譲渡制限株式の譲渡のために、会社が準備すべきこととは?

IPO準備やM&Aに先立つDD(デューデリジェンス)のために過去の株式譲渡に関する書類等を確認すると、必要な手続きの一部が行われていない、または、必要な手続きが不十分な方法で行われている、というケースは、意外にも少なくありません。仮に株式譲渡が適法に行われていなかったということが後から判明すれば、現在の株主の状況を確定することができず、IPOに大きな支障が生じることとなります。

そこで、本記事では、手続きごとに、手続きの概要、主体、必要書類、記載すべき事項、手続きの順序、留意点等を丁寧に説明します。今一度内容をご確認いただき、不足のない手続きを進めましょう。

1 株式譲渡の基本的な流れ

株式譲渡手続きの典型的な流れと必要書類等は、以下のとおりです。

 

手続き

手続き主体

必要書類

会社

譲渡人

譲受人

譲渡承認請求  譲渡承認請求書
承認決定  株主総会議事録、取締役会議事録など
譲渡承認決定通知  譲渡承認決定通知書
株式譲渡契約 株式譲渡契約書
名義書換請求 名義書換請求書
名義書換  株主名簿

なお、ほとんどのベンチャー企業の株式は譲渡制限株式(会社法第107条第2項第1号、第108条第2項第4号)ですので、本稿では、譲渡制限株式の譲渡を前提としています。また、会社法の原則に従い(会社法第214条参照)、株券を発行しておらず、株券発行会社(会社法第117条第7項)ではないことを前提とします。

既存株主との間で株主間契約等を締結している場合には、同契約に基づいて、別途、既存株主への通知等の追加の手続きが求められる場合がありますので、この点については、既存契約をご確認ください。

上記の各手続きについて、以下で詳述します。

2 譲渡承認

(1)手続の概要

譲渡制限株式を譲渡する場合には、譲渡承認手続きが必要となります。冒頭の表では、①から③が該当します。

仮に、これらの手続きを欠いたまま株式譲渡を行った場合、当該株式譲渡は、譲渡人と譲受人の間では有効ですが、会社に対する関係では、効力を生じません。すなわち、会社は、株式譲渡後も譲渡人に対して、株主総会の招集通知を送付するなど、株主としての取扱いを継続する必要があります。

(2)① 譲渡承認請求(譲渡人による手続き)

譲渡人が譲渡承認請求を行う場合には、譲り渡そうとする株式の数、譲受人の氏名又は名称を記載します(会社法第138条第1号イ、ロ)。

また、譲渡人は、譲渡承認請求と合わせて、仮に会社が譲渡を承認しない場合には、会社(または会社が代わりに指定する者)が当該株式を買い取るよう請求することができます(会社法第138条第1号ハ)。このような請求を行う場合には、譲渡承認請求書上に、その旨を記載します。

なお、すでに株式譲渡が実行されている場合には、譲受人から譲渡承認請求を行うことも可能ですが(会社法第137条第1項)、この場合の譲渡承認請求は、譲渡人と共同で行う必要があります(同条第2項)。

(3)② 承認決定(会社による手続き)

譲渡人から譲渡承認請求が行われた場合、会社は、これを承認するか否かを決定する必要があります(会社法第139条第1項)。

決定するのは、原則として株主総会(取締役会設置会社では取締役会)です。但し、会社は、定款で、別の承認機関を定めることが可能で、実際に、取締役会を設置しない会社において、代表取締役の承認を要すると設計される例もあります。定款の規定を確認のうえ、適切な方法で決定してください。

会社は、株主総会や取締役会の議事について、議事録を作成する必要があります(会社法第318条第1項、第369条第3項)。したがって、譲渡承認機関が株主総会や取締役会である場合には、他の議案と同様に、議事録に承認したか否かを記しておくようにしましょう。

一方、代表取締役が承認するか否かを決定する場合には、当該決定に関する書面を作成すべきことは法定されていません。しかしながら、冒頭でも述べたとおり、現在の株主の状況や過去の株主の異動の状況は、会社にとって重要な事項ですので、この点を客観的に明らかにするため、代表取締役決定書等を作成し、決定の内容を証拠化しておくことを推奨します。

なお、会社は、株主による譲渡承認請求を承認しないことも可能です。承認しない場合の取扱いについては、下記の(6)をご参照ください。

(4)③ 承認決定通知(会社による手続き)

会社は、承認するか否かを決定したときは、譲渡承認請求をした者(本稿では譲渡人)に対して、当該決定の内容を通知する必要があります(会社法第139条第2項)。

譲渡人から譲渡承認請求がなされた日から2週間以内にこの通知を行わない場合、会社が譲渡を承認したものとみなされますので(会社法第145条第1項第1号)、必ず期間内に通知するようにしましょう。

(5)手続きの省略

会社は、定款で規定することにより、(i)譲受人が株主や従業員等である場合や、(ii)譲渡される株式の数が一定未満である場合等に、会社の承認があったものとみなし、会社の承認を求めることを要しないものとすることができます(会社法第107条第2項第1号ロ、第108条第2項第4号)。このような規定に該当する場合には、上記の①から③の手続は不要です。

(6)譲渡を承認しない場合

① 譲渡承認請求とあわせて、会社が譲渡を承認しない場合には会社等が当該株式を買い取ることが請求されている場合(会社法第138条第1号ハ、第2号ハ)、承認しないことを決定した会社は、自ら当該株式を買い取るか、会社の選択により、当該株式の全部又は一部を買い取る者(指定買受人といいます。)を指定することになります(会社法第140条第1項)。

