求職者等セクシュアルハラスメント防止措置の義務化について~”就活セクハラ”にどう備えるか、採用担当者・現場管理職が知っておくべき実務ポイント~

1 はじめに

令和8年10月1日、令和7年に成立・公布された「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第63号)のうち、男女雇用機会均等法に新設される求職者等に対するセクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」といいます。)の防止措置を事業主に義務付ける規定(改正後の男女雇用機会均等法第13条)が施行されました。

この義務は、業種も企業規模も問いません。新卒・中途を問わず採用活動を行う事業主、インターンシップや職場体験を受け入れる事業主など、労働者を雇用するすべての事業主が対象です。

なお、令和8年10月1日には、カスタマーハラスメント対策の義務化も施行されました。当事務所の別稿(【最新法令解説】令和8年10月1日施行「カスハラ対策の義務化」とは?)もあわせてご参照ください。

2 改正法のポイント

(1) 求職者等セクハラ対策が「雇用管理上の措置義務」に

改正法は、男女雇用機会均等法(以下「均等法」といいます。)に新たに第13条を設け、事業主に対し、雇用管理上必要な措置を講ずる義務を課しました。目的は、事業主が雇用する労働者による性的な言動により、求職者等による求職活動等が阻害されることのないようにすることです。具体的な内容は、厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第52号。以下「指針」といいます。)が定めています。

基本の枠組みは、既存の職場におけるセクハラ対策(均等法第11条)と共通です。
つまり「方針を決める→周知する→相談窓口を作る→起きたら適切に対応する」という流れです。既存のセクハラ対策と異なるのは、保護の対象が自社の「労働者」ではなく、労働契約締結前の「求職者等」にまで広がった点です。

(2) 「会社だけ」の話ではない

改正法は、新設された第14条で、国、事業主及び労働者の責務も定めています。事業主は、自社の労働者が求職者等に対して行う言動に注意を払うよう研修等を行うことが求められ、労働者自身も、求職者等への言動に注意を払うことが求められます。

(3) 義務違反の効果

措置義務に違反した場合、均等法上の他のハラスメント対策と同様に、厚生労働大臣による助言・指導・勧告など行政の関与を受け得るほか、勧告に従わない事業主名の公表や、行政への報告拒否・虚偽報告に対する過料といった、均等法の実効性を確保するための仕組みの対象となり得ます。措置義務そのものへの違反について、直接の刑事罰は定められていません。

もっとも、措置が不十分なまま求職者等に被害が生じれば、事業主・行為者が民事上の責任を問われる可能性があります。求職者等とは労働契約関係にないため、労働契約法上の安全配慮義務が当然に適用されるわけではありませんが、行為者本人の不法行為責任(民法第709条)や、事業主の使用者責任(民法第715条)が問題となり得ます。

3 「求職者等」「求職活動等」とは何か? 対象の線引き

(1) 「求職者等」の範囲

指針は、「求職者等」として以下のものを挙げています。

  • 求職の意思を表示している者(自社への応募者)
  • 会社説明会、インターンシップ、職場見学など、採用に資する活動に参加する者
  • 教育実習・看護実習を受講する者

内定者の扱いにも注意が必要です。労働契約の成立が認められる採用内定者は、既存の労働者向けセクハラ対策(均等法第11条)の対象となります。これに対し、労働契約がいまだ成立していない段階の応募者は、「求職者等」に当たります。選考の進行段階に応じて、どちらの規律が適用されるかを、社内で整理しておく必要があります。

(2) 「求職活動等」の範囲

指針が挙げる「求職活動等」の場面には、採用面接、会社説明会、OB・OG訪問、インターンシップ、実習の受講などがあります。

状況としては対面の場面に限らず、Web面接やSNSを通じたやり取りなど、オンラインでの接点も対象です。
また、懇親を目的とした飲食の場であっても、実質的に事業主の採用活動の延長と評価できる場面は含まれ得ることに注意が必要です。

区分含まれる例通常は含まれない例
求職者等自社への応募者、会社説明会・インターンシップ参加者、OB・OG訪問の相手方、教育実習・看護実習の受講者専ら教育を目的とする社会科見学・企業講演会の参加者
求職活動等の場面

採用面接、Web面接、会社説明会、OB・OG訪問、インターンシップ・実習、SNS等オンラインでのやり取り

実質的に採用活動と関連しない、純粋に私的な場での接触

(3) 「性的な言動」とは

指針は、セクハラを、事業主が雇用する労働者による性的な言動により、求職者等の求職活動等が阻害されることと定義しています。「性的な言動」には、次のようなものが挙げられています。

  • 性的な内容の発言
    性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布することなど
  • 性的な行動
    性的関係を強要すること、必要なく身体に触れること、わいせつな図画を配布することなど

