創業株主間契約の準備は済んでいますか?

友人やビジネスパートナーとともに新しく起業し、お互いに新しく設立した会社の株式を保有する場合、どのような対応が必要になるでしょうか。

設立の手続きや、新株発行の手続きなど、必要な手続きを適切に行うことはもちろん必要ですが、忘れてはならないのは、創業株主間契約の締結です。創業株主間契約は、株式を保有する創業者が会社を辞めた場合に、残りの創業者が辞めた人の株式を買い取れる旨を予め約束をしておくことで、創業者が欠けた場合に生じるリスクに対応するものであり、安定的な事業経営の手助けとなる契約です。

本稿では、創業株主間契約の必要性や、定めるべき内容について、解説します。

1 創業株主間契約って必要?

創業株主間契約とは、複数の者が共同して起業し、それぞれが株式を保有する場合(以下、起業し株式を有する者を「創業者」といいます。)に、ある創業者が辞めた際に、残りの創業者が辞める創業者が保有している株式を買い取れることを定めた契約です。

創業者が複数いる場合は創業株主間契約を締結した方が良い、ということは広く知られています。では、なぜ、創業株主間契約を締結する必要があるのでしょうか。

例えば、創業者であるAさん(代表取締役)が70%の株式を保有し、共同創業者であるBさん(取締役)が30%の株式を保有している会社において、Bさんが会社を辞める場合を考えてみましょう。

この場合、創業株主間契約を締結していないと、Bさんが保有している株式は、Bさんが会社を辞めたあと、どうなるでしょうか。

何らの取り決めもない場合、原則として、Bさんが会社を辞めたとしても、Bさんが保有している株式は、Bさんが保有し続けます。Aさんや会社には、Bさんに対して、株式を譲渡するように請求する権利はありません。

Bさんが株式を保有し続けると、

・株主総会でBさんの協力が必要な場面が生じた場合に、直ちにBさんの協力が得られない又は協力を拒否される可能性があり、円滑な事業運営に支障が生じたり、事業がストップしてしまうおそれがある。

・会社を辞めたBさんにとって、事業成長による株価上昇の利益を受けることはフリーライドであり、社員や他の役員のモチベーション低下につながるおそれがある。

・株主は一定の会社の経営情報を取得することができるところ、Bさんが会社の経営情報を競業者へ提供する可能性を排斥できない。

などのリスクが考えられます。

これらのリスクを避けるために、創業株主間契約で、創業者が会社を辞める場合には、他の創業者が辞める創業者が保有する株式を買い取れることを予め約束しておき、他の創業者が、辞める創業者に対して、法的に株式の売渡しを求めることができるようにしておく必要があります。

なお、創業株主間契約がなくとも、創業者の持株比率によっては、株式併合や特別支配株主の株式等売渡請求といった、会社法上の制度を駆使することにより、会社を辞める創業者が保有する株式を0にすることができる場合もあります。

ただ、これらの制度を利用できるか否かは、各株主の持株比率によって決定されるため、必ずしも利用できるものではないこと、また、各手続において時間や弁護士費用等がかかる可能性が高いことから、これらの制度や今の信頼関係を頼りにして、創業株主間契約は締結しないという選択は避けた方が良いと考えます。

2 創業株主間契約を締結するタイミング

創業株主間契約は、会社設立からできるだけ早いタイミングで締結することをお勧めします。

創業株主間契約は、上述のように、会社の円滑な事業経営を守ることや辞めた創業者のフリーライドを防ぐことを目的として、辞める創業者から株式を回収するために、会社に残る創業者が、辞める創業者の株式を取得できることを定める契約になります。

創業時は、創業者全員が、事業の成長という同じ目的に向かっているため、辞める創業者が株式を保持したままのリスクや創業株主間契約の必要性について、創業者全員で共通認識を持つことが容易であり、創業株主間契約の締結も容易なことが多いです。

一方で、会社を去ろうとしている創業者からすると、創業株主間契約は、自らの株式を売却しなければならない契約であるため、創業者間の関係性が悪化した後は、創業株主間契約を締結することは難しくなります。