なお、会社は、自ら当該株式を買い取ろうとしても、その買取請求をした株主に対して、分配可能額を越えた金銭等を交付することはできません(会社法第461条第1項第1号)。いわゆる自己株式の取得における財源規制があるためです。

買取価格は、譲渡承認を請求した者と会社が協議して定めますが(会社法第144条第1項)、協議がまとまらない場合には、いずれかの当事者の申立てにより、裁判所が資産状態などの事情を考慮して売買価格を決定することになりますので(会社法第144条第2項、第3項)、買取価格を正確に予測することは困難です。

また、会社は、会社又は会社の指定する者が株式を買い取る場合、まず、1株あたり純資産額に株式数を乗じた金額を供託することが求められます(会社法第141条第2項、会社法施行規則第25条)。

3 ④ 株式譲渡契約(譲渡人・譲受人による手続き)

譲渡人と譲受人の間で、株式譲渡契約を締結する必要があります。冒頭の表では、④が該当します。

株式譲渡契約は、口頭でも有効に行うことができますが、株式譲渡契約書を作成しておくことを強く推奨します。

これは、現在の株主構成と過去の株主異動の状況が、会社にとって極めて重要な事項ですので、これらの事情を書面上も明らかにしておくことが望ましいためです。

株式譲渡契約書には、譲渡人と譲受人、譲渡する株式の種類と数、その対価等を記載しましょう。

同時に、対価を支払った証拠も残すことが重要です。銀行振込で記録が明確であれば問題ありませんが、現金での支払いであれば、領収書が必要です。対価が未払いで解除リスクがある状態ではないことを立証可能にしておきましょう。

さらに、対価の適切性も、税務上、重要な観点です。ここでは詳細に述べませんが、不適切に高額又は低額である場合は、贈与税や受贈益等の税務リスクがあります。

4 名義書換

(1)手続きの概要

会社は、株主名簿を作成して、株主とその持株等に関する事項を記載・記録しなければなりません(会社法第121条)。株式が譲渡された場合には、株主の状況が変動しますので、会社において、株主名簿の書換えが必要となります。このような株主名簿の記載の変更を、一般に、名義書換といいます。冒頭の表では、⑤⑥が該当します。

株主名簿の記載が正しく変更されなければ、譲受人は、会社やその他の第三者に対して、株式を譲り受けたことを主張することができません(会社法第130条第1項)。つまり、株式譲渡によって新たに譲受人が株主となった場合でも、名義書換請求がなされない限り、会社は、譲渡人を株主として取り扱えばよく、譲受人を株主として認める必要はありません。

(2)⑤ 名義書換請求(譲渡人・譲受人による手続き)

名義書換は、原則として、譲渡人と譲受人が共同で行う必要があります(会社法第133条第2項)。

(3)⑥ 名義書換(会社による手続き)

名義書換請求がなされた場合、会社は、株主名簿の記載を変更する必要があります。譲渡承認と異なり、会社は、名義書換を拒絶することはできません。

5 手続書類の作成日付

以上の手続きについてご説明した場合、しばしば、各手続の先後関係、各書面の作成日付をどのように設定すればよいか、という点について質問を受けます。

まず、譲渡承認及び名義書換については、それぞれ、当事者の請求によって手続きが進行することとされています。そのため、譲渡承認については、①譲渡承認請求→②承認決定→③譲渡承認決定通知の順に行い、名義書換については、⑤名義書換請求→⑥名義書換の順に行う必要があります。

また、譲渡制限株式については、譲渡承認を得ない限り、名義書換を請求することができませんので(会社法第134条)、②(株式譲渡の)承認決定が⑤名義書換より先に行われる必要があります。

したがって、以下の例1又は2のいずれかの順序で手続きを進めることが一般的です。

必要書類には、実際に当該手続きを行った日付をご記載ください。手続きを柔軟に進めることができる小規模な会社では、以下の手続を全て同日付で行い、必要書類には全て同じ日付を記載することも少なくありません。

例1

 

例2
① 譲渡承認請求④ 株式譲渡契約(譲渡承認を停止条件とする株式譲渡)
② 承認決定① 譲渡承認請求
③ 譲渡承認決定通知② 承認決定
④ 株式譲渡契約③ 譲渡承認決定通知
⑤ 名義書換請求⑤ 名義書換請求
⑥ 名義書換⑥ 名義書換

但し、株式譲渡契約を締結したにもかかわらず、会社の譲渡承認が得られない場合、上述のとおり、当該株式譲渡は会社との関係で有効となりません。

そのため、上記の右のパターンの場合には、せっかく株式譲渡契約を締結したにもかかわらず、その後に譲渡を承認しないことが決定されるリスクがあります。

このようなリスクから譲受人の利益を保護するために、譲渡人から譲受人に対する、株式譲渡を承認する旨の取締役会議事録や株主総会議事録等の写しの提出を、株式譲渡契約の効力発生条件(停止条件)として規定することが考えられます。

6 まとめ

本記事では、株式譲渡に関する手続について解説しました。

株式会社にとって、現在の株主の状況は極めて重要な問題であり、IPOやM&Aの際には、過去の株主の異動の状況を含めて、詳しく確認されます。適切・適法に株式譲渡の手続を行ったうえで、関連する書類を保管し、株主の状況についてきちんと説明できる状況を整えましょう。

執筆者
アソシエイト/弁護士
和田 眞悠子

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