【最新法令解説】令和7年成立の「譲渡担保法」とは?~実務への影響と、企業が今取り組むべき契約見直しのポイント~

経済活動が多様化・複雑化するなか、機械設備や在庫、売掛金といった「動産・債権」を担保にした資金調達(ABL:動産・債権担保融資など)の重要性が年々高まっています。例えば、企業の持つ機械や在庫を担保として融資を受ける「譲渡担保」や、自動車ローンのように代金完済まで売主が所有権を留め置く「所有権留保」といった取引です。
これらは実務上広く使われてきた一方で、これまで日本には譲渡担保・所有権留保を体系的に規律する明文法が存在せず、実務慣行と判例の積み重ねによって運用されてきたため、法的安定性に欠ける点が利用のハードルとなっていました。
こうした背景から、令和3年2月の法務大臣による法制審議会への諮問を経て、担保法制部会における計51回の審議の末、令和7年5月に「譲渡担保法」(正式名称:譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律/令和7年法律第56号、以下「本法」といいます。)が成立し、同年6月6日に公布されました。本法は公布日から2年6か月以内に政令で定める日に施行されるため、遅くとも令和9年12月6日までには施行されることになります。あわせて、動産・債権譲渡特例法(登記制度)や民法、倒産法制などを見直す整備法も同時に成立しています。
なお、本法が対象とするのは、動産・債権その他の譲渡可能な財産を目的とする譲渡担保契約・所有権留保契約が中心であり、不動産などは基本的に対象外です。
現在(令和8年)はまさに施行に向けた準備期間です。本法は原則として施行日前に締結された既存の契約にも適用されますが(附則第2条)、後述のとおり実務上重要な経過措置が複数設けられているため、既存契約と新規契約とで取扱いが異なる点に注意が必要です。今回は、本法の主要なポイントと企業が押さえるべき実務上の影響を解説します。
1 そもそも「譲渡担保」「所有権留保」とは?
本法のポイントを見る前に、実務におけるこれら2つの仕組みを簡単に振り返っておきましょう。
(1) 譲渡担保
債権者が、債務者から目的物の「形式的な所有権」を譲り受けることで担保とする契約です。質権と異なり「占有の移転」が不要であるため、債務者は引き続きその機械や設備を事業に使用しながら資金調達ができるという、中小企業にとって大きなメリットがあります。
(2) 所有権留保
売買契約(割賦販売など)において、商品の引渡し後も代金が全額支払われるまで、売主が商品を引き上げられるように所有権をとどめておく契約形態です。
これまでは、これらの構造(特に形式的な所有権の所在や第三者への対抗要件)に法律上の不明確な部分が多く、紛争の原因にもなっていました。
2 譲渡担保法で実務はどう変わる?4つの重要改正ポイント
今回の法制化は、これまでの判例理論を整理・明文化しつつ、取引の安全性と透明性を高めるための新ルールを導入しています。
まず前提として、基本的なルールが幅広く明文化されました。譲渡担保権者の優先弁済権(第3条)や物上代位(第9条)とともに、譲渡担保権設定者が目的動産をその用法に従って使用・収益できること(第29条。あわせて善管注意義務を負います。)が明記され、譲渡担保の最大の特長が法律上も裏付けられました。また、継続的取引から生じる不特定の債権を担保する「根譲渡担保権」の規律が新設され(第13条〜第26条)、根抵当権と異なり極度額の定めは不要とされたほか(第14条)、その譲渡・分割譲渡や元本確定事由(第26条)も整備されました。在庫や売掛債権にまとめて担保権を設定する集合動産・集合債権譲渡担保についても、範囲の特定方法(第40条・第53条)、設定者の処分・取立権限(第42条・第53条)、担保価値の維持義務(第43条・第54条)などの規定が置かれています。
そのうえで、実務上特に影響の大きい変更点は以下の4点です。
(1) 「占有改定劣後ルール」の導入と対抗要件の明確化
従来、動産の譲渡担保では「占有改定」(外形上の変化を伴わない、当事者間の合意のみによる引渡し)によって第三者への対抗要件を備えることが認められていました。しかし、これでは外部から担保の設定事実が判別しづらく、不測のトラブルを招いていました。
そこで本法では、占有改定によって対抗要件を備えた動産譲渡担保権は、占有改定以外の方法による引渡し(現実の引渡しなど)や動産譲渡登記等によって対抗要件を備えた動産譲渡担保権、動産質権、企業価値担保権などに劣後するという「占有改定劣後ルール」が明文化されました(第36条第1項)。
ただし、対象動産の代金支払債務など「牽連性のある金銭債務」を担保する場合には、第31条・第37条により例外的に優先が認められることがあります。もっとも、これには一定の要件・限度があり、常に優先されるわけではありません(なお、第31条第1項の引渡し不要の対抗力は、施行日前に締結された契約には適用されません。附則第4条)。
