外国公務員に対する贈賄に伴う日本法上のリスク ~不正競争防止法の改正に伴う罰則の引上げと適用範囲の拡大~

 ビジネスのグローバル化に伴い、スタートアップ企業も国際的な商取引の機会が増えています。

 では、スタートアップ企業が国際的な商取引をするにあたって、外国の公務員に贈賄をした場合に、当該外国における贈賄規制の対象になるのはもちろんですが、日本法上もなんらかのリスクがあるのでしょうか?

1 日本における外国公務員に対する贈賄規制

 スタートアップ企業が海外事業において外国公務員への贈賄に関与したとなれば、日本の刑事罰(不正競争防止法違反)はもとより、米国の連邦海外腐敗行為防止法(FCPA)等の違反として罰金等の対象となったり、社会的信用の失墜、取引先からの取引停止処分を受けたりなど企業価値の毀損に直結する重大なリスクにつながります。

 中でも、スタートアップ企業が国際的な商取引を行うにあたって留意しなければならない点として、外国公務員に対する贈賄は当該外国における贈賄規制の対象となるのはもちろん、日本法上も不正競争防止法違反となり、非常に厳しい罰則が贈賄を行った役員・従業員のみならず法人に対しても罰金という形での罰則がある点です。

日本の不正競争防止法第18条第1項は、

何人も、外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、その外国公務員等に、その職務に関する行為をさせ若しくはさせないこと、又はその地位を利用して他の外国公務員等にその職務に関する行為をさせ若しくはさせないようにあっせんをさせることを目的として、金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をしてはならない

と定めています。

また、罰則については、これまで、

  • 不正競争防止法第18条第1項に違反した者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処せられ、又はこれが併科されると規定されており(不正競争防止法第21条第2項第7号)
  • 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、不正競争防止法第18条第1項に違反した場合は、法人に対しても3億円以下の罰金刑が科される(以下、「法人両罰規定」といいます。不正競争防止法第22条第1項第3号)

と規定されていました。

2 不正競争防止法の改正に伴う罰則の引上げと適用範囲の拡大

 そして、2023年6月に成立した「不正競争防止法等の一部を改正する法律」が2024年4月1日から施行されたことにより、自然人に対する上記の罰則は、「10年以下の懲役又は3000万円以下の罰金」に引き上げられ、法人に対しても「10億円以下の罰金」に引き上げられました。

 また、この改正により、これまでは処罰対象となっていなかった「日本国外で日本人ではない従業員等により行われた外国公務員に対する贈賄」についても、日本の不競法上の外国公務員贈賄罪に該当することが明記されました。

 このように、自然人の処罰範囲が拡大されたことに伴い、法人両罰規定の適用により、法人の処罰範囲も拡大されたことになります。

3 まとめ

 国際的な商取引の頻度が増えると、スタートアップ企業は外国公務員に対する贈賄リスクに晒されることになりますが、上記でみたように、外国公務員に対する贈賄は日本の不正競争防止法上も厳しく規制されており罰則も引き上げられ処罰範囲も拡大されています。

 万が一、IPO前のスタートアップ企業が外国公務員に対する贈賄により不正競争防止法違反で罰せられるような事態となった場合はIPOという観点からは致命的です。

 国際的な取引に慣れないスタートアップ企業が、国際的な商取引を行う場合、「郷に入っては郷に従えで、海外ではあまりうるさいことを言っているとビジネスが円滑に進まない」、「会社の業績に貢献するのだから外国公務員への贈賄もやむを得ない」、などの誤った認識のもとに外国公務員への贈賄が行われてしまうリスクがあります。

 従業員等には、外国公務員への贈賄が刑事罰となり、IPOへの致命的な影響を与えうる行為であることを周知徹底する必要があります。

 また、スタートアップ企業が海外で企業買収をする際にも、買収対象会社が贈賄行為を行っていないかのチェックが重要となり、海外贈賄防止デュー・ディリジェンスが有用です。

 海外贈賄防止デュー・ディリジェンスについては、こちらの記事で詳細を説明していますので、ご参照ください。

執筆者
マネージングパートナー/ニューヨーク州弁護士/弁護士
河野 雄介

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