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国際法務の部屋

インドネシア法務③

前回のブログで、ジョコウィ大統領が海外からの投資促進のために法律を改正すると発言してきたこと、そのためにオムニバス法案を国会に提出し、今国会審議の最優先法案にすると発表したことを紹介しました。

今回は、2020年2月12日に、インドネシア政府が国会に提出した雇用創出オムニバス法案について紹介します。

今回取り上げる雇用創出オムニバス法案は、海外からの投資促進を目的としたものであり、11分野の法改正が含まれると言われています。

その中でも企業の事業活動に大きく関係するいくつかの点について改正の概要を紹介します。

 

①中小零細企業法の改定

インドネシアの投資法は、投資活動に対して全ての事業分野が開かれているという原則を定める一方で、一定の閉鎖された事業分野、条件付きで開かれている事業分野を定めています。

条件付きで開かれている事業分野のリストとして、「中小零細企業・協同組合のために留保され又はこれらとのパートナーシップが条件とされている事業分野」のリストが設けられています。

この、「中小零細企業・協同組合」とは、現行の2008年法律第20号に定められた要件、すなわち「純資産100億ルピア(約7,900万円)以下、もしくは年商500億ルピア以下」という要件を満たす個人又は法人をいうとされています。

この法律が、中小規模の外国企業がインドネシアに進出できない大きな要因となっていました。

今回の法案では、中小零細企業の定義を定める条文を撤廃し、代わりに、純資産、年商、投資額、雇用者数によって、事業分野ごとの定義を下位法令で定めるとしています。

これにより、中小企業の要件金額が緩められる可能性があり、外国企業が進出しやすくなると期待されています。

 

②投資活動の基本法の改正

投資活動の基本法である法律2007年第25号も、一部改正される見通しであると言われています。

前述のとおり、現在インドネシアでは、条件付きで開放されている事業分野のリスト(ネガティブリスト)がありますが、500超の事業分野については、内資との合弁が条件とされています。

今回の法案では、ネガティブリストに関する記載を条文から削除しており、代わりに、詳細を大統領規程において定めるとしています。

経済調整府などの説明によると、従来のネガティブリストを改め、政府が投資を優先する分野を打ち出したプライオリティリストを導入する見通しであると言われています。

同調整府によると、優先分野に含まれるものは、ハイテク産業、大規模投資、デジタル産業、労働集約型産業となっています。

なお、ネガティブリストを廃止するのかどうかは、未確定です。

 

③新興企業が外国人の技術者らを雇用する際の規制を緩和する方針

今回の法案では、「スタートアップ」として分類された新興企業は外国人を雇用する際、政府当局の承認は不要とする、とされています。

現行の制度では外国の大使館などを除けば、外国人を雇う予定の企業は外国人雇用計画書(RPTKA)(人数や職務、勤務地、従業員教育などの計画)を当局に提出し、承認を得なければならないとされています。

今回の労働法の改正案の中には、外国のスタートアップについては、外国人雇用計画書(RPTKA)なしでもインドネシアにおいて、外国人が働くことができるといった条文が盛り込まれています。

昨年私がジャカルタに研修に行った際も、フィンテック関連のベンチャー企業が多く誕生しているという話を耳にしましたが、そういったデジタル技術を駆使した企業が多く誕生しているインドネシアでは国内の技術者を巡る激しい争奪戦が行われているようです。

もっともインドネシア国内の技術者の数は決して多くないため、新興企業が外国人の技術者を雇いやすくなることで同企業の発展は加速し、さらにインドネシア国内の技術者が外国人の優秀な技術者から技術を吸収し、さらなる人材育成が可能となると考えられます。

インドネシアには現在、配車サービス大手のゴジェックやインターネット通販大手のトコペディアなど企業価値が10億ドル(約1100億円)を超える「ユニコーン」企業が5社あるなど、東南アジアにおいてユニコーン企業の数は最多です。

