国際法務の部屋

債務不履行企業の法定代表者以外の者が制裁対象とされるリスクについて

2018.08.03

はじめに

本稿は、中国最高人民法院の判例をもとに、判決により確定された義務を意図的に履行しない被執行人が企業である場合、その法定代表者以外の者が制裁対象とされるリスクについて検討します。

判例紹介:(2017)最高法執復73号

日系企業A社(シンガポール法人)が中国企業B社を訴えた国際貨物売買契約紛争案件において、山東省高級人民法院は、B社がA社に対し貨物代金X米ドルを支払うと判決を下しました。

B社が所定期間内に上述した金銭債務を履行しないため、A社は強制執行を申請しました。強制執行期間中、B社が依然として金銭債務を履行せず、それにもかかわらず、法定代表者の変更手続を行いました。

A社の申請を受け、山東省高級人民法院は、B社の元法定代表者Cが、B社が本件債務を履行する否かに影響を及ぼす直接責任者であると認定し、Cに対する出国制限措置を命じました。

Cは当該命令に不服申立てし、最高人民法院に対し再審査を提起しました。最高人民法院は審査を経て、Cの請求を却下しました。

解説

出国制限については、中国民事訴訟法255条によれば、被執行人が法律文書により確定された義務を履行しない場合、人民法院は、当該被執行人に対して出国制限を行うことができるとされています。

そして、最高人民法院が制定した、「『民事訴訟法』の執行手続の適用における若干問題に関する解釈」(以下「執行司法解釈」)によれば、被執行人が単位である場合、その法定代表者、主要責任者または債務履行に影響を及ぼす直接責任者に対して出国制限を行うことができる(執行司法解釈37条)とされています。

判決より確定された義務を履行しない企業の法定代表者が、相手方当事者から出国制限措置の申請または人民法院による職権判断により出国制限をされてしまうリスクについて、2018年4月4日に本ブログに掲載した「中国における民事訴訟と出国制限リスクについて」で解説しました。法定代表者のほか、単位の主要責任者、債務履行に影響を及ぼす直接責任者も、執行司法解釈37条により出国制限措置の対象とされています。

本判例において、最高人民法院による調査で、①Cが本件取引のB社側の決定者であること、②本件紛争発生時、CがB社の法定代表者を務めていたこと、③強制執行申請時、Cが債務履行についてA社と協議し続けたことを判明したうえ、CはB社が本件債務を履行するか否かについて決定的な影響力を有する人物であると認定しました。その結果、Cが執行司法解釈37条に定める「債務履行に影響を及ぼす直接責任者」とされ、出国制限措置を命じられました。

出国制限の制裁対象のほか、最高人民法院が制定した、「被執行人による高度消費への制限に関する若干規定」(以下「消費制限司法解釈」という)によれば、判決より確定された義務を履行しない被執行人による9種類の消費が制限されます。被執行人が法人の場合、その法定代表者、主要責任者、債務履行に影響を及ぼす直接責任者、実質的支配人が前述した消費制限を受けることとなります。9種類の消費制限のうち、飛行機や新幹線(中国語:高鉄)のチケットを買えないことや、星付のホテルに泊まることができないことは、業務および生活に多大な影響を与える制裁措置といえます。消費制限司法解釈の詳細は、2018年7月10日に本ブログに掲載した「情報化社会とともに進む中国の執行に関する最新動向(その二)」をご参照ください。

上述した法定代表者以外の者が出国制限または消費制限の対象とされることは、法律上可能ですが、実務上、その判例はあまり見当たりませんでした。主要責任者、債務履行に影響を及ぼす直接責任者、実質的支配人をどう認定するか、裁判上まだ明確な基準はありませんが、本判例は最高人民法院による執行に関する再審査裁定という珍しい手続によるものであり、その認定が他の人民法院の判断にあたっても参考にされると思われます。近年、最高人民法院が「執行難」を解決することに努めており、法律文書より確定された義務を意図的に履行しない被執行人を厳しく制裁している背景からすると、今後、本判例のように、法定代表者以外の者を制裁対象とする裁判例が増えると思われます。

(文責 李航 中国弁護士)

執筆者
S&W国際法律事務所

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