スタートアップ企業のエクイティファイナンスと金融商品取引法

1 はじめに

エクイティファイナンス(Equity Finance)とは、法令上に定義のある概念ではありませんが、一般に、株式会社が行う株式発行による資金調達を意味します。銀行等の金融機関からの借入れであるデットファイナンス(Debt Finance)と以下の点で異なります。

 エクイティファイナンスデットファイナンス
貸借対照表上の扱い純資産負債
返済義務無し有り
資本の種類自己資本他人資本

ほぼすべてのスタートアップ企業は、会社設立後に、エクイティファイナンスを実行し、自社の事業を成長させようとします。本ブログでは、このエクイティファイナンスに関する金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)上のルールについて、分かりやすく紹介します。

2 金商法のルール

株式は「有価証券」に該当します(金商法第2条第1項第9号、同条第2項前段)。エクイティファイナンスは、通常、発行済みの自己株式を譲渡するのではなく、新たに株式を発行することによって行われます。スタートアップ企業としては、このファイナンスが金商法上の「募集」に該当すると、一定の場合に[1]、内閣総理大臣に届出をする必要があります(金商法第4条第1項本文)。
この届出に関する書類を有価証券届出書といい、その作成には専門的知識と膨大な事務作業が必要となり、スタートアップ企業には非常に負担となります。

この規定に違反した場合、刑事罰として、届出前に有価証券の募集を行った発行体や経営者には5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(またはその併科)が科される可能性があります(金商法第197条の2第1号)。
また、違法なファイナンスを行ったことが判明すれば企業イメージは大きく損なわれますし、その後のファイナンスやIPOまたはM&Aにおいて、スケジュールの大幅な遅れやディールの不成立等の大きなマイナスの影響が生じます。


[1] 例えば、発行(売出)価額が1億円未満の場合には有価証券届出書は不要ですが(金商法第4条第1項第5号)、1000万円超であれば、同条6項に基づき有価証券通知書が必要です。

3 私募

上記のことから、スタートアップ企業にとっては、有価証券届出書を作成・提出せずにファイナンスを実行できることには大きな意味があります。

金商法上、原則として有価証券の募集について有価証券届出書の提出義務が課されていますが(金商法第4条第1項等)、「私募」に該当すれば提出義務が免除されます。私募として届出義務を免除されるためには、金商法上、いくつかの規定が存在しますが、スタートアップ企業においてよく用いられるのは、少人数私募(金商法第2条第3項第1号)と呼ばれるもので、ファイナンスの際の投資家の数を50名(社)未満にするものです(金商法施行令第1条の5)。
この50名(社)のカウントには、以下のようなポイントがあります。

  • 取得の人数ではなく、勧誘の人数でカウントする。
  • 一定のVC等の適格機関投資家はこの50名(社)のカウントには含まれない。
  • 発行日の3か月以内に発行された「同種の新規発行証券」の勧誘人数でカウントする。例えば、剰余金の配当の内容、残余財産の分配の内容、議決権を行使することができる事項の内容のいずれかが異なる場合であれば「同種」ではないと考えられる。

4 実務における留意点

少人数私募の要件との関係では、シード段階では出資者がエンジェル投資家1〜2名のみ、といったケースも多く、あまり問題になることは多くないように思われますが、シリーズが進むにつれ、ファイナンスの金額や投資家の数が増えてきたケースや社内外の関係者に有償ストックオプションを発行するケースでは注意が必要です。

勧誘対象を50名(社)未満にするための工夫としては、ファイナンスの初期段階でのコミュニケーションにおいて、具体的な条件提示は控えつつ、一定の関心を示した投資家に絞って具体的な条件を提示するといった対応が考えられます。同様に、会社紹介等の情報提供の際に、投資勧誘であると誤解を受けないように、資料やメールに「本資料は情報提供を目的としたものであり、金商法上の募集に該当するものではなく、投資勧誘を意図したものではありません」といったディスクレーマーを明記しておくことも考えられます。

IPOでは上場審査がありますし、M&Aではデューデリジェンスがあり、ファイナンスでの失敗は、そのいずれにおいても大きな支障となりますので、慎重な検討と対応をするように心がけてください。
なお、金商法は条文の形式や内容が複雑であることから、本ブログでは、分かりやすさを優先し、詳細な記載は省略しています。したがいまして、本ブログに記載の内容についても、そのまま自社のケースにおいて活用することなく、必ず、この領域に詳しい弁護士等の専門家の助言を受けてファイナンスを行うようにしてください。

執筆者
マネージング・パートナー/弁護士
藤井 宣行

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