そういった土壌があるインドネシアにおいて、外国人雇用に関する規制が緩和され、優秀な人材を確保しやすくなることはとても大きな意味を持つと考えます。

 

④投資の手続について

インフラ開発などの際、中央・地方の両政府の複数の省庁で許認可を得る必要があった投資の手続きを中央に一本化するとされています。

2014年に誕生したジョコウィ政権は、投資を促進するために、投資に関する手続の簡素化に努めてきましたが、今回の法改正で、最短数時間で基本的な投資手続きを完了できるようにするとされています。

 

⑤人件費負担の軽減

現在は、最低賃金が毎年約8%上昇し、経済界から不満が出ており、これが海外からの直接投資の足かせになっていると言われていました。

そこで、最低賃金の伸び率を抑えること、退職時に退職金に加算される功労金も引き下げる、とされています。

 

外資企業からは、インドネシアの投資環境への不満が高まっていましたが、ジョコウィ大統領による大掛かりな法改正に向けた取り組みが評価され、ジョコ政権の継続が決まった2019年4月以降、海外企業からの大型投資が表明されています。

前回のブログでは、2020年1月に、ソフトバンクグループが、インドネシアの首都移転計画に最大400億ドルを投資することを提言したとの報道があったことを紹介しました。

それ以外にも、例えば、トヨタは2019年6月、部品各社を含むグループ全体でインドネシアに約2100億円を投じる計画を表明しました。

韓国現代自動車も15億5千万ドルで電気自動車に対応する新工場の建設を計画しています。

シンガポールに本社を置くグラブも20億ドルを投じる方針を打ち出しました。

 

このように、インドネシアは海外からの投資促進のために積極的な姿勢を明らかにしています。

今後も引き続き情報をアップデートしたいと思います。

 

(文責:三村雅一)

インドネシア法務②

先日のブログ(https://www.swlaw.jp/cross_border_blog/%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%83%89%e3%83%8d%e3%82%b7%e3%82%a2%e6%b3%95%e5%8b%99/)でも紹介したとおり、私は昨年10月に、インドネシアのジャカルタにあるMartia & Anggraini Partnershipにおいて研修をさせて頂きました。

今回は、インドネシアに関する情報を紹介します。

現在2期目を務めるジョコウィ大統領は、建国100周年にあたる2045年には、GDPが7兆ドルに達し、経済で世界5位に入る、貧困率も0%とする、という目標を掲げています。目標達成に向けたジョコウィ大統領の動きはニュースでも紹介されています。

1 ジャカルタからカリマンタン島東カリマンタン州への首都移転計画

昨年8月には、インドネシアの首都を現在のジャカルタからカリマンタン島(ボルネオ島)の東カリマンタン州に移転させることが決定されました。

首都移転の理由は、現在の首都ジャカルタに経済機能やインフラ上の負担が増加しており、ジャワ島に全人口の54%、GDPの58%が集中していることなどから、政府としてジャワ島とジャワ島外の格差是正を図る必要があることなどが説明されています。

また、カリマンタン島を選定した理由としては、自然災害のリスクが少ないこと、全国土の中央に位置すること、インフラが比較的整っていること、18万ヘクタールの利用可能な用地があること等が挙げられています。

なお、首都移転後も引き続きジャカルタが経済活動の中心と位置付けられ、首都は政治機能の中心として位置づけられるとされています。

今後、2024年中には政府機関の移転を開始する予定であるとのことです。

この首都移転には、466兆ルピア(約3兆4,484億円、1ルピア=約0.0074円)の費用がかかると見込まれているところ、ジョコウィ政権は、特に海外からの投資を呼び込むために国際的な著名人を首都移転を促進する運営委員会のメンバーに任命して、首都移転の「顔」として投資誘致に結び付けようとしていると言われています。同委員会のメンバーにはソフトバンクの孫会長、英国のトニー・ブレア元首相、アラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド・アブダビ皇太子等が任命されたことが明らかにされています。そして、今年の1月には、ソフトバンクグループが、インドネシアの首都移転計画に最大400億ドルを投資することを提言したとの報道がありました。額については明らかになっていないものの、ソフトバンクグループが、インドネシアの首都移転計画に際し、ソフトバンクグループや投資先の持つ人工知能(AI)などを活用し、最先端のスマートシティー作りに協力する予定であると言われています。

