IPO準備に必要な社内規程~内容・時期・方法について~

本コラムでは、まず、IPOの準備に際して、社内規程を整備することの必要性について根拠を確認します。

そのうえで、コーポレートガバナンスの観点から、整備すべき社内規程の内容を5つの分類に分けて例示しています。

また、整備すべき社内規程の内容に応じて、整備を開始すべき時期、及び整備の方法(具体的な作業を社内で行うのか、または、社外の専門家等に依頼するのか)について、IPO準備の実務をふまえて説明します。

1 IPOの準備のために、社内規程の整備は必要か

IPOを目指すためには、上場審査に耐えられる体制を構築する必要があります。

上場審査に関し、東京証券取引所の有価証券上場規程第219条第1項第3号では、「(3) 企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」として、「コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、企業の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能していること。」が求められています。

これを受けて、東京証券取引所の上場審査等に関するガイドライン「Ⅱ 株券等の新規上場審査〔スタンダード市場〕」では、次の定めがされています(注:下線及び傍点は筆者)。

(企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性)

4.規程第207条第1項第3号に定める事項についての上場審査は、次の(1)から(5)までに掲げる観点その他の観点から検討することにより行う。
(1) 新規上場申請者の企業グループの役員の適正な職務の執行を確保するための体制が、次のa及びbに掲げる事項その他の事項から、適切に整備、運用されている状況にあると認められること。
 a 新規上場申請者の企業グループの役員の職務の執行に対する有効な牽制及び監査が実施できる機関設計及び役員構成であること。この場合における上場審査は、規程第436条の2から第439条までの規定に定める事項の遵守状況を勘案して行うものとする。
 b 新規上場申請者の企業グループにおいて、企業の継続及び効率的な経営の為に役員の職務の執行に対する牽制及び監査が実施され、有効に機能していること。
(2) 新規上場申請者及びその企業グループが経営活動を有効に行うため、その内部管理体制が、次のa及びbに掲げる事項その他の事項から、適切に整備、運用されている状況にあると認められること。
 a 新規上場申請者の企業グループの経営活動の効率性及び内部牽制機能を確保するに当たって必要な経営管理組織( 社内諸規則 ・・・・・を含む。以下同じ。)が、適切に整備、運用されている状況にあること。
 b 新規上場申請者の企業グループの内部監査体制が、適切に整備、運用されている状況にあること。
(3) 新規上場申請者の企業グループの経営活動の安定かつ継続的な遂行及び適切な内部管理体制の維持のために必要な人員が確保されている状況にあると認められること。
(4) 新規上場申請者の企業グループがその実態に即した会計処理基準を採用し、かつ、必要な会計組織が、適切に整備、運用されている状況にあると認められること。
(5) 新規上場申請者の企業グループにおいて、その経営活動その他の事項に関する法令等を遵守するための有効な体制が、適切に整備、運用され、また、最近において重大な法令違反を犯しておらず、今後においても重大な法令違反となるおそれのある行為を行っていない状況にあると認められること。

このように、東京証券取引所における上場審査においては、「社内諸規則が適切に整備、運用されている状況にある」と認められることが必要です。

このように、東京証券取引所の有価証券上場規程及び東京証券取引所の上場審査等に関するガイドラインによって、IPOに際して社内規程の整備が要求されています。例えば、経営活動の効率性を確保するという観点からは、業界を問わず、業務分掌規程または職務権限規程は必須といえるでしょう。

2 整備すべき社内規程の内容、時期、方法

(1)内容

IPOを目指す企業においては、定款は当然として、就業規則及び賃金規程といった基本的な規程は保有している場合が多いと思われます。 他方、職務権限規程や個人情報取扱規程については、保有していない場合や、また、育児介護規程、内部通報規程等については、保有していても、法改正に対応した修正等がされていない場合もあるでしょう。

まずは、自社において「整備すべき社内規程が何か」という点についての洗い出しが必要です。この点については、主幹事証券会社や外部専門家と相談しながら、自社のビジネス環境に応じて、取捨選択をすることになります。

整備すべき社内規程のうち、主たるものとしては、以下の規程が挙げられます※1

分 類規程例ポイント
基本規程定款、取締役会規程、監査役会規程、株式取扱規程等既存のものを必要に応じてブラッシュアップ。
組織関係規程組織規程、業務分掌規程、職務権限規程、稟議規程等新設となるケースが多い。企業の実態に応じて作成。
業務管理規程予算管理規程、生産管理規程、文書管理規程、与信管理規程等新設となるケースが多い。企業の実態に応じて作成。
人事関係規程就業規則、賃金規程、人事考課規程、従業員持株会規程等法改正が多い分野であり、適宜ブラッシュアップ、追加作成が必要。
コンプライアンス規程コンプライアンス管理規程、社内監査規程、内部通報規程等不足するものを追加。

※1 社内規程を5分類にしています。7分類等に整理する場合もありますが、重要なことは必要な規程を整備することですので、いくつに分類するかについて気にされる必要はありません。

この他にも、数多くの規程が必要とされることもあるため、会社の実態に応じ、適切に取捨選択をして規程を整備することが必要です。

着手の順序としては、まずは基本規程から着手して、その後、自社の状況(既存の規程類の種類、実務における必要性の高低等)に応じて、適宜の順序で作業を進めればよいでしょう。

(2)時期

IPOの直前前期の期初には、社内規程の整備に着手すべきです。

有価証券上場規程及び上場審査等に関するガイドラインからも読み取れるように、各種の社内規程を完成させること自体が目的ではありません。

完成させた社内規程に基づいて、「コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、企業の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能」させることが目的であり、これを実現できている必要があります。

そのためには、直前期が開始するころには、すべての社内規程が完成しており、実際に、運用しつつ、適宜、ブラッシュアップしていくことが望ましいです。数多くの社内規程を作成したり、修正する準備期間に鑑みると、遅くとも、直前前期の開始するころには、社内規程の整備に着手すべきです。

(3)方法

社内規程を整備するに際しては、内部管理体制を適切に構築するために諸規程を充実させ、かつ、相互に矛盾や重複のないものにする必要があります。また、他社で利用された規程や証券会社等から提供されたひな型等を用いる場合も散見されますが、会社の実態に即し、申請会社の業種、規模、成長ステージ、及び、実際に行われている業務フロー等に応じた適切なものを作成する必要があります。

そのためには、まずは社内の担当部署において整備作業をすることになりますが、必要に応じて、適宜、証券会社やIPOサポートの経験豊富な弁護士等の外部専門家に相談しながら作業を進めるべきです。

社内規程の整備について注意を怠ると、規程間での重複や矛盾が生じたり、過度に大部・冗長な規程となったり、企業運営の実態と乖離したものとなってしまうことがあり、効率的な業務運営の妨げとなり、上場審査に支障を生じさせるおそれがあります。

また、いったん作成した社内規程を後から整理する作業は、想定以上に時間と労力を要することが多くありますので、注意が必要です。

なお、多くの社内規程の制定等に関しては、「重要な業務執行の決定」(会社法第362条第4項)に該当するものとして、取締役会決議事項となると考えられますので、適宜のタイミングで取締役会での決議を求める等、手続面での適法性も担保するよう注意が必要です。

執筆者
マネージング・パートナー/弁護士
藤井 宣行

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