株主総会における委任状、議決権行使書、書面決議の違いは?

会社法は、株主総会の開催や議決権の行使を簡便に行うことができる制度を用意しています。

特にベンチャー企業においては、迅速な意思決定が求められる場面に遭遇することが多いですから、上記の制度を活用することは、極めて有意義です。

しかしながら、上記の制度についてよく知らないまま運用していることにより、株主総会の適法性や、決議の有効性に疑義が生じてしまうと、上場のための大きな障害となりかねません。

そこで、以下では、株主総会における議決権の代理行使(委任状を用いる方法)、書面決議、及び書面等による議決権行使(議決権行使書面等を用いる方法)の3つの制度の概要と、各制度のメリット・デメリットなどの違いについて、互いに比較しながら簡単に説明します。

1 株主総会の簡便かつ適法な運営のために(概要)

例えば、「これまで株主は創業者3名のみだったが、今回新たに、友人がエンジェルとして投資してくれることになった。株主総会を適法に運営していきたいが、煩雑な手続きも避けたい。どのような方法をとればよいか。」といったご相談を受けることがあります。

このようなご相談に対して説明するのが、今回のテーマである、株主総会における議決権の代理行使、書面決議、及び書面等による議決権行使です。

これらの制度の概要と特徴は、大まかにいえば、以下のとおりまとめることができます。

書面決議書面等による議決権行使議決権の代理行使
特に必要となる書類提案書・同意書議決権行使書面等
株主総会参考書類
委任状
株主総会の開催  ×(省略する)       ○        ○
議決権の行使方法      ―株主本人が行う代理人が行う
手続の簡便さ      ◎
ただし株主全員の同意が得られる場合のみ可能
      ×
株主総会参考書類を作成する必要があり、かえって煩雑
       ○
特別な手続は必要とならない

各制度の詳細について、2 以下でご説明します。

2 書面決議

【根拠規定】

会社法第319条 (株主総会の決議の省略)
1 取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。

(1) 概要

ある提案について、議決権を行使することができる株主全員が同意の意思表示をした場合に、株主総会の開催を省略して、その提案を可決する株主総会決議があったとみなすことができる制度です。

株主総会を開催しないため、「みなし決議」と呼ばれることもあります。

(2) メリット・デメリット

全株主から同意書を集めることで、株主総会の開催そのものが省略できますので、法定の招集期間や、株主総会の場所の確保、株主や役員の日程調整等が不要になります。

もっとも簡便に、株主総会による決議を得ることができる方法といえます。

したがって、迅速に意思決定を行う必要のあるベンチャー企業や、株主総会の開催に伴う煩雑な事務を避けたい会社においては、ぜひ活用していただきたい制度です。

但し、全株主から同意書を取得する必要がありますので、会社の成長とともに外部株主が増えてくると、書面決議が困難となるケースもあります。

(3) 準備すべき事項

必要となる書類は、提案書と、これに対して株主が提出する同意書(書面または電磁的記録)です。

株主総会が開催されませんので、別途、株主総会招集通知を作成する必要はありませんが、議事録は作成する必要があります(会社法施行規則第72条第4項第1号)。

(4) 書面の保管

株主の同意が示された書面または電磁的記録は、決議があったものとみなされた日から10年間、本店に備え置く必要があります(会社法第319条第2項)。

3 書面等による議決権行使

【根拠規定】

会社法第298条 (株主総会の招集の決定)
1 取締役(中略)※1は、株主総会を招集する場合には、次に掲げる事項を定めなければならない。
三 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨

※1 取締役会設置会社においては、取締役会の決議(同条第4項)。

※ 株主が1000人以上である場合には、書面による議決権行使を認めなければならない(同条第2項)。本稿においては、株主が1000人に満たない非公開会社を想定している。

※ 書面の代わりに、電磁的方法によって議決権を行使することができるようにすることも可能(会社法第298条第1項第4号)。ただし、導入コストが高額であること等から、非上場会社では一般的でない。

(1) 概要

株主総会を招集する際にあらかじめ定めておくことにより、株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することが可能となります。「書面投票」と呼ばれることもあります。

