インターネット事業で特定商取引法に基づく表示が必要なのは物販だけ?

昨今のビジネスにおいて、インターネットは重要なツールの1つであり、インターネットを用いた取引は、日常的に行われています。インターネットなどを用いた通信販売を行う場合、特定商取引法に基づいて一定の表示を行わなければならないことは、知っている方も多いのではないでしょうか。

では、この表示を行わなければならない「通信販売」とは、物品を売り買いする場合に限られるのでしょうか。また、この表示はいつ行わなければならないのでしょうか。

本稿では、主にインターネットを利用した事業を行う際に、特定商取引法第11条に基づく表示の対象となる事業はどのような事業か、表示はいつ必要になるのかを確認します。

1 特定商取引法に基づく表示の概要

特定商取引法は、正式名称を「特定商取引に関する法律」といい、事業者による違法・悪質な勧誘行為を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律です。

特定商取引法は、事業者と消費者とのトラブルが生じやすいと考えられる取引を類型化し、取引の類型ごとに、事業者が守るべきルールを定めています。

類型化された取引の1つが、「通信販売」(特定商取引法第2条第2項)です。

郵便、電話、インターネットなどを用いて顧客が売買契約等の契約の申込みを行い、これを受けて事業者が商品等の販売を行うことが「通信販売」に該当します(特定商取引法第2条第2項)。

皆さんが日ごろ、Amazonや楽天市場等で行っているネット通販は特定商取引法の「通信販売」に該当します。

通信販売では、消費者は、商品等の表示や広告を通じてしか販売条件や契約条件を認識できません。このため特定商取引法は、通信販売の広告を行う場合につき、一定の事項(販売条件や契約条件等)の表示を義務付けることによって、これらの事項を消費者が認識できるようにし、消費者と通信販売者との間でのトラブル防止を図っています。

この、通信販売の広告の際に一定事項の表示を義務付けているのが、特定商取引法第11条になります。ECサイト等で、画面の下の方に、小さく「特定商取引法に基づく表示」といったリンクを見かけたことがある人もいるかもしれませんが、あのリンク先が、特定商取引法第11条に基づく表示を行っている場所になります。

なお、特定商品取引法では、第11条に基づく表示のほか、第12条の6第1項に基づく表示(通信販売において、実際に申込みを受ける段階で行わなければならない表示)や、第35条に基づく表示(連鎖販売取引(いわゆるマルチ商法)の広告に関する表示)について規制を設けていますが、本稿では、特定商取引法第11条に基づく表示を取り上げます。

なお、本稿では、特定商取引法のことを「法」と記載することがあります。

2 「通信販売」には何が該当する?

「通信販売」と聞くと、規制対象は物販だけのようにも見えますが、そうではありません。

特定商取引法第2条第2項において、「通信販売」は、

「通信販売」とは、販売業者又は役務提供事業者が郵便その他の主務省令で定める方法(以下「郵便等」という。)により売買契約又は役務提供契約の申込みを受けて行う商品若しくは特定権利の販売又は役務の提供であつて電話勧誘販売に該当しないものをいう。

と定義されています。

このため、物販(商品にかかる売買契約)だけではなく、インターネットで申し込むサービスに関する契約(役務提供契約)も特定商取引法においては「通信販売」に該当します。例えば、インターネットだけで申込が完了する家事代行サービスや、音楽や動画のサブスクサービスも「通信販売」に該当します。

また「特定権利」とは、

  • 保養のための施設又はスポーツ施設を利用する権利(法第2条第4項第1号、施行令第3条、別表第一)
  • 映画、演劇、音楽、スポーツ、写真又は絵画、彫刻その他の美術工芸品を鑑賞し、又は観覧する権利(法第2条第4項第1号、施行令第3条、別表第一)
  • 語学の教授を受ける権利(法第2条第4項第1号、施行令第3条、別表第一)
  • 社債その他の金銭債権(法第2条第4項第2号)
  • 株式会社の株式、合同会社、合名会社若しくは合資会社の社員の持分若しくはその他の社団法人の社員権又は外国法人の社員権でこれらの権利の性質を有するもの(法第2条第4項第3号)