このため、創業株主間契約は、創業者間の関係性が良好であるうち、つまり、会社設立からできるだけ早いタイミングで締結をすることがベストです。

ただ、この時期を逃すと締結できないというものではなく、創業株主間契約は、創業者間で契約内容について合意できればいつでも締結可能です。現在、創業者が複数人いるのに、創業株主間契約を締結していないという場合は、早めに締結に向けた準備を行うことをお勧めします。

3 創業株主間契約で定めるべき事項

では、具体的に創業株主間契約において、どのような内容を定めなければならないのでしょうか。創業株主間契約は、ある創業者が辞めた際に、残りの創業者が辞める創業者の株式を買い取れることを定めた契約であるため、

(1)いつ
(2)誰が
(3)いくらで
(4)何株

買い取れるようにするか、を最低限定めておく必要があります。

以下、各内容について、どのような定め方があるのか、確認していきましょう。

(1)いつ買い取れるようにするか

創業株主間契約は、ある創業者が辞めた際に、残りの創業者が辞める創業者の株式を買い取れることを定めた契約であるため、もちろん[ある創業者が辞めた際]に他の創業者が株式を買い取れるように定める必要があります。

ただ、[ある創業者が辞めた際]にはいくつかのバリエーションが考えられます。

例えば、取締役が退任する場合であっても、(i)退任後、従業員として会社に残る場合、(ii)退任後、従業員としても会社には残らないが、アドバイザーとして会社と業務委託の関係を持つ場合、(iii)退任後、会社と無関係の者になる場合というように、退任後の会社との関わり方にいくつかのバリエーションが考えられます。当然(iii)の場合は、他の創業者が株式を買い取れるように定める必要がありますが、(i)の場合や(ii)の場合について、株式買取請求の対象とするか否かは、ビジネス判断になります。

また、[ある創業者が辞めた際]には、創業者が亡くなってしまった場合等を含めることも考えられます。

株式も相続の対象となるため、株主が亡くなった場合、当該株主が保有していた株式は、相続人に相続されます。遺産分割協議の内容によっては、多数の相続人が少しずつ株式を保有することになり、株主管理が煩雑になってしまう可能性が否定できません。また、株式を相続した相続人が、会社に対して好意的でない場合は、会社経営において支障が生じるおそれもあります。

このため、創業株主間契約においては、創業者が亡くなってしまった場合についても、残りの創業者が株式を買い取れる内容にしていることが多いです。

ところで、創業者が亡くなったあとも、創業株主間契約は有効なのでしょうか。

契約に基づく権利・義務も相続の対象であり、創業者が亡くなると、創業株主間契約に基づく亡くなった創業者の権利義務は、相続放棄等がない限り、相続人に引き継がれるため、創業者が亡くなった後も、創業株主間契約は有効なままです。

このため、創業株主間契約において、創業者が死亡した場合も、残りの創業者による株式買取請求権が生じるように定めていれば、残りの創業者は亡くなった創業者の相続人に対して、亡くなった創業者が保有していた株式の買取りを請求することができ、亡くなった創業者の相続人はこれに応じなければならないことになります。

なお、定款において、会社は、相続その他の一般承継により会社の株式を取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すことを請求することを定めることができます(会社法第174条)。

この定款の規定があれば、創業株主間契約においては、創業者が亡くなった場合についての規定はいらないようにも思えますが、定款に定めることができるのは、株主が亡くなった際に、“会社が”買い取ることができる規定のみです。他の株主が買い取ることを定めることは出来ません。また、定款にこの規定があったとしても、会社は、財源規制(会社法上の規制であって、法定以上の余裕資金がないと自社が発行した株式を取得してはならないという規制を意味します。)をクリアする形でしか自社が発行した株式を取得することができず(会社法第461条第1項第5号)、また、亡くなったことを知った日から1年間しか売り渡すことを請求できません。

したがって、定款にこの規定があったとしても、会社による株式の取得が実現できない可能性もあるため、やはり、創業株主間契約で、創業者が亡くなった場合についても規定をしておく必要があります。

(2)誰が買い取れるようにするか

次に、誰が買い取れるようにするかについても定める必要があります。

創業株主間契約を締結する目的を踏まえると、創業者のうちの誰かが辞めるときは、残りの創業者は、辞める創業者が保有している会社の株式を買い取れる、というように定めることが考えられます。

