「リスク情報」とは?IPOに備えて知っておきたいその意義と具体例

「リスク情報」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。

リスク情報とは、新規上場会社及び上場会社にかかる、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項であり、有価証券報告書等で「企業情報」の一つとして記載が求められているものです。

したがって、今後、IPOを目指す企業においては、必ず知っておくべき事項となります。この記事で、その意義と具体例を押さえて下さい。

1 「リスク情報」とは

(1)リスク情報

リスク情報とは、新規上場会社及び上場会社にかかる、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を分かりやすく記載したもので、有価証券届出書、目論見書、有価証券報告書、四半期報告書および半期報告書の「企業情報」の一つとして記載が求められている「事業等のリスク」として開示されるものです。

(有価証券届出書について、企業内容等開示府令・第 2 号様式・記載上の注意、有価証券報告書について、同・第 3 号様式・記載上の注意、四半期報告書について、同・第 4 号の 3 様式・記載上の注意、半期報告書について、同・第 5 様式・記載上の注意 参照)

(2)「リスク情報」の記載

記載にあたっては、リスクの重要性や経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載することが求められています。

この内容をもう少し詳しくすると、記載にあたっては、当該書類に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスク(連結会社の経営成績等の状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項)について、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策を記載するなど、具体的に記載することが求められています。

また、将来にわたって事業活動を継続するとの前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況その他経営に重要な影響を及ぼす事象が存在する場合には、その旨及びその具体的な内容を分かりやすく記載することも求められます。

なお、将来に関する事項を記載する場合には、当該事項は提出日現在に置いて判断したものである旨を記載することとされています。

2 「リスク情報」で開示される内容及びその具体例

(1) 開示される内容

令和5年1月に金融庁企画市場局が作成した「企業内容等の開示に関する留意事項について (企業内容等開示ガイドライン)」によると、前記「事業等のリスク」の記載例としては、「おおむね以下に掲げるものがある。」として11項目が列挙されています。(上記ガイドライン72頁~75頁)。

(2)「事業等のリスク」の記載例

① 会社グループがとっている特異な経営方針に係るもの

  • 当社グループ(当社及び連結子会社)は、過去3年間、一株当たり●円、● 円、●円の利益を計上しているが、当社グループは内部留保を充実するため配当を実施していない。当面はこの方針を継続することとしている。

  • 当社グループ製品の●%は、海外生産拠点によって生産されている。主要な海 外生産拠点はA国(生産高の●%)、B国(同●%)、C国(同●%)であり、当該各国企業への投融資残高は、A国(●億円)、B国(●億円)、C国 (●億円)である。

  • 当社グループは、自社開発の技術については、技術流出を避けるため一切の特許申請を行っていない。

② 財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の異常な変動に係るもの

  • 当社グループの主要製品(売上高の●%)及びそれに使用される原材料は国際商品市況に大きく影響され、それにより当社グループの過去の経営成績も下のグラフのように大きく変動している(製品市況、原材料市況、当該会社の経営成績についてグラフ表示)。

  • 当社グループの主要事業である海外プラント工事は、一工事の請負金額が大きく、完成までに長期間を要する。また、工事施行国の中には現在、他国と紛争中のものがあり、工事の進行が大幅に遅れる可能性がある。例えば●期では、●戦争により●国における工事が大幅に遅れ、その結果、売上高、利益とも前期の約●%と大幅に落ち込んだことがある。

  • 当社グループの輸出比率は、●年●月期●%、●年●月期●%、●年●月期中(●年●月●日から●年●月●日まで)●%と高くなってきている。このため、為替予約等によるリスクヘッジを行っているが、当社グループの経営成績は為替変動の影響を強く受けてきている。

③ 特定の取引先等で取引の継続性が不安定であるものへの高い依存度に係るもの

  • 当社グループの売上高の●%はA社に対するものであるが、同社とは、納入数量、価格等に関する長期納入契約を締結していない。

  • 当社製品の販売についてはその大半を海外市場に依存しており、これらの中には、現在、政治的、経済的に不安定な状態にあるA国、B国等が含まれ、その依存度は●%である。

④ 特定の製品、技術等で将来性が不明確であるものへの高い依存度に係るもの

  • 当社の主要製品である●の市場占有率は●%と高いが、その成分及び製造方法について、特許権等を有していないので、新規参入も予想される。

  • 当社は、●特許に基づく、●製品の製造販売を行っているが、同製品の特許期限は、●年●月までであり、その後は新規参入が予想される。

  • 当社製品は、ライフサイクルが短く、従来、生産開始より生産停止までの期間が短期間であった(●期の主力製品Aは●カ月、●期の主力製品Bは●カ月)。現在販売中の主力製品Cの生産開始は●年●月である。

  • 当社の主要製品は、米国A社からの技術導入によって製造しているが、その製品は、技術導入契約により米国、欧州地区には輸出できないこととなっている。同製品の主な輸出先は、中近東地区(●%)及び東南アジア地区(●%)である。

  • 当社は主力商品である●の開発等に関し、A社とライセンス契約を締結している。これにより、主力商品である●の規格・仕様等については、同社の承認が必要となっている。

⑤ 特有の取引慣行に基づく取引に関する損害に係るもの

  • 当社グループ売上高の●%は、委託販売によっている。委託販売は、当業界の一般的な取引慣行であり、委託先の信用に基づき商品を預託し、販売を委託するもので、その際、委託先より営業保証金及び物的担保は徴求していない。当社グループは委託先の倒産により、●期において●百万円の損失を計上している。

