国際法務の部屋

内定取消しについて

2020.03.19

新型コロナウイルスの感染拡大による行動自粛等によって、実体経済に非常に大きな影響を及ぼし始めています。当事務所でも、この事象に関連するご相談も増えつつあります。

企業活動においては、景気の先行きが不透明であることから、内定者に対する内定取消しの動きも出ているようです。政府としては、このような動きに対し、内定取消しの防止等について、いくつかの要請を行っています(2020年3月13日付け日本経済新聞電子版「内定取り消し防止、最大限の努力を 政府要請」)。

本ブログでは、内定取消しの法的側面について、日本法と中国法の観点から、簡単に整理をしたいと思います。

日本においては、内定の法的性格について、「始期付解約権留保付労働契約」であると考える見解が一般的です(電電公社近畿電通局事件:最高裁第二小法廷昭和55年5月30日判決等)。

すなわち、内定通知によって、内定通知で予定されている日に労働契約は成立するものとし、かつ、採用内定取消事由が生じた場合等には、同契約を解約できるというものです。

採用内定取消事由については、内定通知書に記載しておけば自由に解約できるわけではなく、客観的に合理的で社会通念上相当として是認できる事由が必要であると考えられています。

したがって、「新型コロナウイルスの感染拡大によって景気の先行きが不透明であるから」といった抽象的な理由のみで内定取消しを行った場合には、当該内定取消し(=解約権の行使)が違法と評価される可能性が高いと考えられます。

中国においては、私の知る限り、日本のように、内定を「始期付解約権留保付労働契約」として捉える考え方が一般的に採用されていません。

以下は私見ですが、中国法実務では、内定について、労働契約はいまだ締結されていない状態であると評価される可能性が高いと考えます。この場合でも、契約締結に近い状態にはありますから、内定取消しには、契約締結上の過失として、契約法42条が適用されると考えます。

すなわち、同条によれば、①契約締結を手段として、悪質な協議を行った場合、②契約の締結に関連する重要事実を故意に隠し、または虚偽の情報を提供した場合、または、③その他の信義誠実の原則に違反する場合には、会社が損害賠償義務を負うことになります。

仮に、「新型コロナウイルスの感染拡大によって景気の先行きが不透明であるから」といった理由で内定取消しをする場合でも、信義誠実の原則に違反すると評価されないよう、丁寧に協議を重ね、できれば内定者の同意を取得して書面化するといった対応が望まれます。

執筆者
藤井 宣行
マネージング・パートナー/弁護士

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