる。)
・刑事罰か民事上の損害賠償請求、差止請求、削除請求か
等の分類方法が考えられるでしょう。

「事前規制」は、従前、新聞、雑誌その他の出版物や放送等の表現物がその自由市場に出る前に抑止するような場合が想定されていますが、いわゆるアーキテクチャによる規制も、この事前規制に含まれるでしょう。 アーキテクチャによる規制は、何らかの主体の行為を誓約し、またはそれを可能にする物理的・技術的構造によって規制することであり、インターネット関係では、一定の用語や画像について、入力したり、アップロードしたりすることをできなくする仕組みが取り入れられています。児童ポルノブロッキングが典型例と言えます。

これらの区分は、ざっくりとしたものであり、必ずしも、憲法学等で議論されている厳密な分類ではないことは、ご了承ください。

今、議論されているのは、発信者情報開示をよりスムーズにできるようにするという議論は、 民間事業者によるプラットフォーム運営を規制すること等の方法で、事後的な、民事上の損害賠償請求、差止請求、削除請求や、刑事告訴等を、よりスムースに行うことで、 名誉棄損等を減らそうというものになると分類できるでしょう。

3  SNS事業者がとるべき姿勢

2017年1月31日のグーグル検索結果削除請求事件の最高裁決定を深掘りすることは、ここでは重いテーマですので、他に委ねますが、今もって、検索結果の削除を含め、ネット上の情報の削除義務を課すとは、法的にどのように理解すればよいか、については、はっきりしていない部分があり、今後の議論にゆだねられている問題であるように思われます。

一つ言えるのは、自主的な アーキテクチャによる規制や削除が過度であるとして、違法と評価されている例はないと思われる反面、SNS事業者が放置した表現については、(それがある程度、表現の自由として保護されるとしても)その後に、削除要請への自主的対応や発信者情報開示等への対応もあり、それ相応の手間と社会的配慮が必要になります。

実際上は、
・利用規約における禁止事項への反映
・アーキテクチャによる規制
・削除要請・退会要請のプラットフォーム
・「ブロック」機能等の充実
・ 利用規約等における開示要請への対応への同意取得
などが考えられるでしょう。

SNS事業者は、 その規模の拡大とともに、積極的に、上記の方策を導入しつつ、具体的に規制対象とすべき内容をどのようなものとすべきか、という点について、社会情勢を踏まえて、検討をし続けるということは、今後、ますます求められていくだろうと思われます。

4 その他

一部の意見では、匿名による表現は、表現の自由の埒外とすべき、といった議論も見受けられます。しかし、そもそも何をもって、匿名というのか、という議論は難問です。しかも、匿名というだけで、一切、表現の自由の埒外とすることは、表現の自由への規制としては、過度に広範ではないかと思われ、さらに、実際に、例えば、SNS事業者は、匿名での発言を禁じる旨の規定を利用規約に置き、これに違反するものを発見した場合は、退会させないといけない等といった、間接規制を設けたとしても、どれほど実効的に防げるのかは、別の問題として浮上してくると思われます。

さらに、従前からある別の問題として、日本国憲法第21条第2項で「 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。 」と定められていることをうけて、電気通信事業者は、「電気通信事業者の取扱中に係る通信は、検閲してはならない。」(電気通信事業法第3条) 「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。」 (電気通信事業法第4条第1項) として、検閲の禁止や、通信の秘密を守る義務が課せられています。このことと、SNS上のコミュニケーションに対する直接規制、特にダイレクトメール等の内容に基づいて規約違反等として、強制的に退会させることやアーキテクチャによる規制が、どの程度許されるのかといった論点は、難題であり、ここでは、取り上げきれない問題として残っていると思われます。

以上、本稿は、筆者の個人的見解であって、所属するS&W国際法律事務所その他の団体を代表する見解や意見ではないことを、ご了解ください。

参考文献:曾我部真裕著『インターネット上の表現をめぐる法的問題について』(「司法研修所論集2019(第129号)」(司法研修所)45頁以下)、芦部信喜著「憲法第五版」(岩波書店)

(文責:森 理俊)

2020年06月27日 13:35

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