営業秘密とは何か?~営業秘密漏洩のリスク及び具体的事例と営業秘密の管理方法についても解説~

最近の報道でも大手回転ずしを運営する会社の社長が競合他社の営業秘密を転職時に不正に取得したとして不正競争防止法違反の疑いで逮捕された事例がありました。

また、過去の判例でも、大手化学メーカーの元社員が液晶パネルに関する技術情報を中国企業に漏らしたとして、不正競争防止法違反の罪に問われた事件もありました。

ビッグデータや、AIの活用等により、情報活用の形態が多様化し、さらに、人材の流動性やグローバルな企業活動が活発化する状況において、営業秘密とは何か、営業秘密の漏洩にはどのようなパターンがあるのかを理解し、営業秘密の管理方法を理解しておくことは企業のリスク管理として、ますます重要となっています。

1 どのような場合に営業秘密にあたるのでしょうか?

営業秘密というと、設計図、ある素材を調合する際の化学物質の配合比率や温度設定、顧客情報、仕入価格や取引先の情報などが思いつきます。

実際、過去の判例でも、顧客情報、工作機械(旋盤)の図面情報、自動車用エンジン部品などを製造するプレス機設計図、フラッシュメモリの製造技術、方向性電磁鋼板技術などが、営業秘密に該当するとされました。

この点については、不正競争防止法2条6項で、「営業秘密」とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう」と定義されています。

つまり、営業秘密には、

  1. 秘密管理性
  2. 有用性
  3. 非公知性

の3つの要件が必要となります。

2 営業秘密に該当するための要件①:秘密管理性とは?

営業秘密に該当するための要件の1つ目である、秘密管理性の要件については、過去の判例が次のような判断基準を示しています。

(1)当該情報にアクセスできる者を制限するなど,当該情報の秘密保持のために必要な合理的管理方法がとられており,
(2)当該情報にアクセスした者につき,それが管理されている秘密情報であると客観的に認識することが可能であることを要するが,
(3)可能な限り高度な対策を講じて情報の漏出を防止するといった高度な情報セキュリティ水準まで要するものではない

このような判断基準は、事業者の営業上の利益保護の観点から保護に値する情報を限定するとともに,当該情報を取り扱う従業者に刑事罰等の予測可能性を与えることを趣旨とするものです。

また、経済産業省が定めた営業秘密管理指針(6頁)では、

秘密管理性要件が満たされるためには、営業秘密保有企業の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要がある。具体的に必要な秘密管理措置の内容・程度は、企業の規模、業態、従業員の職務、情報の性質その他の事情の如何によって異なるものであり、企業における営業秘密の管理単位(本指針14頁参照)における従業員がそれを一般的に、かつ容易に認識できる程度のものである必要がある。

としており、上記判例の判断基準に沿った理解が示されています。

3 営業秘密に該当するための要件②:有用性とは?

「有用性」が認められるためには、当該情報が客観的に事業活動にとって有用であることが必要となります。

上記でもご紹介した経済産業省が定めた営業秘密管理指針(16頁)では、

「有用性」の要件は、公序良俗に反する内容の情報(脱税や有害物質の垂れ流し等の反社会的な情報)など、秘密として法律上保護されることに正当な利益が乏しい情報を営業秘密の範囲から除外した上で、広い意味で商業的価値が認められる情報を保護することに主眼がある。

としており、参考になります。

4 営業秘密に該当するための要件③:非公知性とは?

「非公知性」が認められるためには、当該情報は一般的に知られておらず、又は容易に知ることができないということが必要です。

 つまり、当該情報が合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物に記載されていたり、市場で購入することが可能な商品から容易に分析することができるような情報であったりすると、「非公知性」は認められないことになります。

5 営業秘密漏洩によるリスク

まず、営業秘密を漏洩した者(会社の従業員や、元従業員が典型)は、不正競争防止法違反により刑事罰を受けるおそれがありますし、被侵害者から民事上の損害賠償請求を受けるリスクもあります。

また、営業秘密を漏洩させてしまった会社の取締役等の経営者は営業秘密の管理体制を構築すべき義務があったのにそれを怠ったとして、取締役としての善管注意義務違反を問われる可能性もあります。

さらに、当該営業秘密が取引先の情報であったような場合は、営業秘密を漏洩させてしまった会社は、当該取引先から秘密保持義務違反を理由に損害賠償請求をされるリスクもあります。

6 営業秘密はどのように管理すればよいのでしょうか

上記の通り、企業にとって必要な秘密管理措置の内容・程度は、企業の規模、業態、従業員の職務、情報の性質その他の事情の如何によって異なります。

営業秘密の管理のための一般的な対策としては、

① 重要情報へのアクセス制限

パスワード設定、サーバーのアクセス制限、営業秘密を保管する部屋への入室をセキュリティーカードにより制限、退職者のアクセス権限やアカウントを退職後速やかに削除

② 情報管理体制の構築

情報管理システム、USB等の記録媒体の持込み禁止する、情報記録媒体において秘密情報であることを明示する等の情報管理ルールの整備、秘密保持誓約書の徴求など

が重要となってきます。

執筆者
マネージングパートナー/ニューヨーク州弁護士/弁護士
河野 雄介

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