グレーゾーン解消制度とは?活用事例も解説

平成26年に産業競争力強化法に基づき創設された「グレーゾーン解消制度」をご存じでしょうか。

本稿では、近年活用例が増加しているグレーゾーン解消制度について、どういう制度で、どんな場合に使われているのか、どのようなメリット・デメリットがあるのか等について、S&W国際法律事務所の崔弁護士が解説します。

1 グレーゾーン解消制度って何?

グレーゾーン解消制度とは、簡単にいうと、新規ビジネス等の適法性を官庁に直接確認できる制度です。

より正確な表現を用いると、事業者が新たな事業を行うにあたって、現行の規制の適用範囲が不明確な場合に、具体的な事業計画に即して、あらかじめ規制の適用の有無を規制所管省庁(当該規制について所管している省庁)確認できる制度です。

産業競争力強化法に基づく制度であり、事業者が安心して新事業を行えるようにすることを目的として平成26年に創設されました。

グレーゾーン解消制度に基づき、事業所管省庁に照会書を提出すると、規制の適用の有無について、規制所管省庁から回答を得ることができます。回答は、法律上、公表されることになっています(産業競争力強化法7条第2項、第3項)。

たとえば経済産業省を事業所管官庁とする過去の照会に対する回答については、こちらの経済産業省ホームページにまとめられています。

2 グレーゾーン解消制度の利用の要件

法律上、「新事業活動を実施しようとする」ことが、グレーゾーン解消制度の利用の要件とされています(産業競争力強化法7条第1項)。新事業活動とは、「新商品の開発又は生産、新たな役務の開発又は提供、商品の新たな生産又は販売の方式の導入、役務の新たな提供の方式の導入その他の新たな事業活動であって、産業競争力の強化に資するもの」をいいます(産業競争力強化法2条第4項)。

上記のほか、照会可能な事業分野や法律について特に制限がないため、幅広く活用可能な制度といえるでしょう。

3 グレーゾーン解消制度の活用事例

グレーゾーン解消制度の具体的な活用事例についてご紹介します。

グレーゾーン解消制度がさかんに利用された例として、電子署名法第2条第1項に定める「電子署名」の該当性があります。同法上の「電子署名」の定義には、たとえば「情報について改変が行われていないかどうかを確認することができる」といった要件が含まれるのですが、事業者からすると、自社が提供している具体的なサービス・仕組みが、要件を満たすのか、判断がしづらい状況がありました。

【参照:電子署名法第2条第1項】
(定義)
第二条 この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

※太字下線部分の要件が特に不明確であるとして、事業者を悩ませていました。

そこで、アドビ株式会社、ドキュサイン・ジャパン株式会社、GMOグローバルサイン・ホールティングス株式会社といった電子契約に関するサービスを提供している多数の会社が、自社の提供サービスが「電子署名法第2条第1項に定める電子署名に該当すること」等の確認を求める照会を行い、「該当する」というお墨付きを得ました。

なお、これらの会社が提出した照会書の内容や、デジタル庁による回答の結果は、デジタル庁のウェブサイト(グレーゾーン解消制度に基づく回答)で閲覧可能です。

4 グレーゾーン解消制度のメリットとデメリット

(1) メリット

グレーゾーン解消制度を用いることにより、行政から適法性の「お墨付き」を得て、しかもそのようなお墨付きの存在を広く社会に公表できることは、大きなメリットといえるでしょう。

公表された回答を紹介することで、自社の新規ビジネスの適法性・信用性を、より説得的な形で顧客や取引先に説明したり、より効果的な広告宣伝を行ったりすることができるといえるでしょう。

上記で紹介したドキュサイン・ジャパン株式会社は、グレーゾーン解消制度による照会の結果を、自社ウェブサイトで公表することにより、自社ビジネスの有用性を顧客に訴求しています。

(2) デメリット

企業が望まない回答が得られた場合、サービスの提供方法等を大きく変更する必要性が生じたり、最悪の場合、事業活動が続けられなったりすることも考えられます。

もっとも、正式な照会前に規制所管省庁との協議を通じて、規制所管省庁の見解を聞くことができるため、望む回答が得られそうな場合、あるいは、望む回答が得られるような形で新規ビジネス等の内容を見直すことができそうな場合のみ正式照会を行うことも可能です。仮に、内容の見直しによりビジネスを適法化させることが難しい場合も、そのような規制所管省庁の見解を、ビジネスを本格始動させる前に知ることで、深手を負う前に撤退の判断ができるともいえ、メリットと捉えることもできるでしょう。

5 まとめ

新たに行う予定の事業が、法規制の対象になるかどうかが不明確な場合、事業の種類を問わず、グレーゾーン解消制度は有効な解決策の一つとなります。

利用にあたっては、目標とする回答が得られるように、照会の前提条件となる新規ビジネスの内容をよく練り、問題となる法規制に関する自社の見解を説得的に官庁に伝えることが必要です。このようなプロセスは、スタートアップの支援経験が豊富な弁護士に相談しながら進めることをお勧めします。

当事務所では、スタートアップ企業によるグレーゾーン解消制度の利用を含めた各種法規制の調査を取り扱っております。お気軽にお問合せください。

執筆者
S&W国際法律事務所

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