2 オムニバス法案

経済成長を進めるため、ジョコウィは海外からの投資促進のため、その妨げとなってきた法律を改正すると発言してきました。そして今年の1月22日には、政府は、投資の支障となっているとされる、内容が重複する法律を置き換え、複数の法令の内容を一本化することを目指すオムニバス法案(一括法案)として国会に提出し、今国会審議の最優先法案にすると発表しました。この法改正は、投資促進を目的として行われる改正であるところ、オムニバス法として整理統合される法案は多岐にわたり、従業員の採用、解雇手続きの簡素化、法人税引き下げを含む税制改革、土地に関する権利の簡素化などの関連1244条項、79法案が対象となっているといわれています。インドネシアの規制や手続は非常に煩雑であると言われているため、日本を含む海外の企業には歓迎される改正であると言われています。この点、マイクロソフトが「オムニバス法」の成立を待って、インドネシアにローカルデータセンターを設立予定と発表するなど、今後インドネシアにおける法整備が進むことで、さらに海外直接投資が増加することが期待されています。今後、上記オムニバス法案の概要についても研究し、ご紹介できればと思います。

(文責:三村雅一)

以上

インドネシア法務

1 はじめに

SDGsシリーズを継続する予定でしたが、一旦お休みをさせて頂き、今回はインドネシアについて紹介します。

当事務所は、昨年の5月28日に、Kelvin Chia Partnershipと業務提携を行いました。(https://www.swlaw.jp/common/img/overseas_network/partnership.pdf

(Kelvin Chia Partnership:https://www.kcpartnership.com/

その後、昨年の秋には、Kelvin Chia Partnershipの弁護士と共に日本で、ASEANにおける現地法人のコンプライアンスに関するセミナーを共同で開催しました。

そういった関係もあり、この度、Kelvin Chia Partnershipと特別な協力関係にあるインドネシアの首都ジャカルタにあるMartia & Anggraini Partnershipにおいて研修をさせて頂きました。

今回の研修は約2週間という短い期間でしたが、同事務所のインドネシア人弁護士と、日本とインドネシアの法制度の違いについてディスカッションをしたり、クライアントとのミーティングに参加させて頂いたり、一緒に現地の日本企業やJETRO、インドネシア商工会議所(KADIN)などを訪問し、現地の日本企業のリーガル面でのニーズ調査を行うなど、非常に密度の濃い研修を行うことができました。

そこで、SDGsシリーズと並行して、インドネシアの法務シリーズもスタートさせたいと考えています。

今回は、インドネシアの概要及びインドネシア経済と日本企業について紹介します。

 

2 インドネシアの基本情報について

日本人にとっては「インドネシア」と聞くと、「バリ島」が真っ先に思い浮かぶのではないかと思います。インドネシアは、約1万4000の島からなる国であり、その面積は191万3580㎢と日本の約5倍の大きさを有しています。私が滞在したジャカルタは、ジャワ島に位置します。

また、人口は約2億6000万人と、中国、インド、アメリカに次ぐ世界で第4番目の数であり、その平均年齢は29歳と若い世代の人口比率が非常に高い国です。

インドネシアの首都ジャカルタにはASEAN本部が設置されており、ASEANの中核として世界に存在感を示している国であると言われています。

 

3 経済について(JETROの情報に基づく)

GDPの成長率は、2014年以降、約5%の成長をキープしています。

2018年の海外からの直接投資受入額は2万9307億ドルで、主な国として、シンガポールから9193億ドル、日本から4953億ドル、中国から2376億ドル、香港から2011億ドル、マレーシアから1775億ドルとなっています。