既存契約との関係では、重要な経過措置があります。本法の施行日前に占有改定によって対抗要件を備えていた譲渡担保権・留保所有権は、施行日から2年を経過する日までに、附則第5条の適用を受ける譲渡担保(所有権留保)である旨を登記原因として記録した動産譲渡登記・所有権留保登記をすれば、当初の引渡しの時に占有改定以外の方法で対抗要件を備えたものとみなされます(附則第5条)。つまり、本法の施行後2年以内に登記を済ませることで、既存の担保権は占有改定劣後ルールによる不利益を回避し、従来の順位を実質的に保全できます。占有改定に依存してきた既存担保を多く抱える金融機関・事業者にとって、この登記対応は本法施行後の最優先課題の一つといえます。
(2) 複数順位(後順位)の設定が明文で可能に
これまでは、一つの財産に対して複数の譲渡担保権(1番、2番など)を設定することについて明文の法的根拠がなく、登記制度も未整備だったため、実務上は避けられる傾向にありました。
本法(第7条)により、「譲渡担保財産は、重ねて譲渡担保契約の目的とすることができる。」と明記され、複数順位の設定とそれに応じた弁済の仕組みが整備されました。ただし、後順位担保権者が実行する場面では、先順位担保権者の同意が必要となる場合がある点にも留意が必要です。これにより資金調達の柔軟性が向上する一方、順位や同意関係の設計がこれまで以上に重要になります。
(3) 処分・実行ルールの透明化
債務不履行時の実行方法についてもルールが整理されました。まず、第5条は、譲渡担保権者が原則として実行手続きによらなければ譲渡担保財産を処分(譲渡)できないという入口の規定です。実際の実行方式である「帰属清算方式」「処分清算方式」や、実行にあたって譲渡担保権設定者へ通知すべき事項などは、主に第60条・第61条に定められています。
これらの規定により、実行に先立って譲渡担保権設定者への通知が求められます。もっとも、「通知から必ず2週間待たなければ実行できない」という単純な制度ではありません。動産の帰属清算・処分清算では、その効果が生じる時点は、通知の日から2週間を経過した時、または占有改定以外の方法により譲渡担保動産の引渡しを受けた時のいずれか早い時などとされています。いずれにせよ、これまでブラックボックス化していた実行過程が透明化される点は大きな変化です。
また、私的実行に加えて、動産譲渡担保権については裁判所の手続き(民事執行法上の動産競売)による実行も選択できることが明確化され(第72条)、実行の実効性を確保するための保全処分や、実行前・実行終了後の引渡命令といった新たな裁判手続きも創設されました(本法第75条〜第78条)。
(4) 倒産手続きにおける取扱いの精緻化
倒産手続きにおいて譲渡担保権者が(所有者としてではなく)質権者と同様の「担保権者」として扱われることが明文化されるとともに、実行開始前の段階で裁判所が実行の禁止を命じられる制度(実行禁止命令)も設けられました(第97条)。そのうえで、次のような規律が整備されています。
①集合担保の「固定化」ルール
日々内容が入れ替わる集合担保(在庫や売掛金など)について、倒産手続き開始決定後に新たに加入した財産には原則として担保権の効力が及ばないというルールが整備されました(第106条・第107条)。なお、集合債権については、再生手続き・更生手続きの場合に限り、契約で別段の定めをする余地が残されています(第107条第2項ただし書)。ただし、これらの固定化ルールは、施行日前に締結された集合動産・集合債権譲渡担保契約には適用されない経過措置があります(附則第14条)。
②担保権実行手続きの取消命令の新設
再建型の倒産手続き(民事再生など)において、裁判所が一定の要件のもとで、集合動産・集合債権譲渡担保権に関する実行着手の通知等(第66条第1項の通知、集合動産にかかる競売手続き、第94条本文の通知など)の取消しを命じ得る制度が導入されました(第99条以下)。これは事業継続のための在庫・売掛金の確保を可能にするものですが、あくまで実行着手通知等を対象とする限定的な制度です。取消命令の発令前にすでにされた帰属清算の通知、処分清算による譲渡、債権の取立て等の効力までは妨げられない点に注意が必要です。
③超過分の金銭の組入義務
集合動産譲渡担保権の実行により被担保債権が消滅した額が、①目的動産の価額の10分の9、または②実行費用と最優先の集合動産譲渡担保権の元本額の合計額、のいずれか大きい額を超える場合において、その後に法的倒産手続きが開始したときは、その超過額を破産財団等に組み入れなければならないという一般債権者保護のルールが新設されました(第71条等)。ただし、被担保債権が消滅した日から1年を経過した日以後に倒産手続き開始等の申立てがあった場合は、この組入義務の対象から除外されます(第71条第1項ただし書)。なお、この組入義務も、施行日前に締結された集合動産・集合債権譲渡担保契約等には適用されません(附則第8条)。
