国際法務の部屋

中国における営業秘密の保護

2018.02.12

1 はじめに
中国ビジネスにおいて、技術情報や顧客リストなどの営業秘密の保護を図る重要性は論を俟たないところですが、中国において、営業秘密はどのように保護されるのでしょうか。中国では、1993年に制定された不正競争防止法に営業秘密の保護に関する規定がありますが、同法は2017年に改正され、2018年1月1日より施行されていますので、最新の中国不正競争防止法において営業秘密がどのように保護されているのかを確認していきます。

2 営業秘密該当性について
改正された中国の不正競争防止法第9条第3項では「営業秘密」を、「公衆に知られておらず、商業的価値を有し、かつ権利者が秘密保持措置を講じている技術情報及び経営情報」と定義しています。
改正前の定義では、営業秘密とは、「公知ではなく、権利者に経済的な利益をもたらすことのできる、実用性を備え、かつ権利者が秘密保持措置を講じている技術情報及び経営情報」と定義されていましたので、改正後の定義では、実用性の要件(当該秘密情報が精算及び経営に応用でき、かつ積極的な効果を生むこと)が削除され、営業秘密の保護範囲が広がっています。
それでは、「秘密保持措置を講じている」場合とは、具体的にどのような場合なのでしょうか。
この点について、最高人民法院の「不正競争民事案件審理における法律適用の若干問題に関する解釈」の第11条には、「人民法院は、関連情報の媒体の特徴、権利者の秘密保持の意思、秘密保持措置の識別可能性の程度、他人が正当な方法によって入手できる難易度等の要素を考慮し、権利者が秘密保持措置を講じたか否かを認定しなければならない」と規定しています。
そして、同条では、以下①から⑦までのいずれかに該当する場合において、正常な状況下で秘密情報の漏洩を十分に防止できるときは、権利者が秘密保持措置を講じたと認定しなければならないと規定されています。
①秘密情報の開示範囲を限定し、知る必要がある関連人員のみにその内容を告知している場合
②秘密情報の媒体に対し、施錠等の保護措置を講じている場合
③秘密情報の媒体上に秘密保持の表示を付している場合
④秘密情報に対しパスワード又はコード等を採用している場合
⑤秘密保持契約を締結している場合
⑥秘密に係わる機械、工場、作業場等の場所への侵入者に対し制限、又は秘密保持を要求している場合
⑦秘密保持を確保するためのその他の合理的措置を講じている場合
したがって、営業秘密の保護にあたっては、上記の①~⑦を意識して、合理的な秘密保持措置を講じることが肝要です。

3 営業秘密の侵害行為について
改正された中国の不正競争防止法第9条第1項では、事業者が、①窃盗、賄賂、詐欺、脅迫又はその他の不正な手段で、権利者の営業秘密を取得すること、②前号の手段で取得した権利者の営業秘密を公開し、使用し、又は他人に使用を許諾すること、③入手した営業秘密を、約定に反し、又は権利者の営業秘密保持についての要求に反して、公開し、使用し又は他人に使用を許諾することを、営業秘密の侵害行為として禁止しています。
今回の改正により、上記①のうち、賄賂や詐欺による営業秘密の取得が違法行為にあたることが明確にされました。
また、改正前は、「前項に掲げる違法行為を明らかに知り、又は知りうべき第三者が他人の営業秘密を入手し、使用し、又は公開したときは、営業秘密を侵害したものとみなす」と規定されていた条項が、今回の改正により、「第三者は、営業秘密の権利者の従業員、元従業員又はその他の組織、個人が前項に規定する違法な営業秘密侵害行為をすることを知りながら又は知りうべきであるにもかかわらず、当該営業秘密を獲得、開示、使用又は他人に使用を許諾した場合、営業秘密を侵害したものとみなす」と改められました(不正競争防止法第9条第2項)。
この改正により、たとえば、A社に勤めていた従業員BをC社が雇用するにあたり、BがAの営業秘密を持ち出してC社に移籍してくることをC社が認識していたような場合には、C社はB社の営業秘密を侵害したことになることが明確に定められました。したがって、中国における現地法人で、他社に勤めている従業員を雇用する際には、この点に十分な留意をしておくことが必要です。

4 営業秘密を侵害した場合
事業者が、不正競争防止法第9条の規定に反して営業秘密を侵害した場合、監督検査部門は違法行為の停止を命じ、10万元以上50万元以下の過料を科されます。情状が重大である場合は、50万元以上300万元以下の過料が科されます(同法21条)。

5 まとめ
中国における営業秘密侵害への対応には、上記の営業秘密該当性の立証と営業秘密侵害行為の立証が必要となりますので、普段から上記の定義を踏まえた営業秘密管理体制を構築しておくことが重要です。

文責:河野雄介

執筆者
S&W国際法律事務所

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