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ベンチャー法務の部屋

令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正のうち、 取締役の報酬等として当該株式会社の株式又は新株予約権を付与しようとする場合の改正点の解説

1 はじめに

今月(2020年11月)20日、令和元年会社法改正の施行日が公布されました。
令和3年3月1日です。

この令和元年会社法改正は、おおむね以下の事項を定めています。いくつかの新制度の制定があり、それなりに大きな改正です。
(1) 株主総会資料の電子提供制度の創設
(2) 株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備
(3) 取締役の報酬に関する規律の見直し
(4) 会社補償及び役員等のために締結される保険契約に関する規律の整備
(5) 社外取締役の活用等
(6) 社債の管理に関する規律の見直し
(7) 株式交付制度の創設
(8) その他(①募集新株予約権について募集事項として募集新株予約権の払込金額の算定方法を定めた場合であっても、原則的には、募集新株予約権の払込金額を登記すれば足りることとし、例外的に、登記の申請の時までに募集新株予約権の払込金額が確定していないときは、当該算定方法を登記しなければならないことと、②成年被後見人等についての取締役等の欠格条項を削除、③会社の支店の所在地における登記の廃止、等)

このうち、今回は、「 取締役の報酬に関する規律の見直し 」のうち、「取締役の報酬等として当該株式会社の株式又は新株予約権を付与しようとする場合には、定款又は株主総会の決議により、当該株式又は新株予約権の数の上限等を定めなければならないこと」について、解説します。

概要は、「取締役の報酬等を決定する手続等の透明性を向上させ,また,株式会社が業績等に連動した報酬等をより適切かつ円滑に取締役に付与することができるようにするため,上場会社等の取締役会は,取締役の個人別の報酬等に関する決定方針を定めなければならないこととするとともに,上場会社が取締役の報酬等として株式の発行等をする場合には,金銭の払込み等を要しないこととするなどの規定を設けることとしています」というものです(令和元年12月11日付け(令和2年9月1日更新)法務省民事局 「会社法の一部を改正する法律について」)。

2 現行会社法における取締役への新株予約権の付与と取締役報酬規制

以前、「いわゆる有償ストック・オプションを発行する場合に、株主総会において報酬等に関する決議が必要か」というエントリーを当ブログに上げました。

現行(令和3年2月末日まで)の会社法では、取締役の報酬等(職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益)については、額、具体的な算定方法、又は内容を、定款又は株主総会の決議によって定めなければならないとのみ規定されています(会社法第361条第1項)。

現行の会社法では、会社法の取締役の報酬に関する規律との関係で、取締役に無償で新株予約権(ストックオプション)を付与する場合に、 具体的な算定方法、又は内容について、株主総会でどのように決議すべきかは、必ずしも会社法上明確ではありません。また、 取締役に有償で新株予約権(ストックオプション)を付与する場合にも、会社法361条にいう「報酬等」に該当するかどうか、はっきりせず、報酬決議が必要か否かも明確ではありませんでした。

3 ベンチャー企業の取締役にストックオプション(新株予約権)を付与する場合における、令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正後の取締役報酬規制

令和元年会社法改正の第361条第1項では、 「報酬等のうち当該株式会社の募集新株予約権(第二百三十八条第一項に規定する募集新株予約権をいう。以下この項及び第四百九条第三項において同じ。)については、当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項」(第4号)や「 報酬等のうち次のイ又はロに掲げるものと引換えにする払込みに充てるための金銭については、当該 イ又はロに定める事項」「 当該株式会社の募集新株予約権取締役が引き受ける当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項 」(第5号ロ)を株主総会で決議すれば、足りることが明確になりました。

 したがって、令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正後は、
 【取締役に無償で新株予約権(ストックオプション)を付与する場合】は
 「報酬等」に該当するものとして、
 【 取締役に有償で新株予約権(ストックオプション)を付与する場合】も、
 「報酬等」に該当するものとして、
 それぞれ改正後の会社法第361条第1項第4号に基づき、
 ストックオプションの内容を決議した方がよいと考えます。

