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国際法務の部屋

内定取消しについて

新型コロナウイルスの感染拡大による行動自粛等によって、実体経済に非常に大きな影響を及ぼし始めています。当事務所でも、この事象に関連するご相談も増えつつあります。

 

企業活動においては、景気の先行きが不透明であることから、内定者に対する内定取消しの動きも出ているようです。政府としては、このような動きに対し、内定取消しの防止等について、いくつかの要請を行っています(2020年3月13日付け日本経済新聞電子版「内定取り消し防止、最大限の努力を 政府要請」)。

 

 

本ブログでは、内定取消しの法的側面について、日本法と中国法の観点から、簡単に整理をしたいと思います。

 

 

日本においては、内定の法的性格について、「始期付解約権留保付労働契約」であると考える見解が一般的です(電電公社近畿電通局事件:最高裁第二小法廷昭和55年5月30日判決等)。

すなわち、内定通知によって、内定通知で予定されている日に労働契約は成立するものとし、かつ、採用内定取消事由が生じた場合等には、同契約を解約できるというものです。

採用内定取消事由については、内定通知書に記載しておけば自由に解約できるわけではなく、客観的に合理的で社会通念上相当として是認できる事由が必要であると考えられています。

したがって、「新型コロナウイルスの感染拡大によって景気の先行きが不透明であるから」といった抽象的な理由のみで内定取消しを行った場合には、当該内定取消し(=解約権の行使)が違法と評価される可能性が高いと考えられます。

 

 

中国においては、私の知る限り、日本のように、内定を「始期付解約権留保付労働契約」として捉える考え方が一般的に採用されていません。

以下は私見ですが、中国法実務では、内定について、労働契約はいまだ締結されていない状態であると評価される可能性が高いと考えます。この場合でも、契約締結に近い状態にはありますから、内定取消しには、契約締結上の過失として、契約法42条が適用されると考えます。

すなわち、同条によれば、①契約締結を手段として、悪質な協議を行った場合、②契約の締結に関連する重要事実を故意に隠し、または虚偽の情報を提供した場合、または、③その他の信義誠実の原則に違反する場合には、会社が損害賠償義務を負うことになります。

仮に、「新型コロナウイルスの感染拡大によって景気の先行きが不透明であるから」といった理由で内定取消しをする場合でも、信義誠実の原則に違反すると評価されないよう、丁寧に協議を重ね、できれば内定者の同意を取得して書面化するといった対応が望まれます。

 

(文責:藤井宣行)

2020年03月19日 12:48|カテゴリー:

中国法務

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内定取消、コロナ

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強制労働・児童就労の禁止について

SDGsの目標8では、「すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する」が目標8として掲げられ、同目標のターゲットの8.7では「強制労働を根絶し、現代の奴隷制、人身売買を終わらせるための迅速で効果的措置の実施、最も劣悪な形態の児童就労の禁止・撲滅を保障する。2025年までに少年兵の徴募や利用を含むあらゆる形態の児童就労を撲滅する。」とされています。

 

では、ここでいう、「強制労働」や「児童就労」は具体的にどのように定義されるのでしょうか。

 

まず、「強制労働」とは、処罰や脅威による従業員の意思に反した労働を意味します。そして、「処罰」とは、監禁、暴力による威嚇やその行使、労働者が職場の外に自由に出ることに制限を加えること等を意味します。また、「脅威」の具体例としては、家族に危害を加える旨の脅迫、不法就労を当局に告発する旨の脅迫、労働者を職場に留める目的で行われる賃金不払などがあげられます。

 

次に、「児童就労」は、就業最低年齢を下回る年齢の児童によって行われる労働を意味します。

 

ここで、「就業最低年齢」については、「就業の最低年齢に関する条約第138号」で、最低年齢は原則15歳とされています。ただし、軽労働については、一定の条件の下に13歳以上15歳未満の就労が認められ、危険有害業務については18歳未満の就労が禁止されています。また、開発途上国のための例外として、就業最低年齢は当面14歳、軽労働は12歳以上14歳未満の就労が認められるとされています。

さらに、「最悪の形態の児童労働に関する条約第182号」では、18歳未満の児童による①人身売買、徴兵を含む強制労働、債務労働などの奴隷労働、②売春、ポルノ製造、わいせつな演技に使用、斡旋、提供、③薬物の生産・取引など不正な活動に使用、斡旋、提供、④児童の健康、安全、道徳を害するおそれのある労働が「最悪の形態の児童労働」として定められ、これの禁止と撤廃を確保するために、即時の効果的な措置を求めるとされています。

 

近時、SDGsの普及に伴い、取引基本契約等の中で、「乙は、本件契約書に基づく債務の履行に関連する場合であるか否かを問わず、強制労働、児童労働、外国人労働者の不法就労を行わないとともに、賃金・労働時間を含む従業員の雇用条件については、事業活動を行う各国各地域の法令に準拠するものとする。」などの条項が盛り込まれるケースも見られます。

 

さらに、「乙は、自社、関連会社及び乙の事業、製品またはサービスに関連するサプライヤー、請負業者及びコンサルタント(以下「乙取引先」という)というに対して、本契約書別紙に定める各要求事項を履行させるように努めなければならない」という、いわゆるフローダウン(Flow-Down)条項が盛り込まれるケースもあります。

 

上記条項違反が取引基本契約の解除事由に当たりうるような場合は、重大な影響が出てしまいます。

 

そうすると、海外のサプライチェーンから原材料や製品の供給を受けているような場合は、当該サプライヤーの工場等において上記の定義にあてはまるような強制労働や就業最低年齢を下回る年齢の児童による児童就労が行われていないかをモニタリングしておく必要があります。

 