3 所有権留保契約への影響
本法では、所有権留保契約についても譲渡担保の規定が基本的に準用され、法的な位置づけが「担保権」として明確になりました。
実務上特に注意すべきは、倒産解除特約に関する規律です。第110条は、いわゆる倒産解除特約(買主について再生手続き開始や更生手続き開始の申立てがあったこと、またはその原因となる事実が生じたことを理由に契約を解除できる/当然に解除される旨の特約)を無効とします。ここでは、自動的に解除される「自動解除条項」だけでなく、解除権を発生させる「解除権付与条項」も対象になります。ただし、その対象範囲には次の限定があります。
- 対象となるのは、第2条第16号イの所有権留保契約、すなわち典型的な売主・買主間の所有権留保に限られます。第三者を介在させる三者間の所有権留保型スキームは、第110条の対象外です。
- 無効とされるのは、再生手続き・更生手続きの開始申立て(及びその原因事実)を理由とする特約であり、破産手続き開始の申立てを理由とする解除特約まで一律に無効とするものではありません。
さらに、第110条は本法施行日前にされた所有権留保契約の倒産解除特約には適用されません(附則第16条)。したがって、既存契約の倒産解除特約が施行によって当然に無効になるわけではない点は、特に誤解のないよう注意が必要です。
4 登記制度の拡充──「見える担保」への転換(整備法)
譲渡担保法とあわせて成立した整備法により、動産・債権譲渡特例法(動産・債権譲渡登記制度)(以下「特例法」といいます。)が大きく見直されます。占有改定劣後ルール(前記2(1))の下では登記の重要性が格段に高まるため、実務上はこの登記制度の拡充が本法本体と同じくらい重要です。主な改正点は次のとおりです。
- 譲渡担保権者に関する記録欄が創設され、登記原因を譲渡担保とする登記において担保権者が公示されます。
- 転譲渡担保権の設定の登記、譲渡担保権の移転や担保権者の氏名等の変更の登記が可能になります(特例法第10条の2〜第10条の4)。
- 「競合担保登記目録」が創設され、同一財産上に競合する担保権の関係や、順位変更の合意を登記できるようになります(特例法第10条の5・第10条の6)。前記2(2)の複数順位の設定を支えるインフラです。
- 根譲渡担保権の分割譲渡の登記も可能になります(特例法第10条の7)。
- 動産譲渡登記に準じた「所有権留保登記」が新設されます(特例法第13条の2)。
- 動産譲渡登記の存続期間が10年から20年に延長され、動産の特定方法も緩和されます(所在場所の特定が必須でなくなります)。
このほか整備法では、債権質について質権者が目的債権の全額を取り立てられることの明文化(民法第366条の改正)、再生・更生手続きにおける担保権実行手続きの中止命令の拡充(債権質の実行禁止命令や条件付き発令を可能にする民事再生法第31条・会社更生法第24条の改正)など、計26の関係法律が整備されています。
5 まとめ:今後の実務対応(既存契約の見直し)
譲渡担保法の成立は、金融機関にとっては担保価値の評価や権利実行の予測可能性を高め、企業(特に中小企業やスタートアップ)にとっては自社の資産を活かした安定的な資金調達(ABLの活性化)につながる大きな意義を持ちます。
一方で、本法の適用と経過措置の関係は複雑です。既存契約については、まず適用される経過措置を確認したうえで、実際に見直しが必要な範囲を見極めることが重要です。「既存契約をすべて直ちに新法に合わせて修正しなければならない」というものではありません。むしろ、施行後の新規契約・更新契約・追加担保の設定、登記対応、実行手続きへの対応を中心に、順次整備していくのが現実的です。
企業側の主なチェック項目としては、次の点が挙げられます。
- 担保対象財産の特定(何を、どこまで担保とするか。改正後の特定方法の緩和も踏まえた設計)
- 対抗要件・登記の方針(占有改定に依存していないか、動産譲渡登記・所有権留保登記の活用。特に既存の占有改定型担保は、施行日から2年以内の登記による順位保全〔附則第5条〕の要否を検討)
- 後順位担保の許容と同意手続き(重複設定を認めるか、後順位者の実行通知に対する先順位者の同意〔第67条〕、順位変更合意の登記)
- 処分権限・取立権限の設計(通常営業の範囲、固定化前後の権限〔第42条・第53条・第66条・第94条〕)
- 担保実行の通知・清算金の算定(第60条・第61条への対応)
- 倒産解除特約・期限利益喪失条項の見直し(第110条の適用範囲と経過措置〔附則第16条〕の確認)
- 集合担保の固定化・倒産時対応(第106条・第107条、実行禁止・取消命令、組入義務と各経過措置)
担保法制のパラダイムシフトともいえる今回の改正を資金調達や取引の安定化に活かすには、判例法理の流れと新法の条文、そして経過措置を踏まえた正確な解釈と契約設計が不可欠です。

S&W国際法律事務所


