国際法務の部屋

アリババ上場にみるVIEストラクチャーの分析

2018.03.20

1 はじめに

本稿では、2014年9月19日に、中国の電子商取引最大手のアリババ集団(Alibaba Group Holding Limited)が、米国ニューヨーク証券取引所に上場した際に、Alibaba Group Holding Limitedが、上場前に1933年アメリカ証券法(THE SECURITIES ACT OF 1933)に基づいて提出したF1フォーム(登録届出書、REGISTRATION STATEMENT、参考ウェブサイト①)に記載されている、VIEストラクチャー(契約支配型ストラクチャー)についてご紹介します。

ニューヨーク証券取引所に上場したAlibaba Group Holding Limitedは、中国で設立された会社ではなく、ケイマン諸島で設立された会社であり、中国国内外に複数の子会社を持っています。

中国国内では、インターネットコンテントプロバイダー等の付加価値情報通信サービス事業等は、規制により100%外資会社では行うことはできません。

そこで、インターネットコンテントプロバイダー等の許認可を有しており、創業者であるJack Ma氏等を株主(VIE株主:Variable Interest Entity Equity Holders)とする中国内資会社(VIE:Variable Interest Entity)が規制事業を行います。そして、Alibaba Group Holding Limitedが中国国内に設立した100%子会社(WFOE:Wholly-foreign Owned Enterprise)は、当該VIEやVIE株主と種々の契約を締結することにより、VIEへの支配権を確保し、VIEの利益をWFOEに帰属させるスキームを採っています。

 

2 VIEストラクチャーにみる各種契約

次に、上記のVIEスキームを実現するために、Alibaba Group Holding Limitedが締結している種々の契約の概要を、同社のF1フォームより抜粋します。

① WFOEとVIE株主の間の融資契約(Loan Agreement)

WFOEからVIE株主への無利息融資により、VIE株主はVIEへの出資を行う。資金使途はVIEへの出資に限られる。WFOEはいつでも早期返済を要求することができ、その場合、融資額面でVIE株主からVIE株式を買い取る。VIE株主は,VIE株式を第三者に譲渡してはならない。VIEは重要資産,知的財産権を含むいかなる事業も第三者に譲渡してはならない。

 

② WFOEとVIE株主の間のコールオプション契約(Exclusive Call Option Agreement)

WFOEはVIE株主からVIE株式を払込資本額面もしくは中国法で認められる最低価格のどちらか高い方の金額で買い取る権利を有し、またVIEから保有資産を簿価もしくは中国法で認められる最低価格のどちらか高い方の金額で買い取る権利を有する。WFOEが指名する第三者に購入させることも可能。また、WFOEは、VIEが行う配当その他の分配及びVIE株主がVIE株式の譲渡により得た対価のうち払込資本を上回る額を受け取る権利を有する。

 

③ WFOEとVIE株主の間の委任契約(Proxy Agreement)

VIE株主はWFOEが指名する者に対してVIEに係る権利行使を委任する。

 

④ WFOEとVIE株主の間の株式担保契約(Equity Pledge Agreement)

VIE株主はWFOEからの借入にかかる担保としてVIE株式を供する。WFOEにVIE株式の処分権限があり,競売若しくは売却代金からの優先回収の権利がある。株式担保契約は,中国の工商行政管理部門で登記済みである。

 

⑤ WFOEとVIEとの間の包括技術支援契約(Exclusive Technical Services Agreement)

WFOEによる技術支援の対価として、VIEは税引き前利益のほぼ全額をWFOEに支払う。

 

3 VIEストラクチャーの適法性に関する中国法律事務所の見解

F-1フォームでは、上記のVIEストラクチャーの適法性・有効性に関する、中国の法律事務所の見解として,①VIEストラクチャー及びWFOE、VIE、VIE株主間の各種契約は、現時点においては中国の法規制に準拠しており有効である,②ただし、中国の法解釈には重要な不確実性があり、将来において中国当局が違法との見解を示す可能性があり、その場合、事業停止等に追い込まれるリスクがある,という趣旨の見解が添えられています。

4 最後に

アリババによる上記のニューヨーク証券取引所上場後も、現在に至るまで、中国におけるVIEスキームを用いて、ニューヨーク証券取引所やNASDAQに上場する例が複数ありますので(参考ウェブサイト②)、VIEスキームに関する今後の中国当局の対応が注目されるところです。

 

【参考ウェブサイト】

①Alibaba Group Holding LimitedのForm F-1 REGISTRATION STATEMENT

http://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1577552/000119312514184994/d709111df1.htm

②Council of Institutional Investors (CII)が2017年12月に公表した、中国企業とVIEストラクチャーに関する意見書 “Buyer Beware: Chinese Companies and the VIE Structure”

https://www.cii.org/files/publications/misc/12_07_17%20Chinese%20Companies%20and%20the%20VIE%20Structure.pdf

 

執筆者
S&W国際法律事務所

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