 決議すべき事項は、以下のとおりです。
① 当該募集新株予約権の数の上限
② 当該新株予約権の目的である株式の数 (種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数) 又はその算定方法
③ 当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法
④ 金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
⑤ 当該新株予約権を行使することができる期間
⑥ 一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要
⑦ 前二号に掲げる事項のほか、当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要
⑧ 譲渡による当該新株予約権の取得について当該株式会社の承認を要することとするときは、その旨
⑨ 当該新株予約権について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、会社法236条第1項第7号イからチに掲げる事項(いわゆる取得条項の内容)
⑩ 当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要

会社法第236条第1項の事項の他、行使資格や行使条件を明確にする必要があり、結局のところ、新株予約権の要項と割当契約書を別紙で添付して、報酬等の内容として決議することになるものと考えられます。

4 留意事項

 会社法改正施行前、要するに令和3年2月末日までに、株式やストックオプション(新株予約権)の授権枠の決議のみを株主総会で行い、取締役等への具体的な割当決議を施行後、すなわち令和3年3月1日以後に行う場合は、改めて株主総会で報酬決議を要するか否かについては、確認が必要であるため、弁護士にお問い合わせください。
 また、RSU等の事後交付型株式報酬等は、個別に検討を要しますので、こちらも弁護士にお問い合わせください。
 なお、 会社法改正施行前であっても、役員報酬決議に際して、改定後の決定事項を網羅した形で、役員報酬決議を取得しておくことは、会社法上、問題がないと考えられますので、今から取締役等にストックオプションを付与する場合は、是非、株主総会にて、 改定後の決定事項を網羅した形で役員報酬決議も同時に行っていただく方法がよいと考えます。

5 参考

参考までに、改正後の会社法第361条第1項第4号から第6項、施行規則第112条の2を掲載します。

会社法(令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正)
(取締役の報酬等)
第361条第1項
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
   (中略:1号~3号)
 四 報酬等のうち当該株式会社の募集新株予約権(第二百三十八条第一項に規定する募集新株予約権をいう。以下この項及び第四百九条第三項において同じ。)については、当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項
 五 報酬等のうち次のイ又はロに掲げるものと引換えにする払込みに充てるための金銭については、当該イ又はロに定める事項
  イ 当該株式会社の募集株式取締役が引き受ける当該募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び種類ごとの数)の上限その他法務省令で定める事項
  ロ 当該株式会社の募集新株予約権取締役が引き受ける当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項
 六 報酬等のうち金銭でないもの(当該株式会社の募集株式及び募集新株予約権を除く。)については、その具体的な内容
  

会社法施行規則
第98条の3
法第三百六十一条第一項第四号に規定する法務省令で定める事項は、同号の募集新株予約権に係る次に掲げる事項とする。
 一 法第二百三十六条第一項第一号から第四号までに掲げる事項(同条第三項の場合には、同条第一項第一号、第三号及び第四号に掲げる事項並びに同条第三項各号に掲げる事項)
 二 一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要
 三 前二号に掲げる事項のほか、当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要
 四 法第二百三十六条第一項第六号に掲げる事項
 五 法第二百三十六条第一項第七号に掲げる事項の内容の概要
 六 取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要(取締役の報酬等のうち株式等と引換えにする払込みに充てるための金銭について定めるべき事項)

第98条の4

法第三百六十一条第一項第五号イに規定する法務省令で定める事項は、同号イの募集株式に係る次に掲げる事項とする。
 一 一定の事由が生ずるまで当該募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要
 二 一定の事由が生じたことを条件として当該募集株式を当該株式会社に無償で譲り渡すことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要
 三 前二号に掲げる事項のほか、取締役に対して当該募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件又は取締役に対して当該募集株式を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要

2 法第三百六十一条第一項第五号ロに規定する法務省令で定める事項は、同号ロの募集新株予約権に係る次に掲げる事項とする。 
  一 法第二百三十六条第一項第一号から第四号までに掲げる事項(同条第三項の場合には、同条第一項第一号、第三号及び第四号に掲げる事項並びに同条第三項各号に掲げる事項)
 二 一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要
 三 前二号に掲げる事項のほか、当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要
 四 法第二百三十六条第一項第六号に掲げる事項
 五 法第二百三十六条第一項第七号に掲げる事項の内容の概要  
 六 取締役に対して当該募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件又は取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要  

