なぜIPOにあたりコーポレートガバナンス・コード対応が重要なのか

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コーポレートガバナンス・コードへの対応は一朝一夕で準備できるものではなく、IPOの数年前から準備を始めていく必要があります。本稿では、なぜIPOにあたりコーポレートガバナンス・コード対応が重要なのか、コーポレートガバナンス・コードとはどのようなものなのかについて説明します。

1 なぜIPOにあたりコーポレートガバナンス・コード対応が重要なのか?

コーポレートガバナンス・コードは、一言でいうと、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえたうえで、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みのことです。

東京証券取引所が、上場会社を名宛人として、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものであり、これらが適切に実践されることは、それぞれの会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られることを通じて、会社、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することになります。

コーポレートガバナンス・コードは、2015年6月1日から施行されており、その後、2018年に1度目の改訂、2021年に2度目の改訂がなされています。

コーポレートガバナンス・コードは、5つの基本原則(①株主の権利・平等性の確保、②株主以外のステークホルダーとの適切な協働、③適切な情報開示と透明性の確保、④取締役会等の責務、⑤株主との対話)、31の原則、47の補充原則で構成されています。

また、5つの基本原則には、それぞれ「考え方」が示されています。

コーポレートガバナンス・コードの名宛人は「上場会社」となっているところ、コーポレートガバナンス・コードへの対応は一朝一夕には難しいことから、IPOを検討されている会社にとっては、IPO準備段階から、コーポレートガバナンス・コードを意識した対応が重要です。

そこで、以下では、具体的に、5つの基本原則の内容をご紹介するとともに、IPOとの関係でも重要となる原則や補充原則をご紹介します。

2 IPOの観点からみるコーポレートガバナンス・コードの基本原則

(1)基本原則1:株主の権利・平等性の確保

基本原則1:株主の権利・平等性の確保では、下記のような定めがされています。

上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。
また、上場会社は、株主の実質的な平等性を確保すべきである。少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。

株主の平等性の点については、たとえば、IPO後は特定の株主のみに承諾権を与えたり、情報提供をすることは避けるべきであるため、株主との契約(投資契約や株主間契約)については、IPOにより自主的に終了させるべきでしょう。

基本原則1に関連して、原則1-3(資本政策の基本的方針)では、下記のような定めがされています。

上場会社は、資本政策の動向が株主の利益に重要な影響を与え得ることを踏まえ、資本政策の基本的な方針について説明を行うべきである。

また、基本原則1に関連して、原則1-6(株主の利益を害する可能性のある資本政策)では、下記のような定めがされています。

支配権の変動や大規模な希釈化をもたらす資本政策(増資、MBO等を含む)については、既存株主を不当に害することのないよう、取締役会・監査役は、株主に対する受託者責任を全うする観点から、その必要性・合理性をしっかりと検討し、適正な手続を確保するとともに、株主に十分な説明を行うべきである。

さらに、基本原則1に関連して、原則1-7(関連当事者間の取引)では、下記のような定めがされています。

上場会社がその役員や主要株主等との取引(関連当事者間の取引)を行う場合には、そうした取引が会社や株主共同の利益を害することのないよう、また、そうした懸念を惹起することのないよう、取締役会は、あらかじめ、取引の重要性やその性質に応じた適切な手続を定めてその枠組みを開示するとともに、その手続を踏まえた監視(取引の承認を含む)を行うべきである。

こちらの記事(IPOを目指す企業の関連当事者取引対処法)では、上場審査という観点から、関連当事者間の取引について解説させていただいていますが、上場後も、関連当事者間取引については上記のような手続の策定とその枠組み開示、手続を踏まえた監視体制の整備が必要となります。

(2)基本原則2:株主以外のステークホルダーとの適切な協働

基本原則2:株主以外のステークホルダーとの適切な協働では、下記のような定めがされています。

上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。
取締役会・経営陣は、これらのステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。

基本原則2に関連して、原則2-3(社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題)では、下記のような定めがなされています。

上場会社は、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題について、適切な対応を行うべきである。

そして、原則2-3の補充原則として、下記のような定めがなされています。

取締役会は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理など、サステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである。

上場後は、上記のように、サステナビリティを巡る課題への適切な対応が求められることや、ESGやSDGsへの取組を行うことでリスクの減少のみならず収益機会にもつながる経営課題であることも重視して、IPO準備段階から積極的にサステナビリティを巡る課題に取り組むことが肝要であると考えます。

また、基本原則2に関連して、原則2-5(内部通報)では、下記のような定めがなされています。

上場会社は、その従業員等が、不利益を被る危険を懸念することなく、違法または不適切な行為・情報開示に関する情報や真摯な疑念を伝えることができるよう、また、伝えられた情報や疑念が客観的に検証され適切に活用されるよう、内部通報に係る適切な体制整備を行うべきである。取締役会は、こうした体制整備を実現する責務を負うとともに、その運用状況を監督すべきである。

