国際法務の部屋

SDGsと企業活動③

2019.12.16

去る11月26日に、大阪商工会議所において、我が国のSDGsの第一人者である株式会社日本総合研究所創発戦略センターシニアマネジャーの村上芽氏、当事務所の河野弁護士と私の3名で、「自社の強みを強化するSDGsの上手な活用法セミナー」を行いました。

SDGsの内容については、先日のブログ(SDGsと企業活動①SDGsと企業活動②)で紹介してきました。

今回のセミナーでは、SDGsは、一般的には、企業にとっての新たな負担と捉えられがちですが、上手に取り組むことによって、新たなビジネスチャンスを獲得できる可能性が広がるものであるということをお話しました。

また、法務面からはどのようにSDGsに対応すればよいのか、すなわち海外拠点やサプライチェーン、バリューチェーンにおける諸問題(労働、人権、環境、贈収賄など)への取り組みについてお話をしました。

当日は、約100名の方にご出席頂き、企業においてSDGsへの関心が高まっているということを実感しました。


さて、今回のブログでは、SDGs実現のために参考となる日本の企業の取り組み事例を紹介します。

外務省のHPを見て頂くと、多くの企業が素晴らしい取り組みをされていることが分かります。
今回は、不二製油グループ本社株式会社の「グリーバンスメカニズム」の構築・運用についてご紹介します。

不二製油グループにとっては、パーム油が基幹原料の1つとなっています。しかし、パームに関する社会的課題として、農園開発に起因する環境問題、児童労働・強制労働などの人権問題という2つの課題が認められました。

そこで、不二製油グループは、パーム油の持続可能な調達を目指すことは社会的責任であると考え、2016年3月に「責任あるパーム油調達方針」を策定しました。

同方針では、人々と地球環境を尊重するサプライヤーから責任ある方法で生産されたパーム油を調達することを約束し、パーム油サプライチェーンにおいて、

① No Deforestation(保護価値の高い森林、炭素貯蔵量の多い森林及び泥炭湿地林における森林破壊ゼロ)

② No Peat land development(泥炭地における新規開発ゼロ)

③ No Exploitation(先住民、地域住民、労働者の搾取ゼロ)

を目指すことを約束しています。

持続可能な調達を実現するためには、自社だけではなく、「サプライチェーン」でとらえる必要があるという点が非常に重要です。

上記約束を実現するために設けられた1つのシステムが、今回紹介する「グリーバンスメカニズム」です。

「グリーバンス(grievance)」とは、「(不当と考えられることに対する正式な)抗議、苦情」を意味します。


それでは、グリーバンスメカニズムとは何かについて説明します。

2011年に国際連合人権理事会にて承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」は、「ビジネスに関連した人権侵害から保護する義務として、国家は、その領域及び/または管轄内において侵害が生じた場合に、司法、行政、立法またはその他のしかるべき手段を通じて、影響を受ける人々が実効的な救済にアクセスできるように、適切な措置を取らなければならない。」と定めています。

そして、このような救済を利用するための手続が、「グリーバンスメカニズム(Grievance Mechanism)」と呼ばれます。これには国家による手続、国家以外による手続、また司法的な手続、司法的でない手続も含まれるとされています。

不二製油においては、「責任あるパーム油調達方針」を実現する目的で、2018年5月にグリーバンスメカニズムが構築・公表されました。
このメカニズムは、ステークホルダーから不二製油グループに提起されたサプライチェーン上の環境・人権問題について、「責任あるパーム油調達方針」に基づいて直接サプライヤーとのエンゲージメントを行い問題の改善を促す仕組みとなっています。

不二製油では、透明性をもってグリーバンスに対応することを目的として、ウェブサイトに「不二製油グループグリーバンスメカニズムウェブページ」を設置し、少なくとも四半期に1回進捗状況を更新し、ステークホルダーに対する情報開示に努めています。

同ページでは、メール、電話、FAX、手紙でのグリーバンスを受け付けており、グリーバンスには、氏名、機関名、住所、コンタクト方法、グリーバンスの詳細、グリーバンスを裏付ける証拠を含むよう記載されています。

また、グリーバンスリスト(進捗状況一覧表)が公開されており、実際に寄せられたグリーバンスの内容、同グリーバンスへの不二製油の対応状況が記載された一覧表が閲覧できるようになっています。

中には、「A社における森林破壊、人権問題への対応要請」というグリーバンスに対し、間接的なサプライチェーン上のつながりがあることを確認し、同社に改善が見られなかったことから、サプライヤーに対し同社との取引停止を要請し、2018年9月以降の取引停止に至ったという事例もあったとのことです。

人々と地球環境を尊重するサプライヤーから責任ある方法で生産されたパーム油を調達する」という約束を実現するために、自社だけでチェックを行うのではなく、言わば全世界からの監視を要求し、グリーバンスを受け付け、寄せられたグリーバンスに適切に対応する、さらに寄せられたグリーバンスの内容や対応を全て公開する。

自社にとって都合の悪い事実は隠蔽されることが多いというイメージがある中で、このような取り組みは非常に革新的であり、これからの時代の企業経営に求められているものなのではないでしょうか。

執筆者
三村 雅一
マネージング・パートナー/弁護士

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