(2) メリット・デメリット

株主総会を実際に開催して、出席した株主との闊達(かったつ)な質疑応答等を行いつつ、当日に参加することの叶わない株主についても、議決権行使の機会を設けることが可能となる制度です。

一方で、後述する株主総会参考書類の作成が必要となります。

株主総会参考書類は、複雑で作成が面倒ですので、株主総会の開催準備に十分な人員を割くことができない会社にとっては、相当の負担となります。特にベンチャー企業等では、株主総会参考書類の作成が必須となることを嫌って、書面による議決権行使を採用しない例が多くあり、あまりお勧めはしていません。

(3) 準備すべき事項

必要となる書類は、株主総会参考書類と議決権行使書面です。これらは、株主総会招集通知や株主総会議事録とは別に必要です。

このうち、株主総会参考書類は、株主に対して議案に対する賛否を判断するために必要な情報を提供する目的で作成される書類です。同書類に記載すべき事項は、会社法施行規則第73条から第94条までに詳細に規定されています。

(4) 書面の保管

議決権行使書は、株主総会の日から3か月間、会社の本店に備え置く必要があります(会社法第311条第3項)。

4 議決権の代理行使

【根拠規定】

会社法第310条 (議決権の代理行使)
1 株主は、代理人によってその議決権を行使することができる。この場合においては、当該株主又は代理人は、代理権を証明する書面を株式会社に提出しなければならない。
2 前項の代理権の授与は、株主総会ごとにしなければならない。

(1) 概要

株主が、代理人によって議決権を行使することです。
これにより、株主は、自ら実際に株主総会の場に出向くことなく、議決権を行使することができるようになります。

(2) メリット・デメリット

書面による議決権行使と同様に、株主総会を実開催しつつ、当日欠席する株主にも議決権を行使する機会を認めることができます。また、書面による議決権行使とは異なって、株主総会参考書類の作成は義務付けられず、これ以外にも煩雑な準備は必要となりません。
そのため、ベンチャー企業から上場企業まで、広く取り入れられている手法といえます。

(3) 準備すべき事項

株主は、会社に対して委任状(代理権を証明する書面)を提出する必要があります。

この場合も株主総会招集通知や株主総会議事録は別に必要です。
実務上は、会社が委任状を作成し、株主に対して招集通知とともに委任状を送付して、委任状の返送を依頼することが一般的です。株主は、受領した委任状に議案への賛否等の必要事項を記載して、会社に返送することになります。

(4) 書面の保管

委任状は、株主総会の日から3か月間、会社の本店に備え置く必要があります(会社法第310条第6項)。

5 まとめ

冒頭では、実際にいただいたご相談の例として、「これまで株主は創業者3名のみだったが、今回新たに、友人がエンジェルとして投資してくれることになった。株主総会を適法に運営していきたいが、煩雑な手続きも避けたい。どのような方法をとればよいか。」というものをご紹介しました。

このようなご相談に対する回答としては、まず、もっとも簡便な方法として、書面決議をお勧めしています。

特に上記のご相談では、株主が創業者とそのご友人のみであるため、同意書の回収に問題が生じることは想定されづらいですので、書面決議を採用することになりました。

「自社にはどのような運営が向いているのだろうか」とお悩みの方も、一度、書面決議をご検討いただければと思います。

一方、全株主からの同意が取得できない場合は、書面決議は採用できません。
また、株主総会の場で実際に議論を行いたい、といった要望がある場合も、書面決議は採用できません。

これらの場合は、株主総会を開催しつつ、当日出席できない株主に対しては、代理人による議決権の行使をお願いする方法で進めていくことになります。実際のスタートアップ企業で、複数の株主がいるときには、株主から委任状を取得して、代理人による議決権の行使をしてもらう方法が一般的です。

議決権行使書面は、準備の手間がそれなりにかかりますので、スタートアップ企業では、IPO直前で、IPO後の予行演習をするといった事情がない限り、あまり採用する実益はないのが実際のところではないでしょうか。

株主総会は、会社の運営にあたって、避けて通ることができません。
今回ご紹介した制度を活用しつつ、適法かつスムーズな運営を目指しましょう。

執筆者
カウンセル/弁護士
和田 眞悠子

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