と定められています。

このため、スポーツジムの会員権や、音楽鑑賞のチケット、美術館のチケットなどをインターネットで販売することも、特定商取引法の「通信販売」に該当します。

では、特定権利に該当しない権利の販売であれば、特定商取引法の「通信販売」に該当せず、規制対象外となるのでしょうか。

ここで、”B級グルメフェスの入場チケット”(※但し、バンド演奏などのステージイベントはないものとします。)を電子チケットとして、インターネットで販売する事例を考えてみます。

入場チケットは、法的には、”特定のイベントに参加することができる権利”や”特定の時間において、特定の場所に入ることができる権利”と考えることができるため、「特定権利」ではない権利といえそうです。

また、電子チケットの販売なので、物販ではなく、「商品」の販売に該当しないようにも思います。

しかし、特定商取引法において、「商品」とは、必ずしも有体物たる動産のみを意味するものではなく、市場経済において貨幣と交換される対象であれば「商品」に該当すると解してよいと考えられており、不動産や、特定権利に含まれない金融商品や投資商品も「商品」に含まれると解することができるとされています。

”B級グルメフェスの入場チケット”は、貨幣と交換される対象であるため、「商品」に該当すると考えられます。

加えて、「役務の提供」とは、「労務又は便益の提供」のことであり、「権利の販売」と称するものについても、その実態が「労務又は便益の提供」であると評価される場合は、特定商取引法の対象となるとされています(平成29年11月1日 各経済産業局長及び内閣府沖縄総合事務局長あて消費者庁次長経済産業省大臣官房商務・サービス審議官発「特定商取引に関する法律等の施行について」6頁)。

すなわち、「権利」と事業者が称するものであっても、取引に必要な仕組みや機会を提供し、それに対して対価の支払いをさせる取引は社会的便益の提供を行っていると評価できると考えられます。

そうすると、”B級グルメフェスの入場チケット”を購入することは、B級グルメフェスのイベント会場に入場できるという便益の提供に対して対価を支払っているとも考えられ、そもそも権利の販売ではなく、「役務の提供」であるとも考えられます。

以上のことから、”B級グルメフェスの入場チケット”を電子チケットで販売することは、「通信販売」に該当する可能性が高く、特定商取引法上の通信販売の規制の対象になりそうです。

このように、一見、通信販売とは少し違うように思える契約であっても、特定商取引法の適用にあたっては「通信販売」に該当する可能性がありますので、インターネットで何かしら金銭取引が発生する事業を行う場合は、特定商取引法上の「通信販売」に当たるか否か、注意して判断するようにしてください。

3 「広告をするとき」っていつ?

特定法取引法における「通信販売」に該当した場合、通信販売の「広告をするとき」には、特定商取引法第11条に基づいて、一定の事項の表示が必要になるわけですが、日常目にする広告に、特定商取引法第11条に基づく表示は行われているでしょうか?

特定商取引法第11条に定める「広告」とは、販売業者等がその広告に基づき通信手段により契約の申込みを受ける意思が明らかであり、かつ、消費者がその表示により契約の申込みをすることができるものが「広告」に該当し、通信販売を行う旨について明確に表示されている場合や、送料や口座番号等を表示している場合や、購入が実店舗では不可能な商品の広告等が、特定商取引法第11条の「広告」に該当する一方で、当該商品のイメージ広告等は、特定商取引法第11条の「広告」に該当しないとされています。

SNSでよく見る商品PRのための広告や、新聞と一緒に投函される近所のスーパーの広告など、日ごろ”広告”として目にするものは、販売業者等がその広告に基づき通信手段により契約の申込みを受ける意思が明らかではなく、また、消費者がその広告により契約の申込みをすることもできないため、特定商取引法第11条の「広告」に該当しません。