文責:森 理俊

正社員から個人事業主に

2020年11月11日付け日本経済新聞電子版に、「電通、社員230人を個人事業主に 新規事業創出ねらう」との記事が掲載されていました。同記事の概要を、以下に引用します。

  • 電通は一部の正社員を業務委託契約に切り替え、「個人事業主」として働いてもらう制度を始める。
  • 新制度の適用者は、営業や制作、間接部門など全職種の40代以上の社員約2800人を対象に募集した。適用者は早期退職したうえで、電通が11月に設立する新会社と業務委託契約を結ぶ。契約期間は10年間。電通時代の給与を基にした固定報酬のほか、実際の業務で発生した利益に応じてインセンティブも支払われる。
  • 適用者は電通社内の複数部署の仕事をするほか、他社と業務委託契約を結ぶこともできる。ただ競合他社との業務は禁止する。

要は、電通の正社員が、電通を退職し、個人事業主として、電通(または子会社)と業務委託契約を締結し、業務委託料の支払いを受けるというものです。同様の取り組みは、電通以外の企業でも実施されているようです。計測器メーカーのタニタでは、2016年から、同様の取り組みを実施されていて、現在では、社員の約1割にあたる24名が、タニタを退職し、個人事業主として、業務を行っているとのことです(https://seleck.cc/1419)。

タニタによれば、この取り組みの目的は、「優秀な人材がより主体性を発揮できるよう支援し、努力に報いること」です。

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO50531260T01C19A0000000?channel=DF130420167231

この制度は、業務を受けるか否か、受ける場合の対価の額について、その都度、検討し、業務遂行に際しては、会社の指揮監督命令の下ではなく、自分の裁量と判断によって行う。また、労働時間の長短・休憩時間等についても、自己責任で調整する。これによって、正社員(労働者)の立場では実現できなかった「主体性」を発揮し、付加価値の高い業務を行って、提供した価値に応じた経済的利益を得られるようにする、という考えで、行われているのだと思います。

たしかに、この制度を利用した元社員の方のインタビューを読むと、個人事業主になって良かった点が多くあると感じている方もいるようです(https://seleck.cc/1419)。

他方、業務委託の契約期間が満了した時点で、契約を更新してもらえない場合や、満足できる対価での合意が困難な場合に、元従業員の生活保障については、どのように考えるのかという点(一般的には、他社からの発注を広く受けられるケースは多くないように思います。また、こういったリスクをふまえて、独立後の業務委託料を、独立前の給与に比較して大幅に高額に設定されることも想定しにくいです。)、もし雇用契約であれば時間外手当等が支給されるべき時間を働かなければこなせない業務を受注しても時間外手当等を支払ってもらえないという点、社会保険や年金はどうするのかという点、及び、社員の場合は給与所得としての給与所得控除があったうえ、源泉徴収と年末調整で済んでいたものが、事業所得となり給与所得控除がなくなり確定申告が必要となる点など、解決すべき課題は、たくさんあります。

実際に、これらの懸念点について、各所で議論されているようです。

https://news.yahoo.co.jp/articles/a96e7117dea95e8d43b0c9ab72b9152a7a3bac61

なお、もちろん、電通にしても、タニタにしても、上記のような懸念点については、十分に認識したうえで、対応されていることと思います。

個人的には、このような取り組みについて、貴重なチャレンジであると思っています。現在の労働法制下において、柔軟な制度設計をすることは必ずしも容易ではない面があることは否定できません。他方、多様な人材を確保し、かつ、多様な働き方を用意することによって、企業としての国際競争力を強化する必要性は、日増しに高まっています。そのためには、これまでにない発想と工夫で、新たな取り組みにチャレンジすることも必要でしょう。

もっとも、導入に際しては、上記の例のように、労働者にデメリットや不利益が生じることも想定されますので、これらの点について、労働者に対し、十二分に理解してもらったうえで、自主的な選択の機会を確保すべきことは言うまでもありません。