ただ、このように定めた場合、創業者が辞める際に、残りの創業者に株式を買い取る資金がないと、株式の買取りを実現できないリスクがあります。 このリスクを回避するため、創業株主間契約においては、辞める創業者は、残りの創業者の求めに応じて、残りの創業者又は残りの創業者が指定する第三者に株式を売り渡さなければならない旨を定めておくと、全く別の投資家を見つけてきて株主になってもらったり、一部を会社に自己株式取得してもらうことが可能になります。

(3)いくらで買い取れるようにするか

そして、買取価格をいくらにするかも創業株主間契約に定めておく必要があります。

「いくら」は具体的な金額か、具体的な金額を算出することができる方法を定めてください。具体的には、①株式を取得した際の取得価額、②簿価純資産による算定額、③直近の増資・取引価額等のいずれか1つを規定したり、全てを並列で記載し、この中の一番低い額と定めることが考えられます。

買取価格につき、時価と定めたり、金額は協議すると定める例も見られますが、(特に喧嘩別れの場合などは)協議が成立しなかったり、どのように時価を算出するのかで意見が一致しなかったりと、最終的な金額が決まらないリスクがあります。買取価格が定まらないと、株式買取の効力につき、疑義が生じてしまう可能性もありますので、「いくら」については、実際に創業株主間契約に基づく株式買取が生じた場合に、自動的に具体的な金額が定まる規定となるように特に注意してください。

(4)何株買い取れるようにするか

また、何株買い取れるようにするかという点も、考慮要素の1つです。

創業株主間契約は、会社の円滑な事業経営を守ることや辞めた創業者のフリーライドを防ぐことを目的として、辞める創業者から株式を回収するための契約です。

この目的に照らせば、辞める創業者が保有している株式全てを買取請求の対象とし、会社を辞めた創業者の手元には、会社の株式を残さないようにする、という考え方になり、実際にこの考えに基づいて創業株主間契約が定められている場合も多いです。

しかし、一方で、創業者が辞めるまでの会社への貢献を踏まえて、会社を辞めたとしても、創業者の手元に一定の株式を残してあげたいという考えもありえます。この考え方に基づいて、会社の在籍期間に応じて、辞める創業者の株式の保有を認める(買取請求の対象外とする株式を設ける)ことも考えられます。このような定め方を「リバース・べスティング」といいます。

ただ、リバース・べスティングの定めを行った場合、リバース・べスティングの条件に一致する場合は、辞める創業者による一定数の株式の保有を必ず認めなければならないため、上述した創業株主間契約の目的は必ずしも達成されません。

また、リバース・べスティングの規定を設けなくとも、会社に残る創業者が、希望する株数を買い取れるという形にしておけば、会社に残る創業者側の判断で、辞める創業者が会社株式を持っておくことを許容したい場合にも対応できると考えます。このため、無理にリバース・べスティングを定める必要はなく、リバース・べスティングを設けるか否かは慎重に判断いただいた方が良いと考えます。

4 その他の論点

上記で記載した事項のほかに、実務上は、後見開始等の場合を売渡請求の対象とするかどうか、M&Aの場合の強制売却義務を定めるかどうか、譲渡禁止を定めるかどうかといった点も検討することがあります。

5 おわりに

本稿では、創業株主間契約について創業者同士が契約を締結することを前提とした解説を行いました。

ただ、会社経営を行っている過程で、創業者ではないけれども、途中で参画した取締役に少量の株式を保有してもらう、という場面が生じることもあると思います。このような場合は、創業者同士の関係ではないものの、途中で参画した取締役が株式を保有したまま会社を辞めると、「1. 創業株主間契約って必要?」において確認した創業者が株式を保有したまま会社を辞める際のリスクと同等のリスクが生じます。

このため、途中で参画した取締役に株式を保有してもらう場合も、本稿で記載した創業株主間契約と同等の内容の契約を締結した方が安全であると考えます。このように、創業株主間契約についての理解は、創業時だけでなく、会社関係者が株式を保有するに至った場合にも役立つものになりますので、しっかり確認いただければと思います。

執筆者
S&W国際法律事務所

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