このため、日ごろ目にする”広告”には、特定商取引法第11条に基づく表示は行われていません。

一方、インターネット通販の商品販売ページやサービスの申込ページは、一般的に”広告”と呼ばれるものではありませんが、事業者がインターネットにより契約の申込みを受ける意思が明らかであり、かつ、消費者がその表示により契約の申込みをすることができるものであるため、特定商取引法第11条の「広告」に該当します。このため、これらのWebページには、同条に基づく表示が必要になります。

以上のように、商品の販売ページであれば、基本的に、特定商取引法第11条に基づく「広告」に該当すると思いますので、「広告」という表現に惑わされず、特定商取引法第11条に基づく表示を行うようにしてください。

4 表示しなければならない内容

ここで、特定商取引法第11条に基づいて表示しなければならない事項を確認しましょう。

具体的には、特定商取引法第11条各号及び同法施行規則第23条各号に定められていますが、内容が多岐にわたるため、以下では、どの事業者でも記載しなければならない事項と、多くの事業者が記載することになるであろう事項のみを列挙しています。

実際に特定商取引法第11条に基づく表示を作成する場合は、必ず、特定商取引法第11条各号及び同法施行規則第23条各号を確認したうえで、漏れがないように作成してください。

  1. 商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価(販売価格に商品の送料が含まれない場合には、販売価格及び商品の送料)
  2. 商品若しくは権利の代金又は役務の対価の支払の時期及び方法
  3. 商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期
  4. 商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約に係る申込みの期間に関する定めがあるときは、その旨及びその内容
  5. 商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約の申込みの撤回又は解除に関する事項
  6. 販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称、住所及び電話番号
  7. 販売業者又は役務提供事業者が法人であつて、電子情報処理組織を使用する方法により広告をする場合には、当該販売業者又は役務提供事業者の代表者又は通信販売に関する業務の責任者の氏名
  8. 法第十一条第一号に定める金銭以外に購入者又は役務の提供を受ける者の負担すべき金銭があるときは、その内容及びその額

5 表示しなかった場合に罰則ってあるの?

では、最後に、特定商取引法第11条に基づく表示を行わなかった場合、どのような罰則があるのかを確認しましょう。

特定商取引法において、特定商取引法第11条に基づく表示を行わなかったことに対する直接の罰則は定められていません。

しかし、事業者が特定商取引法第11条に違反した場合であって、主務大臣が、通信販売に係る取引の公正及び購入者又は役務の提供を受ける者の利益が害されるおそれがあると認めるときは、主務大臣は、その事業者に対し、当該違反又は当該行為の是正のための措置、購入者又は役務の提供を受ける者の利益の保護を図るための措置その他の必要な措置をとるべきことを指示することができるとされています(法第14条第1項)。

そして、事業者がこの指示に違反した場合、6カ月以下の懲役又は100万円以下の罰金という刑事罰の対象になります(法第71条第2号)。

このため、特定商取引法第11条に基づく表示を行わなかったことに対する直接の罰則はないとしても、特定商取引法第11条に基づく表示を行わないことは、刑事罰につながり得る違反になるため、必ず、特定商取引法第11条に基づく表示は行うようにしてください。

6 まとめ

以上、特定商取引法第11条に基づく表示について、表示が必要な事業と、表示を行うべき場合を確認しました。

なお、特定商取引法の通信販売に対する規制には、適用が除外される場合があります(法第26条)。このため、インターネットで行う事業の内容によっては、特定商取引法第11条に基づく表示を行わなくてもよい可能性もありますので、一度、確認してみてください。

また、特定商取引法第11条に基づく表示が必要か否か、どういった表示を行えばよいのか、分からないことが生じた場合は、専門家にご相談することもご検討ください。

執筆者
シニアアソシエイト/弁護士
本多 望

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