文責 河野雄介

以上

2020年03月18日 18:11|カテゴリー:

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インドネシア法務③

前回のブログで、ジョコウィ大統領が海外からの投資促進のために法律を改正すると発言してきたこと、そのためにオムニバス法案を国会に提出し、今国会審議の最優先法案にすると発表したことを紹介しました。

今回は、2020年2月12日に、インドネシア政府が国会に提出した雇用創出オムニバス法案について紹介します。

今回取り上げる雇用創出オムニバス法案は、海外からの投資促進を目的としたものであり、11分野の法改正が含まれると言われています。

その中でも企業の事業活動に大きく関係するいくつかの点について改正の概要を紹介します。

 

①中小零細企業法の改定

インドネシアの投資法は、投資活動に対して全ての事業分野が開かれているという原則を定める一方で、一定の閉鎖された事業分野、条件付きで開かれている事業分野を定めています。

条件付きで開かれている事業分野のリストとして、「中小零細企業・協同組合のために留保され又はこれらとのパートナーシップが条件とされている事業分野」のリストが設けられています。

この、「中小零細企業・協同組合」とは、現行の2008年法律第20号に定められた要件、すなわち「純資産100億ルピア(約7,900万円)以下、もしくは年商500億ルピア以下」という要件を満たす個人又は法人をいうとされています。

この法律が、中小規模の外国企業がインドネシアに進出できない大きな要因となっていました。

今回の法案では、中小零細企業の定義を定める条文を撤廃し、代わりに、純資産、年商、投資額、雇用者数によって、事業分野ごとの定義を下位法令で定めるとしています。

これにより、中小企業の要件金額が緩められる可能性があり、外国企業が進出しやすくなると期待されています。

 

②投資活動の基本法の改正

投資活動の基本法である法律2007年第25号も、一部改正される見通しであると言われています。

前述のとおり、現在インドネシアでは、条件付きで開放されている事業分野のリスト(ネガティブリスト)がありますが、500超の事業分野については、内資との合弁が条件とされています。

今回の法案では、ネガティブリストに関する記載を条文から削除しており、代わりに、詳細を大統領規程において定めるとしています。

経済調整府などの説明によると、従来のネガティブリストを改め、政府が投資を優先する分野を打ち出したプライオリティリストを導入する見通しであると言われています。

同調整府によると、優先分野に含まれるものは、ハイテク産業、大規模投資、デジタル産業、労働集約型産業となっています。

なお、ネガティブリストを廃止するのかどうかは、未確定です。

 

③新興企業が外国人の技術者らを雇用する際の規制を緩和する方針

今回の法案では、「スタートアップ」として分類された新興企業は外国人を雇用する際、政府当局の承認は不要とする、とされています。

現行の制度では外国の大使館などを除けば、外国人を雇う予定の企業は外国人雇用計画書(RPTKA)(人数や職務、勤務地、従業員教育などの計画)を当局に提出し、承認を得なければならないとされています。

今回の労働法の改正案の中には、外国のスタートアップについては、外国人雇用計画書(RPTKA)なしでもインドネシアにおいて、外国人が働くことができるといった条文が盛り込まれています。

昨年私がジャカルタに研修に行った際も、フィンテック関連のベンチャー企業が多く誕生しているという話を耳にしましたが、そういったデジタル技術を駆使した企業が多く誕生しているインドネシアでは国内の技術者を巡る激しい争奪戦が行われているようです。

もっともインドネシア国内の技術者の数は決して多くないため、新興企業が外国人の技術者を雇いやすくなることで同企業の発展は加速し、さらにインドネシア国内の技術者が外国人の優秀な技術者から技術を吸収し、さらなる人材育成が可能となると考えられます。

インドネシアには現在、配車サービス大手のゴジェックやインターネット通販大手のトコペディアなど企業価値が10億ドル(約1100億円)を超える「ユニコーン」企業が5社あるなど、東南アジアにおいてユニコーン企業の数は最多です。

そういった土壌があるインドネシアにおいて、外国人雇用に関する規制が緩和され、優秀な人材を確保しやすくなることはとても大きな意味を持つと考えます。

 

④投資の手続について

インフラ開発などの際、中央・地方の両政府の複数の省庁で許認可を得る必要があった投資の手続きを中央に一本化するとされています。

2014年に誕生したジョコウィ政権は、投資を促進するために、投資に関する手続の簡素化に努めてきましたが、今回の法改正で、最短数時間で基本的な投資手続きを完了できるようにするとされています。

 

⑤人件費負担の軽減

現在は、最低賃金が毎年約8%上昇し、経済界から不満が出ており、これが海外からの直接投資の足かせになっていると言われていました。

そこで、最低賃金の伸び率を抑えること、退職時に退職金に加算される功労金も引き下げる、とされています。

 

外資企業からは、インドネシアの投資環境への不満が高まっていましたが、ジョコウィ大統領による大掛かりな法改正に向けた取り組みが評価され、ジョコ政権の継続が決まった2019年4月以降、海外企業からの大型投資が表明されています。

前回のブログでは、2020年1月に、ソフトバンクグループが、インドネシアの首都移転計画に最大400億ドルを投資することを提言したとの報道があったことを紹介しました。

それ以外にも、例えば、トヨタは2019年6月、部品各社を含むグループ全体でインドネシアに約2100億円を投じる計画を表明しました。

韓国現代自動車も15億5千万ドルで電気自動車に対応する新工場の建設を計画しています。

シンガポールに本社を置くグラブも20億ドルを投じる方針を打ち出しました。

 

このように、インドネシアは海外からの投資促進のために積極的な姿勢を明らかにしています。

今後も引き続き情報をアップデートしたいと思います。

 

(文責:三村雅一)

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