(文責:藤井宣行)

2020年11月18日 12:06|カテゴリー:ベンチャー・ビジネス, 企業法務||コメントはまだありません

第三者委員会

テレビや新聞などの報道で、「第三者委員会」という言葉を耳にすることが増えました。

記憶に新しいところでは、関西電力の役員らが原子力発電所を巡って多額の金品を受け取っていた問題、日大アメフト部におけるタックル問題などで第三者委員会が設置され、調査が行われ、調査報告書が公表されています。

第三者委員会を設置する大きな目的は、企業や官公庁、地方自治体、独立行政法人あるいは大学、病院等の法人組織において、犯罪行為、法令違反、社会的非難を招くような不正・不適切な行為等が発生した場合に、同行為等について調査・検証を行うことで、不祥事によって失墜してしまった社会的信頼を回復し、再発を防止することにあります。

このような目的の実現のためには、なれ合いのおそれのある内部の調査・検証ではなく、企業等から独立した第三者である専門家による、客観性・中立性・専門性が確保された調査・検証を行うことが、より相応しいことから、第三者委員会が設置されることとなります。

第三者委員会は、法令によって設置が義務付けられているものではなく、あくまで企業等が任意に設置しているものです。また、第三者委員会の運営や権限に関しても法令に定めがあるわけではなく、第三者委員会は調査等について強制的な権限を持っているわけでもありません。なお、名称についても、「第三者委員会」という名称ではなく、「調査委員会」、「独立調査委員会」、「特別調査委員会」などと名付けられている場合もあります。

前述のとおり、第三者委員会は、設置された目的を実現するためにも、企業等から独立した立場で、公平・公正な調査、検証をすることが求められているものの、過去に設置された第三者委員会の中には、調査が杜撰であったり、企業等からの独立性が十分に確保されていないなどと批判を受けることもありました。

そのような状況を受け、日本弁護士連合会は、2010年7月に「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を公表しました。(なお、同ガイドラインは2010年12月に改訂されています)。

https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/100715_2.pdf

日弁連ガイドラインには、(i)第三者委員会の活動について、事実調査・認定・評価や調査報告書の開示、再発防止策等の提言に関する指針、(ii)第三者委員会の独立性・中立性についての指針、(iii)企業等の協力についての指針、(iv)公的機関とのコミュニケーションに関する指針、(v)委員等についての指針などが定められています。

日弁連ガイドラインには、拘束力はないものの、現在の第三者委員会のほとんどは、日弁連ガイドラインに準拠したものであるか、少なくとも日弁連ガイドラインを意識したものとなっていると言われており、2018年9月7日に公表されたスルガ銀行株式会社の調査報告書においても、当該第三者委員会は日弁連ガイドラインに準拠して構成されたものであり、その運営・調査の実施・調査報告書の作成等が日弁連ガイドラインに準拠したものである旨記載があります。

次回以降、引き続き、同ガイドラインの内容を少し詳しく説明したいと思います。

(文責:三村雅一)

2020年11月03日 07:12|カテゴリー:その他||コメントはまだありません

取締役の選任に係る株主間の契約や合意の有効性

1 はじめに

スタートアップ企業への投資に際しては、株主間契約や投資契約において、ベンチャーキャピタル(主にリード)側が、取締役1名の選任権を有する旨などと、規定していることが少なくありません。
この取締役選任権の趣旨は、取締役会の出席権を確保して、会社の業績や運営状況を把握し、適宜、コミュニケーションを図って、業績が想定通りに推移しているか、適切な会社運営がなされているかを確認しつつ、場合によっては企業価値向上のための適時適切なサポートにつなげたいということがあります。また、社外からの監視体制を維持することで、会社の体制が向上することへの期待もあるでしょう。

このような、取締役の選任についての株主間の契約や合意は、常に有効なのでしょうか。

2 検討

(1) 取締役の選任についての 株主間の契約や合意は、 株主総会における議決権を拘束する形で規定されます。
具体的な条文例として、

投資者は発行会社の取締役を1名指名する権利を有する。投資者がかかる権利を行使する場合、発行会社及び経営支配者は投資者が指名した者が取締役として速やかに選任されるために必要なあらゆる措置をとる。