そして、原則2-5の補充原則として、下記のような定めがなされています。

上場会社は、内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の設置(例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべきであり、また、情報提供者の秘匿と不利益取扱の禁止に関する規律を整備すべきである。

上記のように、内部通報体制の構築(経営陣から独立した窓口の設置)がコーポレートガバナンス・コードからも求められます。

さらに、令和2年6月8日に成立し、令和4年6月1日から施行された公益通報者保護法の一部を改正する法律でも、従業員数が301人以上の事業者に対し、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等(窓口設定等)が義務付けられました。また、これに違反する事業者に対しては、公表を含む行政措置が導入されているとともに、従業員数が300人以下の中小事業者についても、必要な体制の整備等は努力義務とされています。

また、東京証券取引所が作成した、「新規上場申請者に係る各種説明資料の記載項目について」という資料の中で、有価証券上場規程施行規則第231条第1項第4号に規定する提出書類のうち、経営管理体制等(リスク管理及びコンプライアンス体制について)の説明資料として、「内部通報制度の整備状況(社内の通報窓口、社外の通報窓口、通報受領後のフロー、社員への周知方法・当該制度の利用を促進する施策、最近2年間及び申請事業年度の通報件数等)」が挙げられています。

このように、IPOの準備段階では、上場後のコーポレートガバナンス・コード対応も踏まえた、内部通報体制整備や運用が肝要であると考えます。

内部通報制度とIPOについては、こちらの記事(公益通報と内部通報の違い/公益通報者保護法の保護要件)でも詳しく紹介しています。

(3)基本原則3:適切な情報開示と透明性の確保

基本原則3:適切な情報開示と透明性の確保では、下記のような定めがされています。

上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。
その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。

このように、IPO後は、上場会社として、財務情報のみならず、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスにかかる情報等の非財務情報も開示や情報提供を行っていくことが求められますので、IPO段階から留意しておくことが肝要であると考えます。

(4)基本原則4:取締役会等の責務

基本原則4:取締役会等の責務では、下記のような定めがされています。

上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、
(1) 企業戦略等の大きな方向性を示すこと
(2) 経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
(3) 独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと
をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。
こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うこととなる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、等しく適切に果たされるべきである。

基本原則4に関連して、原則4-11(取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件)では、下記のような定めがされています。

取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性、職歴、年齢の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。また、監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されるべきであり、特に、財務・会計に関する十分な知見を有している者が1名以上選任されるべきである。
取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである。

この原則4-11の補充原則として、補充原則4-11①では、下記のような定めがされており、IPO準備段階から、経営戦略に照らして各取締役や監査役が備えるべきスキルを洗い出し、取締役会・監査役会の実効性確保の準備が肝要であると考えます。

取締役会は、経営戦略に照らして自らが備えるべきスキル等を特定した上で、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスをはじめ、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有するスキル等の組み合わせを取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。
その際、独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべきである。

(5)基本原則5:株主との対話

基本原則5:株主との対話では、下記のような定めがされています。

上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。
経営陣幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主に分かりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行い、株主を含むステークホルダーの立場に関するバランスのとれた理解と、そうした理解を踏まえた適切な対応に努めるべきである。

基本原則5に関連して、原則5-2(経営戦略や経営計画の策定・公表)では、下記のような定めがなされており、IPO準備段階から、上場後の経営戦略や経営計画の策定・公表について意識した準備が肝要であると考えます。

経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人的資本への投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。

3 どのような準備をしておくべきか

上記は、コーポレートガバナンス・コードのうち、IPOとの関係で重要な部分を抜粋したものですが、上場後は、有価証券上場規程に基づき、コーポレート・ガバナンスに関する事項について記載した報告書(コーポレートガバナンス報告書)の提出が必要となります。

そして、コーポレートガバナンス報告書には、(1)コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方及び資本構成、企業属性その他の上場会社に関する基本情報、(2)コーポレートガバナンス・コードに関する事項(各原則を実施しない理由を含む)、(3)経営上の意思決定、執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレート・ガバナンス体制の状況及び当該体制を選択している理由、(4)株主その他の利害関係者に関する施策の実施状況、(5)内部統制システムに関する基本的な考え方及びその整備状況(反社会的勢力排除に向けた体制整備に関する内容を含む。)、(6)独立役員の確保の状況を記載する必要があります(有価証券上場規程施行規則(東京証券取引所))。

本稿でご紹介したコーポレートガバナンス・コードに関する事項の準備(株主平等原則への対応、関連当事者間取引への対処や監視体制の整備、サステナビリティ課題への積極的な取組、内部通報体制の構築、取締役や監査役のスキルの洗い出し等)に加えて、上記のコーポレートガバナンス報告書に記載すべき事項(内部統制システムの整備、反社会的勢力排除に向けた体制整備、独立役員の選定など)については、IPO前から準備しておく必要があります。

執筆者
マネージングパートナー/ニューヨーク州弁護士/弁護士
河野 雄介

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