IPO準備にあたっての海外子会社管理の重要性とチェックポイント

グローバル化に伴い、IPOを目指すスタートアップが、上場準備段階で、海外における子会社設立を予定していたり、既に海外に子会社を設立していたりするケースが増えてきました。

海外に子会社がある場合、IPO審査にあたっては海外子会社に関する契約整備状況、海外子会社のコンプライアンス遵守体制、内部管理体制の構築、海外子会社における紛争や不正等の有無等、海外子会社管理の状況も審査の対象となります。

そこで、本稿では、
1 なぜIPO準備にあたって海外子会社の管理が重要なのか
2 IPO準備にあたって、どのようにして海外子会社管理体制を構築すればよいのか
について解説します。

1 なぜIPO準備にあたって海外子会社の管理が重要なのか?

グローバル化に伴い、IPOを目指すスタートアップが、上場準備段階で、海外における子会社設立を間近に予定していたり、既に海外に子会社を設立していたりするケースが増えてきました。

海外に子会社がある場合、IPO審査にあたっては海外子会社のコンプライアンス遵守体制や、内部管理体制の構築、海外子会社における紛争や不正等の具体的なトラブルの有無についても審査の対象となります。

ところが、時間距離の壁、言葉の壁、現地における法規制の情報不足・理解不足、マンパワーの不足などにより、海外子会社における内部管理体制は、日本の本社における内部管理体制に比べると、おろそかになりがちです。

海外子会社に対する内部管理体制がおろそかになると、たとえば、海外拠点の現地法令違反により現地当局により刑事・行政処分を受けるリスク、海外拠点における訴訟や紛争に巻き込まれるリスク、移転価格税制による課税リスクなどが発生し、IPO審査上重大な問題に発展しかねません。

では、IPO準備にあたって、どのようにして海外子会社管理体制を構築しておけばよいのでしょうか。

2 IPO準備にあたって、どのようにして海外子会社管理体制を構築すればよいのか?

(1)海外子会社との取引関係の整備

スタートアップが海外に子会社を設立する場合の、親子間取引については、

  1. 運転資金確保のために親会社から海外子会社への金銭の貸付けを行うケース
  2. 海外子会社における会計、予算及び監査に関する事務、債権債務や信用リスク管理に関する事務、雇用教育、給与、福利厚生等従業員管理に関する事務、広報活動の支援に関する事務等に関して、親会社が海外子会社に役務を提供(親会社は海外子会社からサービスフィーを受領)するケース

などが考えられます。

1の場合については、貸付けや返済にあたっての通貨の定め、金利の算定方法や返済期間などを明確に定めた金銭消費貸借契約書(LOAN AGREEMENT)を締結しておく必要があります。

また、2の場合についても、役務の内容や役務提供の対価等を明確に定めた親子間役務提供契約(INTERCOMPANY SERVICES AGREEMENT)を締結しておく必要があります。

なお、1の金利や、2の役務提供の対価を定めるにあたっては、移転価格税制の観点(独立企業間の利率や価格と乖離している場合は所得が海外子会社に移転しているものとみなされ課税されるリスク)からの検討も必要となります。

また、役務提供契約を締結した場合であっても、具体的な役務提供がないにもかかわらずサービスフィーを海外子会社に支払っている場合は、親会社から子会社への寄付金として取り扱われてしまうリスクもあるので留意が必要です。

(2)海外子会社のコンプライアンス遵守、管理体制の構築

スタートアップが、海外子会社を設立するにあたっては、

  • 出資比率の制限の有無(100%独資が許されるか)
  • 資本金の最低額の規制の有無、当該国で行う予定の事業についてビジネスライセンス取得の可否
  • 代表者の常駐義務の有無
  • 海外拠点の定款や社内規定(就業規則等)の整備
  • 海外拠点が賃借するオフィスの賃貸借契約書のリスク確認
  • 採用する従業員の労働契約書の作成

など様々な事項の検討や準備が必要となります。上場準備段階で海外子会社を設立する場合は、これらの事項に十分留意する必要があります。

さらに、海外子会社設立後のリスクとしては、

  • 知的財産権に関するリスク(海外取引先からの技術情報の流出、模造品の横行、製造委託先による商標の冒認出願など)
  • 労務リスク(ストライキ、労働契約や就業規則の不備、現地従業員による横領などの不正行為)
  • 契約関係のトラブルリスク
  • 製造物責任を追及されるリスク
  • 独占禁止法違反に問われるリスク
  • 贈収賄リスク

などの様々なリスクが想定されます。

これらのリスクについては、取引先との契約書(たとえば、海外の取引先と取引するにあたって英文取引基本契約書やNDAの整備等)や、社内規定・社内体制の整備、海外拠点の従業員に対するコンプライアンス教育体制の充実等により大部分を予防することができることから、上場準備にあたっては、このような整備や体制の構築が重要となります。

また、海外子会社が、海外の取引先への売掛金が未回収となるトラブルが発生していたり、労務問題で従業員とトラブルになっていたり、取引先の代理人弁護士からレターが来ていたり、既に海外で訴訟を提起されていたりと、顕在化しつつある、又は顕在化したトラブルを抱えているケースもあるでしょう。

このような場合は、現地の弁護士を起用するなどして、迅速かつ適切に当該トラブルへの対応方法についてアドバイスを受け、具体的に対応しておく必要があります。

3 まとめ

上場準備にあたって海外に子会社を有する場合は、上記のような点に留意して、海外子会社管理体制を構築していく必要があり、上場準備という観点からは海外に子会社を設立していると手間が増え、大変かもしれません。

しかし、今後さらにグローバル化が加速する中で、積極的に海外に進出し、海外子会社を設立(またはM&Aにより海外企業を買収)するスタートアップは増えていくのではないかと考え、本稿を執筆しました。

執筆者
マネージングパートナー/ニューヨーク州弁護士/弁護士
河野 雄介

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