といった形で規定されます。

かつては、議決権拘束契約は無効であるとの立場があったようですが、現在は、このような株主間の議決権拘束契約は有効であるとの立場が支配的であるとされています。

(2) ここでの「 株主間の議決権拘束契約は有効 」との意味は、いわゆる債権的効力として有効という意味です。

すなわち、当事者間では、拘束力があり、違反した場合には、債務不履行に基づく損害賠償請求ができる、という関係にはある一方で、合意内容に反した議決権行使がされたとしても議決権の効力自体には影響を及ぼしません。

(3) 実は、裁判例は、背景事業に応じて、判断が分かれています。
詳細は、割愛しますが、次のような事例で、 議決権拘束契約の法的拘束力を否定したものがあります。

取締役の選任につき、原告と被告の2人を代表取締役に選出するとの裁判外での和解が成立したとの背景事情がある事案で、

原告と被告の二人を代表取締役に選出するということで妥協点を見出して裁判外で和解し、右の訴訟等も取下げて紛争を解決したことが認められる。
原告は、右の和解によつて、被告が原告に対し、昭和四四年当時にあつても、原告が取締役に選出されるべく株主ないし取締役として行動すべき法的義務を負つていることを前提にして、被告の行為の和解契約違反を主張する。しかし、原被告各本人尋問の結果によれば、右和解に関しては何らの書面も作成されなかつたことが認められ、このことに照らすと、原告を(代表)取締役に選出するべく行動するといつても、これはせいぜい、いわゆる紳士協定といわれるものではないかと思われるし、かりに契約上の厳格な義務を定めたものであるにしても、その後一五年を経た昭和四四年当時にも存続しているとする原告の主張は採り得ない。そもそも、原被告各本人尋問の結果によれば、原被告を代表取締役に選出するというのは、当時生じていた前記紛争をその時点において解決するための方策であつて、暫定的な義務を定めたにすぎないとみるのが相当である。かりに、当事者間で将来に及ぶものと約束したとすれば、法が、取締役の選任を株主総会の専権事項とし(商法二五四条一項)、取締役の任期につき二年を超えることができないと定めている(同法二五六条一項)趣旨に反し、約束自体の効力が問題とされなければならない。原、被告らの内部的な問題としても、一五年も後において右約束に法的拘束力を認めることは相当でない。
結局、原告が和解違反をいう点はその前提を欠き失当というべきである。

東京地方裁判所昭和56年6月12日判決(昭和46年(ワ)第1283号 )

と判示し、法的拘束力を否定した裁判例があります。

一方、原審の議決権拘束契約の法的拘束力を否定する判断を覆し、議決権拘束契約を有効とした裁判例もあります。

東京高等裁判所 平成12年5月30日判決(平成11年(ネ)第5672号)は、以下のように判示しました。

右(1)の合意は、KSの株主総会において控訴人一夫と訴外春夫とをともに取締役として選任するよう議決権を行使すべきことを約束したものと解されるが、本来、株主がどのように議決権を行使するかは株主の自由であり、商法上、株主総会は株式数の多数によって決議される機関とされており、したがって、会社は多数の株式を有する株主によって支配されるものであるとされていることに鑑みると、株主が多数の賛成を得るために他の株主に働きかけて右のような合意をすることは、何らこれを不当視すべきものではなく、これが商法の精神にもとるものともいえないから 右の合意もまた有効であるというべきであり、控訴人一郎及び被控訴人は、KSの株主総会において右の合意に従った議決権を行使すべき義務を負うに至ったものというべきである。

東京高等裁判所 平成12年5月30日判決(平成11年(ネ)第5672号)

近時の裁判例( 東京地裁令和元年5月17日判決 )では、

本件取締役選任合意は、本件会社が新ビルを建築しようという場面において、新ビルに係る権利関係を確認した上で、その建築等を新たな取締役の下で促進すべく締結した契約書の中で、取締役の人選について具体的に定めたものであるから、法的拘束力を有するものと解するのが相当である。