  • 当社グループは仕入商品について業界の取引慣行により、一定期間、一定価格による全額買取保証契約を締結している。当社は●期において●百万円の商品の廃棄損を計上している。

⑥ 新製品及び新技術に係る長い企業化及び商品化期間に係るもの

  • 当社グループによる●の開発について新聞紙上等で報道されているが、これは、現在試作の段階であり、実用化の目途がつき販売を開始することができるのは、早くて●年後の予定である。

  • 当社グループは●製品の企業化を図るため、新工場を建設中であるが、その成否は当社グループの将来に重大な影響を及ぼすと見込まれる。その完成の時期は、●年後の予定であり、採用した新技術の習熟に時間を要するため、その全面操業の時期は完成後●年の予定である。

⑦ 特有の法的規制等に係るもの

  • 現在、当社が開発中の●製品について、新聞紙上等で報道されているが、この認可申請は早くて●年後の予定であり、認可申請をしても承認される保証はない(承認されない場合もある)。

  • 当社の●製品については、現在、生産調整カルテルが実施されている(●年●月から●年●月まで)。


  • これまで当社の●製品の製品規格について法定されたものはなかったが、このほど全米●業界は新たに自主的な製品規格を設定した。この結果、当社の輸出品はこれら規格に適合することが必要となったが、適合する製品の開発には、約●年を要するものと見込まれる。

  • 当社は、商品の大部分を自社店舗において販売しており、また現在、事業展開の軸として店舗網の拡大を図っているところであるが、出店等については「●法」 の規制の対象であり、●大臣の許可等の対象となっている。

⑧ 重要な訴訟事件等の発生に係るもの

  • 当社が●期まで発売していた●製品について、薬害があったとして●より●億円の損害賠償請求が●裁判所へ提訴されている。

  • 当社は主要製品である●を、主に米国に輸出しているが、類似の製品を同国で販売しているA社から、特許権を侵害しているとして、米国●裁判所に提訴されている。

⑨ 役員、従業員、大株主、関係会社等に関する重要事項に係るもの

  • 当社取締役社長甲は、当社製品の●%の販売先であるA社の株式を●%所有している。なお、当社グループとA社グループとの間の取引価格及び取引条件は他の販売先と同一である。

  • 当社の銀行からの借入金に対して、当社取締役社長甲が保証を行っている。

  • 当社取締役社長甲の銀行からの借入金に対して、当社は保証を行っている。

  • 当社の有力な営業担当者●名は、●年●月退社し、新たに株式会社●社を設立して、当社と同一の営業を開始した。この結果、当社と●社は競合する関係となった。

⑩ 会社と役員又は議決権の過半数を実質的に所有している株主との間の重要な取引関係等に係るもの

  • 当社は、本社社屋を当社取締役社長甲より賃借している。その賃借条件は次のと おりであるが(賃借面積、支払賃借料等を記載)、賃借料率、保証金額は不動産鑑定士●事務所の鑑定評価額を参考に決定している。

  • 当社の製品●の主要材料である●は、B商会㈱から仕入れているが、同商会の代表取締役である甲は、当社の議決権の過半数を実質的に所有している株主である。なお、同商会からの仕入価格その他の取引条件は、他の仕入先と同一である。

  • 当社は、親会社であるA社の総販売代理店として、輸出を除き、同社全製品の国内向け販売を取り扱っている。なお、A社からの仕入価格、その他の取引条件は、毎期首、両者間で市場動向その他を勘案して協議決定している。

⑪ 将来に関する事項について

  • 当社は、親会社であるA社の総販売代理店として、輸出を除き、同社全製品の国内向け販売を取り扱っている。なお、A社からの仕入価格、その他の取引条件は、毎期首、両者間で市場動向その他を勘案して協議決定している。

3 「リスク情報」として記載すべきか否か

「リスク情報」として記載すべきか否かについて、IPOにあたっては、基本的には重要なリスクは全て開示することが求められます。

すなわち、一般投資家が株式市場において株式を売買するに際し、情報の透明性が確保されていることは重要な前提事項です。また、有価証券届出書においても「事業等のリスク」として項目が設けられており、対象会社のリスクについては基本的に全て開示することが求められているといえます。

なお、IPOの際の有価証券届書等の重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている場合は、損害賠償責任が課されているところ(金融商品取引法第21条)、開示するべきリスクを開示しなかった場合には、同条の「虚偽の記載」又は「重要な事実の記載が欠けている場合」に該当する可能性があります。

したがって、「リスク情報」として記載すべきか否かについて、IPOにあたっては、基本的には重要なリスクは全て開示することが求められるといえます。

4 まとめ

冒頭で述べたとおり、リスク情報とは、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項であり、今後、IPOを目指す企業においては、必ず知っておくべき事項となります。

引受審査などで法務上のリスクが浮かび上がった場合は、リスク情報として開示することを検討する場合があります。法務上のリスクを始めとするリスクについて、早期に発見し、対処可能なものは対処することが基本です。法務上のリスクの早期発見や対処について相談のある方は、問い合わせページからご相談ください。

本記事を読んで頂き、より理解を深めたい方々は、金融庁が、投資家と企業との建設的な対話に資する充実した企業情報の開示を促すために公表している、「記述情報の開示の好事例集」をご参照ください。同事例集においては、「事業等のリスク」の開示例も公表されていますので、ぜひご参照ください。

執筆者
マネージング・パートナー/弁護士
三村 雅一

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