日本からの投資は、自動車やバイクから、電気、ガス、水道といったインフラ設備や不動産開発にシフトしています。

2024年には、名目GDP額において、インドネシアは5.4兆ドルになると予測されており、これは中国、アメリカ、インド、日本について世界で5番目であるとされています。

また、人口は2030年には3億人に達すると言われています。

ちょうど私がジャカルタに滞在している間に、ジョコウィ大統領の就任式があったのですが、ジョコウィ氏は、建国100周年にあたる2045年には、GDPが7兆ドルに達し、経済で世界5位に入る、貧困率も0%とする、という目標を掲げていました。

 

4 日本との関係

インドネシアに対して投資をしている国として日本が世界で2番目の国となっているように、日本とインドネシアは密接な関係にあると言えます。

まず、インドネシアは親日国として知られています。インドネシア国内で販売される自動車の98%,バイクの99%が日本製と圧倒的なシェアを誇っており、また今年の4月から営業を開始したインドネシア初の地下鉄を含む都市高速鉄道システム(MRT)も日本の全面支援によって完成しました。日本を訪れるインドネシア観光客も急増しており、日本語の学習者数も、現在約75.5万人と世界第2位(2015年、国際交流基金)となっています。ジャカルタのショッピングモールには、我々日本人にも馴染みのある、吉野家、牛角、一風堂、丸亀製麺などなどの日本のレストランも多数あり、日本の食事もインドネシアの方々には好評のようでした。

また、2019年現在、JETROが把握しているインドネシアに進出している日本企業は1574社と言われています。もっとも、実際は2000社以上が進出していると言われており、非常に多くの日本企業がインドネシアに進出しています。

 

5 インドネシアのベンチャー企業

このように、インドネシアという国は、若い力に支えられ、経済的にも成長中の新興経済大国であることが分かります。私は初めてジャカルタを訪れ、高層ビルが立ち並ぶ風景に、人々のパワーに圧倒されました。

また、インドネシアの特徴として、GO-JEK(ゴジェック)をはじめとするベンチャー企業も非常に活発であるという点が挙げられます。

アジアでスタートアップエコシステムが最も活況な国はインドネシアだという記事も見受けられるほどで、Google等の予測では、2025年までに同国のデジタル経済は2018年の約3倍に当たる1000億ドル(約10兆9000億円)規模に達するとされており、インドネシアが将来的に東南アジア最大のデジタル経済市場になるとともに、より多くのインドネシア新興企業が世界のIT業界に参入すると言われています。

私がジャカルタを訪れた際に銀行の方や弁護士、若い起業家等から話を聞いていると、インドネシアで最も成長している分野はフィンテック、特にP2Pレンディングの分野の成長が著しいという話をよく耳にしました。この点については次回以降も紹介したいと思います。

 

今回、僅か2週間でしたが、ジャカルタで研修を行ったことで大きな刺激を受けると共に、この国の可能性を強く感じました。提携先であるKelvin Chia PartnershipやMartia & Anggraini Partnershipの現地弁護士とも協力し、日本からインドネシアに進出を考える企業、既にインドネシアで事業を行っている日本企業、さらにインドネシアから日本に対して進出を考える企業をリーガル面でサポートする体制(インドネシアでの現地法人の設立、英文契約書、インドネシア語契約書のレビュー、労務問題、現地子会社のコンプライアンス体制の強化、各種規制への対応等)を強化したいと考えています。特に、ベンチャー法務をドメインとする当事務所は、インドネシアへの進出を考えるベンチャー企業のインドネシア進出を積極的にサポート致します。インドネシアにビジネスチャンスがあるのか、実際に現地の起業家から情報を得たい、という要望にも対応させて頂きます。

なお、私は、昨日よりインドネシア語のレッスンを受け始めました。来年ジャカルタを訪問する際には、少なくとも自己紹介ぐらいはインドネシア語でできるようになる予定です。

 

(文責:三村 雅一)

2019年11月20日 11:27|カテゴリー:

ASEAN法務

|タグ:

インドネシア、法律、弁護士

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