「KAM」とは?

「KAM」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

上場企業の監査役を務めていると「KAM」という言葉をよく耳にすることになります。
今回は、「KAM」について概要を知っていただき、その特徴的な事例やポイントを紹介します。

1 KAMとは

まず、「KAM」とは「カム」と読み、「Key Audit Matters」の略です。

日本公認会計士協会が発表している監査基準委員会報告書におけるKAMの定義は、「当年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう。監査上の主要な検討事項は、監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される。」とされています。

このように、KAMとは監査人が、会計監査において「特に重要であると判断した事項」のことであり、監査役等とのコミュニケーションを行って選択されるものです。

2 KAMの適用対象

そして、2021年3月期決算監査から、①すべての上場会社、②資本金5億円未満又は売上高10億円未満、かつ負債総額200億円未満の非上場会社以外の非上場会社は、金融商品取引法上の監査人の監査報告書にKAMの記載(具体的には、KAMの内容、当該事項をKAMと判断した理由、当該事項に対する監査上の対応の3点)が義務付けられることとなりました。

3 KAMの意義

監査報告書におけるKAMの記載は、監査人が実施した監査の透明性を向上させ、監査報告書の情報価値を高めることにその意義があり、このことで財務諸表に対する投資家の信頼性が向上し、長期投資の促進や企業価値評価の改善、KAMを契機とした投資家・株主と経営者の対話の促進等が期待され、ひいては会社へのインセンティブにも繋がると言われています。

4 KAMの特徴的な事例と記載のポイント

金融庁は、2022年3月4日にKAMの実務の定着と浸透を図ることを目的として、「監査上の主要な検討事項(KAM)の特徴的な事例と記載のポイント」を公表しました。

ここでは、KAMの意義や記載内容、KAMの個数等についての意見や、KAMの類似度、個数(業種別、売上規模別、会計基準別など)に関する分析が紹介されており非常に興味深い内容となっています。

また、特徴的な事例として、株式会社AOKIホールディングスや株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループの監査報告書におけるKAMの内容が実際に紹介されていますので、是非一度目を通していただければと思います。

ここに記載された特徴的な事例に目を通すと、監査人がその会社にとって何をリスクとして捉えているのかという点が明らかにされており、監査人が実施した監査の透明性を向上させ、監査報告書の情報価値を高めること、KAMを契機とした投資家・株主と経営者の対話の促進を図ること、といったKAMの意義を実現するための工夫が見て取れると思います。

他方で、「3.検討が必要と考えられる事例」として、KAMの内容や決定理由、監査手続等が不明瞭な事例なども挙げられているため、特徴的な事例との比較という意味でこちらも参考になります。

5 IPOとKAM

IPOを検討する皆さんがKAM記載をする必要があるかどうかについて検討します。

IPO準備会社が取引所に提出する書類のうち、監査人の監査が必要となる書類としては、①「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」と、上場承認後の新株発行のために必要となる②「有価証券届出書」です。

それぞれ、上場申請を行う直前期、直前々期の二期分の監査報告書が必要となります。

まず、①の監査報告書については、KAM記載は義務付けられていません。

次に、②の監査報告書については、原則としてKAMの記載が必要となります。もっとも、IPO前=非上場会社であることから、先ほど紹介した、「資本金5億円未満又は売上高10億円未満、かつ負債総額200億円未満」の場合、監査報告書にKAM記載は不要です。

なお、「資本金5億円未満又は売上高10億円未満、かつ負債総額200億円未満」か否かの判定は、直前期の財務内容を基準に判断されます。したがって、IPO準備会社においては、直前期末間際にならないとKAMの記載の要否の判断ができない可能性があります。

この点、KAMの内容については、上場会社においても、監査人、経営者、監査役がやりとりをし、そのコミュニケーションを通じて決定されていくものです。

6 まとめ

たとえ非上場のIPO準備会社であってもIPOを目指す以上、IPOにおける開示情報も含め、投資家が懸念する会計上の取扱いや企業に対する質問についてコミュニケーションをとり、これをKAMとして記載することで、ひいては財務諸表に対する投資家の信頼性向上といったプラスの効果を得ることができると考えられます。

したがって、IPO準備会社においても、IPOが近づいた時点ではKAM記載を前提とした運用を行うことをおすすめします。

執筆者
マネージング・パートナー/弁護士
三村 雅一

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