としつつ、

以上によれば、本件取締役選任合意は、その文言や、新ビル契約書の他の条項、本件会社設立時の取締役選任についての合意との整合やその他諸般の事情に照らすと、B、C及びD(その指名された者を含む)がそれぞれ本件会社の取締役に選任されることを暫定的に合意したものと解するのも十分に可能であり、原告らが主張するように、それぞれの相続人の代に至った段階における本件会社の利益分配をも意識して、Q家とR家とから少なくとも1名ずつの取締役を選出する趣旨で本件取締役選任合意をしたとまでは認められないというべきである。

東京地裁令和元年5月17日判決

として、株主総会において取締役選任議案に賛成の意思表示を求めた原告の請求を棄却したものがあります(控訴)。

この事例の条文は、「Aビルデイング株式会社は本年5月迄に取締役を改選し、B、C、E(Dの代理人)の三名を新取締役に選任する。我々は今后、Aビルデイング株式会社の取締役は我々三名(その指名された者を含む)を互選する事に定めた。又取締役は累積投票で選任出来る如将来定款を改正する事を協議する。Eは取締役就任迄部長として勤務す。Dの代理人は日本人に限る。」というものであり、文言だけを見ても、確かに「 Q家とR家とから少なくとも1名ずつの取締役を選出する趣旨で本件取締役選任合意をしたとまでは認められない」という判断もやむを得ないように思います。

(4) 翻って、 スタートアップ企業への投資に際して締結される株主間契約や投資契約の、 取締役の選任についての株主間の契約や合意は、有効でしょうか。

当職の見解ですが、有効(債権的に有効)だと考えます。

一般に、 議決権拘束契約の法的拘束力は有効と考えられていることに加えて、その効力の時間的な範囲(期間)が、通常、上場までの間、又は投資家が株式を保有している間、などとして明確にされていることが通例であり、締結の趣旨とその範囲が明確になっていること等から、裁判になっても、有効と判断されるものと考えます。

(5) 上記の裁判例(東京地裁令和元年5月17日判決)の判例研究(金融商事判例No,1600)に、「現在の会社法の下では、本件のような事案においては種類株主総会により取締役・監査役を選任できる株式(108条1項8号)を利用すればよいのであろうが」(7頁)、との記載がありますので、この点は、実務的な観点を補足したいと思います。

確かに、 種類株主総会により取締役・監査役を選任できる株式(108条1項8号)を利用すれば、「 Q家とR家とから少なくとも1名ずつの取締役を選出する 」といった趣旨は達成できる可能性があります。

しかし、一方で、種類株式を利用すると、種類株式発行会社となり、募集株式の発行の際に、(定款で排除しない限り)発行する種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要するなど、その後の会社のオペレーションが煩雑になり、増資への拒否権の内容が想定と異なる事態が生じ得ることもあって、 種類株式発行会社となることを選択しないことが合理的なケースが少なくありません。

そもそも、様々な事態を想定して、種類株式を設計し、適切に定款に反映することは、容易なことではなく、種類株式の発行を熟知した法律の専門家の助言を得て作成することが強く推奨されます。

そうすると、本件のような事案では、わざわざ定款を変更して、種類株式を導入するといった動機は生じにくく、比較的容易に実現可能な議決権拘束契約が選択されることが多いといえます。

なお、 種類株式を利用することのメリットとして、単なる債権的効力のみではなく、相手方の行動に左右されることなく、着実に取締役を選任できるということを実現することができる点が挙げられます。ただ、このメリットも、取締役1名の選任のみと考えると、重要性が高い(種類株式を導入してまで実現したい)ものかというと、ベンチャー投資の場面に限って言えば、実務上は、それほどでもないことが多いように思います。

3 結論

以上のとおり、 取締役の選任についての株主間の契約や合意は、原則として有効であり、スタートアップ企業がVCと締結する投資契約や株主間契約に規定されている場合は、ほぼ間違いなく有効であると考えられます。

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