J-SOXとは?その重要性と対応のポイント

皆さんは、J-SOXという言葉を耳にされたことがあるのではないでしょうか。

今回は、J-SOXの概要や重要性、IPO準備会社としてJ-SOXにどのように向き合うべきか等について紹介します。

1 J-SOXとは

金融商品取引法は、上場会社に対し、事業年度ごとに、財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要なものとして内閣府令で定める体制について経営者が評価した「内部統制報告書」を内閣総理大臣に対して提出することを義務付けています(金融商品取引法第24条の4の4第1項)。

J-SOXの対象企業には、内部統制報告書の作成・提出が義務付けられており、事業年度ごとに財務局へ提出しなければならないところ、これが未提出の場合や、重要事項に関する虚偽記載があった場合などは、違反行為として罰則が設けられています。

この内部統制報告制度はアメリカのSOX法を参考として成立したため、「J-SOX」(日本版SOX法)と呼ばれます。

J-SOXは、金融証券取引所に上場しているすべての企業とその子会社・関連企業を対象とした新たな内部統制ルールとして規定されたもので、2008年4月1日以後に開始する事業年度から導入されています。

2 J-SOXの重要性

内部統制をチェックするための制度であるJ-SOXの重要性を考えるにあたっては、内部統制の目的を知る必要があります。

金融庁が出している「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」によると、

内部統制とは、

  1. 業務の有効性及び効率性(事業活動の目的の達成のため、業務の有効性及び効率性を高めること)
  2. 財務報告の信頼性(財務諸表及び財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性のある情報の信頼性を確保すること)
  3. 事業活動に関わる法令等の遵守(事業活動に関わる法令その他の規範の遵守を促進すること)
  4. 資産の保全(資産の取得、使用及び処分が正当な手続及び承認の下に行われるよう、資産の保全を図ること)

の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセスをいうとされています。

そして経営者は、内部統制の目的を達成するために、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)及びIT(情報技術)への対応、という内部統制の基本的要素が組み込まれたプロセスを整備し、そのプロセスを適切に運用します。

また、内部統制は、社内規程等に示されることにより具体化され、組織内の全ての者がそれぞれの立場で理解し遂行します。

このように、内部統制とは、コーポレート・ガバナンスと共に健全な企業活動を支えるための重要な仕組みであり、企業の発展には必要不可欠です。

そして、J-SOXがその企業の内部統制をチェックするための制度であることに照らせば、企業の発展にとってJ-SOXが重要であることも明らかです。

3 J-SOXにおいて求められる対応

前述のとおり、J-SOXの対象企業の経営者は、内部統制報告書の提出を求められるところ、同報告書には、自社の内部統制に関する評価結果を記載します。

同評価を行う前提として、企業会計審議会の決定にかかる基準・実施基準に合わせて、自社の内部統制の実態を整理し文書化する作業が要求されます。そして、同報告書は、公認会計士または監査法人の監査証明を受けなければなりません(金融商品取引法第193条の2第2項)。

このように、経営者としては、内部統制報告書を作成する前提として、自社の内部統制を適切に設計し、継続的に正しく運用される状態を構築する必要があります。

4 新規上場企業とJ-SOX

2015年5月29日に「金融商品取引法等の一部を改正する法律」が施行されたことにより、新規上場時の資本金が100億円以上又は負債総額が1,000億円以上など、社会に与える影響が大きい企業を除き、新規上場後3年間に限り内部統制報告書に関する監査の免除が受けられます。(金融商品取引法第193条の2第2項第4号)。

この制度は、IPO準備会社の新規上場を促すことを目的として設けられたものですが、ここで免除されるのはあくまで内部統制報告書の「監査」であって、内部統制報告書の「提出」ではない点に注意が必要です。

5 IPO準備会社の内部統制の不備事例

上場審査の基準の中には、企業のコーポレート・ガバナンスや内部管理体制の有効性という項目があるところ、企業の内部統制の不備事例にはどのような内容があるのかについて紹介しますので参考にしてください。

(1)取締役会や監査役会の機能について

  • 取締役会、監査役会が内部統制の整備及び運用を監督、監視、検証していない
  • 取締役会や監査役会において議論するのに必要十分な情報と資料が共有されていない
  • 経理や財務の経験を有する取締役や監査役がいないため、会計処理の適切性に関する判断がされていない

(2)従業員のコンプライアンス意識不足について

  • 会計基準や社内規程、社内手続を遵守する意識の不足

(3)内部監査が機能していない

  • 内部監査責任者や担当者に内部監査や企業の業務の知見がない
  • 会計監査人、監査役、内部監査人の情報共有や連携がなされておらず、三様監査が機能していない

(4)業務プロセスの不備

  • 業務上作成すべき資料、承認者などの業務ルールや社内規程が整備されていない
  • 業務ルールや社内規程が役員や従業員に周知されていない
  • 子会社や新規事業について、事業内容の理解不足、管理体制の構築不全

(5)管理部門における社内管理体制の不備

  • 管理部門に専門的なスキルを有する人員が配備されていない
  • 経理規程、経理マニュアル等が設けられていない

(6)ITシステムに係る不備

  • ITの外部委託に関して、委託契約の締結、更新のルールが管理されていない
  • システムの安全性を確保するために、パスワードの定期更新に関する周知が行われていない
  • アカウント付与基準が未整備

6 まとめ

以上のとおり、J-SOXはIPO準備会社である皆様としても、上場後に必ず直面する問題であり、企業の発展に不可欠な制度です。コーポレート・ガバナンスとも密接にかかわる制度である以上、専門家のアドバイスを受けながら進めていくことをおすすめします。

執筆者
マネージング・パートナー/弁護士
三村 雅一

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