同性に対する言動も対象となり、被害を受けた者の性的指向やジェンダーアイデンティティを問いません。

4 企業に義務付けられる措置の全体像

指針が事業主に求める措置は、以下の4点に整理できます。なお、周知の方法(採用サイト、パンフレット、研修等)は、指針上の例示であり、自社の規模や採用活動の態様に応じて選択できます。

(1) 方針を決めて、伝える

  • セクハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者(特に採用担当者、面接官、役員)に周知・啓発します。
  • 性別役割分担意識に基づく言動が、求職者等セクハラの発生の背景となり得ることも、あわせて周知することが望ましいとされています。
  • 行為者に対しては厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を定め、就業規則等に規定したうえで周知します。

(2) 相談できる場所をつくる

  • 相談窓口をあらかじめ定め、求職者等に周知します。採用サイトやパンフレット等で、担当者の連絡先を示しておくことが必要です。
  • 求職者等が、採用の合否を左右し得る人事担当者への相談をためらうことも想定されるため、人事担当者以外の担当者を置くなどの配慮も考えられます。
  • 既存のハラスメント相談窓口と一体的に設けることや、外部機関への委託も可能です。

(3) 起きたら、迅速・適切に対応する

  • 事実関係を迅速かつ正確に確認します。
  • 被害を受けた求職者等に対する配慮の措置を講じます。
  • 行為者に対する措置(懲戒処分等)を講じます。
  • 再発防止策を講じます。事実関係が確認できなかった場合も、同様に再発防止策を講じます。

(4) プライバシー保護と不利益取扱いの禁止

  • 相談者・行為者等のプライバシーを保護するための措置を講じ、その旨を周知します。
  • 相談をしたことや、事実確認に協力して事実を述べたことを理由に、労働者を解雇その他不利益に取り扱ってはならないことを定め、周知します(改正後の均等法第13条第2項)。

(5) 実務上の工夫として指針が示すもの

  • 面談を行う時間・場所をあらかじめ指定しておくこと
  • 複数人で対応する場面をあらかじめ決めておくこと
  • 連絡に使用するSNSの種類をあらかじめ指定しておくこと

なお、定期的な採用活動を行っておらず、求職者等との接触の機会がない事業主については、あらかじめすべての措置を講じていなくても差し支えないとされています。もっとも、採用活動を開始する時点では、必要な措置を整えておく必要があります。

5 実務上のポイント

(1) オンライン化・SNS化への対応

Web面接やSNSでの連絡は、対面の面接と同じく求職活動等の場面に含まれます。面接担当者が私用のSNSアカウントで求職者等に直接連絡を取るような運用は、事後の事実確認を難しくし、業務とプライベートの境界も曖昧になりがちです。連絡に使用するSNSの種類や、私用端末・アカウントの使用可否を、あらかじめ社内ルールとして明確にしておくことをおすすめします。

(2) 内定者との線引きを整理しておく

労働契約の成立が認められる内定者は、既存の労働者向けセクハラ対策(均等法第11条)の対象です。
これに対し、内定前の応募者は「求職者等」として今回の措置義務の対象になります。選考のどの段階からどちらの規律が適用されるかを社内で整理しておくと、相談を受けた際の窓口の振り分けがスムーズになります。

(3) 就業規則・懲戒規程の点検

既存の懲戒事由が「社内の労働者に対する言動」のみを想定していると、求職者等という社外の者に対する言動を理由とする懲戒の根拠が不明確になりかねません。求職者等に対する社会通念上許容されない性的な言動も懲戒事由に含まれるよう、規定を点検しておくことをおすすめします。

(4) 採用活動を行わない期間がある企業も準備を

定期的な採用活動を行っておらず、求職者等との接触の機会がない事業主は、あらかじめすべての措置を講じていなくても差し支えないとされています。もっとも、採用活動を再開・開始する時点では、必要な措置を整えておく必要があります。不定期にしか採用を行わない企業では、この整備が抜け落ちやすい点に注意が必要です。

(5) カスハラ対策とあわせた点検を

同じ令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント対策も義務化されました。採用担当部門の相談体制と、既存のハラスメント相談窓口を一体的に整備するなど、採用担当部門とも連携して、あわせて点検することをおすすめします。

6 まとめ

求職者等セクハラ対策の義務化は、労働契約を結ぶ前の「採用活動の場面」にも、就業環境保護の発想を及ぼすものです。自社の労働者だけでなく、これから労働者になるかもしれない求職者等を、性的な言動から守る体制を整えておくことが求められています。

特に、面談ルールの整備、相談窓口の周知方法、就業規則・懲戒規程の見直しは、法的な検討が欠かせない分野です。当事務所では、方針・規程・マニュアルの整備、採用フローの見直し、個別事案への対応についてご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。

執筆者
マネージング・パートナー/弁護士
藤井 宣行

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